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2023/11 Vol.126

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Myメカライフ

持続可能なエネルギーの実現への貢献

深谷 侑輝〔東芝エネルギーシステムズ(株) 〕

この度、「大型ウィンドファームにおける風車後流影響を評価可能な風況解析手法の開発」というテーマに対して、日本機械学会奨励賞(技術)をいただきました。本稿では、恐縮ながらも筆者のこれまでの経験や風力発電に関わる研究について紹介させていただきます。

私は、エネルギー関係の研究に興味があり、“すべてのエネルギーは最終的には熱になる”と言葉もあるように、大学時代には伝熱系の研究室に博士課程までお世話になりました。具体的には、高温高圧の気体の物性計測や鋼板のスプレー冷却、揮発性液滴の蒸発に伴う不安定現象などさまざまな研究テーマに取り組みました。現在の業務とは直接関係はなくなってしまいましたが、物事の考え方など基本的な研究のスタイルは大学での経験が今の基礎になっていると感じています。入社後は、しばらくの間、回転機器の冷却技術の開発に従事し、時代の移り変わりとともに風力発電の特に風の流れ(風況)に関連する研究開発に携わるようになりました。

風況の研究において、風車後流が主要なテーマの一つです。複数の風車が設置されるウィンドファームでは、後流側に設置された風車において、風の減速による発電量の低下や、風の乱れの増加による疲労荷重の増大のリスクがあるため、効果的な風車立地位置の検討、発電量評価、および運転制御検討を実現するためには、風車後流を正しく評価することが重要です。風力発電では、周囲地形を含んだ広大な領域を扱うため、計算コストを抑えつつ、風車が気流に与える影響を適切にモデル化する必要があります。

受賞テーマでは、この風車後流について、汎用的に事業性評価へ利用できる数値モデルの開発に取り組みました。リモートセンシング機器を利用したサイト観測や風車翼の細部まで解像した詳細な数値解析結果によりモデルを検証し、さらに、洋上環境下でより重要になると考えられる大気安定度の影響を反映してモデルを改良しました。条件がコントロールできない自然相手なので、観測時に目的のデータを得られなかったり、大量のデータから評価すべき条件に合致するデータを抽出する必要があったり、観測条件と解析条件の差に苦しめられたりと、風力特有の困難もありましたが、共同研究を行っていただいた皆様をはじめとして周りの方々の大きなサポートもあって、研究を形にすることができました。

風力発電業界では、共同研究に加え、業種の垣根を越え、他機関の方々と関われる機会も多いと感じます。そのため、社外からも多くのことが学べる環境があることが研究の楽しみになっています。また、自らが解析やデータ分析を行う風力サイトには、調査・見学に行ける機会が多くあることも風力発電の業務に関わる上での楽しみの一つです。現地では、風車の中に入ることもでき、ナセルに登って周囲を見渡すと、風況場を形成する地形を確認できるとともに、開放的な自然の景色を満喫することができます。

風力発電は、気候変動の抑制や環境負荷の軽減という観点だけでなく、日本のエネルギー自給率を向上する意味でも意義が深いと思っています。昨今では、洋上風力発電のニュースがよく聞こえるようになってきましたが、発電電力量に占める風力発電の比率は、日本では1%程度とまだまだ低く、これから発展する分野と認識しています。その中で、今後、私自身が携わった技術が実用化され、少しでも社会の課題の解決と風力発電の発展に貢献できるように精進していこうと思います。

風車ナセル上からの眺め


<正員>

深谷 侑輝

◎東芝エネルギーシステムズ(株) エネルギーシステム技術開発センター 機械技術開発部 スペシャリスト

◎専門:機械工学、風力、伝熱工学

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