18.ロボティクス・メカトロニクス
18.1 総論
ロボティクス・メカトロニクス分野は,人類が創りだした機械を自動制御するという観点から発展したという点で,力学と数学を基盤とした機械工学の一分野である.一方,昨今の機械学習技術の応用に見られるように,情報工学や電子工学的な側面も持ち,様々な応用分野においてはこれらの両面から互いに技術を高め合うとともに,融合し社会に広まっていく.本第18章では,この分野の2024年のトピックについて以下の内容を紹介していただく.
第18.2節では医療への応用において,特に手術支援ロボットの動向を解説していただく.近年は腹腔鏡手術用のロボットで国内メーカから発売された機種もあり,他の手術用ロボットも含め活発に研究開発が続けられているトピックである.産業及び研究・開発の状況について述べていただく.
第18.3節では宇宙とロボットに関する動向を解説していただく.2024年に話題となった月探査ロボットに加え,2025年になってからも小型月面探査車が月に向かい送りだされたホットなトピックである.海外の動向や最新の国内の研究開発動向など,広くご紹介いただく.
第18.4節では,急速な進展と普及を遂げている生成AIとロボット制御の動向を取り上げる.従来の制御では難しかったタスクの達成や,一方で工場等に広く社会実装するには機械工学の面からも課題が残っていることについて解説していただく.
第18.5節では,食品産業の自動化におけるハンドリング技術に関して,2024年の食品関連ロボットの動向と,国際会議ICRA2024で開催された「Food Topping Challenge」を紹介し,食品ハンドリング技術の現状と課題をご説明いただく.
第18.6節では,サービスロボットに関する国際標準化の動向に対し,ISOにおける作業部会であるWG6 Modularity for service robotsと,ソフトウェア技術の国際標準化団体であるOMG Robotics DTFにおける取組みについて,設立経緯を含め解説していただく.
第18.7節では,注目技術動向として,ロボティクス・メカトロニクス部門主催の講演会であるROBOMECH2024(6月,宇都宮),ICAM2024(11月,北九州),および幹事学会であった第29回ロボティクスシンポジア(3月,名護)において発表され,ROBOMECH表彰(学術研究分野,産業・実用分野)を受賞した9件の論文から,注目すべき技術について紹介していただく.
本章をまとめるにあたって,各位のご協力に感謝する.
〔小柳 健一 富山県立大学〕
18.2 医療分野(手術支援ロボット)の動向
18.2.1 概況
手術支援ロボットは近年,医療技術の高度化や術者の負担軽減を目的として,世界的に普及が進んでいる.とくに腹腔鏡手術用のロボットは,かつては1機種(Intuitive Surgical社の「da Vinci」)のみが十数年間にわたり市場を独占していた.しかし,最近の数年間で多数の新規参入があり,今や手術支援ロボット産業は多様化のフェーズに入っているといえる.日本国内においても,メディカロイド社の「hinotori」やリバーフィールド社の「Saroa」など,国産ロボットの登場が相次いでおり,今後さらにすそ野が広がることが期待される.以下,製品化(産業)の動向と,研究開発の動向に分けて概観する.
18.2.2 産業の動向
これまで製品として使用された世界の手術支援ロボットを参考文献欄に挙げた.
(A)腹腔鏡手術用ロボット(1-21)
腹腔鏡手術用ロボットの代表例として知られる「da Vinci」は,前立腺や子宮,直腸など,骨盤内の臓器に対するがんの摘出手術で高い実績を持つ.小さな切開口(5〜10mm程度)から細長いカメラと鉗子を挿入し,患部にアクセスして取り除くため,患者の体に余分なダメージを与えにくい点が大きな特徴である.da Vinciの成功をきっかけに,この分野への新規参入が世界的に加速し,同様のコンセプトで各社が製品開発を進めている.日本国内では,メディカロイド社の「hinotori」が最初の国産手術支援ロボットとして2020年に承認され,消化器系の手術や婦人科領域などで徐々に導入が始まっている.また,リバーフィールド社から発売されている「Saroa」は,新たな選択肢として空気圧を利用した制御で注目を集めている.今後は費用対効果や保険診療の対応範囲などが拡充されるにつれ,導入数はさらに伸びていく可能性が高い.
(B)整形外科用ロボット(22-31)
腹腔鏡手術用ロボットに次いで普及しているのが,整形外科領域の手術支援ロボットである.代表例としてStryker社の「Mako」が挙げられる.これは「バーチャルウォール」と呼ばれる技術を用い,術者が骨を削る際にあらかじめ設定された危険領域に近づくとロボットアームが自動的に制限をかける仕組みである.術者は通常の手技とほぼ同様の感覚で骨を削りながらも,神経や血管などの重要組織を傷つけにくい安全性が確保される.高齢化社会が進むなかで,関節の置換術やリハビリテーションに関連した需要が増えており,整形外科用ロボットの市場拡大が続くと予想される.
(C)眼科・マイクロサージェリー用ロボット(32-34)
外科手術のなかでも特に精緻な操作が求められる眼科手術や,細い血管を縫合するマイクロサージェリーの領域でも,ロボット技術が注目され始めている.人間の手では限界のある微細な動きを安定して行えることから,網膜手術や神経血管の吻合などに用いるロボットの試作や商業化が進んでいる.ただし,眼球内での施術や直径数ミリ以下の血管操作などは極めて高い精度を要するため,まだ実験的・臨床評価の段階にとどまっている製品も少なくない.
(D)軟性内視鏡ロボット(35-38)
柔軟なチューブの先端に小型カメラがついた内視鏡をロボットで操作する分野では,肺の検査を目的とした製品が既に市販されている.また,大腸内部からポリープや病変部を切除するための内視鏡ロボットも研究・開発が進んでおり,試験的に使用されはじめている.臓器のくびれや複雑な形状にも柔軟に対応しながら,安定した視野確保と高精度な処置を同時に実現できる点が大きなメリットだ.ただし,長いチューブの操作や軟組織の変形を考慮した制御は技術的なハードルが高く,今後も持続的な研究開発が必要とされる.
