Menu

機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

3. 計算力学

関連部門ホームページ関連部門イベント


章内目次

3.1 はじめに
3.2 計算固体力学
3.3 計算流体力学
3.4 大規模解析
3.5 ソフトマテリアル
3.6 ペリダイナミクスと破壊
3.7 計算バイオメカニクス
3.8 逆問題とデータ同化
 3.8.1 はじめに/3.8.2 フィルタ理論に基づくデータ同化
3.9 最適化
3.10 産業界での計算力学

 


3.1 はじめに

 「計算力学」という分野は,力学が基礎にあってそれを計算する学問であるというという見方がある一方で,数学が基礎にあってそれを力学に適用する学問であるということもできる.前者は物理的で後者は数学的であろう.前者の分類法であれば,計算固体力学,計算流体力学,ソフトマテリアル,破壊,計算バイオメカニクスといったサブタイトルになるであろうが,後者の分類法では大規模解析,ペリダイナミクス,逆問題,データ同化,最適化,となろう.しかしながら,「計算力学」の個々の研究者においては,両者のタイプが混ざり合っているように思う.
 「計算力学」では様々な新しい取り組みがあり,発展の速度も速い.機械工学年鑑では「計算力学」の各項目を毎年見直し,最新の物理的あるいは数学的トピックスが読者に届けられるように心がけている.

〔越塚 誠一 東京大学〕

目次に戻る


3.2 計算固体力学

 本節では2018年度における計算固体力学分野の研究動向を簡潔に紹介する.

 まずは金属材料を対象とした研究について述べる.これまでは主に,結晶欠陥のなかでも粒界などの面欠陥や転位などの線欠陥の情報を材料モデルに取り込む研究が中心であったが,近年は原子空孔などの点欠陥を対象とする動きが新たに現れている.たとえば,結晶塑性モデルに原子空孔密度の発展を考慮し,原子空孔の発生,拡散,集積によって破壊の起点となるマイクロボイドの形成を予測しようとする試みがなされている.また,原子空孔の拡散と粒界への集積を扱ったMD(分子動力学)計算やLSI中でのボイドの移動を扱ったPF(Phase-field)解析なども挙げられる.結晶塑性解析では,粒内不均一性と粒間相互作用を考慮して多結晶中の単結晶の材料パラメータを同定しようとする研究も行われている.また,単結晶の降伏応力であるCRSS(臨界分解せん断応力)の変化を考慮した研究も実施されている.たとえば,分解垂直応力(すべり面垂直応力)のCRSS値への影響を調査した結晶塑性研究,侵入気体原子の存在と配置のCRSSへの寄与度および合金の相分離によるCRSSの変化に関するMD計算などが挙げられる.

 近年ではCosserat理論や高次ひずみこう配理論などを利用した研究の数も増えつつあり,一般化連続体力学が再び見直されてきたように感じられる.たとえば,Cosserat理論の系統では,Micromorphic体のはりを棒要素とする骨組構造におけるマクロな非局所性の予測,Micropolar弾性論を用いた構造最適化手法,Micropolar結晶塑性モデルによる回位密度の導入およびそれを偶応力理論に帰着させたキンク帯形成のメッシュフリー解析などが挙げられる.一方,高次ひずみこう配結晶塑性論の系統では,形状関数の背景セル間での可微分性が保証されるメッシュフリー法の適用やGN転位およびSS転位の各々がBauschinger効果に与える影響の検討,ひずみこう配弾性論によるキンク帯における転位構造解析などが試みられている.さらに,微分幾何学を用いて材料空間の捩率である転位密度と曲率である回位密度を同時に考慮したキンク帯の形成解析も計画されている.さらに,転位や回位などの結晶欠陥をグラフェンなどのナノ構造に意図的に導入し,力学特性を改善しようとするMD計算も実施されている.加えて,ひずみの2次こう配に相当する不適合度を用いて材料内部の不均質場の発展を表そうとするFTMP(Field Theory of Multiscale Plasticity)では,GNB(Geometrically Necessary Boundary)の形態変化,マルテンサイト多重スケール組織の変形応答,層状構造におけるキンク帯形成などへの応用が試みられている.

 形態形成および組織形成の分野では,PF法と格子Boltzmann法を連成する動きが盛んであり,融液の流れを考慮した凝固相変態やデンドライトのフラグメンテーション(液相流動による樹枝の破壊と輸送による等軸化)の再現などに応用されている.また,数値解析に実験データを取り込んで,本来測定困難な数値パラメータ(自由エネルギー汎関数内の物性値など)を推定するデータ同化にも関心が集まっている.さらに,非平衡Multi-PFモデルの利点(擬平衡濃度の収束計算不要という性質)を活用して,多元系の各相の熱力学的状態と自由エネルギーの関係を決定する過程で,機械学習を取り入れてその処理を高速化する試みもなされている.

 最後に高分子材料を対象とした研究について触れる.近年は高分子材料の非線形挙動に対する計算固体力学が活発化しており,特に分子鎖挙動に基づくマルチスケール解析によってその複雑な挙動を解明しようとする動きが盛んである.たとえば,分子鎖の離脱と再結合による物理架橋点の消失と再形成をモデル化した分子鎖網目モデルや自由体積変化を考慮した分子鎖塑性モデルなどを熱硬化性高分子に適用し,損傷進展による劣化や特異な繰返し負荷挙動を再現しようとする試みがなされている.また,熱可塑性の結晶性高分子における結晶質のすべり変形には高分子の転位が関与していることを示すMD計算や,それに基づいて結晶質にGN転位を導入して結晶性高分子の寸法効果を表そうとする分子鎖塑性モデルも提案されている.さらに,分子鎖網目に溶媒を膨潤させた高分子ゲルの研究も盛んに行われており,同ゲルの膨潤誘起変形挙動や外力刺激による網目構造および膨潤状態の変化など複雑な非線形応答を再現しようとする研究が行われている.

 なお,上述の研究に関する各々の文献を全て列挙すると膨大な数になるため,ここではその代表として第31回計算力学講演会の講演論文集(1)を挙げておく.本稿の詳細およびさらなる関連文献の情報については文献(1)を参照されたい.

〔志澤 一之 慶應義塾大学〕

参考文献

(1)日本機械学会, 第31回計算力学講演会講演論文集(CD-ROM) (2018),No.18-8, OS19, 20, 21.

目次に戻る


3.3 計算流体力学

 京コンピュータの共用利用に終了の兆しが見えると共にポスト京コンピュータの開発が進んでいる現在,計算流体力学に求められる役割は拡大しつつある.スーパーコンピュータを用いた大規模計算においては近年の多くのアーキテクチャにおいて高速化の鍵であるアクセラレータもしくはキャッシュの活用のため,データの局所性が良好なセル内の自由度が大きく並列化がスケールしやすい陽的時間積分法がステンシル計算では多く用いられている(1).この背景から近年の低速流れの数値計算では格子Boltzmann法による解析が従来のNavier-Stokes方程式による解析を上回る勢いを見せている.さらに高速計算機で高い効率を発揮する格子Boltzmann法は低速域の単相流解析のみならず混相流解析にもその適用範囲を広げつつある.従来の気液界面等を含む混相流解析ではVOF関数やレベルセット関数等の界面を表現するスカラー値に対する移流方程式Navier-Stokes方程式と連成させて解かれ,空気と水などの大きな密度比の混相流の解析に用いられてきた(2).一方で以前の格子Boltzmann法を用いた混相流解析では大きな密度比の混相流を解析することを苦手としていたが,近年の手法の改良(3)により大きな密度比の混相流解析も実施され,気液二相流解析のベンチマークであるダムブレイク問題で良好な結果を見せている(4)

 等間隔もしくは非等間隔の直交格子において,複雑形状の表現に用いられる埋め込み境界法はNavier-Stokes方程式による解析でも格子Boltzmann法による解析でも不可欠の技術となっており,埋め込み境界法を用いた固気混相流解析(5)や,埋め込み境界-格子Boltzmann法(IB-LBM)による移動物体周りの流体解析法(6)などが開発されている.また高Reynolds数流れや衝撃波を含む流れ場の解析では埋め込み境界法の考え方を拡張したカットセル法によって保存性を向上させた解析が行われている(7)(8).計算格子が大規模化しやすい直交格子においては,適切に格子点数を制御できる解適合格子細分化の応用が魅力的であることから,低速流れと高速流れの両者で研究開発が続けられている.低速流れでは前述の格子Boltzmann法でも取り組みがなされており,通信隠蔽を用いた複数GPUの並列計算により高い並列化効率と動的負荷分散を得た報告がなされている(9).また混相流解析でも界面追従型の解適合格子細分化の研究が行われ,細分化により複雑な気液界面を高い解像度で捉えた結果が報告されている(10).一方で高速流れでは,流体力学講演会でここ数年にわたり開催されているAerodynamicprediction challengeでの取り組みも見られ,航空機の高揚力装置周りの流れ場構造や翼周りの剥離現象が局所格子細分化によってどのように変化するかについて議論がなされている(11)(12).加えて流体計算の高精度化の研究では,圧縮性流れ解析においてデータの局所性に優れた流束再構築法(FR,Flux Reconstruction法)が開発されており(13),今後の実用問題への適用が期待される.圧縮性乱流の数値解析に適したエネルギー保存スキームに関しても開発が継続されており,これまでにテスト問題での結果が示された(14).現在の圧縮性流れの数値解析分野では非定常の衝撃波-乱流境界層干渉問題が注目されており,そのための高精度な解析手法と予測手法が研究されている.

 機械学習を用いた計算流体力学へのアプローチは年々活発化している.大規模数値解析のコスト削減と実験で得られた速度場の分析ツール開発を目的として,深層学習に乱流の直接数値計算で得られた速度場を学習させて内部応力場等を予測する試み(15)や,物体周りの数値流体解析で得られた速度場を深層学習させて圧力場を予測する試み(16)等が報告された.両者とも流れ場の速度情報を学習して別の場のデータを予測する取り組みであり,世界的に見た場合の成功例である翼型周りの流れ場を学習して空力特性を予測する研究(17)や,自動車形状を学習して抗力係数を予測する研究(18)よりも,出力の自由度が高いという点で困難な課題と位置づけられる.故に上記の研究例(15)(16)において予測が安定しなかったという報告は至極もっともと考えられ,計算流体力学と機械学習の適切なマッチング方法を今後も探っていくべきであると考える.

