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機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

8. 熱工学

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章内目次

8.1 伝熱および熱力学
 8.1.1 概説8.1.2 熱物性8.1.3 伝熱8.1.4 熱交換器
8.2 燃焼及び燃焼技術
 8.2.1 燃焼技術・燃料

 


8.1 伝熱および熱力学

8.1.1 概説

 ジェームズ・ワットによる蒸気機関の改良(特に分離凝縮器の発明)が端緒となった産業革命を起点とするドイツのIndustrie 4.0,また狩猟社会を起点とする日本のSociety 5.0などが叫ばれ,いずれの場合もこれからの極めて高度に情報化が進んだ社会での製造革新などを中心にすえている.しかし,そのような未来社会の実現も,根幹にあるエネルギー問題や環境問題が解決されることが大前提であり,その意味で機械工学の中でも熱工学の果たすべき使命は極めて重い.

 2002年に制定されたエネルギー政策基本法に則って,3~4年おきに策定されてきたエネルギー基本計画として,2018年7月に第5次分が閣議決定された(1).第5次エネルギー基本計画では,常に踏まえるべき点として「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験,反省と教訓を肝に銘じて取り組むこと」等を原点として,2030年に向けてエネルギーミックスの確実な実現,2050年に向けてはパリ協定発効を受けてエネルギー転換・脱炭素化に向けてあらゆる選択肢の可能性を追求していくこととしている.

 「概説」欄は定点観測の役目を有すると思うが,大局的には2017年から大きく変わることはないので,2018年はとりわけ国内外での主要な会議(および機関)や学術誌に焦点を絞っていくぶん定量的に述べたい.まず,表1-1に2018年に開催された会議を時系列でまとめて示す.4年ごとの開催で「伝熱のオリンピック」とも呼ばれる国際伝熱会議(16th Int. Heat Transfer Conference)が8月に北京で開催された(2).発表論文数800編以上,参加者1400名以上という巨大な会議であり,発表論文の5割弱が中国,日本からは1割強で参加国の中で2番目の多数であった.国内では日本機械学会 熱工学部門 熱工学コンファレンス(3)を中心として,定番の伝熱・熱物性・燃焼の各シンポジウムが回を重ねた.

 工学関係の国際的学術誌としては,専用ウェブサイト(4)にまとめたように,50をはるかに超える数が共存・競合している.それらの中でも最長の歴史を有するInt. J. Heat and Mass Transfer(IJHMT)について,2018年の統計の一例を図1-1に示す.同誌への2018年の投稿数は6000編近く,うち採択された論文は約3割程度である.さらに,その国別採択数を見ると,中国が4割,それに米国と韓国が続く.日本は全体の3%程度,韓国の半分程度に過ぎない.前述の北京での国際伝熱会議への参加数と比べると,日本は中国に地理的に近いという特殊事情はあるものの,国際会議への参加率と専門誌への投稿率の間に著しい不均衡がある.これは工学分野にとどまらず,機械工学さらにはわが国全体の傾向でもあるのではなかろうか.一方,図1-2には,日本機械学会と日本伝熱学会が共同編集しているJournal of Thermal Science and Technology(JTST)の掲載論文数の推移を,創刊された2006年(Vol. 1)から2018年(Vol. 13)の間で示す.2018年までで総数479編,1年当たり平均37編程度である.前述のIJHMTへの日本からの2018年掲載数が58編であるので,JTSTも多数の専門誌の中で一定の貢献をしていると評価できる.

 現在,工学分野で国際的に活動している機関として,燃焼系のCombustion Instituteを除くと,International Centre for Heat and Mass Transfer(ICHMT),Assembly for International Heat Transfer Conferences(AIHTC),American Society of Thermal and Fluids Engineers(ASTFE),Asian Union of Thermal Sciences and Engineering(AUTSE),Eurothermの5つがある.これらの5機関の活動を相互に理解しあうための国際ニュースレターとしてThermal(5)が2018年7月に創刊された.なお,2018年は,熱工学分野の国際機関としてICHMTが創設されて50周年でもあった.