(E)血管カテーテルロボット(39-42)
心臓や脳の血管にカテーテルを挿入して治療を行うカテーテル手術は,X線透視装置を使いながら行われるため,術者が放射線被ばくするリスクがある.そこで,血管カテーテルをロボットで遠隔操作できる装置が開発されてきた.しかし,市場化に成功した事例は限られており,撤退例もいくつかみられる.血管の形状や剛性,生体内の血流など複雑な要因が絡むため,ロボットによる自動化や安定した操作を実現するのは容易ではないと考えられる.
18.2.3 研究・開発の動向
(A)遠隔手術(48)
遠隔手術は,遠方にいる熟練医の技術をロボットを介して患者に提供できる可能性があるため,医療アクセス改善や有事(災害・紛争地域など)での医療行為に役立つと期待されている.実験段階ではあるが,海底ケーブルや衛星通信を用いた実施例も報告されており,通信の遅延やセキュリティなど課題は多いものの,将来的には遠隔地への医療格差是正に大きく貢献する技術とみられている.
(B)ナビゲーションシステムとの連携
手術支援ロボットに画像解析や3次元モデルを組み合わせることで,より精密な術前計画や術中ナビゲーションが可能となる.たとえばCTやMRIのデータをリアルタイムに参照し,ロボットアームにフィードバックすることで,患部を正確に捉えたり,術中に必要な切除範囲を明確化できたりする.こうしたナビゲーション技術の進歩により,手術の安全性向上と時間短縮が見込まれる.
(C)自動手術へのアプローチ
将来的には,人の操作を最小限に抑えた自動手術の実現を目指す研究(49)も進んでいる.AI(人工知能)や機械学習の技術を組み合わせることで,ロボットが自律的に臓器を認識し,切除や縫合といった工程を自動化する構想も存在する.しかし,患者の個体差や病変の複雑性を考慮すると,全面的な自動化はまだハードルが高い.まずは部分的な工程からロボットが自律化し,術者との協調作業ができる「半自動化」の形で実装が進むと予想される.
(D)マイクロロボット(50)
血管内を移動して必要な箇所だけに薬剤を届ける超小型デバイスや,体内の微小病変を直接治療するカプセル内視鏡型ロボットなど,マイクロロボットの研究も活発に行われている.手術支援ロボットというよりは診断・治療デバイスに近い分野ではあるが,将来的に外科手術と融合し,最小侵襲で精密に患部を治療できる技術として期待される.
18.2.4 まとめ
手術支援ロボットは,この数年で多くの新規参入があり,高度化と多様化が一層進んでいる.腹腔鏡手術用は依然として市場をリードしているが,整形外科やマイクロサージェリー,内視鏡,血管カテーテルなどの領域にも広がりつつある.国産ロボットの躍進や研究開発の進展に伴い,患者の負担を軽減する最小侵襲手術の範囲がさらに拡大することが期待される.
〔中楯 龍 神戸大学〕
18.3 宇宙とロボットに関する動向
宇宙ミッションは,遠隔地での活動となるため,ロボット技術が不可欠である.宇宙ロボットの活躍の場は,大きく分けて2つあり,地球近傍の軌道上サービス分野と月や惑星などの宇宙探査分野である.宇宙ステーションでのロボット活用は成熟期にあり,最近では月周回のGateWay計画にロボット技術が使われる.また,故障した人工衛星など宇宙ゴミの回収も大きな課題であり,それを解決する手段として,ドッキング含むロボット技術が求められている.一方,米国のアルテミス計画など月探査計画が世界各国で計画され,また民間企業の参画も盛んに行われている.2024年度は,JAXAや日本の民間企業が小型探査ロボットを開発し,月面探査を積極的に推進している.そこで2024年度の宇宙探査ロボットの動向について,主に概説する.
18.3.1 月探査プローブロボット(LEV:Lunar Excursion Vehicle)
JAXAの月着陸実験機SLIM(1)は,2024年1月20日未明(日本時間)に月面軟着陸を成し遂げた.SLIMには,2台の小型探査ローバ(LEV-1とLEV-2)が搭載され,着陸直前の0時20分頃に高度約5mにてSLIMから分離,月面の着地および探査に成功した.LEV-1(2)は,JAXA宇宙科学研究所,中央大学,東京農工大学が共同開発したロボットである.重量:2.1kg, サイズ:φ280mm×371mmで,ホッピング機能と1輪による走行(回転)機能を有し,自律移動しながらSLIMの着陸状況や月面環境を探査するロボットである.LEV-1には,SバンドとUHFの2系統の通信システムが搭載され,地球と直接通信が可能である.LEV-1は,107分で7回のホッピングに成功し,世界初のホッピングによる月面移動を実現した.LEV-2(3)は,株式会社タカラトミー,ソニーグループ株式会社,同志社大学,JAXA探査ハブが共同開発した変形型月面ロボットで,SORA-Qという愛称がついている.重量:0.25kgで,月面上で球体から二輪走行ロボットに変形し,そのサイズは,約123mm×90mm×135mmである.走行は,バタフライモードとクローラモードがあり,斜度30度の砂地も走行可能となっている.バッテリ駆動で活動時間は約2時間,完全自律に探査を行い,SLIMの着陸状況や着陸地点周辺に関する情報を取得する.得られたデータは,LEV-1経由で地球に送信する.LEV-2は,月面着地後に自動自律で起動し,搭載されたカメラでSLIMの撮影に成功した.LEV-1もLEV-2も打上げ後,軌道上運用を含めて地球からのコマンドなしで,完全自立で探査を行った.日本初の月面探査ロボットであり,世界初の完全自律ロボットによる月面探査,および,世界初の月面ロボット間通信に成功し,世界初の複数ロボットによる同時月面探査を実現した.加えて,LEV-2は世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなった.世界初の複数ロボットによる同時月面探査により,分離型⼩型ロボットの宇宙探査での有⽤性を世界に示したといえる.