 近年のものづくりには計算力学の知識と技術が必須である.しかしながら,その根幹にある肝心のソフトウェアが海外の製品であることは少なくない.そのことに危機感を覚え,産官学連携研究によって基盤ソフトウェアの開発を目標に掲げた大型プロジェクトは従来から実施されてきた.最近では府省・分野横断的な取組みである戦略的イノベーション創造プログラムSIPがその一例に挙げられ,その中で内燃機関設計開発のための流体解析ソフトウェアHINOCAをJAXAが中心となって開発した(19).このような産官学連携研究に基づいた非競争領域における基盤技術開発の取り組みは,欧米では既に10年以上前から行われており日本がようやくその流れに追いついたと言えよう.このような学術研究に基づいて開発されたソフトウェアを産業応用する際には,迅速かつ精度良い予測のために数理モデルの適切な援用が不可欠である.今後の計算流体力学には,これら数理モデル化の技術を大規模解析や機械学習と組み合わせてこれまで解けなかった複雑な現象を読み解き,その上で産業上の設計開発に応用するといった学術から産業までを広く包含した発展が望まれるであろう.

〔高橋 俊 東海大学〕

参考文献

(1)田中英行,石原陽平,坂本亮,中村孝史,木村耕行,似鳥啓吾,坪内美幸,牧野淳一郎,Formula DSLによるtemporal blockingのPEZY-SC2での実装と性能評価,第32回数値流体力学シンポジウム講演論文集(2018),B06-3.

(2)川本裕樹,佐々木竜一,赤間勇太,高橋俊,落合成行,自動車エンジン内部におけるピストンリングまわりの混相流数値解析,第50回流体力学講演会/第36回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集(2018).

(3)Inamuro, T., Ogata, T., Tajima, S. and Konishi, N., A lattice Boltzmann method for incompressible two-phase flows with large density differences, Journal of Computational Physics, 198 (2004) pp. 628-644.

(4)佐藤兼太,越村俊一,Level Set法とPLIC-VOF法のカップリングによる格子ボルツマン法の3次元自由表面流れ解析モデルの構築,Transactions of JSCES, No. 20182003 (2018)

(5)鈴木康祐,埋め込み境界-格子ボルツマン法に基づく移動境界流れの数値計算法の開発とその羽ばたき飛翔への応用,ながれ37 (2018) pp. 215-220.

(6)Mizuno, Y., Takahashi, S., Fukuda, K. and Obayashi, S., Direct Numerical Simulation of Gas–Particle Flows with Particle–Wall Collisions Using the Immersed Boundary Method, Applied Sciences(2018), 8(12).

(7)Schneiders, L., Meinke, M. and Schroder, W., Direct particles-fluid simulation of Kolmogorov-length-scale size particles in decaying isotropic turbulence, Journal of Fluid Mechanics, vol. 819 (2017) pp. 188-227.

(8)菅谷圭佑,玉置義治,今村太郎,直交格子簡易カットセル法を用いた3次元複雑形状まわりの格子生成法の研究,第50回流体力学講演会/第36回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集 (2018) pp. 165-170

(9)渡辺勢也,青木尊之,長谷川雄太,動的AMR法を導入した格子ボルツマン法の複数GPUによる大規模計算,第31回計算力学講演会講演論文集 (2018) DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.214

(10)松下真太郎,青木尊之,界面に適合するAMR法と完全陽解法による高解像度気液二相流計算,第31回計算力学講演会講演論文集 (2018) DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.222

(11)周健文,玉置義治,今村太郎,階層型直交格子を用いたAdaptive Mesh Refinementによる30P30N周り流れ場の2次元解析,第32回数値流体力学シンポジウム講演論文集,C12-1 (2018)

(12)玉置義治,今村太郎,UTCartを用いた30P30N高揚力装置周りの非定常流れ場解析,第50回流体力学講演会/第36回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演論文集 (2018)

(13)Haga, T. and Kawai, S., On a robust and accurate localized artificial diffusivity scheme for the high-order flux-reconstruction method, Journal of Computational Physics, 376 (2019) pp. 534-563.

(14)Kuya, Y., Totani, K. and Kawai, S., Kinetic energy and entropy preserving schemes for compressible flows by split forms, Journal of Computational Physics, 375 (2018) pp. 823-853.

(15)長町厚志,塚原隆裕,深層学習による粘弾性流体乱流の予測可能性に関する調査,第31回計算力学講演会講演論文集 (2018) DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.033

(16)中神貴裕,大山聖,Hoeijmakers, H., ディープラーニングを用いた速度場から圧力場の推定の試み,第31回計算力学講演会講演論文集 (2018) DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.292

(17)Zhang, Y., Sung, W. and Mavris D., Application of Convolutional Neural Network to Predict Airfoil Lift Coefficient, Scitech, AIAA 2018-1903 (2018)

(18)Umetani, N. and Bickel, B., Learning Three-Dimensional Flow for Interactive Aerodynamic Design, ACM Transactions on Graphics, vol. 37, Issue 4, No. 89 (2018)

(19)戦略的イノベーション創造プログラム「HINOCA(火神)」とは,https://www.jst.go.jp/sip/event/k01_hinoca/index.html [最終アクセス日 2019年5月20日]

目次に戻る


3.4 大規模解析

 大規模解析が指す規模がどの程度かという明確な定義は存在せず,使用可能な計算機能力に伴い,その規模は増大している.スーパーコンピュータの計算能力を示すFlops(Floating-point operations/sec)値の変遷は,TOP500(1)が発表するリストによると,1998年11月の1,338[GFlops],2008年11月の1,105[TFlops],2018年11月の143[PFlops]と,10年で100から1,000倍,20年で100万倍の速さで高速化が行われてきた.最速スーパーコンピュータは,2011年が日本の「京」,2012年が米国のSequoia(6月),Titan(11月)の後,2013年から2017年までは中国勢が続いていたが,2018年6月に5年ぶりに米国のSummitとなった.また2014年6月より,計算速度の指標にHigh Performance Linpack(HPL)ベンチマークを採用しているTOP500に加え,High Performance Conjugate Gradients(HPCG)ベンチマークを採用したランキング(2)も公開されている.HPLベンチマークは,密行列に対して線形方程式を解く計算を実行し,計算機の最大実行性能を示すことを目指している.一方多くのアプリケーションでは,疎行列に特化したデータ構造と計算アルゴリズムを扱うことが多いため,新たな指標としてHPCGが考案された.2017年11月にはTOP500で10位であった「京」がHPCGで1位となっていたが,2018年11月ではTOP500,HPCG共に米国Summitが1位,米国Sierraが2位となり,実用性の伴ったスーパーコンピュータが開発されていることがわかる.なお,SummitはHPLが143,500[TFlops],HPCGが2,926[TFlops]であり,HPCG性能はHPL性能の2%程度となっている.また,エネルギー効率についてのランキングGreen500(3)を見ると,2018年11月では,Summitは14.668[GFlops/watts]で3位,Sierraが12.723[GFlops/watts]で6位と,これらはエネルギー効率も重視し開発されているのがわかる.なおGreen500の1, 4, 5, 7位は日本勢であった.

 このようなスーパーコンピュータを利用した大規模解析の変遷は,オープンソースCAEソフトウェアであるADVENTUREシステム(4)による非構造格子メッシュを用いた構造線形問題の解析事例が1998年に1千万自由度(5),2014年に1千億自由度(6)と16年で1万倍巨大化され,また2015年に東京大学地震研究所のメンバーを中心としたチームにより構造非線形問題の1兆自由度(7)が達成されている.しかし,同チームの2018年の報告(8)では数百億自由度規模の問題を扱っており,構造解析分野でのペタフロップス級のスーパーコンピュータでは1兆自由度程度がひとまずの区切りとも言える.一方流体解析分野では,構造格子を用いた乱流問題の直接数値シミュレーションにおいて8,192格子点の3乗,約5千億格子点の報告(9)があり,こちらは計算機能力の向上に伴う計算規模の増大が今後も期待されていると言える.

 毎年米国で開催されるスーパーコンピュータの国際会議SCでは,国際学会ACMから高性能計算分野での顕著な業績に対しThe Gordon Bell Prizeが与えられるが,2018年は,Sustained Performance Prizeカテゴリーとして,鎮痛剤の依存症に関する遺伝子や治療法を識別するための膨大な量の遺伝データ処理に成功した,米国ORNLチームによる論文(10)と,Scalability and Time to Solutionカテゴリーとして,高解像度の気候シミュレーションから極端な気象パターンの識別に成功した,米国LBNLチームによる論文(11)が表彰された.どちらもGPUに搭載された,AIの主流手法となっている深層学習の高速演算のために,大規模な行列演算を加速させる演算器,Tensorコア(12)を活用している.また,前述の東大地震研チームも同様に,大規模シミュレーションとAIを組み合わせ,GPUを活用した次世代超高分解能都市地震シミュレータを開発し(8),2018年に同賞のFinalistにノミネートされた.このように大規模解析分野にもAI手法の導入が多く見られ,ビッグデータ分野と同様に,効率的シミュレーションの実現には,AIの補助が有効である傾向が窺え,GPUと深層学習のトレンドはしばらく続く模様である.

 日本機械学会第31回計算力学講演会(13)において,特に大規模解析に着目した「大規模並列・連成解析と関連話題」のOSに産業界からも含めて12件の講演発表があり,他のOSにも大規模並列解析,大規模可視化関連の発表はあり,活発な討論が行われた.また,本学会以外の講演会でも,国際会議ICCM2018(14)ではOS「Large Scale Coupled Problems and Related Topics」において7件,国際会議WCCM2018(15)ではOS「Highly Scalable Solvers for Computational PDEs」において5件,日本計算工学会の第23回計算工学講演会(16)ではOS「先進並列シミュレーション」において16件の講演発表があり,大規模並列計算に関するものから,様々な分野での先進並列手法に関する話題が提供され,活発な情報交換が行われた.

 2021年には京コンピュータの次の世代となる,「富岳」コンピュータの運用開始が予定されており,ポストペタ規模の計算環境に向けたシステム,アプリケーションの開発プロジェクト(17)(18)が遂行されてきており,さらなる大規模解析の準備が進められている.

〔塩谷 隆二 東洋大学〕

参考文献

(1)TOP500リスト http://www.top500.org/lists/(参照日2019年3月25日)

(2)HPCGリスト https://www.top500.org/hpcg/(参照日2019年3月25日)

(3)Green500リスト https://www.top500.org/green500/lists/(参照日2019年3月25日)

(4)ADVENTUREシステム https://adventure.sys.t.u-tokyo.ac.jp/(参照日2019年3月25日)

(5)Ryuji SHIOYA, Genki YAGAWA, Parallel Finite Elements of Ten-Million DOFs Based on Domain Decomposition Method, Computational Mechanics -New Trends and Applications- (WCCM IV), Part VII, Section 5, 11 (1998), pp.1-12.

