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機械工学年鑑2025

24.法工学

24.1 法工学のこの一年

24.1.1 概要

2024年度は,紅麹問題および認証不正問題が社会的に大きな問題となった.紅麹問題は製造過程に問題があったということで,生産技術および品質管理という工学的な問題であった.これらは森永ヒ素ミルク事件等と同じく人の体内に入る物質を扱っている会社の品質管理に関する責任の無さが感じられる.また,自動車会社による認証不正問題も品質管理という工学的な問題であった.ただし,これは品質管理を規定した法律的に妥当であったかを検証する必要がある.

24.1.2 紅麹問題の概要

2024年(令和6年)3月22日に発覚した,日本の製薬会社である小林製薬の製造した紅麹を原料とするサプリメントが原因と疑われる健康被害事件である.サプリメント摂取との関連が疑われる死者が報告されるなど多数の健康被害を出した.

わが国では麹菌を用いた伝統的な発酵食品が広く生産されている.一方海外では発がん性のカビ毒を発生させるとして禁止されている国もある.紅麹菌も古くから酒造等に利用され,科学的研究も進められてきた.今日では長い年月をかけた育種により安全性が確立されている.微生物を扱う上では適切な育成条件とともに雑菌の混入を防ぐ管理が必要である.紅麹問題は製薬会社が量産していた紅麹菌による有効成分の製造段階において青カビを混入させてしまい腎毒性のプベルル酸が生成されたものである.この事件は単に有毒性サプリメントが販売されただけでなく,古来から親しまれている発酵食品に対する社会不安を抱かせた点において大きな社会問題となった.

24.1.3 認証不正問題の概要

自動車は大量生産されることから型式指定制度が道路運送車両法で定められている.47項目にわたる試験の結果が基準に適合していれば型式指定が受けられ,1台ごとの国の新規検査が省略され大量生産が可能となる.このうち43項目は国連規則と同一であり国際的なルールとなっている.2016年から燃費での不正,無資格検査の問題が発覚し,国土交通省による一斉調査の指示によって5社の不正試験が発覚した.各社とも安全性に問題はないと主張するが,その一方で交通社会全体での安全性は担保できないとみる技術者もいる.立ち会いの無い試験項目において都合の良い解釈による試験結果の報告という行為は国際ルールを破り信用を失う行為である.基準の試験方法が合理的ではないとする主張に関してはその妥当性に関して有識者による議論をしているところである.

24.1.4 法工学専門会議の活動

2024年7月には,環境工学部門と冷凍機器の冷媒選択について生じると予測される問題について法工学を踏まえてどのように対処するかを議論する環境セミナーを開催し,2024年9月の年次大会においては,一般公開行事として市民フォーラムで産学の共同研究で生ずる現代的な問題を論ずる「シナリオで学ぶ産学共同研究開発契約の勘所」と題する講演会を開催した.

また,2024年度は,新しく「認証不正研究会」を立ち上げた.この研究会については,24.4にて詳しく述べる.

〔平井 省三 日本工営(株)〕

24.2 法工学専門会議と環境工学部門との連携

24.2.1 連携セミナーの実施

法工学は,法律と正しく向き合うための援助を機械技術者に対して与えることを目的とし,その方法論を研究対象とするものである.例えば新技術を社会に導入する際,障壁となる立法,行政,司法などとのかかわりや,運用に関与する機関に働きかけるための方法論を研究するもので,工学的な発想で法令にアプローチしようとするものである.しかし,当時から20年を経た現在においても,その方法論も具体的な研究対象も定まっていない(1)が,他部門と連携することによって,より具体的な活動方法を模索することができる.このようなことも目的の一つとして,2020年から環境工学部門と連携し,毎年,特別講演や毎年開催される環境工学総合シンポジウムにて,テーマを設定してセミナーを実施している(1).以下にこれまで実施した概要について記述する.

24.2.2 第1回連携セミナー

2021年に実施した第1回連携セミナーの内容を検討中,コロナ禍の真っただ中だったこともあり,オンラインにて開催した.この回は,ちょうどタイムリーかつ関心が高い感染症を取り上げ,「新型コロナ対策で学ぶ法工学」と題して当委員の近藤惠嗣先生に解説をお願いし,法工学とはどのようなものかご説明いただいた.法工学と環境工学部門の関係者間による事前の打合せでは,環境工学部門の参加者のほとんどは「法工学」という言葉自体を初めて聞く者も多く,どのような内容で,どのようにディスカッションするのか,セミナーの手法自体についても多く話し合い,セミナーのデザインを検討し,実施にこぎつけた.

