特集 非破壊検査の最近の動向―日本非破壊検査協会との協議締結に際して―
日本非破壊検査協会の紹介
日本非破壊検査協会(JSNDI)は、1952(昭和27)年に発足した非破壊検査研究会に起源をもつ学術団体であって、2025年で創立74年を迎える。非破壊検査は、今日では、さまざまな産業分野において利用され、対象を損じることなく、その品質や安全を保証するための検査技術の総称として、ある程度の社会的認知も得るに至っている。当協会は、その団体名称の末尾が協会であることから、業界団体と誤認されることも多いが、これまで名称を協会のままに維持してきたことに、他の学会にはない特徴が現れているともいえる。ここでは、日本機械学会(JSME)との関係を意識しつつ、当協会の概略を紹介させていただく。
JSNDIの特徴
当協会は、学会としての機能と業界団体としての機能を併せもつことを特徴としている。他の多くの学会と同様、学術の発展に寄与すべく、非破壊検査における研究開発の推進と成果の公表・情報交換の場としての機能を有する文部科学省所管の学術研究団体である。一方で、当協会は、非破壊検査の機器を開発・製造する企業、非破壊検査の実施を業務とする企業、ならびに非破壊検査を適用すべき対象を生産あるいは建設・運用している企業によって構成される業界団体としての機能も有している。
日本の非破壊検査業界は、高度成長期における、発電所や化学プラント、鉄鋼業や鉄道・船舶、各種インフラストラクチャの建設や維持における検査業務の拡大とともに発展してきたわけであるが、その過程で、我が国独特のこととして、検査業務を請け負う、いわゆる検査会社という業種が成長し、上にあげた非破壊検査に関係する三つ(検査機器、検査業務、検査対象)の業種が、互いに協調する仕組みが構築されてきた。それは、検査の実施や結果の評価・判定における標準化が、個々の検査の信頼性と対象のトータルな安全性を確保するために不可決であったからであり、その協同の場としての役割を当協会が担ってきたのである。また、検査の標準化においては、当然のこととして、検査を実施する者の技量に客観的保証を与える仕組み、すなわち検査技術者の資格認証制度も必備しなければならず、当協会は、1969年度から、その認証制度の実施団体としての機能も有している。
協会創設から20年ほどは、放射線、超音波、電磁気などを用いる非破壊検査の研究と実践は未分化であった。大学や公的研究機関の研究者と企業の技術者が、適用する個々の対象に即した非破壊検査の方法と検査機器の研究開発を協力して行ったのである。我が国では、工学のどの分野においても、戦後の復興から成長へと至る過程で、そのような協調関係が、工学の進歩にも工業の発展にも寄与したわけであるが、高度成長が実現していく中で、どの学会も、学理の追求を目指す方向性が強くなっていったように思われる。しかしながら、非破壊検査は、あくまでも実践をベースとする工学であり、また、物理学、材料学、電気・電子工学など、あらゆる学問の総合的な利用の上に成立するものであるから、「非破壊検査学」というような確固たる独立分野ではなく、さまざまな理工学分野において獲得された新しい知見を積極的に活用することで、時代に即応して、より洗練された高度な技術へと発展させていくことを志向すべき工学分野である。そのようなことから、JSNDIでは、あくまでも「実学としての非破壊検査」を堅持し、名称を協会のままとして、学理の追求とその実践を分けることなく、大学などの研究者と企業の技術者の密接な協調のもと、さまざまな活動を通じて「社会に価値ある安全・安心を提供する」ことを理念としている。
JSNDIの諸活動
当協会が行っている活動と事業には、大きく分けて、学術ならびに標準化活動、要員認証事業(技量認定)、教育事業(講習会、出版)の三つがある。
昨今、工学系の学会では、「学術団体は、その活動の意義と内容を公開するとともに、その研究の成果を社会に還元すべきである」との世論に促されて、標準化(規格や基準の制定)や教育(講習会やセミナーの実施)に力を入れようとする傾向が認められるが、当協会では、創設まもない時期から、上記の三つは互いに不可分であるとして、すべてを具備する努力が払われ、今日では、それらの活動と事業が、それぞれに組織だった体制のもとに実施・運営されている。
当協会の会員数は、2025年度末の時点で2,701であり、JSMEのように日本の工学を代表する学会とは比較すべくもない。会員の構成は、個人2,080、団体440、その他181(学生、外国、名誉、賛助)であるが、当協会の特徴は、団体会員が、単なる賛助的な性格や、団体としてのメリットを享受するための種別ではなく、協会の活動と事業のすべてに積極的に関与・貢献してきたことにある。
学術活動
当協会における学術活動を担う組織は、創立当初からの伝統をもつ4つの分科会と、時代の要請にしたがって順次設立されてきた特別研究委員会によって構成されていた。分科会は、非破壊検査技術を4つのカテゴリ〔放射線、超音波、表面探傷(磁気・浸透・電磁気その他)、ひずみ測定〕に分け、それぞれのカテゴリに含まれる検査技術に関する研究活動を所掌する組織であった。一方、特別研究委員会は、特定の領域や新しい技法に特化した研究活動を担う組織で、これまでに、保守検査、AE、コンクリート、画像処理、サーモグラフィなどの委員会が存在した。