(6)Masao Ogino, Ryuji Shioya, Scalable non-overlapping domain decomposition method for finite element simulations with 100 billion degrees of freedom model, 1st International Conference on Computational Engineering and Science for Safety and Environmental Problems (COMPSAFE2014) (2014), pp.96-99.

(7)T. Ichimura et al., Implicit Nonlinear Wave Simulation with 1.08T DOF and 0.270T Unstructured Finite Elements to Enhance Comprehensive Earthquake Simulation, Proceedings of the International Conference on High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis (SC’15), IEEE Press (2015), pp.1-12.

(8)Tsuyoshi Ichimura et al., A fast scalable implicit solver for nonlinear time-evolution earthquake city problem on low-ordered unstructured finite elements with artificial intelligence and transprecision computing, Proceedings of the International Conference on High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis (SC’18), IEEE Press (2018), Article No.49.

(9)M.P.Clay, D.Buaria, P.K.Yeung, T.Gotoh, GPU acceleration of a petascale application for turbulent mixing at high Schmidt number using OpenMP 4.5, Computer Physics Communications, Vol. 228 (2018), pp.100-114.

(10)Wayne Joubert et al., Attacking the Opioid Epidemic: Determining the Epistatic and Pleiotropic Genetic Architectures for Chronic Pain and Opioid Addiction, Proceedings of the International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage, and Analysis (SC’18), IEEE Press (2018), Article No.57.

(11)Thorsten Kurth et al., Exascale Deep Learning for Climate Analytics, Proceedings of the International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage, and Analysis (SC’18), IEEE Press (2018), Article No.51.

(12)Tensor Core https://www.nvidia.com/ja-jp/data-center/tensorcore/(参照日2019年3月25日)

(13)日本機械学会第31回計算力学講演会 https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf18/(参照日2019年3月25日)

(14)The 9th International Conference on Computational Methods (ICCM2018) http://www.sci-en-tech.com/ICCM/index.php/ICCM2018/(参照日2019年3月25日)

(15)The 13th World Congress in Computational Mechanics (WCCM2018) http://www.wccm2018.org/(参照日2019年3月25日)

(16)第23回計算工学講演会 https://www.jsces.org/koenkai/23/(参照日2019年3月25日)

(17)ポスト「京」プロジェクト https://www.r-ccs.riken.jp/jp/post-k/project.html(参照日2019年3月25日)

(18)Mitsuhisa Sato et al., Advanced Software Technologies for Post-Peta Scale Computing: The Japanese Post-Peta CREST Research Project, Springer (2019) ISBN-10:9811319235.

目次に戻る


3.5 ソフトマテリアル

 ソフトマテリアルとは,金属やセラミックスに代表されるハードマテリアルの対極に位置付けられる柔らかい材料の総称になります.ソフトマターと呼ばれることもあり(1),この言葉の登場は比較的新しく,有名なところでは,1991年のノーベル賞受賞講演のタイトルとしてGennesによって用いられています.ハードマテリアルの研究が重要であることはいうまでもありませんが,ソフトマテリアルは物質的には高分子や液晶,コロイドなどを総称する言葉になりますので,グッドイヤーのゴムの加硫法の発明に代表されるように,昔から人類にとって重要な研究対象でした.今日においては,ソフトマテリアルという言葉は「ゼリーは身近なソフトマターである」とか「生体の大部分はソフトマテリアルである」とか,非常に柔らかく,身近にありふれていて,しかも,なくてはならないものを指し示すとき,魅力が最大になる言葉といえるかもしれません.例えば,高分子ゲルは生体代替材料やアクティブマテリアルとしての利用が期待されており,高分子合成やマテリアルの分野において材料開発が盛んに進められています.この節では,このような材料開発としてのソフトマテリアルではなく,固体力学や計算力学と関係付けられたソフトマテリアルに着目し,最近の研究のひとつの方向性について述べます.

 ソフトマテリアルは必然的に大変形にさらされる機会が多く,固体力学における解の唯一性が成立しない領域での利用が一般になります.圧縮変形下では分岐座屈の結果として多様な変形モードが出現することになり,ソフトマテリアルの表面にはリンクル(wrinkle)やクリース(crease)と呼ばれる「しわ」が現れます.このような表面不安定現象は,当初,ゲルの体積相変態で観察される現象としてMITの田中らによって注目され(2),今日ではソフトマテリアルの表面特性を整調するための変形機構としての応用が期待されています(3).しわの形態,すなわちパターン変態は,過応力(overstress)状態に依存し,段階的に進行するため(4),状態図作成の研究が行われています.板の大たわみ理論(von Karman plate equations)を駆使した解析にも発展しており(5),剛体基盤上の軟質膜と軟質基盤上の硬質膜という組み合わせが典型的な解析モデルになります(6).膜や軟質基盤は超弾性体と見なされることが多く,膜がゲル材料で構成され,溶媒の吸収(膨潤)によって圧縮応力が生じる場合には,Frenkel-Flory-Rehner仮説に従って弾性ひずみエネルギーと混合エネルギーの和として自由エネルギー関数を考えることになります(7).膨潤現象はゲル表面から内部への溶媒の物質移動であるため,時間発展を考慮するためには,拡散方程式によって拡張された解析フレームワークが必要になります(8)

 クリースの発生は剛体基盤上の軟質膜表面で観察されます(9).Biotによる先駆け的な理論解析(10)とハーバード大学グループの研究成果として,クリースの形成はリンクルの発生とその不安定性に起因する崩壊現象として理解できることがわかっています(11).この挙動は軸力を受ける円筒シェルの座屈崩壊挙動とアナロジーがあるといわれており,計算力学分野における挑戦的な解析対象であるといえます.軟質基盤上の硬質膜には,パターン変態の初期段階でディンプルパターンと呼ばれるくぼみの周期的な配列が観察され,六方配列的になることが観察されています(4).理論解析では,必ずしも六方ディンプルが優勢ではなく,そのほかの多様な周期配列パターンが同レベルに生じ得ると評価されます.ひとつの合理的な解釈として,層状構造が自由表面側に凸にたわんでいることを想定すると実験と対応する結果が得られます(12).過応力状態が十分に大きくなると,ディンプルパターンよりもヘリンボーンやラビリンスパターンと呼ばれる尾根を有する山谷型のパターンが優先的となり,解析と実験は定性的には比較できる状況になりつつあります.

 このようなしわの研究は,生体の複雑な器官の自己組織化の多くが固体力学問題になり得る可能性を示唆しており注目されています.1975年に遡ることになりますが,大脳のしわは中心部分の白質と表層部分の皮質の成長差に起因する分岐座屈現象であるとして,物理モデルが提案されています(13).現在では,三次元プリンタを利用して高分子製の大脳モデルが作成され,成長を膨潤に置き換えての再現実験が行われるようになり,大脳のしわ形成に固体力学が少なく見積もっても顕著に影響を及ぼしていることが明らかになっています(14).大脳の形成には,白質と皮質の剛性が同程度であることが重要であるともいわれており(15),基盤と膜という単純な構造ながら,生物が進化の歴史の過程で獲得した絶妙な組み合わせのようであり,固体力学問題として研究を進め,理解の深化や機構の解明,再現,そこから派生する応用分野の展開が大きく期待されています.この達成のためには,解析フレームワーク構築や材料モデル開発といったソフトマテリアルの固体力学研究や自己接触を伴うような大変形下での階層的な分岐座屈現象の大規模シミュレーションといった計算力学研究がチャレンジ要素になります.

〔奥村 大 名古屋大学〕

参考文献

(1)Soft Matter, Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Soft_matter (参照日2019年3月13日).

(2)Tanaka, T., Sun, S.T., Hirokawa, Y., Katamaya, S., Kucera, J., Hirose, Y., Amiya, T., Mechanical instability of gels at phase transformation, Nature, Vol.325 (1987), pp.796–798.

(3)Yang, S., Khare, K., Lin, P.C., Harnessing surface wrinkle patterns in soft matter, Advanced Functional Materials, Vol.20, No.16 (2010), pp.2550–2564.

(4)Breid, D., Crosby, A.J., Effect of stress state on wrinkle morphology, Soft Matter, Vol.7 (2011), pp.4490–4496.

(5)Chen, X., Hutchinson, J.W., Herringbone buckling patterns of compressed thin films on compliant substrates, Journal of Applied Mechanics, Vol.71, No.5 (2004), pp.597–603.

(6)Huang, Z.Y., Hong, W., Suo, Z., Nonlinear analyses of wrinkles in a film bonded to a compliant substrate, Journal of the Mechanics and Physics of Solids, Vol.53, No.9 (2005), pp.2101–2118.

(7)Treloar, The Physics of Rubber Elasticity (3rd edition) (1975).

(8)Hong, W., Zhao, X., Zhou, J., Suo, Z., A theory of coupled diffusion and large deformation in polymeric gels, Journal of the Mechanics and Physics of Solids, Vol.56, No.5 (2008), pp.1779–1793.

(9)Trujillo, V., Kim, J., Hayward, R.C., Creasing instability of surface-attached hydrogels, Soft Matter, Vol.4 (2008), pp.564–569.

(10)Biot, M.A., Mechanics of Incremental Deformation (1965).

(11)Cao, Y., Hutchinson, J.W., From wrinkles to creases in elastomers: the instability and imperfection-sensitivity of wrinkling, Proceedings of the Royal Society A, Vol.468, No.2137 (2012), pp.94–115.

(12)Cai, S., Breid, D., Crosby, A.J., Suo, Z., Hutchinson, J.W., Periodic patterns and energy states of buckled films on compliant substrates, Journal of the Mechanics and Physics of Solids, Vol.59, No.5 (2011), pp.1094–1114.

(13)Richman, D.P., Stewart, R.M., Hutchinson, J.W., Caviness, V.S., Jr., Mechanical model of brain convolutional development, Science, Vol.189 (1975), pp.18–21.

(14)Tallinen, T., Chung, J.Y., Rousseau, F., Girard, N., Lefèvre, J., Mahadevan, L., On the growth and form of cortical convolutions, Nature Physics, Vol.12 (2016), pp.588–593.

(15)Tallinen, T., Chung, J.Y., Biggins, J.S., Mahadevan, L., Gyrification from constrained cortical expansion, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.111, No.35 (2014), pp.12667–12672.

目次に戻る


3.6 ペリダイナミクスと破壊

 ペリダイナミクス(Peridynamics)は,2007年のSillingら(1)による論文を出発点として,固体の破壊現象を分析することを主目的とした,新しい数値解析手法である.

