21.交通・物流
21.1 自動車
21.1.1 概況
a.生産 2024 年の四輪車生産(1)は824万台(前年比8.5%減)で,内訳は乗用車714万台,トラック100万台,バス10万台で,二輪車生産は53万台(同9.7%減)である.
b.輸出 2024年の新車輸出(1)は乗用車382万台(同4.0%減)で生産に占める割合は53.5%で2023年より4.5%増加した.二輪車は47 万台( 同5.4%減) で生産に占める割合は88.7% で2022年より4.7%増加した.
c.輸入 2024年の日本メーカー車を含めた輸入車新規登録台数(2)は32.1 万台で,前年比3.2%増となった.
d.保有台数 2024年12月末で,乗用車6232 万台,トラック1461万台,バス21万台,原付を除く二輪車412 万台になっている(3).
〔関根 康史 福山大学〕
21.1.2 四輪自動車の技術動向
2024年の電動車両(BEV:Battery Electric Vehicle,HEV:Hybrid Electric Vehicle,PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle など)の世界販売台数は約2300万台であった.全体の販売台数がおよそ9000万台であることから,4人に1人は電動車両を選択したということになる.特にPHEVは中国市場を中心に前年比60%近い成長を見せ,パワートレーンの電動化を推し進めた(1).電動化のキー技術である電池は,車両コンセプトに合わせてエネルギ密度に優れるNCM系電池とコストや耐久性に優れるLFP系電池が使い分けられている.NCM系においては供給リスクのあるコバルトの含有量を減らしたハイニッケル化が進行中である(2)(3).負極材にはグラファイトにシリコンを添加することで,エネルギ密度向上や充電速度を改善する技術が採用されている(4).BEVの電池搭載技術では,空間効率の高い Cell to Pack や Cell to Chassis(Body) といわれる搭載方法が広まっている(5).HEVではトランスファーLoレンジを有するフルタイム4WDのパラレルハイブリッドが市場導入された(6).PHEVはエンジン熱効率およびモータ効率の向上や熱マネジメントの最適化により,バッテリ切れ後の燃費を格段に向上させるシステムが発表された(7).また,電動化以外のカーボンニュートラルへの取り組みとしてe-fuel(合成燃料)があり,世界各国でパイロットプラントが稼働している.実用化にはまだ多くの課題があるが,今後の発展が期待される(8).
ADAS/自動運転に関しては,主要市場でADASの標準搭載が進んだことから,2024年にレベル1 または レベル2システムを搭載した車両は5600万台に達した.このうちハンズオフ可能(一定条件下で手放し運転可)な車両は350万台程度であったが,条件付自動運転と定義されるレベル3搭載車はごくわずかにとどまり,量産車への自動運転の普及は道半ばである(9).一方,商用車両については,米国と中国で自動運転タクシーが商用化されており,世界各国で公道実証が実施されている(10).国内に目を向けると,自動運転バスの実用化に向け,各地で実証・実用化が進められている(11).また,物流の2024年問題に代表される輸送能力低下の懸念に対し,新東名高速道路で自動運転トラックの実証実験が開始された(12).このように RoAD to the L4 で示された,サービスカーと自家用車で異なるアプローチで自動運転社会の実現を目指す取り組み(13)が着実に進行している.自動運転技術においては,画像解析・判断と意思決定・他車両や歩行者の動きの予測などにAIが重要な役割を果たしている.安全かつ効率的に運行可能である一方,機能安全の確保・透明性と説明可能性・リスク管理といった課題も存在する.これらを受けて,AIを安全関連機能に使用する際の特性やリスク要因・方法に関する国際標準 ISO/IEC TR 5469:2024 が制定された(14).