24.2.3 第2回連携セミナー

第2回は,2022年7月7日からレクザムホール(香川県高松市)にて開催された環境工学シンポジウムの共通プログラムとして,実施された.この回では,「環境技術における法工学~SDGsに向けて~」と題して,環境工学部門の第2技術委員会が担当する「廃棄物」をキーワードに次の発表と議論を行った.

初めの講演は,「法工学の視点で考える:新しい技術を社会で活用するために必要なことは何か」と題して,隅蔵康一教授が,法工学とは,法律を加工・設計する工学であり,各分野の技術やその社会実装の実情を踏まえてどのように法制度を設計してゆくかを考える学問領域であると説明した.新しい技術が生まれ,社会で活用される際には,どのような課題が生じるかをあらかじめ予測し,法制度の設計を提案することが求められていることから, 新たな技術が内包するリスクを踏まえて安全性の確保,過失による事故を防止するためには裁判における過失責任の認定や,工学と法律の接点となる課題としての知的財産法制度といった内容の検討方法などについて解説した.そして,こうした背景を説明するとともに,環境技術の普及と知的財産権の保護をどのようにして両立させるか,COVID-19のワクチンを世界中に普及させるためにどのような制度設計が必要か,といったことについても話題提供した.

次に,環境工学部門から,「廃棄物処理施設の立地とNIMBY問題」について石村雄一講師から説明があった.廃棄物処理施設は社会的必要性が高い一方で,その建設に関しては地域住民から敬遠されている.近年,このようなNIMBY問題(Not In My Backyard(我が家の裏庭には置かないで)」の頭文字を取った言葉)によって処理施設の立地場所に対する盛んな議論がおこなわれており,廃棄物処理施設の空間的配置のあり方に関心が寄せられている.本講演では,経済学の視点から住民紛争や政策の実施が処理施設の立地にどのような影響を与えているのかについて議論した.さらに過去約40年間に日本で立地した全ての産業廃棄物最終処分場の立地データと空間計量経済分析を用いた研究結果をもとに,今後の施設立地に対して政府や事業者が取るべき対策のあり方について検討した.

地元からは「高松市南部クリーンセンターにおける設備課題と今後の在り方について」と題して,神内康弘所長(高松市環境局南部クリーンセンター)から,高松市南部クリーンセンターで発生した火災の原因を考える中で,現状と課題を人と設備という観点で見つめて,解決に向けた対策をどのように模索してきたのかを話題提供があった.

そして,話題提供された内容について,法と技術の両面について,参加者全員で検討する機会を持った.出された意見を集約すると,技術者として検討しなければならないことは,技術だけではなく,開発された製品に関わるユーザーの視点を忘れることなく,さらに関係する法を含めて,総合的な視点で廃棄物処理技術開発を進めていくことが提案された.

24.2.4 第3回連携セミナー

第3回は,2023年7月26日にくにびきメッセ 国際会議場(島根県松江市)にて実施された環境工学シンポジウムの一部として,現地とオンラインによるハイブリッドでセミナーを実施した.この回は,環境工学部門の第1技術委員会が担当し,当時大きな話題であった「空飛ぶ車」について次のような内容でディスカッションした.

将来の近距離移動手段としての無人で運行される新交通システムは現在も複数の路線で運行されている.また自動運転自動車は現在自動車会社・IT企業を中心に研究が進められ,近い将来には,運転者不在の自動運転が実現されようとしている.ドローンによる荷物搬送も実用化が見えてきている.このような自動運転による機械が身近になったときの問題点について法律・工学の両面から検討しておくことは非常に重要な課題である.そこで,今回の連携セミナーでは,自動運航される電動垂直離着陸機(eVTOL)が身近な交通手段となる場合を想定し,離着陸時,航路運行時の騒音問題について環境工学分野の研究者・エンジニアと法律の専門家で議論を深め,法工学の観点から課題を見出すことを目的として公開討論を実施した.eVTOLが一般に使用される場合,道路交通法や航空法など,これまで設定されていない法律の検討が必要であり,保険や騒音の問題などもあることから,技術開発には社会的課題の克服も大きなチャレンジになることが示唆された.

24.2.5 第4回連携セミナー

第4回目は,環境工学シンポジウムプログラムの中には入れずに単独で2024年7月16日(火)にオンラインにて開催した.この回は,環境工学部門の第4技術委員会が担当しているヒートポンプについて取り上げた.