 

表1-1 2018年に開催された国内外の主な熱工学関係会議

図1-1 Int. J. of Heat and Mass Transferで2018年に採択された論文数

 

図1-2 Journal of Thermal Science and Technologyの掲載論文数の推移

〔吉田 英生 京都大学〕

参考文献

(1) 第5次エネルギー基本計画(平成30年7月), 資源エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/#head (参照日2019年4月7日)

(2) 吉田英生, 第16回国際伝熱会議─京都2014から北京2018へ, 伝熱, Vol. 57, No. 241 (2018), pp. 1-5.

http://www.wattandedison.com/htsj-2018-10-yoshida.pdf (参照日2019年4月7日)

(3) 日本機械学会 熱工学コンファレンス2018, 日本機械学会

https://www.jsme.or.jp/conference/tedconf18/ (参照日2019年4月7日)

(4) International Journals on Thermal Science and Engineering, Watt & Edison

http://www.wattandedison.com/journal.html (参照日2019年4月7日)

(5) Thermal, Watt & Edison

http://www.wattandedison.com/htsj.html (参照日2019年6月25日)

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8.1.2 熱物性

 2018年に開催された国内講演会や国際会議の中で,特に熱物性に関する報告が多い会議の情報を,熱物性値・熱物性計測方法を中心にまとめた.最近の国内学会講演会・シンポジウムや国際会議においては,「熱物性」として明確に区分されたセッションが少なくなっているように感じられる.以前は基盤的な研究として,純粋に熱物性値を計測する研究報告も多かったが,基盤的な情報を提供する新物質が出尽くした傾向にあるのかもしれないし,熱物性が専門的な分野ではなく,幅広く応用分野に入り込んでいるとも言えるかもしれない.

 第55回伝熱シンポジウム(1)は,札幌コンベンションセンター(札幌市)で2018年5月29日から31日の日程で開催された.熱物性と題したセッションは,全75セッションのうち,1セッションで5件の発表と少なかった.発表の5件も,熱物性値の報告ではなく,熱物性評価及び考察という内容が大半であった.

 第9回アジア冷凍空調国際会議(ACRA2019)(2)が,同じ年の伝熱シンポジウムと同じ会場の札幌コンベンションセンター(札幌市)で,2018年6月10日から13日で開催された.2年に1回の割合で開催されているこの会議が日本で開催されるのは,2010年の東京・早稲田大学での開催以来である.冷凍空調関係の研究全般を取り扱う中で,物性に関する報告は,新規次世代冷媒に関する報告が中心に行われた.基調講演で次世代冷媒の熱力学性質の総説が報告され,次世代冷媒の探索が喫緊の課題となっていることが解説された.一般講演では,アンモニア水溶液の最大密度,次世代混合冷媒表面張力,高温用新冷媒伝導率測定,R404A代替冷媒の化学的安定性,そして微燃焼冷媒のリスク評価の発表があった.特に新物質を使用するにあたっては,安全性の検証が必要であり,燃焼性や毒性などの化学的性質の評価もある意味では物性と表現できるのではないだろうか.

 第20回熱物性シンポジウム(3)が,米国コロラド州ボールダーで2018年6月24日から30日に開催された.熱物性(Thermophysical Properties)という単語を冠した代表的な国際会議は,アメリカ,アジア,ヨーロッパで,3年に1回の周期で循環して開催されており,アメリカで開催される熱物性シンポジウムは,NIST(National Institute of Standards and Technology)があるボールダーのコロラド大学で開催されるのが最近では通例となっている.この熱物性シンポジウムは幅広い分野を網羅しているシンポジウムで,数多くの発表件数がある.2018年度は,熱物性を状態や相変化の種類や,議論する対象物質で分類した実験的研究も含む15のセッションに,理論計算・相関式・分子シミュレーションなど解析が中心となる5セッション,さらには測定方法や測定技術に関する2セッションを加えて構成され,442件の口頭発表,97件のポスターセッションがあり,ソフトウエアのデモンストレーションも8件あった.20年くらい前は,統計力学的な解析や,臨界点近傍などの特殊領域の理論解析のセッションも多かったが,最近では応用面からの物性研究の発表が増えてきているように感じられる.測定技術も向上し,自動計測技術を応用したり,全く新しい理論や技術の導入も見られ,物性研究に携わる研究者や学生たちが,最新情報を学習できるシンポジウムである.