 従来の連続体力学では,注目する部分は直接に隣接する部分からのみ影響を受けるが,ペリダイナミクスでは「Peri:周囲」の意味より,指定する周囲に含まれる全粒子からの影響を考慮する.また連続体力学では空間微分による歪を元に支配方程式が構成され,この場合には破断や飛散などの不連続部分で歪が定義できない.対してペリダイナミクスでは周囲全体からの影響を積分方程式として記述するため,不連続部分においても統一的な状態記述が可能となる.これより従来は再現が困難であった複雑な破断や破片の飛散などの破壊現象を,ペリダイナミクスは再現することが可能である.

 支配方程式としての積分形式では,空間離散化のため計算点を粒子としてモデル化する.なおMPSやSPHなどの粒子法や個別要素法も粒子により計算対象をモデル化するが,粒子法は偏微分支配方程式の計算点を粒子と想定し,個別要素法では対象物の実体を粒子としてモデル化する.対してペリダイナミクスは粒子モデルを用いるが積分方程式の計算点としており,これらの手法とは異なる計算スキームである.計算点となる粒子の接続を予め固定する要素や格子などの連続体モデルによる手法とは異なり,破壊現象を分析することを主目的とした粒子モデルによる解析手法である.近年は手法の改良により瞬間的な現象だけでなく疑似静的解析なども可能となり,ミクロな材料特性評価やマクロな構造挙動分析など,機械構造・建築構造・材料特性など今後の幅広い応用が期待されている.

 ペリダイナミクスでは数値解析を可能にするために,空間的および時間的な離散化が必要である.空間的には材料特性を分析する場合の1mm以下の微小な粒子から,構造物を構成する要素として100mm以上の有限の大きさを持つ粒子までに対応しており,ミクロからマクロまでの破壊現象を解析可能である.ただし挙動を再現するために必要十分に微小な粒子を用いて,対象構造物全体をモデル化する必要があり,膨大な粒子数を処理する必要がある.一方で時間的な離散化においては,陽解法的な計算手法において衝突などの外部からの作用は,粒子間を伝播するためにクーラン条件の制限を受け,標準的な構造物の破壊解析では,10-6秒程度の非常に短い時間刻みで計算を行う必要がある.よって衝突や衝撃のような著しく短い時間での挙動分析は可能であるが,準静的な長い時間の場合には著しく計算時間を必要とする.

 米国を中心に欧州や中国などで活発な研究開発が展開しているが,日本でも分子動力学的な材料特性の分析や飛来物の衝突による破壊性状の再現などから研究開発が展開している.その中心は日本機械学会の計算力学部門であり,2016年に関連発表3件を出発点として,2017年に初めてのOSが企画され8件の発表があり2018年も継続し11件となり,学術的な関心の高まりに加えて産業界での実践的な活用を目指した研究も含めて,様々な破壊現象の解明を目的として研究開発が展開している.特に東日本大震災以降において建設や機械の研究領域で構造物の終局状態を評価する必要性が高まり,実験的手法では解明が難しい条件を対象に,数値解析的手法による破壊現象の分析に関する研究が今後も増加するものと予想している.

 まず日本での現在の研究活動を概観するために,CMD2018(2)の研究内容を紹介する.解析手法に関する研究としては,解析精度の検証として準静的構造解析を連続体モデルと比較検討した研究,応力多軸性を考慮した損傷パラメータの検討,非一定影響半径が解析精度に及ぼす影響に関する検討,直交異方性弾塑性構成則の適用や非構造粒子配列による破壊現象分析などがある.また実践応用に関する研究としては,ガラスの破壊現象を分析するためのDCDC法やインデンテーションの検討,さらにガラスの強変形における弾塑性破壊解析,原子炉圧力容器鋼に関するき裂進展解析,汎用CAEツールを用いたペリダイナミクス解析などが報告されている.このように構造材料に関する脆性破壊現象を統一的に分析する手法として多面的な研究が展開している.

 ペリダイナミクス研究の中心地である米国・ニューヨークで開催の計算力学会WCCM2018の発表内容から,最新のペリダイナミクス研究の状況が分かるであろう.ペリダイナミクスが中心のシンポジウムは,ペリダイナミクスとその応用,複合材等のマルチスケール計算,FEM等の局所理論とのカップリングがあった.脆性破壊問題での精度検証も行われていたが,塑性材料の破壊現象,複合材やミクロからマクロまで階層構造を考慮した複雑材料の破壊モデル開発等の応用に,コミュニティーの関心が移っている.加えて,ペリダイナミクスの計算コストの低減を目指した,局所理論とのカップリングの理論(3)の構築が注目されている.米国ではシェールガス掘削のための岩石の水圧破砕計算(4)や,中国では建築材料であるコンクリートの破壊計算(5)等,各国特有の破壊問題にアプローチしていた.

 大きな可能性を秘めるペリダイナミクスを活用し,破壊解析を試みるための情報を提供する.計算スキーム自体は比較的単純なため,独自開発プログラムによる研究も展開しているが,オープンソースで公開される解析ツールの活用が可能である.まず分子動力学ツールのLAMMPS(6)に実装されたモジュールPDLAMMPSを用いることで,簡単な構築作業で基本的なペリダイナミクス破壊解析を実行可能である.次に実践的な研究開発に取り組む場合には,ペリダイナミクスの提唱者が基本実装として公開しているPeridigm(7)が利用可能である.環境構築において数値処理ライブラリTrilinosを基盤とした複雑な作業が必要となるが,様々な材料モデルを実装しておりMPI並列処理により大規模解析にも対応している.ペリダイナミクス破壊解析の実践的活用に向けての今後の課題としては,GPUを活用した数億粒子の超大規模解析の実現,連続体力学と対応した粒子モデルの材料特性の設定,有限要素法など連続体モデルとの連成解析への展開,などがある.

〔柴田 良一 岐阜高専〕

参考文献

(1)S. A. Silling, M. Epton, O. Weckner, J. Xu and E. Askari, “Peridynamic States and Constitutive Modeling,” Journal of Elasticity, Vol. 88 (2007) 151-184. DOI: 10.1007/s10659-007-9125-1

(2)日本機械学会 第31回計算力学講演会(CMD2018)https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf18/ (参照日2019年4月1日)

(3)P. Seleson, S. Beneddine, and S. Prudhomme, “A force-based coupling scheme for peridynamics and classical elasticity” Computational Materials Science, Vol. 66, (2013) PP 34-49.

(4)H. Ouchi, A. Katiyar, J. York J.T., FosterMukul, M. Sharma,“A fully coupled porous flow and geomechanics model for fluid driven cracks: a peridynamics approach” Computational Mechanics, Vol 55,(2015) PP 561-576.

(5)X. Gu, Q. Zhang, D. Huang, and Y. Yv,“Wave dispersion analysis and simulation method for concrete SHPB test in peridynamics”Engineering Fracture Mechanics, Vol 160, (2016) PP 124-137

(6)分子動力学解析ツールLAMMPS, https://lammps.sandia.gov/ (参照日2019年4月1日)

(7)粒子モデル破壊解析ツールPeridigm, https://peridigm.sandia.gov/ (参照日2019年4月1日)

目次に戻る


3.7 計算バイオメカニクス

 生体現象を力学的な枠組みで捉える学問分野がバイオメカニクスである.その用語が示すよう,力学を中心とした物理学の基盤体系を生物学上の問題に適用することで現象の物理的本質を明らかにすることが目的であり,対象とするスケールは分子から細胞・組織・臓器さらには全身まで幅広い.生命の恒常性維持には,各スケールでの現象が双方向に連成することが必要不可欠であり,その感知・伝達・調整手段として力学を重要要因とする立場をとるのが,バイオメカニクスの特徴である.よって,扱う現象は本質的に,自由度が高く,マルチスケール性あるいはマルチフィジックス性を有する複合問題となるため,計算力学によるアプローチ,すなわち計算バイオメカニクスが有用となる.計算バイオメカニクスにおいて,最先端の計算力学技術によるパラダイムシフトはもちろんであるが,これに加え,複雑な生体現象をどのようにモデリングし数値解析に繋げるかが当分野独自の視点として重要となる.本稿では,2018年内の同分野の動向を計算力学的なアプローチの新しさに焦点を絞り紹介する.

 血液循環(血流)は生体内で起きる代表的な流体現象であるが,これに加え,血管壁や弁など弾性体との力学連成現象でもある.そのため,先端の流体解析手法あるいは流体構造連成解析手法を用いた応用例として扱われることが多い.Isogeometric解析(IGA)に関連する研究として,Space-Time法と組み合わせた血流解析における格子依存性の検証(1),IGAによる弾性弁の変形記述と血流との力学連成解析(2)などがある.また,メッシュ生成が不必要なボクセル型流体解析手法も用いられることが多く,Lattice-Boltzmann法による患者個別脳血流解析(3),Boundary Data Immersion法による脳動脈瘤のコイル塞栓治療評価に向けた血流解析(4)などが行われている.微小循環においては,流体の運動に加え,固体成分である血球との力学連成問題を解く必要がある.複雑な流路構造を持つ毛細血管床において,各血管への赤血球の分配挙動が局所的な流動抵抗および系全体の流動形態を変化させると考えられるが,Immersed Boundary法(IB法)による大規模数値解析によりその詳細が明らかにされつつある(5).このような解析においては,赤血球の変形挙動を精度良く捕捉することが重要となり,前述したIGAを赤血球の変形挙動に適用する研究例も報告されている(6).また,大規模数値計算を念頭に,IB法と異なるアプローチである完全Euler型手法により血球流動および血小板接着を扱うといった試みもなされている(7).心臓は血液循環において最も重要な機関であり,力学のみならず生理学的な現象と連携しその機能を発揮する.心臓シミュレーションに関して,大規模並列計算に向けた電気・力学・生化学連成に基づく心臓モデル(8),分子モータの運動寄与をLangevin動力学で表現し連続体と融合した心臓モデル(9)が提案されている.血液循環以外に目を向けると,圧縮性流体解析による歯茎摩擦音/s/の音源生成メカニズムの解明(10)散逸粒子動力学(Dissipative Particle Dynamics)法によるフィブリン線維束の生成機序の解明(11),力学的観点に基づく細胞群の運動モデリング(12)(13)と実現象と照らし合わせた自己組織化の解明(14),細胞挙動と連成した組織力学モデリング(15)(16)などが進められている.また,細胞レベルの応答メカニズムを考慮した骨適応の巨視的数理モデルの確立(17)も行われている.

