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2026/4 Vol.129

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活動報告

原宿で語り合う、キャリアと技術の多様性 日本機械学会若手の会 第2回技術講演・交流会レポート

若者文化の発信地として知られる原宿。その中心エリアに位置する商業施設内のイベントスペース「LIFORK原宿」に、機械工学の第一線で活躍する若手技術者・研究者たちが集まった。

2026年1月27日、日本機械学会若手の会によるイベント「第2回技術講演・交流会」が開催された。2025年、大手町のオフィス街で産声を上げた本会は、2回目の開催地として、よりクリエイティブで開放的な原宿が選ばれた。「オープンな雰囲気を重視して、山手線を一周して場所を探し回りました」と運営委員である日立製作所の米谷直樹氏が語るとおり、テラスから自然光が差し込む会場は、従来の学会のイメージとは異なり、明るく自由な空気に満ちていた。

3分間で語る、研究と人となり

開会に際し、幹事を務める関東学院大学の堀田智哉氏は「本会は若手同士の交流を深めるために始まったもの。ぜひ積極的に話してほしい」と挨拶し、参加者に能動的なコミュニケーションを促した。

イベントの前半は、持ち時間1人3分のショートプレゼンテーションが行われた。今回登壇したのは、メーカー、大学、そして独立コンサルタントと、前回以上に多様なバックグラウンドを持つ8名だ。技術紹介にとどまらず、登壇者の個性やキャリア観が垣間見える発表が続いた。

三菱電機の安井琢也氏は、エレベーターの振動制御という精緻な技術を紹介する一方で、「実は大阪・関西万博に24回行きました」と自己紹介し、トップバッターとして会場の空気を和ませた。

また、東京科学大学のJIANG MING氏は上肢リハビリ支援ロボットの研究を紹介しつつ、「同じ仕事を3年続けていると飽きてしまう性格。だからこそ、新しいテーマや異分野に次々と挑戦している」と自己分析。その特性を活かし、新しいテーマや異分野へ積極的に挑戦し続けている現状を語った。

ミクロの沸騰から、海に浮かぶ発電所まで

技術的なトピックとしては、エネルギー、モビリティ、流体、基礎理論と、分野横断的なテーマが並んだ。

東北大学の岡島淳之介氏は、極低温流体である液体水素の沸騰現象について発表。宇宙航空研究開発機構(JAXA)で撮影したという液体水素の沸騰映像や、極薄液膜を捉えるシミュレーション技術を紹介し、水素社会実現に向けた基礎研究の重要性を説いた。

電力中央研究所の池田寛氏は、海の上に原子力発電所を浮かべる「浮体式原子力発電」というプロジェクトを紹介。洋上での揺れが原子炉内のボイド率(気泡の割合)に与える影響について、実験的なアプローチを解説した。

産業界での応用事例として、SOKENの山下勇人氏は、車両の1Dシミュレーション技術について解説した。デンソーとトヨタ自動車の合弁研究所である同社の強みである計測技術を活かし、実測データに基づいてシミュレーション精度を担保する手法を紹介。バッテリー容量や車室内の温度変化などを高精度に予測し、車両開発に貢献する取組みを説明した。

また、東京理科大学の荒木亮氏は、情報の因果関係に基づいた流れのモード分解手法を提案。未来の物理量に寄与する成分を抽出するという理論的な枠組みを示し、流体制御への応用可能性について論じた。

技術を武器に、新たなフィールドへ

今回の大きな特徴の一つは、技術者のキャリアパスとして設計・開発や研究以外の視点も提示されたことだ。

川崎重工業の高田広崇氏は、長年の技術者としての経験を経て、現在は技術開発の企画運営業務に従事している。「研究開発以外のいわば雑用も含みますが、働きやすい環境を作る重要な役割」と語る高田氏の発表は、組織運営やマネジメントに興味を持つ若手にとってリアルなロールモデルとなった。

また、関西から参加した嶌中デザインアンドコンサルティングの嶌中祐仁氏は、メーカー勤務を経て独立し、技術・経営コンサルティングを行っている。「コンサルタントという職種に馴染みのない技術者も多い」としたうえで、コンサルティングにおける「現状分析・計画・実行」のプロセスは、エンジニアリングにおける「研究・設計・実験」と構造的に同義であると指摘。技術者としての思考プロセスが経営支援にも応用可能であるとの見解を示した。

利害関係のない場としての機能

ショートプレゼン後のポスターセッション、そして夕方からの交流会では、原宿の夕暮れとともに会場の熱気が高まっていった。若手の会委員長を務める日立製作所の荒川貴文氏は、普段の業務や共同研究のような利害関係がないフラットな場であることを強調する。

「業務上では成果や契約が前提となるため、基礎的な質問をためらう場面もありますが、ここでは素朴な疑問も含めて率直な意見交換をすることができます」(荒川氏)

実際に会場では、異なる専門分野を持つ技術者や研究者同士が、それぞれの視点から質問を投げかける様子が見られた。第1回からのリピーターも参加し、この場が若手技術者にとってのサードプレイスとして定着しつつあることを感じさせた。

知識の”引き出し”を増やす場所

専門分野も所属も異なるメンバーが集まるこの会について、参加者の嶌中氏は「直接すぐに明日の仕事に使える話ではないかもしれません。でも、なんとなく頭の片隅に溜まっていく。自分の知識の“引き出し”がどんどん増えていくイメージですね。それがいつか、ふとした瞬間に仕事につながるのだと思います」と語る。

専門分野の細分化が進むなか、機械工学という共通項を持ちながらも、多様な技術・キャリアに触れられる場の重要性は高まっている。あえて専門外の領域に触れ、視野を広げようとする参加者の姿からは、変化の激しい時代を柔軟に乗り越えようとする若手技術者の熱意が感じられた。

「今後も、ふらっと立ち寄って、自分の知らない世界に触れられる、そんな『緩やかだけど刺激的な場所』であり続けたい」と荒川氏は語る。日本機械学会若手の会では、今後も継続的に本イベントを開催していく方針だ。まだ見ぬ技術、そして自分の引き出しを増やしてくれる仲間との出会いを求めて、次回、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

取材・文 周藤 瞳美

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