18.3.2 民間企業開発の月面探査車
月面探査車「YAOKI」(4)は日本の航空宇宙起業のダイモンが開発した月面探査ロボットで,地球からの遠隔操作で月面を二輪で走行し,搭載バッテリで約5時間稼働可能.重量:0.498kg,サイズ:150mm×150mm×100mmで,小型のロボットである.名前のとおり,転んでも倒れても走り続ける設計となっている.「YAOKI」を搭載した,Intuitive MachinesのNova-Cクラス月面着陸機「Athena(アテナ)」は,2025年3月7日未明に月面に着陸したが,着陸後横転し,所期のミッションを遂行できなかった.「YAOKI」は残念ながら,着陸船から分離されず,月面移動はできなかったが,限られた制約の中,撮影した月面画像を地球に送信することができた.
株式会社ispaceは小型月面探査車(5)を開発し,RESILIENCEランダ(月着陸船)に搭載,米スペースXのFalcon 9で2025年1月15日打ち上げられた.小型月面探査車の名は「粘り強さ」を意味する「TENACIOUS(テネシアス)」で,重量:約5kg,サイズ:540mm×315mm×260mmである.軽量かつ躯体はCFPR(炭素繊維複合材)で製作し,レゴリス環境でも安定した走行が出来るように車輪の形状が工夫されている.ロボットの前方にはHDカメラが搭載されており,月面の様子を高解像度で探ることができる.ロボットは,着地後に太陽光パネルとアンテナを展開し,遠隔操作で月面を走行しながら,小型スコップで月表面のレゴリスを採取する.月面で採集したレゴリスなどのデータは,米国航空宇宙局(NASA)にも提供されるなど,日・欧・米にまたがるプロジェクトとなっている.RESILIENCEランダ(6)は,2025年6月6日未明に月面着陸に果敢にトライしたが,その後,音信が途絶えた.
18.3.3 海外の探査ロボット計画
NASAは,2024年12月に将来の火星ロボット探査戦略「Expanding the Horizons of Mars Science(火星研究の新境地を拓く)」(7)を発表した.今後20年間における火星ロボット探査戦略を改良し,有人ミッションに先立って小規模ミッションを定期的に実施する計画である.1つ目は「火星生命の可能性を探す」,2つ目は「火星の有人探査の支援」,3つ目は「ダイナミックな惑星系としての火星の解明」となっている.また,NASAはロボット開発を手掛けるApptronikと提携し,ヒト型ロボットを用いた月面・火星探査の実現を目指す.ApptronikがNASAと共同開発しているヒト型ロボット「Apollo」(8)は,身長約180cm,重量は73kg,約25kgの荷物を運搬でき,物流,製造,在宅医療支援などの用途が想定されている.Apolloは地球上での利用を主目的としているが,NASAは将来的に月や火星の表面での宇宙飛行士のアシスタントや地球上の人間のアバターとしての利用を検討している.
NASA/JPLは,2024年11月20日に小型水中ロボット「SWIM(Sensing With Independent Micro-swimmers)」(9)の開発状況を発表した.木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスは,表面が厚い氷で覆われ,その下には液体の塩水海が存在すると考えられている.小型水中ロボットSWIMは,これらの衛星にある海の探査を目的とし,120mmほどの小型ロボットの群れをつくり,生命の痕跡を探る計画である.JPLは,プラスチック製の2種類の試作機を製作している.一方は重さ1.7kg,長さ370mm,幅150mm,高さ65mmで,もう1つの改良型は若干大きく,長さ420mm,高さ75mm,重さ2.3kgになる.SWIMは,2つのプロペラで推進し,2~4枚のフラップで操舵する.
欧州宇宙機関(ESA)は,火星から岩石などの試料を持ち帰る計画「Mars Sample Return(MSR)」について,試料が入ったサンプルチューブを拾い上げたりするロボットアーム(STA:Sample Transfer Arm)を開発している.STAは,全長2.5m,7自由度のロボットアームで,回収ステーション(SRL:Sample Retrieval Lander)に取りつけられる.2つのカメラ,多数のセンサを備え,自律動作でサンプルチューブをグリッパでつかんで持つことが可能となっている.NASAのMars2020ミッションで,2021年に火星に着陸し,移動探査を行っている火星探査ローバ「Perseverance」からサンプルチューブを取り出したり,ヘリコプターによって近くに落とされたサンプルチューブを拾い上げたりして,ロケット(MAV:Mars Ascent Vehicle)に入れる役割を担う.
中国は,2026年に打上げ予定の「嫦娥7号」に,着陸機,探査ロボット,ホッピングロボット(ホッパー)(10)を搭載し,月の水資源を探査する計画である.ホッパーは水分子分析装置を用いて,月の永久影となっているクレータ内で,水の存在の確認を行う.着陸機には中国初の深宇宙向けに,ランドマーク画像ナビゲーションシステムが搭載され,精密な着陸を実現する予定である.一方でホッパーはアクティブ衝撃吸収技術を用いて,傾斜地でも安全に着地できるように工夫されている.
インド宇宙研究機関(ISRO)は,現在,有人宇宙飛行計画「Gaganyaan(ガガンヤーン)」(11)の無人飛行試験を進めている.Gaganyaanは,2025年までに3人の宇宙飛行士を地球低軌道(LEO)へと打ち上げることを目標としている.打ち上げロケットはLaunch Vehicle Mark-3を使用予定である.2024年第3四半期に予定している無人飛行試験「Gaganyaan-1」では,ヒト型ロボット「Vyommitra」(ヴィオミトラ,サンスクリット語で「宇宙の友人」)を搭載して打ち上げる計画である.