 2018年9月2日から5日には,イギリスのバーミンガムで新たに始まった第1回HFO国際会議(4)が開催された.HFOとはハイドロフルオロオレフィンの頭文字をとった次世代冷媒,次世代作動媒体の呼称である.オゾン層破壊防止のためのモントリオール議定書,地球温暖化防止のための京都議定書およびその改定になるパリ協定,キガリ改定によって,地球環境保全のために,CFCだけでなくHFCも使用量削減の規制が始まり,地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒への移行が積極的に行われている.この実現には,自然冷媒や新規物質を使いこなす必要があり,特にHFOに関しては,基本的な物性情報も,性能評価も,ほとんど解明されていないのが実情である.さらに,純物質に限らず,混合物にまで新規物質の候補が拡大されており,今後知的基盤となる物性情報の蓄積が重要な鍵となってくる.HFO国際会議は,CFCおよびHFC代替物質候補となるHFOの利用に関して様々な分野からの新しい研究成果を報告するためにスタートした.第1回の今回は,キーノート6件,一般講演66件には,熱物性に関する報告6件,燃焼性や毒性などの安全性に関する報告11件が含まれていた.新物質においては,従来の熱物性だけでなく,取り扱いに密接する物性情報としての安全性の情報が重要視されている段階とも言えるだろう.

 第39回日本熱物性シンポジウム(5)が2018年11月13日から15日に,ウインクあいち(名古屋市)にて開催された.日本で唯一の物性を冠した2018年度の日本熱物性シンポジウムでは,161件の報告があり,8件の一般セッションに加えて,9件のオーガナイズドセッション(OS)が用意された.9件のOS名は以下のとおりであり,(「高温融体と材料プロセス」,「先進材料の熱物性と宇宙システムデザイン」,「ナノスケール熱物性の評価」,「建物外皮の熱物性とシステムデザイン」,「高分子系サーマルマネージメント(放熱や蓄熱など)材料と複合材料の開発と評価」,「断熱材の熱物性計測と評価」,「エネルギーの活用に関わる流体熱物性と技術」,「マテリアルインフォマティクスに関わる熱物性データベースと技術」,「熱流計測と熱流センサーの応用」)日本熱物性シンポジウムのOS名がそのまま,この時代の熱物性研究の流行を示しているように感じられた.さらに「熱電変換と熱物性」と題した日本熱電学会とのジョイントセッションも開催された.主催学会と,もう一つの学会とで合同セッションが開催されることは,異種分野の融合に役立ち,研究者仲間を新たに拡張できる良い機会であったと思われる.

〔東 之弘 九州大学〕

参考文献

(1)第55回日本伝熱シンポジウム講演論文集,CD-ROM, 2018.

(2)The 9th Asian Conference on Refrigeration and Air-conditioning (ACRA2018), Sapporo, Japan, USB, 2018.

(3)Program of 20th Symposium on Thermophysical Properties, Boulder, Colorado, USA, 2018.

(4)1st IIR International Conference on the Application of HFO Refrigerants, Birmingham, UK, USB, 2018.

(5)第39回日本熱物性シンポジウム講演論文集, CD-ROM, 2018.

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8.1.3 伝熱

 2018年は,4年に一度,伝熱研究に関連する最大の国際会議である国際伝熱会議(International Heat Transfer Conference)が開催された年である.伝熱工学分野の研究動向を把握するため,学術誌や国際伝熱会議を含む国内外会議の研究動向をまとめる.