近年,CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)を効果的に実現・統合する重要な要素として,SDV(Software Defined Vehicle)が大きく注目されている.SDVはソフトウェアによって車両の機能や性能を定義し,アップデートや新機能の追加を可能にする車両である.これは,従来の「モノ」としてのクルマから,「サービス」としてのクルマへとその価値が大きく変わることを意味し,ユーザーは継続的な性能向上やパーソナライズなどの新たな価値を享受できる.SDV化の動向に合わせ,コネクテッドや車載ソフトウェアなどの標準化団体の連携により,開発促進や業界全体での技術標準化を進める団体が設立された(15).懸念されるサイバー攻撃リスクの高まりに対しては,一部車種に適用されていたソフトウェアアップデートやサイバーセキュリティの管理システムに関する国際法規が新型車両に対して全面適用となった(16).車両のE/Eアーキテクチャについても,機能要素に基づいてECUを分類するドメインアーキテクチャや,車両内の物理的な位置に基づいて編成されたECUとセントラルECUからなるゾーンアーキテクチャへの移行が進みつつある(17).また,SDVは従来のハードウェア中心の自動車エコシステムからソフトウェア中心のエコシステムへの変化という見方もできる.このエコシステムの参加者は従来の自動車メーカー・サプライヤー・ディーラーなどに加え,テクノロジー企業・データ解析会社・通信プロバイダーなど,新たな機能・価値を提供するプレイヤーが関与する.このような価値提供者と車両を繋ぐ場として,クリエーターに車両データ開示やクラウドAPIを用意して自由にアプリやサービスを開発できる環境を提供する取り組みや,ソフトウェアの売買を効率的に行うためのB2Bマーケットプラットフォームの設立がみられた(18)(19).SDVは産業構造の変化を引き起こす可能性があり,これに呼応して国内では,官民連携でSDVを始めとする自動車分野のDXを巡る国際競争力向上を目差した取り組みが進行中である(20).
〔門崎 司朗 トヨタ自動車(株)〕
21.1.3 二輪車の技術動向
全国軽自動車協会連合会の発表によると2024年度の軽二輪新車販売台数は前年比20.2%減の57,180台,小型二輪新車販売台数は前年比3.4%減の88,001台となった.
技術動向としてはクラッチ操作とシフト操作の自動化によりシフトペダルもしくはレバー操作のみによるギアチェンジと完全な自動変速を実現する新たな変速機構の拡大が進んだ.各社自然なフィーリングやシフトチェンジ時の変速ショックの少なさをうたっており,長距離移動時の疲労低減に効果的なアイテムとしてツアラーモデルを中心に採用が進んでいる.
また欧州メーカーを中心にレーダーシステムによるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール),FCW(前方衝突警告システム),BSD(死角検知)を備える車両が引き続き拡大.新たに外界認識用のカメラを使用したアダプティブハイビームを備える車両も登場しており,4輪車で採用されている安全技術が2輪車でも採用される例が増えている.
環境性能ではスクーターを除き量産車としては初めてストロングハイブリッド車両が発売開始,また電動車両の発表・発売も引き続き進められている.
〔寺田 圭佑 ヤマハ発動機(株)〕
21.1.4 生産技術・材料
SDGsによりカーボンニュートラルが自動車産業界で必然となった2024年は,これまで以上に高効率な生産手法,サスティナブルな材料採用に向けた検討がより活発化し,米国TESLA社が世界に先駆けて採用したギガキャスト製法も世界中の自動車メーカーで検討されはじめている.これら大型ダイカスト成形のニーズを受け,国内においても機械メーカーやダイカストメーカーが大型ダイカストマシンの開発を急ピッチで行い2024年に上市するメーカーも現れた(1).
当初は部品点数削減効果を目的としたボディ一体化ギガキャストが注目されていたが,昨今はボディを分割しモジュール単位によるギガキャスト化も検討され,より生産性の高い効率的な手法へと進化している(2).またボディ部品だけに留まらずEV電池用大型バッテリーケースにも大型ダイカスト成形を採用する試みもなされている(3).
しかしながら既存設備を持つ自動車メーカーは大型ダイカストマシン導入や周辺設備の刷新コストが大幅にかかることから,2024年時点で量産採用に踏み切るのは中国などに代表される新興自動車メーカーに留まっている.またギガキャスト製法には大型金型の輸送問題,金型製作コスト,熱収縮による製品寸法精度など課題も多く今後のメーカー採用動向に注目が集まっている.