熱分野で活用されているヒートポンプは冷媒を用いて冷温熱を移動・コントロールする機器であり,冷凍・冷蔵機器の「冷却」,空調機器の「暖房」と「冷房」,産業用機器の「加熱」,「乾燥」といった機能を実現するのに欠かせないものである.一方,オゾン層破壊対策および温暖化対策から,冷媒に関する国際協定が締結されており,各国で当該協定を遵守するための法整備が進んでいる.しかし,冷凍空調機器の製品は幅広く,法目的が異なる様々な法規制が複雑に絡み合っており,すべてをクリアする理想冷媒の実現は技術的に困難であることが実態である.このような政治的・国際協定上の挑戦的な理想を目指す状況における,現実的な法体系の問題点・課題について法律・工学の両面から検討しておくことは非常に重要な課題である.今回の法工学連携セミナーでは「環境問題対策に向けた冷凍空調機器の冷媒転換の課題」をテーマとし,環境問題対策に向けた冷凍空調機器の冷媒転換の課題を整理し,それを受けて再度法工学の立場から解説を行った.その後法工学の観点から課題を見出すことを目標として出席者を含めて議論を深めた.

24.2.6 まとめ

2020年から始まった環境工学部門との連携が2025年も予定されており,実施前までは法工学という言葉すら全く聞いたことのない人々にも,法工学に関する理解は浸透している.

これまで新しい技術は,とにかく使用することが先で,法律は後から設定されることが多かった.例えばiPhoneを日本人の多くが使用するようになった初期のころは,スマホに関する法律は日本では整備されていなかった.今後ますます進むと思われる自動運転車やドローンの普及において,技術開発とともに法整備も必要であることを,法律家にゆだねるのではなく,技術者自らも考える必要がある.ともすれば,自分の技術にとらわれがちな技術者や研究者の意識を変えていくことも,法工学に課された役割である.多くの会員に法工学の重要性を認識していただけたら,法工学専門会議の存在意義も明確になると思われる.

環境工学部門との事例をもとに,法工学専門会議としては,他の設立賛同部門の広範な理解と協力を得て,活動を広げていく.

〔浦島 邦子 名古屋大学〕

参考文献

(1) 機械工学年鑑2024 24法工学, https://www.jsme.or.jp/kikainenkan2024/chap24/

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24.3 業務上過失事件裁判例研究会

24.3.1 研究会について

「業務上過失事件裁判例研究会」は,技術者が業務上の過失を問われ,刑事責任が問題となった裁判事例を収集・分析し,技術者と法律家の視点を比較検討することを通じ,あるべき法的責任と事故の再発防止策の姿を探ることを目指している.具体的には,法律家目線で業務上過失致死傷事件において裁判所がどのように過失の有無を認定しているかを読み解き,技術者の視点から個人の過失認定の背後にある技術的・構造的な要因(組織文化,設計上の制約,情報伝達の断絶など)にも目を向け,「犯人捜し」にとどまらない原因分析を目指す姿勢を打ち出している.工学と法の交差点において,技術者のより良い意思決定に資する知見を法と工学の両面から提供している点に,この研究会の大きな意義があるといえる.

24.3.2 事例紹介および両判決から得られる教訓

ここでは,「人を危険から遠ざける義務」に関し争われた2つの事例を紹介したい.なお,本稿の元となる法律家による判例解説と技術者コメントは本研究会に所属する各担当者が作成しており,以下は筆者においてその内容を要約・整理したものである.

(1)国分川水路トンネル水没事故

【事故の事実関係】

1991年9月,台風による豪雨で千葉県の国分川が氾濫し,工事中の分水路トンネルに濁流が流入した.これによりトンネル内に水が流れ込むことを防止するための仮締切が決壊し,トンネル内で作業していた7名が溺死した.事故当時,恒久的な止水構造「バルクヘッド」は撤去されており,代わりに設置されたのが仮設の「仮締切」であった.バルクヘッド撤去は,工事効率と予算を理由に被告人(県職員)が前倒しで決定した.仮締切は構造的に脆弱で,増水時の水圧に耐えられず決壊した.事故当日,現場では危険を示す情報があがっていたが,被告人は作業の継続を指示していた.

【判決の認定内容】

最高裁は,仮締切はトンネル内の工事の安全確保や災害防止のため,工事の発注者である県が設置,管理支配している以上,県が工事施工上の安全確保に配慮すべき義務を有しており,仮締切の決壊の危険があったのであるから,その決壊による大量の水の流入による溺死等の危険から免れさせるため,トンネル内で作業をする作業員らを緊急退避させる措置をとるべき義務(緊急退避措置義務)が,県にあったとした.そして,県側で実際に仮締切の設置及び管理支配を担当していたのは被告人であるから,右の緊急退避措置義務は,被告人が負うとして業務上過失致死罪野成立を認めた.判決では仮締切の設計や施工の問題には深く踏み込まれず,被告人と予見可能性と結果回避義務の有無を中心に結論づけられている.