 2018年に発表された学術誌に掲載された論文の状況について論文数やトピックについて分類したものを表1-2に示す.対象としたのはアメリカ機械学会ASMEの論文誌Journal of Heat Transfer(vol. 140, issue 1 — 12),日本機械学会が発行する和文誌の日本機械学会論文集(84巻857号-868号),ならびに工学部門と日本伝熱学会が共同編集を行う英文誌のJournal of Thermal Science and Technology(vol. 13, issue 1, 2)である.ASME J. Heat Transferの論文総数は226件となっており,2016年の165件,2017年の179件から3割ほど増加している.掲載論文が多い分野は,「・物質輸送」,「マイクロ・ナノ伝熱」,「自然対流複合対流」が多く,次いで「強制対流」,「蒸発沸騰凝縮」,「噴流・後流・衝突冷却」が多い.特に掲載論文が増加している分野として,「噴流・後流・衝突冷却」(2018年:16,2017年:5,2016年:4),「マイクロ・ナノ伝熱」(2018年:32,2017年:23,2016年:17),「自然対流複合対流」(2018年:23,2017年:15,2016年:18),強制対流(2018年:20,2017年:12,2016年:19)が挙げられる.次に,日本機械学会論文集,Journal of Thermal Science and Technologyを総計した.伝熱工学に関連する論文数は65件となっており,2016年の25件よりは多いものの,昨年2017年の99件から3割ほど減少している.当該雑誌内で掲載論文が多い分野は実験技術,交換器となっており,昨年までと同様,分野によって投稿対象としている雑誌が異なっていることがうかがえる.なお,燃焼分野に関してはASMEでは別の論文誌Journal of Engineering for Gas Turbines and Powerに掲載されているため,昨年と同様,本表ではその他に分類している.

 

表1-2 伝熱関係主要論文誌と分野別論文数(2018年)

 2018年にアジア地区で開催された伝熱に関する国際会議として,前述の第16回国際伝熱会議(16th International Heat Transfer Conference(IHTC16)),そして第10回沸騰・凝縮熱伝達会議(10th International Conference on Boiling and Condensation Heat Transfer(ICBCHT2018))が挙げられる.

 IHTC16は2018年8月10日から15日にかけて中国・北京で開催された.2014年に京都で開催された第15回会議に続いてのアジア開催となった.この会議では,3件の基調講演,4つのパネル・セッション(Nano Scale Heat Transfer; Energy Storage; Entransy: A New Concept in Heat Transfer; Multi-scale Innovative Cooling Technologies for Data Centers),28件のキーノート講演,そして1041件の一般発表が行われた.一般発表のセッション別発表件数を図1に示す.セッション名は会議プログラムにならい略称で示している.表1-2と1対1の対応が難しい分野もあるが,本会議においては,「蒸発沸騰凝縮(BAE + COD)」,「対流(COV)」に加えて,「混相流(MPF)」,「伝熱促進(HTE)」,さらに表1-2のカテゴリーには陽に現れていない「新エネルギー(NEE)」の件数が多いことが特徴である.

 もう一つの国際会議であるICBCHT2018は,2018312日から15日にかけて長崎にて開催された.この会議は沸騰凝縮を中心とした気液変化現象の最新の研究発表と研究討議を行う会議として,1992年に米国にて第1回目が開催されて以来,第10回目にして初めてアジアでの開催となった.期間中全ての発表がシングルセッション形式で実施されるというこの会議の伝統的なスタイルが踏襲され,総数170件の一般発表(口頭:60件,ポスター:110件)とキーノート7件の講演で構成された.海外からの参加者114名(20カ国)を含む200人の参加があった.口頭発表でのセッションおよび発表件数(【】内の数字が件数を示す)は以下の通りである.Boiling in microchannels4】,Condensation heat transfer12】,Critical heat flux9】,Droplet4】,Measurement and visualizing techniques4】,Numerical simulation and modeling9】,Pool boiling9】,Transition/film boiling4】,Two-phase flow boiling5】.

 国内の代表的な伝熱に関連する会議として,工学コンファレンス(日本機械学会熱工学部門主催),日本伝熱シンポジウム(日本伝熱学会主催)が挙げられる.

 工学コンファレンスは20181020日および21日にかけて富山にて開催された.13のオーガナイズド・セッション(発表総数:167件)と一般セッション(同:47件)で構成される.オーガナイズド・セッションおよびその発表件数は以下の通りである.括弧内の数字が発表件数を示している.「沸騰凝縮伝熱およびの最近の進展【26】」,「多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応用【15】」,「革新的技術のための燃焼研究【14】」,「凝固融解伝熱および結晶成長の新展開【14】」,「マイクロエネルギーの新展開【11】」,「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント【20件】」,「火災爆発9】」,「燃料電池・二次電池関連研究の新展開【15】」,「外燃機関・排熱利用技術【6】」,「熱化学的バイオマス利用の基礎から応用まで【6】」,「ふく射輸送制御【8】」,「地中熱利用などの未利用エネルギシステムの次世代技術【12】」,「熱工学コレクション2018(熱コレ2018)【11】」.本会議ではオーガナイズド・セッションを中心とした発表が多く見られるのが特徴であり,伝熱関連では「沸騰凝縮」および「凝固融解伝熱分野といった変化減少に関するものが多く見られる.また,「バイオマス」や「地中」といった再生エネルギー関連の発表も見られる.