一方で鋼製プレス部品による従来生産手法もこれまで高張力鋼板の適用拡大による高強度化から適材適所に材料配置を見直した「低ハイテン化」を取り入れる自動車メーカーも出てきた(4).この背景には新興国での生産では1.2GPa級冷間プレス材の加工できるメーカーが限定的であることや1.5GPa級ホットスタンプはコストが高くなるなど980GPa級以下の冷間プレス材でボディ骨格を作る手法が「現実解」と考えているからである.ただし新興国プレスメーカーもプレス成型技術は毎年向上しており,いずれ1.2GPa級以上の冷間プレスも可能になると予測されている.今後も軽量化,低コスト化,サスティナブル化を両立すべく生産技術は材料と共に益々進化すると予測されている.
〔樋口 英生 (株)本田技術研究所〕
21.1.5 基礎研究
2016年1月にSociety5.0 が国家ビジョンとして閣議決定されて以来,多くの取り組みがなされ今年は10年目を迎える節目の年となる.自動車社会における狙いと定めた具体的なビジョンは,各自動車からのセンサ情報,例えば天候状態,交通状況,目的地の状況などのリアルタイムの情報,また過去の履歴などの情報が蓄積されているデータベースの情報も含むビッグデータをAIで解析し,嗜好に合わせた観光ルート,渋滞や天候などを考慮した最適な走行計画を提供し,安全で快適に誰でも一人で移動することができるとともに,社会全体としてもCO2 排出が削減され,地方の活性化や消費の拡大にもつながるとしていた.
Society5.0 の取り組みを踏み台とする形で,2020年総合科学技術イノベーション会議においてのムーンショット型研究と題して掲げられた目標のひとつが「2050 年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」ことであり,以来現在に至るまで自動車業界においてもビッグデータやAIに関わる基礎研究が盛んに行われるようになった.自動運転車に代表されるようにさまざまな場面で働くAIによる自動処理システムの搭載が始まっている.特に生成AI技術を応用する研究は,近年自動車の基礎研究のトレンドとなりつつあり,例えば自動車・産業機械研究グループから生成AIの価値を引き出すための提言(1)や,自動車運転ラボから自動運転とAI(人工知能)の関係性について発表(2)などがあった.
一方DXに関する新たな技術を活用した新しい社会作りも日本の総力を挙げて取り組む必要があると謳われており,持続可能な開発目標(SDGs)の2030年達成に向けさまざまな提言がなされた.そのうちの大規模な取り組みのひとつとして,スマートシティーの具体化としてウーブンシティが2025年秋から本格稼働する予定との紹介が,トヨタ自動車を主とする関係メーカーから発表された(3).デジタルツイン技術に基づく自動車デジタル計器の設計とシミュレーションについてもIEEEなどから発表があった(4).
AI,ビッグデータ,IoT,DXなど情報科学技術に関する研究がますます盛況となっている感はあるが,それらを支えるセンシングや推定技術に関する研究(5)(6),車両の制御技術に関する研究(7)(8)(9),人特性に関する研究(10)(11),などの発表も行われており,自動車に関する基礎研究は領域を跨ぐ取り組みに注目が集まりつつある.機械学会2025年度年次大会では「サスティナビリティ」「データ駆動型設計開発」「異分野融合」が謳われている(12).
〔豊島貴行 (株)ホンダ・レーシング〕
21.2 鉄道
21.2.1 概況
国土交通省ホームページの鉄道車両等生産動態統計調査月報(1)によると,2024年1月から12月の1年間の車両生産数は,総生産数1351両(内新幹線車両は209両)であった.また,国内向け車両が1159両,輸出向け車両は192両であった.2023年1年間の生産数は,1542両(内新幹線車両193両,国内向け:1313両,輸出向け:229両)であり,2024年は前年比で総生産数-12%(内新幹線車両数+8%)で,国内向け車両数-12%,輸出向け車両数-16%,という結果であった.総生産数については3年連続の減であった.
本会に関連する行事としては,11月27日~11月29日に第33回交通・物流部門大会(TRANSLOG2024)および第31回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2024)が東京大学生産技術研究所で合同開催された.
