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2023/4 Vol.126

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転ばぬ先の失敗学

第4回 ナレッジマネジメントによる失敗防止策の効果とその限界

中尾 政之(東京大学大学院)

失敗学=失敗のナレッジマネジメント

誰でもちょっとでも活動すれば、失敗して痛い目にあう。しかし痛いからこそ、失敗分析・再発防止し、賢くなる。でも、人間の一生は短い。一人が全種類の失敗を体験するのは無理。そこで共存型の人類は「他人の失敗まで調べて社会全体で知識活用しよう」と考えた。筆者の失敗学もこの人類が得意な「失敗のナレッジマネジメント」に過ぎない。具体的には「1.失敗を隠さずに事実を分析し、デジタル保存する」「2.アレッ、変だなと感じたら、似ている失敗事例を検索する」「3.仲間と知識共有し、再発防止策を講じる」という流れを実行する。そんなことはローマ時代からやっていたと言われるが、大きく違うのは「デジタル化」である。2000年以前の日本はひどかった。紙媒体の事故調査書や始末書は10年のうちに雲散霧消し、幸いに残ったとしても、読むには図書館や保管庫で資料探索しないとならなかった。

筆者の「失敗学」は2001年にJST「社会技術研究プロジェクト」に採択された。これから工学・工業の失敗知識を集めまくり、2005年に「失敗百選」を執筆した。 最後に2006年にJST「失敗知識データベース整備事業」で、このナレッジマネジメントを実証した。具体的には、まず、日本機械学会員のプロの技術者90名に頼んで、「自分が過去に体験した、または現在、危惧しているリスク(計203個)」を書いてもらった。その内容が失敗百選で述べた共通シナリオ(表1の41個)の中のどれかに含まれれば、筆者は編纂した共通シナリオの有効性が証明できる。思い起こせば、上述プロジェクトの採択合否を決める最終面談で、「学生が失敗シナリオを100個勉強しても、次の事故は別個の101個目かもネ」と痛いところを突かれ、冷汗を掻いた。人類は創造活動し続けているので、未知の失敗が出現し続ける?

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