 もう一つの国内会議である第55回日本伝熱シンポジウムは,2018529日から31日にかけて札幌にて開催された.9つのオーガナイズド・セッション(発表総数:147件),学生および若手研究者を対象とする優秀プレゼンテーション賞セッション(同:46件),さらに一般セッション(同:164件)で構成される.こちらの会議ではオーガナイズド・セッションおよび一般セッションとほぼ同一規模の発表があった.まずオーガナイズド・セッションおよびその発表件数を以下に示す.先ほどと同様,括弧内の数字が発表件数を示している.「燃焼伝熱研究の最前線【24】」,「水素・燃料電池・二次電池【25】」,「ナノスケール動態の理解と制御技術による革新的材料・デバイス技術の開発【31】」,「エネルギー材料・システムのための・物質輸送促進【23】」,「乱流を伴う伝熱研究の進展【9】」,「非線形流体現象と伝熱16】」,「宇宙機の制御【5】」,「化学プロセスにおける工学【10】」,「人ととの関わりの足跡(一般公開)【4】」が実施された.また,Gセッションとして「電子機器の冷却【12】」が実施された.一般セッションおよび発表件数は以下の通りである.「ナノ・マイクロ伝熱14】」「空調・機器【14】」,「沸騰凝縮28】」,「計測技術【12】」,「混相流7】」,「融解凝固14】」,「物質移動5】」,「多孔体の伝熱10】」,「自然エネルギー【10】」,「音響【7】」,「ふく射7】」,「バイオ伝熱6】」,「ヒートパイプ【7】」,「分子動力学【10】」,「強制対流9】」,「自然対流4】」,「熱物性【5】」.IHTC16と同じく,「沸騰凝縮」関連の発表が多く見られるのが特徴である.

 以上2018年の伝熱関連の研究動向を概観した.学術誌や会議によって発表件数の多い分野,増加が顕著な分野があることを示した.また,海外学術誌,国際・国内会議において非常に活発な研究発表がなされている現状を示した.

〔上野 一郎 東京理科大学〕

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8.1.4 熱交換器

 2018年の国内外における熱交換器に関する研究動向について述べる.熱交換器に関連する研究は多岐に亘るため,対流や沸騰などの伝熱現象に関わる基礎研究の動向については前述の「8.1.3 伝熱」に譲り,ここでは熱交換器の構成要素や構造,ならびに熱交換器を構成要素とするシステムに関する研究の動向を中心に取り上げる。

 まず、国内における動向を調べるために、2018年に開催された熱工学関連の主な講演会を調査した.国内で開催された講演会のうち,第55回日本伝熱シンポジウム(5月・札幌),日本冷凍空調学会年次大会(9月・郡山)、熱工学コンファレンス(10月・富山)を対象として、講演論文集のタイトルおよび緒言等を参考に、「熱交換」または「熱交換器」をキーワードとして抽出した.第55回日本伝熱シンポジウムでは、「沸騰・凝縮」,「空調・熱機器」,「電子機器の冷却」,「融解・凝固」,「強制対流」,「ナノ・マイクロ伝熱」,「自然エネルギー,熱音響」,「OS:熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進」,「OS:水素・燃料電池・二次電池等」のセッションにおいて、熱交換器に関連する発表が行われていた.熱工学コンファレンス2018では、一般セッションのほか、「沸騰・凝縮伝熱および混相流の最近の進展」、「地中熱利用などの未利用熱エネルギシステムの次世代技術」、「電子機器・デバイスのサーマルマネジメント」、「多孔質体内の伝熱・流動・物質輸送現象とその応用」などで、熱交換器に関連する発表が行われた。上記二つの講演会では、多様なアプリケーションを対象として、実用形態に近い熱交換器を対象とした応用研究というよりは基礎研究寄りの研究発表が多い印象を受けた。一方、日本冷凍空調学会年次大会では、熱交換器のOSおよびWSが企画されているだけでなく、その他のセッションにおいても、空調・冷凍や地中熱利用などの分野を対象として、要素研究から応用研究まで数多くの発表が行われていた。研究内容を要素研究について分類すると、フィンやディンプル等を設けた伝熱促進、扁平多孔管など多分岐流路における冷媒分配、着霜・除霜、次世代冷媒への対応に関する発表が行われた。アプリケーション別にみていくと、空調・冷凍分野では高性能化、コンパクト化、省冷媒など従来からの課題に加えて、オールアルミ熱交換器の材料腐食に関する発表もみられた。他には、エンジンの排熱回収や産業プロセスの燃焼排ガス利用、廃棄物処理施設からの熱回収など、燃焼ガス排熱の有効利用を図ることを目的とした熱交換器技術に関する発表があった。具体的には、潜熱蓄熱材(PCM)や吸収、吸着式ヒートポンプ等における熱交換や、燃焼排ガスからの熱回収時に問題となる燃焼灰による高温腐食および酸露点による低温腐食に関する講演が行われていた。自然エネルギーについては、主に地中熱の空調利用に関する研究が多く、フィールド試験の結果などが報告されていた。機器冷却としては、各種ヒートパイプや沸騰冷却、接触熱抵抗に関する研究が行われており、SiCなど高熱流束の除熱については沸騰冷却の基礎的な研究が報告されていた。

