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2025/11 Vol.128

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特集 非破壊検査の最近の動向―日本非破壊検査協会との協議締結に際して―

会長座談会 学協会連携で事業と学術の発展を目指す

落合 誠・岩城 智香子〔(株)東芝〕、井原 郁夫(長岡技術科学大学)、山本 誠(東京理科大学)、井上 裕嗣(東京科学大学)

日本機械学会と日本非破壊検査協会は、2019年度年次大会での合同企画セッションを発端にいくつかの合同企画を実施してきたところ、2024年8月に連携協定を取り交わした。本座談会では、両団体の会長経験者が集まり、国際標準化活動や技術者資格認証事業、それに関連する国際連携活動や人材育成について、意見交換を行った。

メンバー紹介

井上本日は非破壊検査の特集企画に際して、日本非破壊検査協会(JSNDI)と日本機械学会(JSME)の現会長・前会長にお集まりいただき、連携促進について話し合えればと思います。かなり近い分野ですので、本日のJSNDI側の参加者も全員がJSMEの会員です。実際に私はJSNDIでは技術者資格の認証や機関誌の編集、JSMEでは現副会長として、年次大会企画、部門評価、部門運営などに携わっています。

落合2025年6月からJSNDIの会長を務めています。所属先では、この4月に東芝に新設された総合研究所の所長を務めています。もともとは原子力を中心としたプラントの保全を業務にしていました。JSNDIでは社会問題の複雑化に対応すべく学際的な研究分野にこそ価値を見出そうと進めており、国内外の学協会との連携を促進しています。

井原私はJSNDIでは会長特別補佐担当理事で、この6月まで同協会の会長を務めていました。今は現会長を全面的にサポートする立場です。

岩城私も落合さんと同じ東芝の総合研究所に所属しています。熱流体、特に気液二相流を専門として、沸騰型原子炉内の二相流現象の解明とモデル化を通じ、既設炉の安全性向上や新型炉の研究開発を進めてきました。今年度JSMEの会長として、実質的な分野連携・学協会連携を進めていきたいと考えています。

山本私はJSMEの2024年度会長を務めました。昨年度の取り組みの一つとして、他学協会との連携を図りまして、JSNDIとも連携協力の覚書を交わしました。実り多い関係になればと思っています。

 

協力連携締結の経緯

井原JSNDIとJSMEの協力関係は、2019年頃から企画行事の共催が進んだのが発端です。JSMEの2019年度年次大会で「機械・インフラの保守保全」という理事会企画の合同セッションを立ち上げたところ大盛況でした。その頃、JSMEでは学会活性化の一方策として学協会連携を推進する気運が高まっておりJSNDIでも全く同じ動きだったこともあり、連携協定の話が出てきたという経緯です。JSNDIは業界団体と学術団体の両方の性格を有しており、JSMEとは規模と性格が異なります。そのような両者の連携によりシナジーが生まれ、新たな社会貢献に繋がることも期待されました。JSNDIの会員にはJSMEの会員も少なくなく、それぞれの会員の立場がオーバーラップしている実態もありました。

山本JSMEでも同様に部門横断や専門学協会・業界団体との交流を進めてきていたところ、JSNDIからタイムリーなご提案をいただいたという経緯です。そういった流れで、2024年10月に協力・連携に係る覚書(MOU)を交わすに至りました。

井上JSMEではISO 18436-2(振動)またはISO 14830/ISO 18436-4(トライボロジー)に準拠した機械状態監視資格認証事業や「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化に関する連携分科会」の立ち上げなど、まさに非破壊検査分野に重なる取り組みがあります。また、JSNDIでも標準化活動、赤外線サーモグラフィの機械状態監視診断技術者の資格認証を進めています。2023年から始めたJSNDIのシンポジウムNDE4.0は、JSMEの情報・知能・精密機器部門と共催しています。

岩城すでに連携の下地はできているので、実質的な事業連携に取り掛かりたいですね!