21.2.2 新幹線・リニアモーターカー
2024年3月16日に北陸新幹線の金沢-敦賀間(125km)が開業した(2).2015年3月に長野-金沢間が開業してから9年で開業したことになる.また,2024年3月16日に山形新幹線直通用車両であるE8系が営業運転を開始した.営業最高速度を300km/hとし速達性を向上している.先頭長は9mとし,空力解析により最適化された「アローライン形状」を採用している(3).
新幹線の技術開発に関する話題として,JR東日本は2028年度に長岡駅~新潟新幹線車両センター間の営業列車と回送列車の自動運転(GOA2),および2029年度に新潟駅~新潟新幹線車両センター間の回送列車のドライバレス運転(GOA4)導入を目指し工事に着手すると発表した(4).JR東海も東海道新幹線における自動運転システム(GOA2)に関する技術開発を進めている(5).
また,メンテナンスに関する技術開発も盛んである.JR東日本は新幹線軌道に対する「スマートメンテナンス」を2024年12月から本格始動した(6).これは高頻度の検査とビッグデータの分析により劣化の予測精度を高め,CBM(Condition Based Maintenance)を実現するものである.JR東海は新幹線車両の外観検査システムを開発した(7).これは車両基地入口に設置された外観検査装置と駅線路真上に設置されたパンタグラフすり板検査装置からなり,前者は画像解析で車体外観の異常を検知し,後者はレーザー光による3次元計測ですり板の厚さを検査している.
新幹線車両のトラブルに関して,2024年9月に東北新幹線において併結走行中の列車の併結部の連結が外れ,列車が分離するという事象が発生した(分離に伴いブレーキが動作し,列車は停止)(8).2025年3月にも列車が分離するという事象が発生したため(9),本稿執筆時点で運輸安全委員会による原因調査中である.
リニアモーターカーについて,2024年は中央新幹線品川-名古屋間開業に向け,工事や環境影響調査が進められた1年であり(10),車両等の技術開発に関わる大きな話題はなかった.
21.2.3 在来鉄道・都市鉄道
2024年4月6日から岡山~出雲市間の特急「やくも」に新型車両273系が導入され,6月15日には全列車が既存の381系から置き換えられた(11).273系は快適性向上のため,「車上型の制御付き自然振り子方式」(車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し,適切なタイミングで車体を傾斜させる方式)で曲線通過時の乗り心地を向上している(12).本技術は2024年度の学会賞(技術)を受賞している.
また,カーボンニュートラル社会に実現に向けた技術開発として,JR東海では水素を燃料とした「水素動力車両」の開発に取り組んでいる(13).この開発ではディーゼルエンジンと蓄電池のハイブリッドシステムを搭載しているHC85系をベースとして,動力源の燃料電池または水素エンジンから得られる電気と蓄電池の電気で走行する水素動力ハイブリッドシステム開発に取り組んでいる.また,JR西日本では次世代バイオディーゼル燃料を100%使用した営業列車運行の実証実験を行っている(14).ここで使用する燃料は食料と競合しない廃食油や廃動植物油等を原料として製造され,温室効果ガス排出量の削減を実現することができる.
2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では,のと鉄道において地上施設(軌道や駅等)がおおきな被害を受けたが(15),幸い車両脱線等の被害はなかった.4月6日に全線で運転を再開している(16).
車両等のトラブルに関して,2024年7月に山陽本線新山口駅構内で脱線した機関車において車軸折損が確認された(17).本稿執筆時点で,脱線原因,車軸折損原因については調査中である(18).
21.2.4 海外における動向
フランス国鉄グループでは鉄道の脱炭素化として,バイオ燃料車両,ディーゼルハイブリッド車両,架線-蓄電池ハイブリッド車両(電化区間は集電しながら走行し,非電化区間は蓄電池からの電力で走行)の開発に取り組んでいる(19).また,その他の技術開発としては,車両メンテナンスや乗客案内への人工知能の適用,施設保守作業の自動化,鉄道車両への複合材料の適用,メンテナンス効率化に向けた設備の劣化予測などに取り組んでいる(20).