学術組織は、2010年に部門制に移行し、分科会と特別研究委員会は12の部門に再編されたが、実は来年の2026年度から、図1に示したような新しい構成に再び改編することとしている。これは、Industry 4.0やSociety 5.0の標語で表される工学の全分野に及ぶ新しい潮流(非破壊検査分野ではNDE 4.0と呼ばれる)に対処するためと、硬直化しつつある体制を変えて、分野間や他の学協会との連携を進めやすい体制とすることを目的としたものである。また、協会の学術組織を、学理(シーズ)と実践(ニーズ)を軸とした2次元構造で表現し、全体的に分かりやすい構成することで、他分野や若い世代の技術者の積極的な参入も期待している。

図1 JSNDIの学術組織の構成(2026年度より)
基幹8部門は、非破壊検査の各要素技術のそれぞれに対応する部門であり、それらは、後に述べる標準化活動や技量認定ならびに教育事業にも直結する区分である。一方、応用4部門は、非破壊検査が利用されているフィールドに対応させた区分であり、図中に示しているような対象に適用される非破壊検査に関する研究活動を担う部門である。また、これら12部門のほかに、会員のだれもが参加できる独立部門を一つ設け、すべての分野に共通する研究課題(喫緊には、非破壊検査におけるDXやIoT、AIの利用)に取り組むこととしている。会員は、個人も団体も、これらの部門のいくつかに登録することとしており(会員種別に応じた登録数制限がある)、部門が運営する学術研究活動に積極的に関与できるような仕組みとしている。
具体的な学術活動としては、協会全体として実施する年2回の大会のほかに、どの部門もがそれぞれに実施している研究集会やシンポジウムがある。非会員にも開かれた形で開催される部門シンポジウムの中には、2025年で55回目を数えた歴史的に長い実績(1967年第1回開催)を持つものや、国際AEシンポジウム(1972年第1回、本年11月に第27回開催)のように、当協会が主催する国際会議として世界的に広く認知されているものもある。
すべての部門について紹介する余裕はないが、JSMEとの関係が特に深い部門として、応力・ひずみ測定部門が挙げられる。この部門は、協会創設期に設けられた第4分科会が現在まで引き継がれてきたものであるが、設立時点において協会から独立した組織となることも視野に入れて活動を始めたとの経緯からも察せられるとおり、他の三つの分科会とは毛色の異なる力学計測の分野である(確かに、海外の非破壊検査協会にこのような部門を有するものはない)。
「探傷」という言葉が使われることからもわかるとおり、非破壊検査とは、対象に存在する有害な「きず」を見つける技術であり、有害であるのは、応力集中によってそれが材料全体の破壊へとつながるからである。き裂の進展や材料の破壊は、いうまでもなく材料力学分野の主たる研究課題となってきたものであることから、当協会には、JSMEの会員も多く所属しており、これらの研究者・技術者の貢献によって、破壊力学にもとづく損傷許容設計や疲労寿命予測に資するための技術として、非破壊検査技術が、単に「きず」を見つけることに留まらず、きずのサイジング(寸法評価)へと発展することにつながっている。JSMEの材料力学部門とは、1960年代から緊密な関係が維持されている。
ほかにも、応用部門についていえば、素材プロセス部門は、JSMEの機械力学・計測制御部門と親和性をもっているし、プラント保全部門は、発電プラント(特に原子力発電)の保全において、動力エネルギーシステム部門との協調を必要としている(JSMEに設置されている発電用設備規格委員会との連携も維持されなければならない)。さらに、今回、独立部門として新たに設置した情報通信・知能化部門は、JSMEで1991年に設置された情報・知能・精密機械(IIP)部門に対応する。当協会のこの独立部門は、JSMEほど広い視野を持つわけではなく非破壊検査に特化したものであるが、JSMEのIIP部門は、昨今、状態監視・非破壊検査技術などの新しい分野への展開を積極的に進めるとの方向性を出されており、すでに2023年度から、IIP部門講演会において当協会の研究会との連携が始まっている。
標準化活動
当協会は、JISの原案作成団体として、52件の非破壊試験関連のJIS規格を所掌している。非破壊検査に関係するJIS規格は、1955年に、JIS Z 2341(RT:放射線)およびJIS Z 2343(PT:浸透)が制定されたのを皮切りに、1960年代に、UT:超音波、MT:磁粉の基本的な規格に加え、溶接部のRTやUTの規格が次々と制定されていった。これらは、鉄鋼や造船などの分野の急成長を背景としたもので、特に溶接部の品質を保証するために検査の標準化が急務とされたからである。
一方、当協会はNDIS(日本非破壊検査協会規格)という協会独自の規格体系も有している。現在保有するNDISは91件であるが、JIS化されたものや整理・統合されたものを含めると、1965年ごろからこれまでに150を超える独自規格が制定されてきた。これらは、表1に内訳を示しているように、非破壊検査のすべての種別にわたるものであり、後述する技術者認証制度を立ち上げていくにおいて整備が必要とされたものである。これら関連JISやNDISの制定においては、学術の各部門における研究や討議がその基礎となっている。

