特集 宇宙エレベーター実現へのハードルと可能性
小惑星で展開する宇宙エレベーター開発
はじめに
ケーブルを昇って宇宙へ
宇宙エレベーターは、ケーブルまたはテザー(以下、ケーブル)を利用して天体の表面と宇宙空間と行き来する宇宙輸送機関であり、軌道エレベーターとも呼ばれる。ロケットのような飛翔体ではなく、ケーブルのような支持体を昇って宇宙に行くというアイデアは、発想としては素朴であり、提案されたのは意外に古い。
初めて支持体を昇って宇宙空間に行くアイデアを著したのは、1895年のコンスタンチン・エドゥアルドビッチ・ツィオルコフスキーだといわれている。赤道上に塔を建て、どんどん高くしていくと、静止軌道に達したところで無重力状態になると、科学エッセイ『地球と空の夢』(小説風『空と大地の間,そしてヴェスタの上における夢想』)(1)に書いている。これが宇宙エレベーターに関する初の言及といわれている。
しかし、地表から塔を伸ばして宇宙に行くというアイデアは、実質上実現不可能である。例えば、コンクリートを用いて高さ100kmの塔を建てると底面の半径は1,600kmにもなり(2)、とても現実的とはいえない。
地球周回軌道から地表までケーブルを垂らすという、現在構想されているような形式の宇宙エレベーターを最初に述べたのは、1960年のユーリー・アルツターノフだといわれている。旧ソビエト連邦で発行されていた機関紙『コムソモリスカヤ・プラウダ』の日曜特集として書かれた「電車で宇宙へ」という記事(3)で、ケーブルを静止軌道上から地表側と宇宙側にそれぞれ伸ばしていくというアイデアが書かれている。また、電力で駆動する電車のような乗り物を昇降させることや、ケーブルから宇宙空間に物体を射出する軌道カタパルトなどについても言及されている。
しかしこのアイデアも、ケーブルに要求される強さと軽さが非現実的であり、工学的には実現不可能な夢物語といわれていた。
工学的な実現の可能性が議論されるようになったのは、1991年に当時NEC基礎研究所に所属していた飯島澄男によるカーボンナノチューブ(CNT)の発見(4)をきっかけとする。強さと軽さを兼ね備えたCNTが宇宙エレベーターのケーブル材料としての要件を満たす可能性があることがわかり、1999年にアメリカ航空宇宙局(NASA)のマーシャル宇宙飛行センターで開催された「高度な宇宙インフラストラクチャーに関するワークショップ」(5)と、2000年に同じくNASAの助成を受けたロスアラモス国立研究所員のブラッドリー・C・エドワーズによる宇宙エレベーターの実現可能性についての報告(6)により、宇宙エレベーターを現実的な課題として検討しようという雰囲気が醸成された。
しかし現在までのところ、地球に設置する宇宙エレベーターが実現する見込みは立っていない。そのため現状では、宇宙空間でのケーブルの運動解析のような基礎研究やクライマー(昇降機)などの要素技術の開発に留まっている。
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