中国鉄道車両の海外展開として,2024年1月にインドネシア向けに最高時速120kmの通勤用電車12両3編成供給する契約を結んでいる(21).中国はインドネシアに高速鉄道も供給しており「一帯一路」プロジェクトの一部となっている.
〔飯田 浩平 鉄道総合技術研究所〕
21.3 航空宇宙
日本政府観光局(JNTO)によると,2024年の年間訪日外客数は36,869,900人で,前年比では47.1%増,2019年比では15.6%増と,過去最高であった2019年の31,882,049人を約500万人上回り,年間過去最高を更新し,コロナ禍からは回復したといえる(1).このことに関連して,日本航空宇宙工業会によれば,2024年度の航空機生産額は,前年度比3,143億円(19.7%)増の1兆9,061億円となり,これまでの最高額となった(2).2013年から急増した生産額は,2019年に過去最高の1兆8,569億となった後,2020~2021年はコロナ禍等により大きく下落し,1兆1,590億円となったが,2022年からV字回復が継続している.防需と民需の内訳も,2019年に,防衛向けが5,392億円,民間向けが1兆3,177億円で,その比率は29%対71%であったものが,2021年には,防衛向けが5,122億円,民間向けが6,469億円で,民需が著しく落ち込み,その比率は44%対56%となったが,V字回復に伴い,防衛向けが前年度比786億円増の5,374億円,民間向けが2,356億円増の1兆3,687億円となり,その比率も28%対72%と民需の勢いを示す結果となっている.また,国土交通省航空局によると,2024年12月末の登録航空機数は前年度より24機減の2,794機となり,2019年以降の減少傾向が続いている.ここで,単発レシプロ機は2023年度より15機減と大きく減少する傾向にあるが,双発ターボ・ジェット機ではA320/321,A350,B787は,2023年度よりそれぞれ4機,5機,6機増加しており,従来機から省燃費、低騒音で低環境負荷の新型機への更新が行われている(3).
グローバルでの市場成長により,2035年以降に民間航空機のみで年間約6兆円以上の産業として発展するとの見通しもある一方で,国際民間航空機関(ICAO)における 2050 年カーボンニュートラル達成の目標合意,デジタル技術活用の進展,サプライチェーンリスクの顕在化,スタートアップによる新たな市場創出に向けた動きの加速といった国際的な動向や,我が国企業による完成旅客機開発の中止等,航空機産業を取り巻く環境は大きく変化している.このような状況を踏まえ,経済産業省は,2024年4月,新たに,「航空機産業戦略」を定めた.その中で,我が国航空機産業は,国際連携の中で完成機事業を創出し自律的な産業規模拡大を可能とする産業構造の実現を目指し,インテグレーション能力の獲得,我が国の強みを生かしたステップバイステップでの成長,グローバル体制の構築を進めるよう提言している(4,5).
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/次世代航空機の開発プロジェクト(予算上限516.8億円)」が2021 年より実施されており(6),その中の「水素航空機向けコア技術開発」において,川崎重工業は,2024年10月に,航空機用小型水素エンジンの運転試験に成功したことを発表した(7).また,新たに,水素燃料電池電動推進システム技術開発,水素燃料電池コア技術開発,電力制御及び熱・エアマネジメントシステム技術開発,電動化率向上技術開発の4テーマ(予算306億円,期間2024年度~2030年度(予定))が採択され,開発に着手した(8).
関係府省・機関が連携して推進する「経済安全保障重要技術育成プログラム」(通称“K Program”)では,宇宙・航空領域では,衛星コンステレーション技術,無人航空機技術,航空機エンジン向け先進材料技術,デジタル技術を用いた航空機開発製造プロセス高度化技術などの開発・実証に関するいくつかの事業が採択された(9).
大阪・関西万博でデモフライトを予定しているSkyDriveの空飛ぶクルマに関しては,2024年3月スズキと静岡県磐田市の工場で「空飛ぶクルマ」の製造開始,2024年3月~2025年2月の1年間に最大100機プレオーダーを合意,2025年2月に国土交通省から型式証明の適用基準を発行された.2025年4月には大阪・関西万博のメディアデーにて, 空飛ぶクルマの公開フライトを実施した.早ければ2026年に型式証明の取得を目指している(10).