機械・インフラの保守・保全、信頼性強化に関する連携分科会への期待

井上先ほど話が出ましたが、JSMEでは「機械・インフラの健全性評価」という年次大会の合同企画セッションを2019年度に立ち上げました。その後、学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」として3年間活動し、昨年度からは「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化に関する連携分科会」に活動を移しています。これらの活動では、JSMEの関係する部門に参画いただき、それぞれの強みをリストアップしてもらったのですが、担当いただいている分科会委員の方でさえ、別部門での活動を知らないということがわかりました。これからシーズのマッチングを進めていくところです。

井原我が国ではインフラ老朽化や防災・減災への取り組みは喫緊の社会課題ですので、2026年度の年次大会ではそのような観点からJSNDIとのジョイントセッションを復活させたいですね。2019年度年次大会で企画した際には機械・インフラの健全性評価に関して諸分野が抱える課題の洗い出しから始めました。問題解決に向けたボトルネックをリストアップし、その翌年から議論を深めようとした矢先にコロナ禍となり、様々な行動制限もあり、議論の勢いが弱まってしまいました。もう一度原点に立ち戻り、新たに発足した分野連携分科会でもそのような課題設定の議論を深めていければ良いのではないかと思います。

山本連携分科会はJSMEだけに閉じない方がいいですね。

井上これまでは外部の組織からの提案があっても、受け皿が部門だけでした。これからは連携分科会が受けられるようになるので、より直接的に対応できるようになります。

岩城おそらく課題の洗い出しは年に1回のシンポジウムでは難しいと思います。例えば、非破壊検査のロードマップ作成などを目的にして協働作業してはいかがでしょうか。連携分科会の動きに期待したいです。

落合連携分科会では課題設定の工夫が重要だと思います。学術探求は重要ですが、それだけに偏りすぎるとうまく進まないので、例えば設備保全であれば、保全技術だけでなく、設備のオーナー側・ユーザー側に参画してもらうことが大事ではないでしょうか。例えば、大型橋梁などのインフラ点検では、アカデミアとサービスだけでなく、そこに設備オーナーが加わればうまく回ると思うんです。

井上その課題設定もJSNDIに協力いただきたいと思っています。

岩城さまざまなコンソーシアムもありますが、うまく回っていないものもあると耳にします。アカデミアが加わることで、本音で話し合える好事例になるように進めていきたいと思います!

米国では非破壊検査は学術分野の一つ

井上JSME全体と比較すると、JSNDIくらいの規模は動きやすいですよね。学術だけでなく国際標準化活動や技術者資格認証事業にも活発に取り組んでいるので、企業の事業活動に繋がりやすいということもあります。

落合JSNDIの会員数は約3千名ですが、国内での現在の資格認証数は約8万4千件です(表1)。資格認証数では日本は世界トップクラスの規模で、これはまだまだ日本の強みになっています。非破壊検査というのは流行る周期があるんです。研究者・メーカー・サービスの人材は常にいるのですが、そこに検査ユーザーが入ると一層活性化する傾向がわかっています。過去には、原子力、鉄鋼、船舶などのサプライチェーン関係者が積極的に参画されたタイミングで活動が盛り上がりました。これからも土木分野や航空機分野、新素材分野など、可能性を秘めた分野がたくさんあると思っています。

井原ちなみに米国非破壊試験協会(ASNT)の会員数は1万3千名を超えます。日本では、非破壊検査/評価は学術分野としてあまり認識されていませんが、欧米では一つの学術分野として認知されており、いくつかの大学では非破壊を冠するセンターなども設置されています。昨今のインフラ老朽化による事故や災害の増加を鑑みると、非破壊検査は日本でももっと重要視されていいはずなので、学術分野でのその認知度が高まって欲しいと思っています。

落合ASNTの定期カンファレンスは参加者数千名、併設の展示も数百社規模で、もうお祭り状態ですよね。

山本日米での認識の違いは歴史によるものでしょうか?