 次に、国際的な研究動向を調べるために、主要な学術雑誌として,「International Journal of Heat and Mass Transfer」,「Applied Thermal Engineering」、「International Journal of Refrigeration」などを対象として調査を行った。調査方法は,タイトル,抄録,キーワードのいずれかに「Heat Exchanger」等を含む論文を抽出し、内容の分析をおこなった。さらに、2018年に開催されたInternational Heat Transfer Conference 16(8月・Beijing, China、以下IHTC-16)において、「Heat Exchanger(HER)」セッションおよびその他のセッションにおいても同様に調査した。「Heat Exchanger(HER)」セッションの第一著者の国別内訳では、中国が最も多く24件、続いて韓国9件、日本6件と続き、アジア圏が約7割を占めていた。2014年に開催されたIHTC-15と比較するとセッション全体の発表件数は約2倍になり、内訳における中国の割合が増大している。その他のセッションでは、「Computational Methods and Simulation」において熱交換器関連の数値解析に関する研究発表が行われていた。
国際的な研究動向としては、シェル・チューブ型、フィン・チューブ型、プレート式、二重管式など従来形状の熱交換器における伝熱促進について、フィンやディンプル、Baffleなどについて様々な形状が提案されており、主に数値解析により伝熱特性の評価が行われている。数値解析の高度化や利便性の向上、OpenFOAMなどオープンソースコードの充実により、Vortex generatorなど乱流を取り扱った伝熱問題については数値シミュレーションを主として結果が多く提示されており、今後も中国を中心として膨大な試行結果に基づき様々な形状が提案されていくことが推量される。これらを十分に活かすためにも、対流や伝熱の現象について基盤的知識に基づき解釈や、計測分析技術を複合的に活用することが重要になると思われる。他の要素研究としては、熱交換器の流路の細径化および並列化とともに問題となる冷媒分配については、マニホールドを設けた流量均一化を試みた実験的な研究が行われていた。製造技術としては、Printed circuit heat exchanger (PCHE)や3Dプリンティングなど新たな製造手法の導入により、3次元的複雑形状の最適化の試みがなされている。PCHEとしてはジグザグ流路や3次元的にマルチパス化されたマイクロチャンネル熱交換器が試作されているほか、3次元積層造形により金属粉末(AlSi10Mg、SS17-4、Ti64、Inconel 718等)の焼結体や樹脂性の熱交換器を試作して、熱交換性能を評価した研究も見受けられる。また実用面では、空調の空気側、ボイラや排熱など燃焼ガスからの熱回収、地中熱や下水熱の利用、海水冷却などの分野ではファウリングや腐食防止に関する研究も多かった。材料メーカーが各社持っているであろう表面改質技術や製造技術の導入や、または細径化とともに材料自体の熱伝導が律速とならないのであれば、樹脂等を含めた新しい材料の適用に注目したいところである。電子機器冷却を目的としたヒートパイプやサーモサイフォンに関する研究や、SiCパワーデバイスの熱拡散のためのベーパーチャンバの論文が多かった。近年はアプリケーションとして、自動車や航空機の電化を対象とした移動体向けのサーマルマネジメントを最終目標としているものが多くなってきた印象である。自然エネルギーの利用については、地中熱利用(中国、イラン、カナダ、UK等)に関する解析的な研究が多く、また太陽熱利用(中国、イラン、スペイン等)に関する研究も同程度発表されていた。システム面での研究としては、ニューラルネットによる熱交換器性能の性能予測手法や熱交換器ネットワークによるシステム最適化に関する発表も見られ、今後もコンピューティングの高度化を活用した運用最適化に関する試みにも期待したい。