 実際の解析においては,初期条件,境界条件,系の駆動条件,あるいは物性値を含むモデルパラメータなど個体条件をどのように解析に反映するか大きな課題である.これに対し,データ同化により計測データを数値シミュレーションに取り入れ,より実際の生理学条件に即した解析を行おうという試みがなされている.血流解析では,変分法に基づくデータ同化により,個人別に計測された瞬時の血流速度データを数値流体力学モデルに取り込むアプローチが提案されており(18),時系列データを用いた非定常血流解析への展開も行われている(19).これらの方法では,データ同化の概念に基づく制約条件付きの最小化問題を設定し解析系入口の速度分布を逆推定することで,物理的整合性を崩さないよう計測データを計算力学解析に反映させる.また,異なるアプローチとして,フィードバック制御を用いたデータ同化手法も提案されている(20).他に,細胞牽引力顕微鏡と呼ばれる方法では,細胞接着・非接着時の弾性ゲル内のビーズを計測し評価した変位場と弾性ゲルの力学モデルを同化させることにより,細胞接着時の牽引力が逆推定される.その基本概念はそのままに,ホログラフィ計測によりビーズ変位の評価精度を上げ牽引力の推定精度を向上させる試みがなされている(21).生体内の組織・臓器は常に力学的負荷にさらされており,変形解析において,無負荷状態の推定は重要な課題である.逐次修正による大動脈血管壁の無負荷状態の推定(22),機械学習による胸部大動脈のゼロ圧力形状の推定(23)変分法に基づく形状最適化による角膜の無負荷形状の推定(24)など,直接的に計測データを利用するのではなく,医学的・生理学的なエビデンスに基づいた無負荷状態の推定が行われている.また,力学指標の最適化による筋骨格力学モデルの構築(25)(26)も試みられている.このような計測データあるいは生理学的なエビデンスを積極的に解析に取り入れるアプローチは,自由度が高い生体現象の数値モデリングに必要不可欠であり,今後ますます発展していくと予想される.

 最後に,国内外の当分野の活動状況に言及しておく.国内学術会議においては,日本機械学会2018年度年次大会「計算力学計算力学とバイオエンジニアリング(計算力学計算力学部門とバイオエンジニアリング部門の連携セッション)」(27),日本機械学会第31回計算力学計算力学講演会「計算バイオメカニクス」(28),日本流体力学会年会2018「生体の流れ」(29)など,複数の計算バイオメカニクスに関するオーガナイズドセッションが開催された.国際学術会議では,バイオメカニクスの主要会議の一つである(8th)World Congress of Biomechanics(30)において,数値シミュレーションが関連する数多くのポスター発表・口頭発表が見受けられた.また,計算力学計算力学分野の主要会議の一つである(13th)World Congress in Computational Mechanics (31)では,トラック「Biomechanics and Mechanobiology」において29ものミニシンポジウムが開催された.国内の大型研究プロジェクトとして,文部科学省が推進する「フラッグシップ2020プロジェクト」(32)において,重点課題2「個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学」(33)が推進されており,超大規模並列計算を利用した研究が進められている.

〔伊井 仁志 首都大学東京〕

参考文献

(1)Takizawa K., Tezduyar T. E., Uchikawa H., Terahara T., Sasaki T., Yoshida A., Mesh refinement influence and cardiac-cycle flow periodicity in aorta flow analysis with isogeometric discretization, Computers & Fluids, (2018), DOI: 10.1016/j.compfluid.2018.05.025

(2)Xu F., Morganti S., Zakerzadeh R., Kamensky D., Auricchio F., Reali A., Hughes T.J.R., Sacks M.S., Hsu M.C., A framework for designing patient-specific bioprosthetic heart valves using immersogeometric fluid-structure interaction analysis, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 4 (2018), e2938.

(3)Groen D., Richardson R.A., Coy R., Schiller U.D., Chandrashekar H., Robertson F., Coveney P.V., Validation of patient-specific cerebral blood flow simulation using transcranial doppler measurements, Frontiers in Physiology, Vol. 9, (2018), 721.

(4)Otani T., Shindo T., Ii S., Hirata M., Wada S., Effect of local coil density on blood flow stagnation in densely coiled cerebral aneurysms: a computational study using a cartesian grid method, Journal of Biomechanical Engineering, Vol. 140, (2018), 041013.

(5)Balogh P., Bagchi P., Analysis of red blood cell partitioning at bifurcations in simulated microvascular networks, Physics of Fluids, Vol. 30, (2018), 051902.

(6)Nodargi N.A., Kiendl J., Bisegna P., Caselli F., De Lorenzis L., An isogeometric analysis formulation for red blood cell electro-deformation modeling, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, Vol. 338, (2018), pp. 392-411.

(7)Ii S., Shimizu K., Sugiyama K., Takagi S., Continuum and stochastic approach for cell adhesion process based on Eulerian fluid-capsule coupling with Lagrangian markers, Journal of Computational Physics, Vol. 374, (2018), pp. 769-786.

(8)Santiago A., Aguado-Sierra J., Zavala-Aké M., Doste-Beltran R., Gómez S., Arís R., Cajas J.C., Casoni E., Vázquez M., Fully coupled fluid-electro-mechanical model of the human heart for supercomputers, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 12 (2018), e3140.

(9)Washio T., Sugiura S., Kanada R., Okada J., Hisada T., Coupling Langevin dynamics with continuum mechanics: exposing the role of sarcomere stretch activation mechanisms to cardiac function, Frontiers in Physiology, Vol. 9 (2018), 333.

(10)Yoshinaga T., Nozaki K., Wada S., Experimental and numerical investigation of the sound generation mechanisms of sibilant fricatives using a simplified vocal tract model, Physics of Fluids, Vol. 30, Issue 3 (2018), 035104.

(11)Yesudasan S., Wang X., Averett R.D., Fibrin polymerization simulation using a reactive dissipative particle dynamics method, Biomechanics and Modeling in Mechanobiology, Vol. 17, Issue 5 (2018) pp. 1389-1403.

(12)Okuda S., Miura T., Inoue Y., Adachi T., Eiraku M., Combining Turing and 3D vertex models reproduces autonomous multicellular morphogenesis with undulation, tubulation, and branching, Scientific Reports, Vol. 8, (2018), 2386.

(13)Mosaffa P., Rodríguez-Ferran A., Muñoz J.J., Hybrid cell-centred/vertex model for multicellular systems with equilibrium-preserving remodeling, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Isssue 3 (2018), e2928.

(14)Okuda S., Takata N., Hasegawa Y., Kawada M., Inoue Y., Adachi T., Sasai Y., Eiraku M., Strain-triggered mechanical feedback in self-organizing optic-cup morphogenesis, Science Advances, Vol. 4, No 11 (2018), eaau1354.

(15)Rauch A.D., Vuong A.T., Yoshihara L., Wall W.A., A coupled approach for fluid saturated poroelastic media and immersed solids for modeling cell-tissue interactions, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Isssue 11 (2018), e3139.

(16)Klinge S., Aygün S., Gilbert R.P., Holzapfel G.A., Multiscale FEM simulations of cross-linked actin network embedded in cytosol with the focus on the filament orientation, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 7 (2018), e2993.

(17)Kameo Y., Tsubota K., Adachi T., Bone adaptation, in silico approach, Frontiers of Biomechanics, Vol. 2, (2018), Springer Japan.

(18)Guerra T., Catarino C., Mestre T., Santos S., Tiago T., Sequeira A., A data assimilation approach for non-Newtonian blood flow simulations in 3D geometries, Applied Mathematics and Computation, Vol. 32, (2018), pp. 176-194.

(19)Funke S.W., Nordaas M., Evju Ø., Alnæs M.S., Mardal K.A., Variational data assimilation for transient blood flow simulations: Cerebral aneurysms as an illustrative example, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 35, Issue 1 (2019), e3152.

(20)Ii S., Adib M.A.H.M., Watanabe Y., Wada S., Physically consistent data assimilation method based on feedback control for patient‐specific blood flow analysis, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 1 (2018), e2910.

(21)Makarchuk S., Beyer N., Gaiddon C., Grange W., Hébraud P., Holographic Traction Force Microscopy, Scientific Reports, Vol. 8, (2018), 3038.

(22)Sasaki T., Takizawa K., Tezduyar T. E., Aorta zero-stress state modeling with T-spline discretization, Computational Mechanics, (2018), DOI: 10.1007/s00466-018-1651-0.

(23)Liang L., Liu M., Martin C., Sun W., A machine learning approach as a surrogate of finite element analysis-based inverse method to estimate the zero-pressure geometry of human thoracic aorta, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 8 (2018), e3103

(24)Otani T., Tanaka M., Unloaded shape identification of human cornea by variational shape optimization, Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering, Vol. 21, Issue 5 (2018), pp. 795-802

(25)Valentin J., Sprenger M., Pflüger D., Röhrle O., Gradient-based optimization with B-splines on sparse grids for solving forward-dynamics simulations of three-dimensional, continuum-mechanical musculoskeletal system models, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 5 (2018), e2965

(26)Chen Q., Zhang X., Zhu B., Topology optimization of fusiform muscles with a maximum contraction, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 8 (2018), e3096

(27)日本機械学会2018年度年次大会, https://www.jsme.or.jp/conference/nenji2018/index.html (参照日2019年4月1日)

(28)日本機械学会第31回計算力学講演会, https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf18/index.html (参照日2019年4月1日)

(29)日本流体力学会年会2018, http://www2.nagare.or.jp/nenkai2018/ (参照日2019年4月1日)

(30)8th World Congress of Biomechanics, http://wcb2018.com/ (参照日2019年4月1日)

(31)13th World Congress in Computational Mechanics, http://www.wccm2018.org/ (参照日2019年4月1日)

(32)ポスト「京」開発事業(フラッグシップ2020プロジェクト: FLAGSHIP2020 Project), https://www.r-ccs.riken.jp/fs2020p/ (参照日2019年4月1日)

(33)ポスト「京」重点課題2「個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学」, http://postk.hgc.jp/ (参照日2019年4月1日)

目次に戻る


3.8 逆問題とデータ同化

3.8.1 はじめに

 逆問題は,通常の順問題以外に,方法論を必要とすることから敬遠されがちな研究領域であると思われる.しかしながら,得られた測定値から物理定数を同定することができることや,状態量の分布を高精度に推定ができる等,逆問題を解くことでわかることも多いと著者は感じている.このようなことも受け,本項では,フィルタ理論を用いたデータ同化解析に焦点を宛て,著者の経験や近年までの研究の変遷について紹介を行う.