【技術者のコメントと教訓】

技術者の立場からは,仮締切はそもそも設計上の無理を含み,強度も不十分であったこと,恒久構造であるバルクヘッドを撤去せずに残していれば事故は回避できた可能性が高いことが指摘されている.また,自然災害の影響は予測が困難であり,「いつ決壊するか」を予見できたとする判決の論理に疑問が示されている.さらに,組織としての対応体制が機能していなかったことが根本的な問題であり,個人に責任を集中させた裁判結果に対して,制度面からの反省と再発防止策の必要性が強調されている.

(2)明石砂浜陥没事故

【事故の事実関係】

2001年12月30日,兵庫県明石市の人工砂浜で4歳の児童が砂層内の空洞に落ち込み,生き埋めとなってその後死亡する事故が発生した.現場では,以前からケーソン構造の隙間から砂が吸い出される現象が続いており,砂浜ではくぼみや陥没が繰り返されていた.市の委託を受けた公園協会が陥没に気づき,応急的に砂で埋め戻すなどの対策をしていたが,抜本的対策は国に依頼中で未着手だった.事故当日も現場には立入禁止のバリケードが設置されていたが,危険区域の設定が限定的で,事故現場は対象外だった.

【判決の認定内容】

裁判では,被告人(明石市職員ら)は事故前から陥没の発生とその危険性を認識しており,特に陥没が起きていた南側突堤と事故現場である東側突堤で共通構造を持つことや,防砂板の破損が短期間で生じていたことから,事故現場でも同様の陥没が起こる可能性を予見し得たと認定された.その上で,事故現場も含めた広範囲を立入禁止にし,安全表示や物理的遮断措置を取るべき義務があったと判断し,過失を認定した.

【技術者のコメントと教訓】

技術者の視点からは,繰り返す陥没に対して砂の埋め戻しなどの「応急処置」で対応し続けた管理体制に問題があり,広域に利用を制限する判断を避けるなど安全対策を限定的にとどめた結果,人的被害を生んだ点が課題と指摘されている.事故後に実施された対策では,砂層の厚みを減らし,異常が早期に発見できる構造とされている.自然条件に左右される人工構造物の管理では,「何が起こるか分からない」前提で広域に利用制限をかける判断こそが管理者の責任であると教訓づけられている.

(3)両判決から得られる教訓

両事故とも,異常の兆候(豪雨による水位上昇,繰り返す陥没)が事前に把握されていたにもかかわらず,対策が先送りされていた事例といいうる.危険の兆候がある時点で最悪の事態を想定した行動が必要であることが共通して示されているといえよう.

また,現場では繰り返し応急的な措置(砂の埋め戻し,仮締切の設置)にとどまり,本来必要な恒久的・構造的な安全措置が取られないまま重大事故につながった.事故が発生してからでは手遅れであること,構造的なリスクには構造的対策で臨むべきという教訓が得られるといえよう.

さらに,どちらの事故も,「利用者へのサービス継続」「工期の短縮」などの管理側の都合が安全判断に影響し,結果として人命が失われたということができよう.安全確保が困難な状況では,利用や作業を停止するという「勇気ある判断」が求められる.

加えて,いずれの現場でも,全体を統括する安全体制や組織間連携の不備があったといえるであろう.現場レベルでの対応に委ねられた結果,情報共有や統一的判断が遅れたということもでき,元請・発注者・行政など関係者を束ねる仕組みの整備と,指揮命令系統の明確化が必要である.

設備は「壊れない前提」ではなく,「壊れる可能性がある前提」で設計・運用し,安全側の判断を行う制度やルールが組織内に備わっていなければならない.以上の教訓は,インフラの設計・施工・管理の現場だけでなく,学校や企業,自治体などすべての組織のリスク対応のあり方を問い直すものといえるであろう.