18.3.4 最新の宇宙ロボット研究開発
内閣府の大型研究プログラム(ムーンショット型研究開発制度)の1つである,ムーンショット目標3(12)では,AIとロボットの共進化による,自ら学習・行動し共生するロボットの実現をめざし,8つの研究プロジェクトが研究開発を推進している.その中で,2つのテーマが宇宙に関するものである.1つ目は,「月面探査・拠点構築のための自己再生型AIロボット」で,月面において未到探査および拠点構築を行う担い手として,再構成が可能なAIロボットシステムを提案し,その実現に向けた研究開発を行っている.月面に持ち込んだ資材を有効活用し,ミッションや作業状況に応じてモジュールの組み換えにより形態変形し,変幻自在な自己再構成が可能なAIロボットの技術を構築している.2つ目は,「未知未踏領域における拠点建築のための集団共有知能をもつ進化型ロボット群」で,単純機能の小型ロボットが群を形成して知能を発揮し,全体で共通した機能の更新・拡張,機体の新規追加が群を進化させる仕組みの研究開発を行っている.多数のロボットが協力してロボット拠点コンテナを搬送し,コンテナが自ら展開することで活動拠点となる進化型群知能活動拠点構築システムを開発中である.
宇宙に関する人工知能,ロボット,オートメーションに関する最新の成果は,隔年で開催される国際シンポジウム(宇宙機関共催)で議論されている.最近のシンポジウム(13)は,2024年11月19日から21日にオーストラリアのブリスベンで開催され,200名を超える研究者や開発者が一堂に介して,最新のトピックスの発表があった.また,IEEE共催として第一回の宇宙ロボティクスの国際会議(14)が2024年6月24日から27日にルクセンブルグで開催された.紙面の都合で詳細を書くことができないが,参考文献を参照いただきたい.
〔久保田 孝 明治大学〕
18.4 生成AIとロボット制御の動向
2022年11月30日に対話型の生成AI「ChatGPT」が一般公開された.その自然な対話能力ゆえに世界的に急速な普及を遂げた.テキストから画像を生成するサービスなどが同時期に公開された結果,2023年には生成AIの商用利用も急速に発展し,一種の生成AIブームといえる状況になった.生成AIはデータのモダリティによらず,あるデータから別のあるデータを生成する.視覚や言語のような実体を伴わないデータだけでなく,実体を伴うロボットの動作生成への応用可能性も示されている.ChatGPTが公開された1ヶ月後の2022年12月には,Google社によるロボット動作生成基盤モデル「RT-1」(1)が公開された.Google社は13台のモバイルマニピュレータを17ヶ月の期間動かし続け,画像とテキストラベルを付与した13万アクションシーケンスデータを習得している.このアクションシーケンスデータとは,ピッキング棚の開閉などのそれぞれのタスクを一単位とした時系列のロボット動作データである.この大規模データでTransformer(2)を学習し,指示文(テキスト)と視覚情報から指示文に応じたモバイルマニピュレータの動作を生成する.複数の指示を含むテキスト情報に対して,連続した作業を実現できる(例:棚をあけてポテトチップスをとってきて,次にナプキンをとってくる).視覚や言語を研究の応用であり,ロボット制御の面では多くの限界を感じられるものの,曖昧で冗長な指示文から適切な作業を実現するデモは,生成AIによるロボット制御の可能性を示した.2023年には複数の大学と連携し22種類の異なるロボット,527種類のスキル(注ぐ,積む,回すなど)で100万エピソード(アクションシーケンスデータ)を収集し,学習したアップデート版モデル(RT-1-X models)(3)を公開した.論文では異なるタスクやロボットのデータを統合することでタスクの成功率が高まることも示されており,言語と同様に,ロボット動作においてもスケールに基づく汎化性が獲得されている.例えば,環境の変動要因(照明条件,カメラ位置,背景など)がロボット学習の一般化では重要なファクターであることが分かっており,大規模言語・視覚モデルがもつ一般知識や画像生成AI技術を活用した仮想データの拡張(4)は,これらの変動要因に対する制御モデルのロバスト性を向上させる手段として現実的なものになっている.
データ収集のための機械システム開発も加速している.2023年には安価に器用な手作業を模倣学習させるためのマスターフォロワーシステムALOHA(5)が公開された.2指グリッパを搭載したロボットアーム2台がフォロワーとして向かい合わせにセッティングされ,人間が直接目視しながらマスターシステムで2台のロボットを操作する.操作には一定の慣れが必要なものの,直感的なインターフェースのため小一時間操作すればペットボトルを開栓したり,ブリスターパックを開封したり,簡単なネジ締め作業なども行えるようになる.さらに2024年には移動台車に搭載したMobile ALOHA(6)が公開され,キッチンで卵焼きを作り配膳する作業を模倣学習した,一般的な家庭環境でのデモ事例が示されている.学習にはDiffusion policy(7)というロボット動作生成AIが利用されており,それぞれのタスクについて数十回の模倣学習データを収集することで,配置や物体に変化があっても柔軟に対応することができている.これは前述のRT-1系とは異なり,小規模なデータに基づく学習結果を利用している.そして2024年10月31日にはPhysical Intelligence社が1万時間の双腕ロボットアームやモバイルマニピュレータのデータに基づくロボット基盤モデルπ0(8)を公開した.これはMobile ALOHAのようなロボットシステムによる模倣学習の大規模データ版といえる.洗濯乾燥機からの衣類の取り出し,衣類畳み,コーヒー豆の計量など,従来の制御では難しかったタスクを連続的にこなしていく様子(例:複数の衣類を連続して畳み,積み上げていく)は圧巻である.Googleの大規模視覚言語モデルであるPaliGemma(9)を視覚情報処理に利用しつつ,動作生成にはFlow Matching(10)という生成モデルに関する学習アルゴリズムを利用しており,ロボットの低レベルコマンドを出力するモデルとして,高度な器用さを必要とするタスクにも対応している.現在モデルが公開されており,多くの研究者が追試を進めている.