3.8.2 フィルタ理論に基づくデータ同化

 実測値を考慮し,実測値におけるノイズを適切に取り除きながら状態量の推定を行うことをデータ同化解析と呼び,カルマンフィルタの理論(1)(2)をもとに現在においても,機械工学,社会基盤工学,気象学や経済学の分野においても幅広く適用され,各種問題について研究が行われている.カルマンフィルタは線形のシステム方程式の場合を対象としており,非線形のシステム方程式を用いる場合は,状態変数に対する確率密度関数が特別な場合を除いて非ガウス分布となることから,カルマンフィルタを改良した様々なフィルタ理論が開発されている(3)(4).非線形モデルを線形化したシステム方程式を用いる拡張カルマンフィルタ(5)は,非線形モデルも対象にできるが,非線形性の大きな問題に対しては状態推定が困難となる欠点も有する.このような背景も受け,多数のサンプル点を用意し,近似的に最適推定値を求める方向へ転換が行われた.考え方としては,非線形関数に対して得られるサンプル点の分布を線形の関数により推定する式を誘導するものであり,σ点と呼ばれる確定的なサンプル点を用いるUnscentedカルマンフィルタ(6)や,ランダムなサンプル点を用いるアンサンブルカルマンフィルタ(以後,EnKF)(7)(8)等が非線形システム方程式を用いたカルマンフィルタとして知られている.これらカルマンフィルタでは,実測値やカルマンゲインにより解析値を修正することで最適推定値が求められるが,サンプルに対するリサンプリングを行うことでカルマンゲインを用いずに最適推定値の計算を行う粒子フィルタ(例えば,文献(9))も近年,良く用いられている.その他にも,上記の方法を基盤とした方法論(例えば,局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(10)やUnscented変換を用いたEnKF(11)等)の提案も多数行われている.

 一方,上記のフィルタ理論において用いられるシステム方程式は,現象を表す微分方程式離散化した式により与えられるものであり,同一の微分方程式を対象とした場合においても,適用する離散化手法によっては,システム方程式の形が異なることもある.また,空間方向における離散化手法の一つである有限要素法においても,重み関数の設定の仕方について改良を加えた有限要素法における風上化スキーム,状態変数に対する方程式を分離する分離型解法,補間関数の設定を変える混合補間法の使用等,システム方程式の形は離散化における条件の設定等によっても異なった形式となる(12).上記の状態推定理論と有限要素法(FEM)を合わせた研究も行われており,カルマンフィルタ有限要素法(13)(14)(以後,KF-FEM)に対する研究が行われている.海流の推定法ではカルマンフィルタと有限差分法(FDM)を合わせた方法による検討がHeeminkにより実施されており(15),KF-FEMを使用した海流推定解析は川原らの研究グループにおいても多数の研究報告例がある(16)-(18)

 近年,著者らも,浅水流(線形モデル)の解析において計測を実施する観測点の設定位置や流速や水位変動量といった観測変数の違いが推定精度へ与える影響についても考察を行っている(19).この研究の応用例として,東京湾における検潮所の水位データを用いた潮流推定解析(図8-1)を行っており,多くの数値粘性が数値計算の過程に混入する手法を適用したとしても,KF-FEMでは実測の水位に良好に一致する解析結果が得られることを確認している(20).また,この研究では,KF-FEMによる流況解析結果を用いて,再生可能な運動エネルギーを利用した発電方式の1つである潮流発電に着目し,東京湾における潮流発電ポテンシャルを算定し考察している(図8-2).浅水流の現象を現す方程式において,移流項等の非線形項を考慮する場合は,上述の様に非線形モデルに対するカルマンフィルタを用いる必要がある.著者らは,従来研究を受け,EnKFとFEMを融合したEnKF-FEMによる浅水域における流れ場解析の検討を実施している.この解析では,サンプル数の設定に応じて流れ場の推定精度が変わることから,サンプル数を変えたモデルに対して流れ場の推定精度に関する考察を行った(21).この研究では,例え安定化有限要素法を用いたとしても,サンプル数が少なくなると数値振動が発生することを確認しており,推定精度はサンプル数にも依存することを確認している.サンプル数が十分に準備された場合は,真値に近づく結果も得られていることから,対象とする現象や対象とする問題の設定に応じた必要サンプル数に関する考察も将来的な課題である.近年では,地球環境問題を対象として,降水量や洪水リスク予測への影響を調べるためにデータ同化を適用した研究(22)等も行われているが,データ同化に関わる研究者は他研究分野に比べて多くないと思われることから,多数の研究者の参入が待たれる研究領域と考えている.日本機械学会計算力学講演会や,理論応用力学講演会においても逆問題・データ同化に関するセッションが組まれているため,興味のある方は参加して頂くことをお勧めしたい.

図8-1 東京湾における流れ場の推定結果(流速ベクトル図,水位コンター図)(20)

図8-2 潮流発電ポテンシャルの分布(20)

〔倉橋 貴彦 長岡技術科学大学〕

参考文献

(1)Takizawa K., Tezduyar T. E., Uchikawa H., Terahara T., Sasaki T., Yoshida A., Mesh refinement influence and cardiac-cycle flow periodicity in aorta flow analysis with isogeometric discretization, Computers & Fluids, (2018), DOI: 10.1016/j.compfluid.2018.05.025

(2)Xu F., Morganti S., Zakerzadeh R., Kamensky D., Auricchio F., Reali A., Hughes T.J.R., Sacks M.S., Hsu M.C., A framework for designing patient-specific bioprosthetic heart valves using immersogeometric fluid-structure interaction analysis, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 4 (2018), e2938.

(3)Groen D., Richardson R.A., Coy R., Schiller U.D., Chandrashekar H., Robertson F., Coveney P.V., Validation of patient-specific cerebral blood flow simulation using transcranial doppler measurements, Frontiers in Physiology, Vol. 9, (2018), 721.

(4)Otani T., Shindo T., Ii S., Hirata M., Wada S., Effect of local coil density on blood flow stagnation in densely coiled cerebral aneurysms: a computational study using a cartesian grid method, Journal of Biomechanical Engineering, Vol. 140, (2018), 041013.

(5)Balogh P., Bagchi P., Analysis of red blood cell partitioning at bifurcations in simulated microvascular networks, Physics of Fluids, Vol. 30, (2018), 051902.

(6)Nodargi N.A., Kiendl J., Bisegna P., Caselli F., De Lorenzis L., An isogeometric analysis formulation for red blood cell electro-deformation modeling, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, Vol. 338, (2018), pp. 392-411.

(7)Ii S., Shimizu K., Sugiyama K., Takagi S., Continuum and stochastic approach for cell adhesion process based on Eulerian fluid-capsule coupling with Lagrangian markers, Journal of Computational Physics, Vol. 374, (2018), pp. 769-786.

(8)Santiago A., Aguado-Sierra J., Zavala-Aké M., Doste-Beltran R., Gómez S., Arís R., Cajas J.C., Casoni E., Vázquez M., Fully coupled fluid-electro-mechanical model of the human heart for supercomputers, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 12 (2018), e3140.

(9)Washio T., Sugiura S., Kanada R., Okada J., Hisada T., Coupling Langevin dynamics with continuum mechanics: exposing the role of sarcomere stretch activation mechanisms to cardiac function, Frontiers in Physiology, Vol. 9 (2018), 333.

(10)Yoshinaga T., Nozaki K., Wada S., Experimental and numerical investigation of the sound generation mechanisms of sibilant fricatives using a simplified vocal tract model, Physics of Fluids, Vol. 30, Issue 3 (2018), 035104.

(11)Yesudasan S., Wang X., Averett R.D., Fibrin polymerization simulation using a reactive dissipative particle dynamics method, Biomechanics and Modeling in Mechanobiology, Vol. 17, Issue 5 (2018) pp. 1389-1403.

(12)Okuda S., Miura T., Inoue Y., Adachi T., Eiraku M., Combining Turing and 3D vertex models reproduces autonomous multicellular morphogenesis with undulation, tubulation, and branching, Scientific Reports, Vol. 8, (2018), 2386.

(13)Mosaffa P., Rodríguez-Ferran A., Muñoz J.J., Hybrid cell-centred/vertex model for multicellular systems with equilibrium-preserving remodeling, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Isssue 3 (2018), e2928.

(14)Okuda S., Takata N., Hasegawa Y., Kawada M., Inoue Y., Adachi T., Sasai Y., Eiraku M., Strain-triggered mechanical feedback in self-organizing optic-cup morphogenesis, Science Advances, Vol. 4, No 11 (2018), eaau1354.

(15)Rauch A.D., Vuong A.T., Yoshihara L., Wall W.A., A coupled approach for fluid saturated poroelastic media and immersed solids for modeling cell-tissue interactions, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Isssue 11 (2018), e3139.

(16)Klinge S., Aygün S., Gilbert R.P., Holzapfel G.A., Multiscale FEM simulations of cross-linked actin network embedded in cytosol with the focus on the filament orientation, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 7 (2018), e2993.

(17)Kameo Y., Tsubota K., Adachi T., Bone adaptation, in silico approach, Frontiers of Biomechanics, Vol. 2, (2018), Springer Japan.

(18)Guerra T., Catarino C., Mestre T., Santos S., Tiago T., Sequeira A., A data assimilation approach for non-Newtonian blood flow simulations in 3D geometries, Applied Mathematics and Computation, Vol. 32, (2018), pp. 176-194.

(19)Funke S.W., Nordaas M., Evju Ø., Alnæs M.S., Mardal K.A., Variational data assimilation for transient blood flow simulations: Cerebral aneurysms as an illustrative example, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 35, Issue 1 (2019), e3152.

(20)Ii S., Adib M.A.H.M., Watanabe Y., Wada S., Physically consistent data assimilation method based on feedback control for patient‐specific blood flow analysis, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 1 (2018), e2910.

(21)Makarchuk S., Beyer N., Gaiddon C., Grange W., Hébraud P., Holographic Traction Force Microscopy, Scientific Reports, Vol. 8, (2018), 3038.

(22)Sasaki T., Takizawa K., Tezduyar T. E., Aorta zero-stress state modeling with T-spline discretization, Computational Mechanics, (2018), DOI: 10.1007/s00466-018-1651-0

(23)Liang L., Liu M., Martin C., Sun W., A machine learning approach as a surrogate of finite element analysis-based inverse method to estimate the zero-pressure geometry of human thoracic aorta, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 8 (2018), e3103.

(24)Otani T., Tanaka M., Unloaded shape identification of human cornea by variational shape optimization, Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering, Vol. 21, Issue 5 (2018), pp. 795-802.