〔岡本 満喜子 関西大学〕

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24.4 認証不正研究会

24.4.1 認証不正問題の概要

道路運送車両法は,「自動車(軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く.以下第29条から第32条までを除き本章において同じ.)は,自動車登録ファイルに登録を受けたものでなければ,これを運行の用に供してはならない.」(第4条)と定め,新規登録の要件として,「自動車が新規検査を受け,保安基準に適合すると認められたもの又は有効な自動車予備検査証の交付を受けているもの」でなければならないと規定している(第8条).しかし,量産車の1台1台を全て新規検査の対象とすることは著しく行政の負担を増加させ,現実的ではない.そこで,この問題を解決する手段として採用されたのが,型式指定の制度である.

型式指定は,自動車の製造事業者又は輸入事業者(以下「事業者」という.)による申請によって行われる.型式指定の要件は,「申請に係る自動車の構造,装置及び性能が保安基準に適合し,かつ,当該自動車が均一性を有するものであるかどうかを判定すること」であり,その効果は,「型式について指定を受けた特定共通構造部の当該指定に係る構造,装置及びその型式について指定を受けた装置は,保安基準に適合しているものとみなす」ことにある(第75条3項).すなわち,型式指定を受けた量産車は,新規検査を免除されるのである.

もっとも,行政による新規検査が免除される代わりに,事業者自身による検査が義務付けられている.型式指定を受けた事業者は,自動車を譲渡する場合において,当該自動車の構造,装置及び性能が保安基準に適合しているかどうかを検査し,適合すると認めるときは,完成検査終了証を発行し,これを譲受人に交付しなければならないとされている(第75条4項).そして,型式について指定を受けた自動車の新規登録を行う場合には,「完成検査終了証」の提出をもって自動車の提示に代えることができるとされている(第7条2項2号).「自動車の提示に代える」という表現は分かりにくいが,要するに,現実の検査を受けなくてもよいという意味である.

以上に述べた制度における「型式指定」を一般には「認証」と呼んでいる.この認証を受けるにあたって,事業者が虚偽のデータを提出していたというのが,認証不正問題である.

24.4.2 認証不正の具体的な事例

2024年6月3日,国土交通省 物流・自動車局 審査・リコール課は,型式指定を取得している自動車メーカー等85社に対し,型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査・報告を指示した結果,自動車メーカー計5社から,型式指定申請における不正行為が行われていたとの報告があったことを明らかにした.同省は,5社からの報告内容を次のとおり開示した.

(1)トヨタ自動車株式会社

現行生産車3車種について,歩行者保護試験における虚偽データの提出等

過去生産車4車種について,衝突試験における試験車両の不正加工等

(2)マツダ株式会社

現行生産車2車種について,出力試験におけるエンジン制御ソフトの書換え

過去生産車3車種について,衝突試験における試験車両の不正加工

(3)ヤマハ発動機株式会社

現行生産車1車種について,騒音試験における不適正な試験条件での実施

過去生産車2車種について,警音器試験における試験成績書の虚偽記載

(4)本田技研工業株式会社

過去生産車22車種について,騒音試験における試験成績書の虚偽記載等

(5)スズキ株式会社

過去生産車1車種について,制動装置試験における試験成績書の虚偽記載

24.4.3 法工学専門会議の取組み

国土交通省の開示によれば,不正の内容として,虚偽データ,虚偽記載,不正加工,制御ソフトの書換え,不適正な試験条件が挙げられている.これらを表面的にみる限り,悪質な不正行為が行われたと考えざるを得ない.

しかし,他方では,自動車の安全性は損なわれていないという弁解や,指定された検査方法が不合理であるかのような反論もあるように見受けられる.例えば,トヨタ自動車の例では,後面衝突試験において衝突用の台車は1100kg±20kgと規定されているにもかかわらず,1800kgの台車を使用したことが不正とされている.この例の場合,確かに,規定に違反しているという意味では不正かもしれない.しかし,それが実質的に違法なのかという観点からの評価も必要だと思われる.

この点について,国土交通省やマスコミは,1800kgが妥当だというのであれば,予め堂々と主張して,国内外の認可当局の理解を得るべきであった,そのような手間を省いたことは非難の対象となる,という考えのようである.しかし,技術的な妥当性を法令の規定に反映させるべきであるという,法工学の立場からは,安易にこのような批判に同調することはできないと思われる.国土交通省は,国連で採択された基準であることを盾にとって自らの正当性を主張しているが,1100kg以上とか,1080kg以上という規定ではなく,なぜ,1100kg±20kgという規定に合理性があるのかを説明していない.これでは,「由らしむべし知らしむべからず」という,旧態依然の行政であり,民主的な行政とは言えないだろう.

以上のような観点から,法工学専門会議では,「認証不正研究会」を設置して,多角的な検討を開始した.

〔近藤 惠嗣 福田・近藤法律事務所〕

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