落合日本とアメリカで求められている技術や資格がさほど大きく違っているとは思いません。やはり安全に対する歴史や文化の違いなのだと思います。

表1 JSNDIにおけるJIS Z 2305非破壊試験技術者資格登録件数
(2025年4月1日現在)

JSNDIの強み

井原私はJSNDIの会長を3年間務めましたが、活動の全てを把握することができないほどJSNDIの事業は多岐にわたります。特に国際連携活動は1960年代から始められ、今も積極的に取り組んでいることの一つです。非破壊検査の人材交流が国際的に求められるようになった頃、世界非破壊試験会議(WCNDT)の国際常置委員会の初代委員長に木原博先生が就任しています。また、アジア・太平洋非破壊試験連盟(APFNDT)の初代会長には、大岡紀一氏が就任し、JSNDIが幹事国を務めています。JSNDIは会員数3千名規模ですが、国際連携活動は非常に活発です。

落合非破壊検査に関する国際団体世界非破壊試験委員会(ICNDT)でも日本は重要な役割を務めております。また、2世代前くらいの我が国の非破壊検査の技術者がアジアのさまざまな国で指導し、そのときに育った人材が今では各国でリーダーシップを取っています。こういった経緯もあり、アジア各国から日本は今でも一目置かれる存在であり続けていると思います。ただ、現状では技術者の高齢化や人材不足が影響して、国際連携活動も大変になってきています。

井原私はJSMEでもさまざまなことに取り組みましたが、「国際連携」というのは簡単なことではないということに気づきました。JSNDIでは、国際連携を確実かつ慎重に行うために、時間とコストとマンパワーをかけて、各国の関連組織とさまざまな連携活動を継続的に展開しています。

落合JSNDIでは、日米・日韓のシンポジウムを継続していますし、英国非破壊試験協会や研究機関との連携も活発です。APFNDTの議長・事務局やISO /TC 135及びISO/TC 135/SC 6の幹事国も務めています。もちろん個々に得るものも大きいのですが、実際業務する方々にとっては、かなりの負荷になっているのは事実だと思います。

山本JSMEでは以前はASMEやIMechEとの交流がありましたが、最近の国際連携活動は部門単位がほとんどです。

井原費用対効果を考えると、部門単位で国際連携に取り組むのは有効な方策だと思います。ただ、特定の専門分野の連携だけでなく非学術・非技術的な事柄の連携を推進するには、部門を超えた枠組みの連携も大事だと思います。

岩城両団体が効果的に連携できるのは「国際標準化活動」と「技術者資格認証事業」、またそれに伴う「人材育成」と「国際連携」だと感じました。実質的な活動を進めていきたいと思います。

事業連携の模索:標準化活動と人材育成

井上技術者資格認証事業においては、ISOの国際規格が変わると技術者資格認証制度もそれに対応して変更しないといけないという課題があります。最近の変更に伴って、今後は毎年最大1万人近くの資格者が資格更新のために各種講習会を受講する可能性がでてくるのですが、JSNDIだけでは手に負えないので、JSMEなどの講習会を対象にできないかと検討しています。資格更新のためのポイントを獲得していただくために、JSMEの講習会をその対象にするという考え方ですね。また、JSMEの機械状態監視技術者のコミュニティにもコミットして、JSNDIと一緒に活動できる方法を模索しています。

井原我が国は標準規格の策定が苦手なように思います。これまではそれでも問題なかったかもしれませんが、これからはルールメーカーを目指すことも必要です。ただ、現在では標準化活動に取り組んでいる人材の高齢化が進んでおり、さらにそのような活動はアカデミアでは学術的な業績にならないので、若手人材が入りにくい状況です。このままでは我が国の標準化活動はアジア諸国からも後れを取るかもしれません。

井上企業としては、国際標準化は積極的に進めるべきという考えなのでしょうか?