(25)Valentin J., Sprenger M., Pflüger D., Röhrle O., Gradient-based optimization with B-splines on sparse grids for solving forward-dynamics simulations of three-dimensional, continuum-mechanical musculoskeletal system models, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 5 (2018), e2965.

(26)Chen Q., Zhang X., Zhu B., Topology optimization of fusiform muscles with a maximum contraction, International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering, Vol. 34, Issue 8 (2018), e3096.

(27)日本機械学会2018年度年次大会, https://www.jsme.or.jp/conference/nenji2018/index.html (参照日2019年4月1日)

(28)日本機械学会第31回計算力学講演会, https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf18/index.html (参照日2019年4月1日)

(29)日本流体力学会年会2018, http://www2.nagare.or.jp/nenkai2018/ (参照日2019年4月1日)

(30)8th World Congress of Biomechanics, http://wcb2018.com/ (参照日2019年4月1日)

(31)13th World Congress in Computational Mechanics, http://www.wccm2018.org/ (参照日2019年4月1日)

(32)ポスト「京」開発事業(フラッグシップ2020プロジェクト: FLAGSHIP2020 Project), https://www.r-ccs.riken.jp/fs2020p/ (参照日2019年4月1日)

(33)ポスト「京」重点課題2「個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学」, http://postk.hgc.jp/ (参照日2019年4月1日)

目次に戻る


3.9 最適化

 最適化のニーズは数学,工学,理学等の自然科学から経済,経営,金融等の社会科学まで幅広く,各分野で研究が進められている.機械工学に焦点を絞ると,物理現象や構造,流体等の数値解析を利用した設計問題や同定問題に対する手法の提案やその応用が研究の中心になっている.ものづくりを考えると,これまでの数値解析から最適設計への展開は自然な流れである.学会での発表や論文はその性質から基礎研究に関するものが多いが,商用CAEシステムの最適化機能の開発やその応用も盛んに行われており,ニーズとシーズ(又は産と学)が上手く刺激を与え合い,協調しながら発展している研究分野である.2018年に開催された日本機械学会の計算力学部門の最適化に関するセッションは,年次大会,計算力学部門講演会,及び最適化シンポジウムで開かれた.国外では計算力学分野の最大会議の1つである第13回WCCM(World Congress on Computational Mechanics)がニューヨークで開催され,そこでは最適化に関する11ものミニシンポジウムが開かれた(計203件の発表).そのうち1つは機械学習を利用した最適化に関するものであった.各講演会を通して,以前の手法の提案が多数行われた時代から,安定的な成長期に入ったと感じられる.こうした2018年の国内外の講演会での発表から(速報ベースではあるが),最適化の研究動向をまとめてみたい.

 最適設計問題は設計変数(もしくは設計目的)によって寸法,形状,トポロジーの3つ最適化によく分類されるが,その分類に従うと発表件数はトポロジー最適化に関するものが大半を占める.トポロジー最適化問題を解く場合,設計問題(定式化),感度解析トポロジーの発現手法,数値安定性の確保が重要な技術要素となる.その内で核となるトポロジー発現手法としてはSIMP法もしくはレベルセット法を利用したものが主流である.その他,GA(Genetic Algorithm)やPSO(Particle Swarm Optimization) のような創発的な手法も利用され,その場合,計算コストを抑えるためニューラルネットワークやRBF等の近似応答曲面と組み合わされることが多い(1).定式化は離散系と分布系の両方が用いられているが,創発的手法を除き,支配方程式を制約条件に付加したPDE(Partial Differential Equation)制約最適化問題として定式化されることが大半である.計算効率に効果的なDCT(Discrete Cosine Transform)圧縮を用いたSIMP法ベースの手法(2)やMMC(Moving Morphable Component)に基づく大規模問題を効率的に解く手法(3),ALTO(Accelerated Lightweight Topology Optimization)と称する新たなトポロジー最適化法(4)の他,VCUT(Variable Cutting) Level Setと称した新たなレベルセット法も示されている(5)感度解析ではトポロジー最適化問題は一般に要素(もしくは節点)ごとに設計変数が設定される多設計変数問題となるため,随伴変数法が用いられている.レベルセット法とXFEMを組み合わせた感度解析(6)や過渡応答に対する感度解析法も示された(7).数値安定性の確保にはフィルタリングや制約の追加の他,Isogeometric Analysisとの組み合わせも用いられている.対象とする設計問題は拡大と深化をみせており,構造系,熱・流体系,電磁気系,音・振動系,及び光系等の問題への適用が示されている.定式化において,前述のように状態変数の支配方程式が制約条件として課されるが,対象の設計問題の拡がりや複雑化(非線形問題,マルチスケール問題,マルチフィジクス問題等)に伴い,導入する支配方程式も複雑になってきている.それによって,感度計算が複雑さを増している.3Dプリンティングを対象にしたもの(8),周期性マイクロ構造を扱ったもの(9)-(11),発電デバイスを含む電磁気に関する問題(12)-(14),不確かさを考慮したロバストコンプライアントメカニズム問題(15),異種材料構造のマルチスケール最適化問題(16),音響に関する問題(17)-(19),形状記憶合金問題(20),ラティス構造を扱ったもの(21)(22),幾何学的非線形と材料非線形を考慮した問題(23)等,幅広い分野へ適用されている.流体分野では乱流流れ場を対象とした問題も報告されている(24)(25)

 寸法最適化と形状最適化においても,トポロジー同様,設計問題(定式化),感度解析設計変数の変動(更新),数値安定性の確保が重要な技術要素となる.寸法最適化はいずれの技術要素も確立されており,報告の大半は応用的なものである(26).形状最適化も核となる形状変動手法の新たな提案はほとんどなく,パラメトリック手法では曲面のコントロールポイントを設計変数にし,Isogeometric Analysisと組み合わせた方法が用いられ(27)(28),パラメータフリー手法は随伴変数法と勾配法,数値安定化法の組み合わせが用いられており(29)(30),具体的には設計問題(定式化)の拡がりと深化,及び応用的な研究が多い.弾塑性問題へのPSOの適用(31),Interface-based Generalized Finite Element Method(IGFEM)と勾配法を組み合わせた手法(32)やその非線形材用設計への応用(33)や勾配法ベースの形状最適化の効率化のためのcgFEM(Cartesian grid Finite Element Method)の導入などが報告されている(34).流体関連では多目的の空力特性最適化問題へのStackelberg game strategyの適用(35)や応答曲面法によるプロペラ(36)や水車吸出し管の形状設計(37)などが報告されている.さらに実用的な応用として,エンジンルームの冷却設計(38),プレス条件への応用(39)等が報告されている.その他,輸送ネットワークに関するものも報告されている(40)(41)

 また,AIを最適化と組み合わせる方法も検討されてきている.まだ解析結果の予測へ応用しようとするものが中心で,最適化との組み合わせは模索段階だが,トポロジー最適化への適用が報告されている(43)(44)

 このように2018年の最適化の研究は安定的に発展し,拡大と深化をみせた.この分野の飛躍,ブレークスルーのために,新しい風を吹き込む手法の登場が期待されている.一過的なものにならないため,数学的な背景と実用性を有していることが重要である.

〔下田 昌利 豊田工業大学〕

参考文献

(1)Tan, R. and Ye, W., Neural network based surrogate models for effective mechanical properties of microstructures, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(2)Du, J, Zhou, P. and Lv, Z, Multiphysics topology optimization using DCT-based compression, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(3)Guo, X. and Zhang, W, Moving morphable component (MMC)-based explicit topology optimization-some new developments, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(4)Liu, J. and To, A., ALTO: A Super-lightweight topology optimization method and its application to support structure design for additive manufacturing, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(5)Wang, M., VCUT Level Set: A level set method with variable cutting functions for topology optimization of multiscale structures, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(6)Cruz, J. and Maute, K., Level-set XFEM sensitivity analysis and topology optimization of elastomeric gels, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(7)Pagaldipti, N. and Liu, S, Sensitivity analysis and optimization of transient responses, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(8)Qian, X., Mezzadri, F. and Bouriakov, V., Topology optimization of self-supporting support structures for additive manufacturing, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(9)Alberdi, R. and Khandelwal, K., Topology optimization of periodic elastoplastic energy dissipating microstructures, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(10)Coelho, P, Guedes, J., Rodrigues, H. and Cardoso, J., Strength-oriented design of periodic microstructures using topology optimization, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(11)Ivarsson, N, Tortorelli, D. and Wallin, M., Topology Optimization of Nonlinear Periodic Microstructures with Viscoplastic Material Properties, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(12)Almeida, B. and Pavanello, R., Topology optimization of periodic Piezoelectric materals for energy harvesting devicess, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(13)古田幸三,佐藤綾美,泉井一浩,山田崇恭,松本充弘,西脇眞二,熱電材料を対象とした微視構造の最適設計法,日本機械学会 2018 年度年次大会 講演論文集(2018). DOI: 10.1299/jsmemecj.2018.J0110202

(14)丸山峻,山崎慎太郎,矢地謙太郎,藤田喜久雄,メタモデリングに基づくトポロジー最適化問題における設計パラメータ決定法(永久磁石同期モータ設計への展開),日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.19–20. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.110

(15)Silva, G., Cardoso, E. and Beck, A., Optimum design of robust compliant mechanisms with uncertainties in outout stiffness, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(16)Da,D., Yvonnet, J, Xia, L, Le, M. V. and Li, G., Multiscale topological design of heterogeneous materials and structures without scale separation, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(17)Feng, G., Teng, X., Zhao, H. and Shi, D., Acoustic optimization of gear box, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(18)Jang, G. and Tran, Q., Topology optimization for three-dimensional ultrasonic acoustic lens design, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(19)飯盛浩司,松島慶,高橋徹,松本敏郎,音響ダイオードのトポロジー最適化,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.7–8. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.104

(20)Kang, Z. and James, K., Topology optimization for shape-memory alloys, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(21)Kazemi, H., Vaziri, A. and Norato, J., Stress-based topology optimization of multi-material truss lattice structures, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(22)小池雄介,牛島邦晴,加藤準治, 積層造形下での制約を考慮したラティス構造の最適化設計,日本機械学会第 16 回計算力学講演会講演論文集 (2003), pp.121–122. DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.134

(23)Tong, L. and Luo, Q., Structural topology optimization considering geometrical and material nonlinealities, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(24)Yoon, G, Topology optimization with finite element based k-e turbulent model, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(25)山田崇恭,泉井一浩,西脇眞二,乱流のトポロジー最適化における基礎検討,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.17–18. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.109