このように生成AIと機械システム(マスターフォロワーシステム)の進化を両輪として,最初のトライアル(RT-1)からわずか2年の間に生成AIロボットは驚異的な進化を遂げている.2024年を総括すると,この生成AIと機械システムの進化が噛み合ったことで,生成AIロボットのパフォーマンスが飛躍した年といえる.しかし今後より器用に,より対話的に,より多くの環境で動作するロボットシステムが実現していくには,様々な課題が残っているのも事実で,現在すぐにロボットが工場で稼働できる段階ではない.一つはメカの問題である.現在のマスターフォロワーシステムは2指グリッパを利用するのが一般的である.センサも視覚センサのみを利用するケースが多い.人手による遠隔操作では指先の精密な操作が難しく,ソフトグリッパ(例:フィンレイグリッパ(11))を用いる等のハードウェア側の対策をとることがあっても,繊細な動きを陽に考慮した事例は多くない.より器用なマニピュレーションを実現していくためには,従来から研究されてきた多指ハンドや触覚・力覚センサを生成AIとより密接に関係付けていく必要がある.これは機械やメカトロニクス系の技術に強い日本の研究者・技術者が挑戦すべき課題の一つである.二つ目はデータの問題である.模擬環境やトイプロブレムのようなデータ,あるいは家庭環境のデータだけでなく,工場や物流環境などの実データとの関係を作る事が重要である.この二つ目の問題に対して,産総研では工場や物流環境などの実課題を保有する企業の研究者がこういった生成AIロボットを試すハードルを下げるためのベースライン集を公開している(12).このベースライン集には複数ロボットのシミュレーションモデル,生成AIモデル,実験環境とタスクセットが含まれており,シミュレーション上のロボットや現実のロボットでデータを収集し,ロボットを学習させ,そのパフォーマンスを分析できるようになっている.今後こういった取り組みをベースに,産業レベルでの高いパフォーマンスを持つ生成AI基盤モデルが実現することを期待している.
〔堂前 幸康,元田 智大 産業技術総合研究所〕
18.5 食品のハンドリングにおける研究と現場のニーズ動向
18.5.1 概況
食品産業は,労働集約型で多品種少量生産が特徴であり,近年の人手不足や高齢化により,自動化・省人化のニーズが高まっている.特に,労働力の補完に加え,衛生管理や品質保持の観点からも,ロボット技術の導入が期待されている.本稿では,2024年における食品関連ロボットの動向と,国際会議「ICRA2024」で開催された「Food Topping Challenge」(1)を紹介し,食品ハンドリング技術の現状と課題を考察する.
18.5.2 2024年の食品関連ロボットの動向
2024年は,食品業界におけるロボット技術の導入が進展し,特に盛付けや検査工程での自動化が注目された.経済産業省の革新的ロボット研究開発等基盤構築事業(通称ロボットフレンドリー事業)では,惣菜の盛付けや出荷作業のロボット化に関する成果が報告されている(2).これらの多くは,産業用ロボットを活用して実現された.
また,安川電機はAI画像判定システム「Y’s-EyeコンパクトW」(3)(4)を開発し,冷凍ハンバーグの表裏検査を自動化するデモンストレーションを実施した.同システムは,コンベヤ上の製品を上下から撮像し,AIが焦げや焼き色を判定,不良品をエアジェットで除去するものである.他にも,産業用ロボットにAIを組み合わせる事例が多く見られた.
18.5.3 Food Topping Challengeについて
研究分野における注目すべき動向として,2024年5月に横浜市で開催された「ICRA2024」にて,食品盛付けに特化した競技「Food Topping Challenge(以下,FTC)」が初開催された.FTCは,食品の盛付け作業におけるロボットの技術力を競い,研究開発の促進を目的とする競技会である.世界から11チームが参加し,「から揚げピッキング」(盛付けの速度競技)と「いくら丼の盛付け」(盛付けの美しさ競技)の2種目が実施された.
競技では,アールティ社のFoodly Type Rをはじめ,カワダロボティクス社のNextage,川崎重工業社のNyokkyなど,多様なロボットが出場した.鈴茂器工社は,ご飯盛付けロボット「Fuwarica(ふわりか)」を提供し,飯盛りの自動化を支援した.制御方式やハンド設計など,各チームの多彩な技術アプローチが見られた.結果として,から揚げピッキング部門は大阪大学,いくら丼の盛付け部門は筑波大学がそれぞれ優勝した.
事例:筑波大学の取組み
筑波大学の研究チームは,FTCにおいて,力制御とバイラテラル型の教示手法を用いて,から揚げピッキングおよびいくら丼の盛付けに挑戦した.人間による遠隔操作でハンドリング情報を人型ロボットFoodlyに伝えることで,動作再生の柔軟性と繊細な盛付けを実現し,盛付けの美しさにおいて高い評価を得た.図18-5-1に競技中の様子を,図18-5-2には筑波大学の盛付け(左)と他チームの盛付け(右)を示す.