宇宙関連では,国内の基幹ロケットとしては,2024年7月にH3ロケットの3号機,11月に同4号機が打ち上げに成功した(11,12).HⅡ-Aロケットでは,2024年9月に49号機の打ち上げに成功している.イプシロンSロケットは2024年11月の第2段モータの地上燃焼試験中に爆発事故を起こし,現在原因調査中である(13).
国際宇宙ステーション(ISS)には現在大西卓也宇宙飛行士が第72期滞在中で,次期第73期中にコマンダーに就任する(14).2024年10月には諏訪理宇宙飛行士,米田あゆ宇宙飛行士の2名が新たな宇宙飛行士として認定された(15).
探査機・衛星では,小型月着陸実証機「SLIM」が2024年1月に月面へ着陸成功したのち,8月まで月面で運用された(16).2023年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM」は2024年2月に定常観測運用段階に移り,その後9月より科学公募観測を進めている(17).欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が協力して進める地球観測衛星「EarthCARE」は2024年5月にFalcon9により打ち上げられ,気候変動予測の精度向上に貢献するため,雲,大気中のエアロゾルの全地球的な観測を行っている(18).先進レーダ衛星「だいち4号」は2024年7月にH3ロケット3号機により打ち上げられ,Lバンド合成開口レーダにより,世界最高レベルの解像度と広域な観測を実現している(19).
国内の大学や民間企業による活動も活発であり,産学官による輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム「JAXA-Small Satellite Rush Program(JAXA-SMASH)」によりスタートアップ企業の挑戦機会創出,超小型衛星開発等強化が図られている(20).将来宇宙輸送システム株式会社が進める宇宙往還機を想定した小型ロケット離着陸試験「ASCA Hopper」において,2025年3月,推進剤に液体メタン,酸化剤に液体酸素を用いる液体燃料ロケットエンジンの燃焼試験に国内で民間企業として4社目として成功した(21).株式会社アストロスケールは2024年11月,商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」のミッションにおいて,観測対象デブリまで約15mの距離にまで接近し,民間企業としてはランデブ・近傍運用を通じて実際のデブリに世界で最も近い距離まで接近した(22).
アメリカでは民間企業の宇宙活動が活発である(23).特にSpaceX社は,Starshipの飛行試験を実施し,2024年10月には,発射塔Mechazillaを使用してロケットを空中でキャッチする試験に成功している.2024年9月にはCrew Dragonを利用して実業家のジャレッド・アイザックマン氏が民間人として史上初めて船外活動を行った.一方,Boeing社のStarliner(CST-100)は様々な不具合などが重なっているが,運用1号機Starliner-1のミッションは2025年中に予定されている.
宇宙開発で急激に存在感を増しているのが中国である(24).中国宇宙ステーション天宮へは有人宇宙船神舟18号と19号が滞在クルーを送り届けるとともに帰還した(25).月探探査機嫦娥(じょうが)6号が月の裏側で採取したサンプルはカプセルにより2024年6月に地球へと帰還した(26).月の裏側のサンプルが確認されれば世界初となる.中国科学院,国家宇宙局,および有人宇宙プログラム室は2024年10月に「国家中長期宇宙科学発展計画(2024-2050)」を発表した(27).この中で,宇宙科学や居住可能な惑星の探査など,5つの目標を掲げている.
欧州では,2024年4月,衛星測位システムGalileo(ガリレオ)の測位衛星2基をFalcon9により打ち上げた(28).なお,Falcon9の1段目は衛星を中軌道に投入するための能力確保のため地上帰還はせず,20回目となる今回が最後の飛行となった.欧州宇宙機関ESAとイタリア宇宙機関ASIが共同で開発した小型衛星打ち上げロケットのVega(ヴェガ)ロケットは,2024年9月,地球観測衛星センチネル2Cを搭載して打ち上げられ,これがヴェガロケットの最後の打ち上げとなった.後継はヴェガCロケットとなる(29).