〔馬場 宗明 産業技術総合研究所〕

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8.2 燃焼及び燃焼技術

8.2.1 燃焼技術・燃料

 企業において,事業運営で使用する電力の100%を再生可能エネルギーにより発電された電力とするRE100(Renewable Energy 100%)の活動が活発に展開されている.RE100への参加企業数は,世界全体で152社(2018年11月現在)であり,日本では2018年1月まで3社だったが,2018年末には13社にまで急増している(1).この例のように再生可能エネルギーは,世界的にますます重要なエネルギー源としての役割を果たすようになっており,全発電量のうち,再生可能エネルギーが占める割合は急速に増加している(2).このような状況の背景には,ご存知のように温暖化ガス(特に二酸化炭素)の排出量低減に向けた国際的な取り組みがある.しかしながら,世界のエネルギー消費量は人口増加や経済の成長に合わせて増加し続けており,その需要を満たすのは,やはり化石燃料が主である.また,再生可能エネルギーは気候条件や昼夜により,発電量が大幅に変動するため,その変動を吸収できる柔軟なエネルギーシステムとして,火力発電の果たすべき役割はますます大きくなっている.

 火力発電の主な燃料は,天然ガス石炭である.2016年において世界の発電量の約2割が天然ガス,4割は石炭である.なお,2040年においてもその比率において石炭が若干減少するものの,大きくその傾向はかわらない(3)

 天然ガスは,米国や豪州を中心に,生産能力の大幅な増加が予定されており,順調に生産設備が稼働すれば,今後も供給量が多い状態が続くと考えられている(4).ただし,天然ガスは,政治的な影響で価格が変動しやすいし,急激な需要増加もあるため,生産が遅れると供給不足に陥る可能性もある.

 一方,石炭は単位発電量あたりの二酸化炭素の排出量が多いことから,近年その活用について様々な意見がある.国内においては,経済産業省から2018年7月に発電効率の低い石炭火力発電所の新設を制限する方針が示され,世界においても発電所の終了に向けた動きや,金融機関が投資を凍結する動きがある(5).しかしながら,石炭は世界中に広く存在し,発量あたりの価格も安いという特徴があることから,新興国をはじめ多くの国で重要なエネルギー源として,これからも活用されていくと考えられている.そのため,本節では二酸化炭素の発生量を削減するために火力発電で必要な燃焼技術の動向について述べる.

 石炭を活用しながら二酸化炭素の排出量を減らす方法としては,高効率に燃焼させるということ(6)以外に,木質バイオマス燃料混焼させていく方法がある.特に,微粉炭焚きボイラは,現在の石炭火力発電の大半を占める方式であり,バイオマスの混焼率を増加させることは,二酸化炭素の排出量削減の観点から大きな意味を持つ.混焼のためには一般にバイオマスに対応したミルやバーナーの追加や改造が必要である.バイオマスの粉砕では,粉砕エネルギーが大きくなることや燃焼性への影響があるため,粉砕の方法が重要な技術となる.現在,これらの課題に対応して,混焼率30~34cal%程度の商用運転が可能になっている(7)(8)