図18-5-1 筑波大学の競技の様子(人型ロボットFoodly Type R使用)


図18-5-2 いくら丼の盛付け結果 左:筑波大学の盛付け,右:他チームの盛付け
18.5.4 現場のニーズと課題
食品業界におけるロボット導入の主なハードルは,導入コストの高さ,多品種対応の難しさ,現場での運用体制の確立の難しさである.産業用ロボットによる取組みは,従来から日本の技術は高く,大量生産に向いている.一方で,多品種少量生産に向けた先進的なAIを活用したロボットは,「生産性の維持」が導入判断を慎重にする要因となっている.具体的には,汎用性を備えたロボットの導入には,AIやセンサ技術の活用が不可欠だが,これらの技術は発展途上であるため,産業用ロボットによる専用動作に比較するとスピード,正確性に劣る.そのため,人間による作業よりも生産性が低下するケースも少なくない.実際,公的な助成金制度においても「生産性向上」が採択要件に含まれることが多く,現場では即効性のある産業用ロボットによるシステムアップが採用される傾向がある.これらの背景事情により,汎用性を目指したAIロボットの高度化や導入は,実運用における即効性のある生産性の確保の難しさと重なり,日本における先進的な取組みは敬遠される傾向となっている.このような先進的なAIロボットによる生産性の確保,コストバランスの最適化と資金的な問題,現場での運用実績をいかに増やすかが,今後の普及に向けた重要課題である.
〔中川 友紀子 アールティ〕
18.6 サービスロボットに関する国際標準化の動向
18.6.1 ISO/TC299/WG6 Modularity for service robotsの現状
18.6.1.1 ISO TC299およびWG6設立経緯
TC184(1)/SC2(Industrial Automation Systems/Manipulating Industrial Robot)内に,新たにWG10を設置してモジュラリティの標準化を実施すべく,2012年7月ミラノ会議,2012年9月ソウル会議,2013年1月サンフランシスコ会議を経て,2014年6月投票結果を受け活動を開始した.その後,2015年3月奈良TC184総会:ISO/TC184/SC2のTCとしての独立可否の投票を決定.2016年1月1日:TC299(Robotics)独立に関する投票結果を受け,WG10はWG6 Modularity for service robots(サービスロボットのモジュラリティ)として活動を継続している.ちなみに,TC299(2)は,軍事用と玩具を除くロボットに関する規格を担うとしている.
18.6.1.2 目的
サービスロボットに関するモジュール規格の策定
18.6.1.3 策定した国際規格(IS:International Standard)
(1)22166 Robotics:Modularity for service robots -Part 1:2021 General requirements
サービスロボットモジュールのガイドライン規格:2015年より議論を開始し,2021年に発行.
Part1では,モジュールに関して,以下の9原則に留意することを推奨している.
(a)Composability(構成可能性)
(b)Integrability(統合性)
(c)Interoperability(相互運用性)
(d)Module granularity(モジュール粒度)
(e)Platform independence(プラットフォーム独立性)
(f)Openness(オープン性)
(g)Reusability(再利用性)
(h)Safety(安全性)
(i)Security(セキュリティ)
なお,上記(h),(i)に関しては,部分であるモジュールがシステム全体の安全性,セキュリティを保証することは不可能であるため,モジュール単体で適用している既存規格を明記するとしている.
(2)22166 Robotics:Modularity for service robots-Part201:2024 Common Information Model
モジュール属性の共通情報モデルを規定,2024/2/10発行.
(3)22166 Robotics:Modularity for service robots-Part202 Information model for software
モジュールのソフトウエア属性に関する情報モデルを規定,2025/1/31 最終国際規格案(FDIS:Final Draft International Standards)投票,承認を経て,発行待ち.
18.6.1.4 2024年度活動
【概要】
図18-6-1にWG6で策定中の規格を示す.

図18-6-1 ISO 22166ファミリ規格審議状況
Part1を母体として参照し,汎用ロボットモジュールを含んで,対象規格を5つのレイヤに分け,抽象レベルから具体レベルに展開して議論中である.安全性や医用分野に関しては,各国(特に米国)からモジュール規格にはそぐわないとの指摘が何度も出ているため,規格文書,作業原案内では,「この文書は,安全規格では無い」と明記している.
WG6内では,2022年度から,「モジュールは広範囲に適用できる」という理由で,WGタイトルを”Modularity for Robotics”に変更しようとする提案が出ているが,日本からは「適用範囲が広すぎ,産業界に与える影響が大きすぎるので,慎重に対応すべき」として,反対表明している.
レベル1:ガイドライン
レベル2:情報モデル
レベル3:共通モジュール
レベル4:モジュールを活用した,特定アプリケーション
レベル5:医療分野モジュール(IECと連携)
【進行中】
レベル2:情報モデル
・ISO 22166-203:Information model for hardware(ハードウエア&コンポジットモジュール情報モデル):2024年11月より,作業原案(WD:Working Draft)策定中.
レベル3 共通モジュール
規格構成に関して,グループ(マニピュレーション,移動ロボットベース,オートノミー)で議論していくこととした.当面,WG6エキスパート負荷を考慮して,以下のうち301,302を優先して進めることとしている.
グループA Common modules Manipulation related modules
ISO 22166-301:Manipulation related modules PWI(予備業務項目:Preliminary Working Item)
グループB Common modules Mobility related modules
302 ISO 22166-302:Mobility related modules
グループC Common Autonomy related modules
303-306モジュール規格に対する対応(日韓からはAutonomyに関して以下を含んで,1規格化は不可能と主張中)
レベル4 特定応用分野(モバイルサービス,パーソナルキャリア,外骨格アシストなど)
・ISO 22166-401:Mobile service robot modules
Level3 302との差分不明確.302議論結果を受けて進める.
・ISO 22166-402:Physical assistant robot modules(外骨格アシスト)
新業務項目提案(NP:New Work Item Proposal)否決に伴い,PWIとして活動中.
・ISO 22166-403:Person carrier robot modules(ペンディング)
レベル5 医用ロボットアプリケーション(コンビナはIECとのジョイントを想定しているが進んでいない)
ISO 22166-50x:Medical robot(進展無し)
18.6.1.5 今後
・サービスロボット共通モジュールについてのコンセンサス,ISO-8373-2021 Robotics Vocabulary-との整合に関して要議論.