(26)Mang, C., Sizing and shape optimization for peak structural responses under long-term processes of stationary stochastic loads, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(27)Chamoin, L and Thai, P., Control of discretization and model reduction errors in shape optimization performed using isogeometric analysis (IGA) and proper generalized and proper generalized decomposition (PGD) , in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(28)Hirschler, T, Bouclier, R., Duval, A., Elguedj, T. and Morlier, J., Isogeometric shape optimization for innovative design of stiffened structures, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(29)Wakasa, M. and Shimoda, M., Free-form optimization method for controlling transient response of a linear elastic structure under dynamic loadings, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(30)飯森理人, 渋谷陽二, 田中展, 劉陽,不変量破損則を用いた接着構造強度最大化のための接着層形状最適化,日本機械学会第 16 回計算力学講演会講演論文集 (2003), pp.121–122. DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.319

(31)Boltuc, a., Shape identification and optimization in elastoplastic boundary value problems using parametric integral equation system (PIES) and particle swarm optimization (PSO), in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(32)Geubelle, P, Tan, M, Pety, S., Najafi, A. and White, S., Gradient-based computational design of microvascular composites based on an interface-enriched generalized finite element method, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(33)Najafi, A., Safdani, M., Tortorelli, D. and Geubelle, P., Design of Nonlinear Materials Using a Multi-scale NURBS-based Shape Optimization Scheme, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(34)Ródenas, J., Marco, O., Nadal, E., Fuenmayor, F. and Tur, M., Gradient-based optimization with the Cartesian grid finite element method, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(35)Wang, J., Zheng, Y., Zhang, J., Xie, F., Chen, J, Peraux, J. and Tang, Z., Single and multi-objective aerodynamic shape optimizations by means of Stackelberg game coupled with adjoint Method, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

(36)新川大次朗,白石耕一郎,安東潤,応答曲面法のプロペラ翼形状流体力学的最適化への適用 ,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.65–66. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.209

(37)川尻秀之,榎本保之,サロゲートモデルを用いた水車吸出し管の設計最適化,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.55–56. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.204

(38)高村宏行,伊藤篤,王宗光,最適化計算手法の自動車フロント冷却開口設計への応用,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.67–68. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.210

(39)横山真樹,北山哲士,河本基一郎,野田拓也,宮坂卓嗣,越後雄斗,成形時間最小化を目的とする可変ブランクホルダー力とスライド速度の最適設計,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.75–76. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.214

(40)花原和之,通路最適設計とこれにもとづく経路探索の検討,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.117–118. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.312

(41)中山雄介,柴崎隆一,鈴木克幸,海上コンテナ輸送ネットワークにおける多目的最適設計,日本機械学会第13回最適化シンポジウム2018講演論文集(2018), pp.89–90. DOI: 10.1299/jsmeoptis.2018.13.221

(42)高橋佑亮, 鈴木良郎, 轟章, 水谷義弘,構造最適化問題に対するディープラーニングの適用,日本機械学会第31 回計算力学講演会講演論文集(2018). DOI: 10.1299/jsmecmd.2018.31.114

(43)Kim, D. and Lee, J., Auto parameter tuning in topology optimization using deep reinforcement learning, in ABSTRACTS of 13th World Congress on Computational Mechanics (2018).

目次に戻る


3.10 産業界での計算力学

 計算力学は,航空機や自動車等の設計において日常的に利用される技術になっている.計算固体力学の分野においては,古くから行われている弾性解析に加え,弾塑性解析や接触解析のような非線形解析も日常的に行われており,複雑な機械構造物の軽量化や低コスト化を支援することで製品の競争力向上に貢献している.このような背景のもと,日本機械学会第31回計算力学講演会(CMD2018)(1)においてもオーガナイズドセッション「企業におけるCAEおよび産学官連携の事例」で10件の講演発表があり,活発な討論が行われた.例えば,実際の製品の複雑な温度場や過渡的な現象をさらに高精度にモデル化する手法や設計に最適化技術を取り入れる手法についての報告がなされた.また,同講演会では,フォーラム「企業におけるオープンCAEの活用」が開催され,企業においてオープンソースコードを導入する事例が数多く報告された.このことは,産業界におけるCAE活用の裾野がますます広がっていることを示していると考えられる.今後も,より大規模で多くの物理現象を考慮することが求められ,また,得られた解析結果を検証していくための仕組みを整えていくことが望まれる.解析結果のV&V(Verification & Validation)を標準化する取り組み(2)も行われており,産業界での利活用が促進されていくことが期待される.

 最近の計算力学技術の発展や計算機能力の向上により,設計のみならず,高度な非線形解析が必要な製造プロセスにシミュレーションを適用していくことが可能になってきた.特に,3次元金属積層造形技術については,造形中のプロセス条件を適切に管理することが造形物の品質を左右するが,レーザー等の熱源が高速に移動し,溶融凝固を伴う現象を観察することが困難なため,シミュレーションで現象を予測することが望まれていた.また,適切なプロセス条件を設定するために,造形中の温度履歴によって変化する金属組織を予測することも期待されている.CMD2018においても産業界から多くの研究成果が報告されている.例えば,電子ビーム式金属積層造形を対象として熱伝導解析,セルラーオートマトン,弾塑性解析を組み合わせることで温度履歴から材料組織,造形中の金属材料の割れを予測することで適切なプロセス条件を決定することや,レーザビーム式金属積層造形を対象として固有ひずみを用いた弾性解析によって造形中の変形を予測する技術などが報告された.また,従来技術では製造できなかったラティス構造やトポロジー最適化で得られた構造を取り入れる研究も行われている.今後は,造形物の静的強度や疲労強度を把握し,品質保証に関する研究を行っていくことで,適切な材料強度と品質を有する製品を短時間で開発することが可能になると期待される.

 CMD2018のオーガナイズドセッション「材料の組織・強度に関するマルチスケールアナリシス」と「フェーズフィールド法の深化と拡大」において,材料の微視組織に着目した材料組織予測や結晶塑性有限要素解析に関する活発な議論が行われた.材料の結晶スケールにおけるシミュレーション手法についての研究が数多く報告され,注力されている分野と考えられる.シミュレーションに加え,実際の材料との比較による定量的な検証についての取り組みも報告され始めている.例えば,結晶スケールでのDIC(デジタル画像相関法),EBSD(電子線後方散乱回折),高エネルギー回折顕微鏡等(3)(4)で結晶方位や応力・ひずみ分布を計測し,解析モデルを検証する試みも行われるようになってきた.このような研究によって,ミクロ領域での疲労き裂発生メカニズムを解析・試験の両面から考察することが可能になりつつある.これらの技術を構造物の破壊評価に応用することで,安全・安心な製品開発につなげていくことが望まれる.

 構造設計のみならず,材料設計の分野に計算力学を適用していくことも最近の流れとしてとらえることが出来る.材料設計を効率的に行う手法として,ICME(Integrated Computational Materials Engineering)(5)やMI(Materials Informatics)(6)の概念が提唱されている.ICMEは,時間や空間スケールが異なる種々のシミュレーションを統合し,マクロスケールでの材料特性を予測することで材料設計を効率的に行う考え方である.MIは,実験データや多くのシミュレーション結果をデータベースとし,人工知能や統計学的手法を用いることで,材料の組成や製造プロセスから材料特性を予測するものである.MIを用いることで,従来の理論や経験則では予測できなかった材料特性予測が可能になると期待される.いずれの手法においても最近の計算機能力の向上によって,多くの実験が必要であった材料設計を効率的に行うことが期待されている.国内においては,内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラムにおいて研究開発が行われており(7),研究成果を製品開発につなげていくことが期待される.

 2016年に策定された「産業界からみた計算力学の技術ロードマップ」(8)において,構造,材料,工法(プロセス)の3つの適用分野で,設計支援に加えて価値創造にもCAEを活用していく方向性が示されている.現在,国内のみならず,世界的な計算力学の研究動向(9)(10)においても,この方向性で研究開発が行われている.今後も,さらに複雑で大規模な問題にシミュレーションを適用し,新たな計測手法と組み合わせることで解析手法を検証していくことや,データサイエンスとの融合が積極的に行われていくことを期待する.また,計算力学の裾野の広がりを支えるための人材育成も産業界における重要なテーマである.先人が築いてきた技術を正しく受け継ぎ,新たな価値を創造できる人材が多数輩出されることを期待する.

〔津乗 充良 (株)IHI〕

参考文献

(1)日本機械学会 第31回計算力学講演会, https://www.jsme.or.jp/cmd/conference/cmdconf18/(参照日2019年3月27日).

(2)日本計算工学会, 工学シミュレーションの品質マネジメント 第3版, (2017年10月).

(3)Y. Guan, B. Chen, J. Zou, T. B. Britton, J. Jiang and F. P.E. Dunne, Crystal plasticity modelling and HR-DIC measurement of slip activation and strain localization in single and oligo-crystal Ni alloys under fatigue, International Journal of Plasticity, Vol. 88 (2017), pp.70-88.

(4)T. J. Turner, P. A. Shade, J. V. Bernier, S. F. Li, J. C. Schuren, P. Kenesei, R. M. Suter and J. Almer, Crystal Plasticity Model Validation Using Combined High-Energy Diffraction Microscopy Data for a Ti-7Al Specimen, Metallurgical and Materials Transactions A, Vol. 48, Issue 2 (2017), pp.627-647.

(5)T.M. Pollock, J.E. Allison, D.G. Backman, M.C. Boyce, M. Gersh, E.A. Holm, R. Lesar, M. Long IV ACP, J.J. Schirra, D.D. Whitis, C. Woodward, Integrated Computational Materials Engineering: A Transformational Discipline for Improved Competitiveness and National Security, National Materials Advisory Board, NAE, National Academies Press, Washington DC, 2008.

(6)Y. Liu, T. Zhao, W. Ju, S. Sh, Materials discovery and design using machine learning, Journal of Materiomics, Vol. 3, Issue 3 (2017) , pp. 159-177.

(7)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的構造材料 マテリアルズインテグレーション,https://www.jst.go.jp/sip/k03/sm4i/project/project-d.html(参照日2019年3月27日).

(8)技術ロードマップから見る2030年の社会「3. 計算力学」, 日本機械学会誌, Vol.119, No.1170(2016.5), pp.293-294. DOI: 10.1299/jsmemag.119.1170_293

(9)寺田,イントロダクション~計算力学の研究動向とデータサイエンス~,第34期非線形CAE勉強会資料 (2018).

(10)小林,寺田,計算固体力学の研究動向と実設計への適用, 社会技術研究論文集,Vol.14 (2017),pp167-177.

目次に戻る