 この他,カーボンフリーな燃料として,水素やアンモニアの利用拡大が期待されている.まず,水素の燃焼技術に関して述べる.将来の水素利用社会に対応し,発電用の大型ガスタービン(数十万kW相当)における水素の大規模利用が検討されている.水素は燃焼速度が大きく,逆火の可能性が高まるため,ガスタービン燃焼器内の低流速領域での逆火の可能性を排除した燃焼方式で,水素30vol%の混焼試験に成功したことが報告されている.さらに,予混合燃焼で水素専焼を実現するマルチクラスタ燃焼器も開発が進められている(9).また,内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」において,小型エンジンを用いた基礎実験で,水素燃料の優れた燃焼特性を活用した新しい燃焼方式が確立されている.これまで大型発電用の水素エンジンでは,天然ガスに比べ出力や効率が低く,高負荷運転時に窒素酸化物が大量に生成される課題があった.これに対し,燃焼室に噴射した水素燃料噴流が分散する前の塊の状態で燃焼させる過濃混合気点火燃焼方式を確立させることで,大型エンジンとして高出力・高効率・低NOxを実現できる火花点火水素エンジンが報告されている(10).ただし,水素は製造コストの他,輸送・貯蔵で技術課題が多い.水素を長距離輸送するには極低温で長時間維持する技術が必要となる.また,水素を有機ハイドライドとして容積を小さくし,常温で輸送する方法があるが,輸送前後で水素化,脱水素化が必要で設備コストが発生する課題もある.これらの課題も解決していくことで,水素による商用発電の実現性も近づいてくる.

 続いて,アンモニアの燃焼技術に関して述べる.アンモニアは水素のエネルギーキャリアとして着目される一方,燃料としても利用できる.この場合,アンモニアは天然ガスに比べ燃焼速度が遅いことや,燃料にN分を含むことによりフューエルNOxが発生する可能性があることなど燃焼方法には工夫が必要である.ガスタービンでは火炎低酸素領域にアンモニアを吹きこむバーナーが開発されている.2,000kW級ガスタービンでアンモニアと天然ガス混焼量比率20%)し,安定した発電の混燃の報告されている(11)

 以上のように2018年は,再生可能エネルギーの大量導入に向けた技術開発と,水素を実機で活用するための技術開発が進展した印象がある.

〔岡崎 輝幸 三菱重工(株)〕

参考文献

(1)再生可能エネルギーの自立に向けた取組の加速化(多様な自立モデルについて),資源エネルギー庁,

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/010_02_00.pdf(参照日2019年4月25日)

(2)平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018),資源エネルギー庁,

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018pdf/(参照日2019年4月25日)

(3)IEEJ Outlook 2019,日本エネルギー経済研究所(2018),

https://eneken.ieej.or.jp/data/8116.pdf(参照日2019年4月25日)

(4)天然ガス・LNG最新動向(2018年1月以降のLNG契約合意,新規プロジェクトFID状況),独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(2018),

https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/626/181015-c_NG_LNG_r.pdf(参照日2019年4月25日)

(5)石炭火力の新設基準の考え方について(案),経済産業省(2018),https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/karyoku_hatsuden/pdf/h30_01_05_00.pdf(参照日2019年4月25日)

(6)岡崎 輝幸,8.2.2 燃焼技術・燃料,日本機械学会機械工学年鑑2017,

https://www.jsme.or.jp/kikainenkan2017/chap08.html#8-2(参照日2019年4月25日)

(7)大野 恵美,微粉炭火力発電所での木質ペレット高比率混焼への挑戦,動力エネルギーシステム部門ニュースレター 第58号pp.3–4.

(8)横式 龍夫 松本 慎治 江守 大昌 永冨 学 横山 康 澤 昇吾,微粉炭バイオマス高混焼率発電設備の運転実績,三菱重工技報 Vol.55 No.4 (2018)

(9)野勢 正和 川上 朋 荒木 秀文 仙波 範明 谷村 聡,CO2 フリー社会の実現に向けた水素燃焼ガスタービン 三菱重工技報 Vol.55 No.4 (2018)

(10)三原雄司,終了報告書 オープンサイクル用エンジン試験機において,高圧直接噴射水素噴流の過濃混合気塊点火燃焼による熱効率向上研究開発,科学技術振興機構,

https://www.jst.go.jp/sip/dl/k04/end/team9-4.pdf(参照日2019年4月25日)

(11)松尾貴寛,IHIにおけるカーボンフリーエネルギーの実現に向けた取組み,JSME TED Newsletter,No.86(2018)pp.7–13.

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