〔水川 真 芝浦工業大学,ISO TC299 エキスパート,OMG Robotics DTF 創設者&メンバ〕
脚注
ISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization),IEC(国際電気標準会議:International Electrotechnical Commission)ともに,各国の代表的標準化機関から成る国際標準化機関である.両者の規格は各国公的機関の合意により制定され,デジュール標準(de jure standard)と称される.
ISOでは,産業に関わるモノとシステムの国際共通規格を定めている.ISOでは,技術委員会(TC:Technical Committee)- 分科会(SC:Subcommittee)- 作業部会(WG:Working Group/) – プロジェクト(PJ:Project)の階層で規格策定を行う.
IECでは,電気及び電子技術分野の国際規格を策定している.
18.6.2 OMG Robotics DTFにおけるサービスロボット規格標準化の現状
サービスロボットに関する国際標準化は,ISOとともに,ソフトウェア技術の国際標準化団体であるOMG(Object Management Group)(1)においても積極的に取り組まれている.本節では,OMGで推進されているサービスロボット規格の標準化活動について紹介する.なお,図18-6-2では,以下で説明するサービスロボットに関わる開発済みの国際標準および現在開発中および今後開発される国際標準の関係を示している.
18.6.2.1 OMG Robotics DTF
OMGは,米国に拠点を持つソフトウェア技術の国際標準を扱う国際的な団体のひとつで,コンピュータ業界の非営利標準化コンソーシアム.様々な技術および広範な業種について,企業統合標準を開発しており,UML,CORBAなどの仕様策定で実績がある.OMG Robotics DTF(Domain Task Force)(2)は,特定の技術分野を対象とするDTC(Domain Technical Committee)に属するロボット技術を対象とした技術部会.ロボット技術の共有化,再利用化を進め,効率的なロボットシステムの開発および研究の実現を目指したロボット技術の標準化に興味を持つグループの集まりで,コンソーシアム標準としてのロボット技術の国際標準化を進めている.Robotics DTFは,日本がRTミドルウエアプロジェクト(2002-2004)関連技術の標準化活動を行うため,2005年12月に設立したもので,これまでに数多くの標準化がなされてきた.ロボット技術の標準化は,現在ここで議論されている.
18.6.2.2 コンポーネント技術の標準化
ロボットのコンポーネント機能の標準化は,Robotics DTF内のInfrastructure Working Groupによって推進された.分散コンポーネント技術は,複数のコンピュータ上で動作するソフトウェアコンポーネントが通信を介して協調して動作することを可能にする.RTC(Robotic Technology Component)(3)は,分散コンポーネント技術をベースとしたロボット技術分野のコンポーネントに共通して必要な機能を定義したミドルウェア仕様であり,2008年にRTC1.0として公開され,現在の最新バージョンは,2012年に改訂されたRTC1.1である.
18.6.2.3 ロボット機能サービスの標準化
ロボットに必要な上位レベルのサービス関連機能を定義する仕様は,Robotics DTF内のRobotic Functional Services Working Groupによって標準化されている.RoIS(Robotic Interaction Service)Framework(4)は,対話サービスのためのロボット機能コンポーネントの仕様記述方法および具体的な共通コンポーネントの仕様であり,サービスアプリケーションからHRI機能(人検知,個体識別,音声認識など,様々なロボットの機能)を利用するためのインターフェースを標準化するフレームワークを定義している.このフレームワークを使用することで,同じサービスアプリケーションを異なるロボット上で動作させることができる.RoIS1.0は2013年に公開され,最新仕様は2018年に改訂されたRoIS1.2であるが,その後,下位レイヤとしてのプラットフォーム技術と上位レイヤとしての具体的なコンポーネントの定義の再検討を進めた拡張仕様RoIS2.0の策定が進められてきた.RoIS2.0は現在FTF(Finalization Task Force)にて最終段階の標準化仕様確定作業が進められており,2026年夏頃には発行の予定である.
18.6.2.4 ロボットサービスのオントロジー標準化
サービスロボットが人に提供するサービスには,物理的なインタラクションを伴うサービスや人間に情報を提供するサービスがあるが,いずれも人とのインタラクションに基づいて人の活動をサポートするようにデザインされている.サービスロボットは多くの場合,人々が生活する事前に制御不能で予測不可能な環境で,半自律または完全自律でサービスを提供するために,ロボット本体のセンサーやアクチュエータなどのコンポーネントを用いて,環境内の様々な他の要素との間で様々なインタラクションを行い動作する.そこでは,各要素が動作するために必要な条件と,そのアクションの結果が他の要素にどのように影響するのかを記述するための形式的な知識フレームワークが必要であり,この目的のためのフレームワークとして,ロボットサービスのオントロジーRoSO(Robotic Service Ontology)の標準化が進められている.RoSOは,2018年12月にOMGが発行したRFP(Request for proposal)(5)に基づくが,RoIS仕様のコンポーネント機能を記述する形式的なフレームワークを提供し,将来の拡張の基盤を提供するものである.RoSO1.0は2024年12月に標準化仕様確定作業が完了し,2025年夏頃に発行の予定である.なお,ロボット分野のオントロジーについては,IEEE RASが発行したIEEE 1872 2015(CORA:Core Ontology for Robotics and Automation)(6)が,ロボット技術の基盤となる語彙を定義している.IEEE RASは,CORAに基づいて自律型ロボットや協働型ロボットなど,複数のドメインを対象とした上位レベルのオントロジーの定義を策定しているが,OMGでは様々なサービス分野でオントロジーを定義しており,OMG内の他分野やIEEE RAS,ISO TC299/WG6などの標準化団体との意見交換を行いながら,仕様策定が進められた.
