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2025/11 Vol.128

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Myメカライフ

コーティングにかける情熱

武野 和馬〔三菱重工業(株)〕

この度は「セラミック遮熱コーティングの剥離強度評価技術の開発」というテーマで日本機械学会奨励賞(技術)を受賞したことに際し、執筆の機会をいただきました。これまでの私のメカライフを振り返りつつ、研究テーマへの想いや今後の目標について紹介させていただければと思います。

私の研究テーマは、ガスタービン向け遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)の剥離強度評価法の開発です。2015年に三菱重工業(株)に入社し、入社1年目に新入社員論文執筆制度のもと、「発電用ガスタービン向けTBCの剥離強度評価法の開発」というテーマを与えられました。このテーマは世界中のTBC研究者にとって未解決の長年の課題であり、当社でも多くの研究員が取り組み、発展させてきたものです。

TBCの剥離強度を評価するためには、実機環境を模擬した試験データの取得、経年劣化を考慮した長時間試験データの整備、そして強度のばらつきを考慮した十分な試験データ数の確保が必要です。これらはいずれも多大な労力と時間を要しますが、特に近年のガスタービンの高効率化に伴うタービン入口ガス温度の著しい上昇により、実機環境を再現した試験データの取得が非常に重要となっています。こうした背景のもと、当社ではレーザ熱サイクル試験を活用し、実機環境を模擬するとともに、TBC剥離時に発生するひずみを実測する先進技術を組み込むことで、剥離強度評価につなげてきました。さらに、デジタル画像相関法を用いた高温環境下でのTBC剥離過程の可視化にも成功し、評価法の確立に向けて着実に技術を進歩させています。

また、当社の高砂製作所内には最新鋭の実証発電設備が整備されており、要素試験を基に開発した評価法の妥当性検証を迅速かつ効率的に行うことが可能です。このような恵まれた研究環境に支えられているからこそ、私は剥離強度評価法を世界に先駆けて確立し、次世代の高効率ガスタービンの信頼性向上に貢献したいと考えています。当社の大型ガスタービンは2022年と2023年に世界シェア1位を獲得しており、世界トップクラスのガスタービンに直接携わり、その性能向上に寄与できることは研究者としてこの上ない幸運だと感じています。

私の研究の楽しさは、TBCに関する難題に挑戦できる点にあります。さらなる高効率ガスタービンに対応するための高性能TBCの開発、高温環境下での長期安定性の確保などの難題に対して、最新の実験技術を駆使することで、解決しようと日々取り組んでいます。TBCに関する研究の面白さに魅入られた結果、2024年10月より東北大学の社会人博士課程に進学し、先端材料強度科学研究センターでTBCの研究をより深く追求することにしました。産業界での実務経験と最先端の学術研究を融合させることで、より高度な評価技術の確立と新しい知見の創出を目指しています。この挑戦は自身の成長だけでなく、企業や社会に対する貢献の幅を広げる大きな挑戦になると考えています。

社会への貢献という観点では、私の研究はエネルギー効率の向上と環境負荷低減に大きく寄与します。ガスタービンの運転温度を引き上げることは燃焼効率の改善につながり、結果として燃料消費量削減とCO2排出抑制を実現します。また、TBCの信頼性向上はメンテナンス頻度の低減や故障リスクの軽減にもつながり、産業全体の安全性と経済性の向上に貢献します。将来的には、この技術を他製品にも応用し、幅広い産業分野での性能向上・環境負荷低減に役立てたいと考えています。

最後に、今回の受賞を励みに、今後も研究活動および学会活動に邁進し、より良い技術の創出と社会貢献を目指して努力を続けてまいります。

 1650℃級JAC ガスタービン(タービン翼表面にTBC)
(出典:https://power.mhi.com/jp/products/gasturbines/technology/validate


<正員>

武野 和馬

◎三菱重工業(株) 総合研究所 主任研究員

◎専門:セラミックス、コーティング、溶射、材料力学

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