人類の活動領域の拡大や宇宙空間からの地球の諸課題の解決が本格的に進展し,経済・社会の変革(スペース・トランスフォーメーション)がもたらされつつある.多くの国が宇宙開発を強力に推進するなど,国際的な宇宙開発競争が激化する中,革新的な変化をもたらす技術進歩が急速に進展しており,我が国の技術力の革新と底上げが急務となっている.我が国の中核的宇宙開発機関であるJAXAの役割・機能を強化し,スペース・トランスフォーメーションの加速を実現するため,民間企業・大学等が複数年度にわたる予見可能性を持って研究開発に取り組めるよう,2024年に新たな基金「宇宙戦略基金」(10年間総額1兆円規模)が創設された.「宇宙輸送」「衛星等」「探査等」「分野共通」の4つの分野において,宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化及びコスト低減技術(120億円程度),商業衛星コンステレーション構築加速化(950億円程度),衛星量子暗号の通信技術の開発・実証(145億円程度)など全22技術開発テーマが設定されている(30).第1期分の実施機関が選定,公開された.
〔池田 忠繁 中部大学,玉山 雅人 JAXA〕
21.4 船舶
21.4.1 概況(1)
2024年の世界の新造船建造量(竣工量)は約7,040万総トンで,2023年の約6,490 万総トンから増加した.2011年の1億340万総トンをピークとし,2014年以降7,000万総トン以下であったが,10年振りに7,000万総トンを回復した.日本は約900万総トンとシェアは12.8%で,中国の約3,850万総トン,54.7%,韓国の約1,980万総トン,28.1%に次いで世界第3位であった.
世界の海上荷動量(トンベース)は約126億トンで,3年連続で微増傾向にある.また,重量に距離を掛けた海上荷動量(トンマイルベース)は約674,560億トンマイルであり,20年前の2倍以上となっている.
21.4.2 話題
国内の多くの業界において人材不足の問題が顕在化している状況にあり,海運業界も例外ではない.内航海運においては,船員数は近年ほぼ横ばいであるが,このうち全体の半数近くを50歳以上が占めている.他方で,内航船員については,2022年の全産業における30歳未満の割合は16.5%であるのに対し、若手船員が19.8%となるなど,近年若手船員が増加傾向にある.(2)
世界の地球温暖化対策は,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で議論されているが,国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出対策については,船籍国や運航国などが複雑なため,UNFCCCの国別の削減対策ではなく,国連の専門機関である国際海事機関(IMO)において検討されている.2023年7月IMOにて,国際海運「2050年頃までにGHG排出ゼロ」の目標に合意し,「GHG削減戦略」を改訂した.その戦略を実現するために次の削減目安も採択されている.
・2030年までにGHG排出量を2008年比で20~30%削減する.
・2040年までにGHG排出量を2008年比で70~80%削減する.
そうした中,アンモニアや水素を燃料とするゼロエミッション船の普及に向けた取組が進められている.このような新しい燃料を使用する次世代船舶のサプライチェーン強化のためには,主要機器の標準化等が必要な取組みとして打ち出され,2025年3月国土交通省は,蓄圧式アンモニア燃料タンク標準を策定した.(2),(3)
〔丹羽 康之 海上・港湾・航空技術研究所〕
21.5 昇降機・遊戯施設
21.5.1 概況
日本エレベーター協会の2024年調査(1)による2023年度の国内の昇降機全体の新規設置台数は25,620台(2022年度25,200台)であり,2022年度に引き続き2年連続で前年から増加となった.新規設置台数の内訳は,エレベーターが22,902台(2022年度22,440台),エスカレーターが1243台(2022年度1200台),小荷物専用昇降機が1,401台(2022年度1,478台),段差解消機が74台(2022年度82台)であった.建物の用途別に見ると,2016年度から2019年度までは,住宅,商業施設,事務所,工場・倉庫の昇降機は増加,駅舎・空港,学校・宗教・文化施設は横ばいで推移しているのに対し,病院・福祉は減少している.一方,2020年度以降では,病院・福祉を除いて他の用途では減少傾向にあったが、2022年度ではその傾向が止まり、住宅や工場・倉庫については増加している.特に、2023年度は住宅の設置台数が8,677台(2022年度8,027台)と最も大きい増加を示している.