表1 日本非破壊検査協会が行っている活動・事業
ISO(国際工業規格)については、非破壊試験に関する専門委員会(TC135)が1969年に設置されてから当協会は深いかかわりを持っており、TC135下のすべての分科委員会(SC2~SC9)に対し、協会内に部会を設置して対応するとともに、1992年から日本がISO/TC135の幹事国となってからは、当協会がその幹事国業務を担うとともに、TC135の議長も当協会で歴任している。1981年にISO/IEC Guide21(国際規格の国内規格への採用)が制定され、そのガイドラインにしたがってJIS規格のISO整合化が始まったが、当協会では、表1に示しているように、所掌するJIS規格のISO整合化も積極的に推し進めている。
資格認証事業
当協会が実施・運営している技量認定制度は、正式には1968年(協会18年度)に「非破壊検査技術者技量認定規程」が制定されたことに始まる。当初は、官庁が認定機関になるべきとの考えであったが、非破壊検査のフィールドが、通産省(圧力容器)、労働省(ボイラー)、運輸省(船舶)など多岐の省庁に関係していたため、説得は不調に終わり、結果として協会自体で制度の設計と実施のすべてを担うことになった。1969年6月のUT 2級の認定試験を最初として、1977年に「技量認定規程」が改めてNDIS 0601として制定されるまでの間に、RT、UT、MT、PT、ET(渦電流)、SM(ひずみ測定)の6部門について、1、2、3級(現在のレベル3、2、1)の技量認定制度が整ったのである。2012年からは、LT(漏れ試験)とTT(赤外線サーモグラフィ)が加わって、計8部門となっている。
2024年度末の時点で、非破壊検査技術者の登録件数は83,982件であり、世界有数の資格保有者数を誇っている。なお、種別ごとの数は表1に示すとおりである。当初、協会の独自規格をもとに開始された技術者認証制度であったが、2003年にはこれをJISへと移行し(JIS Z 2305)、2015年からはISO 9712にしたがった認証を実施している。なお、協会では、さらに上位の資格として「非破壊検査総合管理技術者」すなわち、非破壊検査のエキスパートの認定も行っている。現在のその登録者は240名である。また、2017年からは、NAS410(米国の国家規格)にもとづいた航空宇宙分野での非破壊検査技術者の資格認証も開始している。
JSMEでは、ISO/TC108/SC5(Condition Monitoring)で策定された機械状態監視診断技術者認証制度(ISO18436)にもとづく事業が、振動(2004年から)、トライボロジー(2009年から)の2分野で行われているが、当協会では、赤外線サーモグラフィによる状態監視分野の技術者認証を引き受け、2016年10月から資格試験を開始している。
教育事業
非破壊試験技術者育成のため、当協会では、教育センターを東京と大阪に設置して、講習会事業を展開している。検査手法の種別と資格のレベルに応じた、技術講習会(新規受験者対象/講義+実技/1976年より)と、実技講習会(1次試験合格者、2次再試験受験者、再認証試験受験者を対象/実技のみ/1999年より)を、毎年、春期と秋期に開催している。各講習会の受講者数は、表1に示したとおりである。また、これに加えて、協会の支部においても、講習会(技術講習会および支部独自の試験対策講習会)を実施している。東北支部(UT, PT)、中部支部(UT, MT, PT)、四国支部(UT, PT)、九州支部(RT, UT, MT)である。
また協会では、出版委員会を設けて、自主学習や講習会での利用のために、方法種別と資格レベルに応じたテキストと問題集を出版・頒布している。また、さらに高度な内容や関連分野の知識習得のための参考書も出版している。これらの書籍は、資格試験受験者のためだけでなく、非破壊検査の各方法について詳しく知りうる唯一のものとして、大学や高専の学生にとっても良い教材となっている。
なお、テキストや問題集は、非破壊検査技術の進歩と対応する規格の改正とともに、数年ごとに見直しが行われており、その作業には多くの研究者や技術者が携わっている。
おわりに
日本非破壊検査協会の諸活動について概説させていただいた。会員数としてはJSMEの10分の1程度に過ぎないが、多くの先人の努力によって、ある意味で身の丈を超えるほどの事業(財政規模はほぼ同等)を整備・展開するに及んでいる。他の工学分野同様、非破壊検査技術も日々進歩し、検査の実施から結果評価・判定は、ロボットやAIへの置換えを真剣に議論する時期となっている。それらの点からも、多くの人材を抱え、我が国の工学の発展を先導しておられる日本機械学会の知恵と力量を、是非ともお貸しいただきたいと考えている。今後とも当協会との人材交流とさらなる連携の強化をお願いするしだいである。
塚田 和彦
◎日本非破壊検査協会 前副会長(学術担当)、元 京都大学