落合特定の分野では積極的に進めていますね。技術が細分化してしまったので、各社とも全面的ではなく特化して進める方針かと思います。

井上欧米ではまだまだ標準化をしっかりやろうとしていますし、人材育成もしっかりしているように感じます。

山本標準化活動の差は、明文化するカルチャーの違いは影響していますよね。品質保証の上で、欧米ではそういった動きにならざるを得ないこともあり、そこで違いが出ていると思います。

井原昨年のJSNDIの総合シンポジウムで、経済産業省の方に「標準化とアカデミアの連携」という特別講演をやっていただいたのですが、いくつかの重点的な取り組みの中で、一番初めに紹介されたのが標準化人材育成でした。その方策の一つはアカデミアとの連携の加速で、実際にいくつかの学会に声をかけ、具体的な検討を進めているそうです。

山本機械学会では発電用設備規格は続けていますが、それ以外は他団体にお任せしている状況です。

井原JSNDIとしてもJSMEと合同で進めたい規格がありますので、是非ご協力いただきたいと思います。

井上両団体が交わした協力・連携に係る覚書では、企画の実施だけでなく事業の連携も盛り込まれています。実質的な共同事業に取り組んでいかないと協定を結んだ意味がないですね。

岩城学会の役割として国際標準化活動はとても重要です。標準化への道のりは膨大な作業を伴いますから作業を両団体が分担して進めていき、人材育成にもつなげていければと思います。

井上標準化は共通の課題ですし、日本の弱点でもありますからね。協力して取り組むことは社会的にもとても意義があります。

落合私がJSNDIの会長に就任した際に「Smart and Sustainable NDT through strategic Synergy」というスローガンを掲げました。シナジー、すなわち各国、各学協会、各団体との連携によってカーボンニュートラルやサーキュラエコノミーといった難しい社会課題にアプローチしていこうという趣旨で、2027年秋に国内でカンファレンスを開催し、さまざまな団体とのコラボセッションを併設実施しようと準備しています。学術と標準化と技術者資格認証に関する国際イベントとして盛り上げますので、JSMEには是非協力していただきたいです。

岩城JSMEは学術活動を中心としており、製造現場との接点はやや薄いです。現場技術に強みを持つJSNDIと連携して、シナジーの創出を目指したいと思います。

NDE4.0/非破壊検査・機械技術のアップデート

落合いま非破壊検査の業界では“NDE4.0”が1つのキーワードになっています。これはIndustrie4.0のように非破壊検査技術にデータ連携も含めたものです。データの横断的な利用が必ずしも進んでいる業界ではなく、データ活用による改善の余地が大いにある分野です。JSMEの皆さんのお知恵を是非お借りしたいと考えています。

井原データ連携に加えて、JSNDIではロボティクスとのコラボが進んでいます。いまの非破壊検査技術は環境や条件が限定されており、例えば、被災現場で使えるようなロバストな技術は多くありません。そこに機械技術として研究開発の余地がまだまだありますので、JSMEの皆さんに是非参画していただきたいですね。昨日9月1日は防災の日でした。国や自治体が社会制度に関わる取り組みを進めていますが、我々は純技術的な部分でもっと防災・減災に貢献できると思っています。JSMEやJSNDIが、防災・減災に貢献できれば、機械技術や検査技術の新たな価値が生み出され、その分野の活性化にも繋がると期待しています!

岩城両団体の連携が事業と学術両方の発展に貢献できると素晴らしいですね。学協会の連携の好事例となって、日本の製造業を活性化できるように、本日の議論を推進していきたいと思います。両団体の会員の皆さまには、是非ご協力をお願い致します。

2025年9月2日 於:JSME会議室


<司会>日本非破壊検査協会理事・日本機械学会副会長

井上 裕嗣

◎東京科学大学 工学院機械系 教授

◎専門:材料力学、非破壊検査工学

 

<日本非破壊検査協会 2024年度会長>

井原 郁夫

◎長岡技術科学大学 機械系 特任教授/日本機械学会 名誉員

◎専門:材料力学、非破壊センシング

 

<日本機械学会 会長>

岩城 智香子

◎(株)東芝 総合研究所 首席技監

◎専門:熱流動、混相流、原子力安全工学

 

<日本非破壊検査協会 会長>

落合 誠

◎(株)東芝 総合研究所 所長/日本機械学会 正員

◎専門:検査・計測技術

 

<日本機械学会 2024年度会長>

山本 誠

◎東京理科大学 工学部機械工学科 教授

◎専門:数値熱流体工学

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