18.6.2.5 サイバネティックアバターの標準化
2020年度に日本で開始されたムーンショット型研究開発事業の研究開発プログラム目標1(7)では,2050年までに,人が身体,脳,空間,時間の制約から解放された社会の実現を目標としており,サイボーグやアバターと呼ばれる一連の技術を高度に活用することで,人間の身体能力,認知能力,知覚能力を拡張するCybernetic Avatar(CA)技術の研究開発の推進,アバターが活躍する共生社会の実現を目指している.多種多様なCAを並列実装し,多数のCAを同時に操作・運用するためには,それらの機能を標準化して定義・実装する必要があり,モジュール化と再利用性の促進,さらにはプロジェクトで提案されたCAプラットフォームを広く社会に普及させるための方策として,既存の情報通信とロボットの標準化を拡張するとの方針のもと,OMGでのRoSOおよびRoISの標準化活動にて,CAの機能と策定したCA基盤プロトコルの仕様への盛り込みが進められている.具体的には,RoSO1.0にCAサービス機能仕様の記述方法の仕様を盛り込み,RoIS 2.0の下位層にはCAプラットフォーム仕様を,上位層にはロボット対話サービスの共通コンポーネント機能と同様に,CAとその操作インターフェースに必要な機能をモジュール化して定義した仕様を改訂仕様として組み込む活動が進められた.前述のように,CAの基盤技術を盛り込んだ国際標準化仕様RoSO1.0およびRoIS2.0は,まもなく発行される予定である.

図18-6-2 サービスロボットに関わる国際標準の関係
〔吉見 卓 芝浦工業大学〕
18.7 注目技術動向
ロボティクス・メカトロニクス分野における最新技術として,本部門主催講演会ROBOMECH2024(2024年6月,宇都宮),ICAM2024(2024年11月,北九州),および幹事学会を務めた講演会,第29回ロボティクスシンポジア(2024年3月,名護)において発表され,ROBOMECH表彰(学術研究分野,産業・実用分野)を受賞した9件の論文から,注目すべき技術について紹介する.
まず,学術研究分野6件を紹介する.
1件目の「相補的間欠歯車機構によりトルク伝達機能と関節駆動機能を両立するモジュラーロボットの構成とシリアルマニピュレータ実現」では,複数モジュールのトルクを合成することで高トルク駆動を実現する新たなモジュラーロボットの構成が提案されている.
2件目の「包括的力学勾配計算と陰的積分による柔剛体を統合したハイブリッドリンク系の高速な順動力学シミュレーション」では,剛体・柔軟体を含む複合構造体の高速かつ高安定な動力学解析手法が示されている.
3件目の「ポータブルな全日常空間身体保持力ベクトル場の計測・可視化技術」では,高齢者等の身体保持性を評価するための新たな可視化技術とその実環境での応用が報告された.
4件目の「2段特性を有するトルクセンサ一体型関節モジュールの開発」では,繊細な力制御と広い検出範囲を両立したセンサ統合型関節モジュールの設計と評価が行われた.
5件目の「多面体折り紙基板を用い立体配置された絶対圧力センサによる三次元流速センサ」では,折り紙工学とAIによる新たな流体センシング技術の提案が行われた.
6件目の「小型月面表面探査ホッピングローバLEV-1の開発」では,月面での高機動移動を実現するJAXAの小型自律探査ローバの開発成果が紹介された.
次に,産業・実用分野3件を紹介する.
1件目の「土壌センシングに向けた等方性メタマテリアルの反射特性評価」では,農業分野での非接触センシングの実用化に向けた新たな反射特性の評価と実装が試みられた.
2件目の「ブドウのジベレリン処理および収穫の自動作業ロボット」では,画像認識とアーム制御を組み合わせた果樹作業自動化の実現が示されている.
3件目の「余事象動作を考慮した隠れセミマルコフモデルを用いたロバストな介護作業識別」では,実環境での多様な介護行動の認識に向けた統計的モデリング手法が評価された.
今回のROBOMECH表彰受賞研究では,基礎技術の探究から社会的課題への応用まで幅広い研究が選定されており,特に柔軟構造・新素材・生体模倣といったソフトなアプローチの深化と,医療・農業・建設・宇宙など多様な現場への展開が目立った.また,センサ・機構・制御の統合設計や,AIとの融合を図る取り組みも進んでおり,ロボティクス・メカトロニクス分野の研究の広がりと深化を示す内容となっている.
部門最大の講演会であるROBOMECH2024におけるセッションごとの講演件数に注目すると,1300件以上の講演のうち「ソフトロボット学/フレキシブルロボット学」(82件),「医療ロボティクス・メカトロニクス」(55件),「バイオミメティクス・バイオメカトロニクス」(49件),「建設&インフラ用ロボット・メカトロニクス」(48件),「移動ロボットの位置推定・地図構築・ナビゲーション」(48件),「触覚と力覚」(41件)といった,大規模なOSが開催された.これらは現実社会の課題解決を志向した研究の活発さを物語っている.
一方で,講演申込時に収集されたキーワードの上位には,「移動ロボット」「ソフトロボット」「機構」「計測・モニタリング」「センサ」「深層学習」「機械学習」などが並び,従来のハードウェア中心の関心と,知能化技術への関心が共存していることが読み取れる.
さらに,主要ロボティクス国際会議であるICRA2024とのキーワード比較では,ICRAが「Deep Learning」「Reinforcement Learning」「Motion Planning」といったAI主導の知能技術を中心としているのに対し,ROBOMECH2024では「機構」「空気圧」「柔軟構造」など,実機設計や環境適応を重視するハードウェア志向の研究が多く見られた.
このように,ロボメカ部門では設計・制御・センシングの三位一体の研究姿勢を基盤としながら,知能化技術との融合が着実に進行中であり,国内外のアプローチの違いを相補的に捉えることが今後の発展にとって重要である.
〔田中 孝之 北海道大学〕