21.5.2 技術動向
国内の講演会では,非線形ばね特性を有するガイド装置に対するエレベーター横振動系の解析,昇降機のガイドレール据付作業支援ツールの開発,エレベーターレール調整最適化手法の走行振動モデル高度化による改善,階段移動困難者等が火災避難時に使うエレベーターの円滑な運転、誘導に関する調査研究,エレベーターかご内音声案内の適切な音量に関する調査,機械室なしエレベーター用巻上機におけるブレーキ動作音の音響解析,エレベーター巻上機ブレーキの制動トルク推定手法の開発,エレベーターかごの自重アンバランスの調整に関する測定システム,巻上ロープ繰出し機構を搭載したクライミングエレベーター工法,エスカレーターのチェーン伸び検知技術,1つの変位センサによるかご室昇降中のエレベーターロープの地震時横振動推定,エレベーターロープの変位応答レベルに順応する高次振動モードの影響を考慮した時変アクティブ制御,要素試験によるエレベーターロープの振動特性に関する基礎的研究,建物条件に着目したエレベーターロープの地震応答に関する基礎的研究について,13件の発表が行われた.(2025年1月:技術講演会“昇降機・遊戯施設等の最近の技術と進歩”).
〔小川 哲 東芝エレベータ(株)〕
21.6 荷役運搬機械
21.6.1 概要
経済産業省の生産動態統計(確報)による、2024年1月~12月の荷役運搬機械(運搬機械からエレベータ、エスカレータを除いた)生産額は、3,993億円(2023年度比12.8%、584億円減)であった。このうち、クレーンは2023年度比0.4%増、巻上機は4.6%増、コンベヤは17.8%減、機械式駐車装置は26.0%減、自動立体倉庫装置は14.8%減である。
(一社)日本産業車両協会の調査による、2024年1月~12 月のフォークリフト生産台数は9.8万台で、2023年度比6.2%減、輸出を含めた販売台数は6.6%減、国内販売台数は1.2%減の状況である。
(一社)日本産業機械工業会が3月28日に公表した産業機械の受注見通しでは、2025年度の運搬機械は、内需では自動化・省人化に向けた搬送システムの需要拡大、機械式駐車場の入替需要など、外需では東南アジアでの自動倉庫需要、アジア、北米での半導体関連の持ち直しなど、前年比17.3%増と見込まれている。
〔上田 雄一 (株)ダイフク〕
21.6.2 運搬車両
2024年の産業車両の国内生産実績は3,926億円(前年比102.6%)と4年連続で増加。主力機種のフォークリフトは2,497億円(前年比100.4%)とほぼ横ばいであった(表21-6-1)。
表21-6-1 産業車両の国内生産実績
| 産業車両 | フォークリフト | ||
| 生産額(百万円) | 生産台数 | 生産額(百万円) | |
| 2020年 | 304,335 | 108,429 | 222,470 |
| 2021年 | 344,087 | 119,477 | 243,571 |
| 2022年 | 380,702 | 126,560 | 268,673 |
| 2023年 | 382,494 | 105,152 | 248,709 |
| 2024年 | 392,552 | 98,623 | 249,664 |
“物流の2024年問題”を受け、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」等の物流の効率化、生産性向上実現のための施策を矢継ぎ早に打ち出し、さらに、2025年4月からは改正物流効率化法も施行され、物流の機械化・自動化の推進が掲げられた。産業車両にあっても、こうした期待に応えて、ロボティクス、IoTや次世代電池等の新技術を取り込んで、物流の効率化・高度化に加え、安全の向上、環境負荷の低減・カーボンニュートラル等に貢献する製品や技術の開発が進められている。
なお、無人搬送車システム(AGVS)の国際安全規格ISO3691-4は2020年に発行されたが、第2版が2023年6月に発行され、現在、次の改正に向けた審議が開始されている。
〔高瀬 健一郎 (一社)日本産業車両協会〕