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2024/1 Vol.127

表紙:本誌連載企画「絶滅危惧科目- 基盤技術維持のための再考-」のコンセプトに合わせてイラストレーター坂内拓氏とデザイン。本号は「蒸気エンジン」がモチーフ。

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Myメカライフ

機械工学の新時代へ

藤田 豊〔三菱重工業(株)〕

この度、『乗用車エンジン向けターボチャージャに用いる高効率ワイドレンジ遠心圧縮機の開発』というテーマで日本機械学会奨励賞(技術)を受賞したことに際し、本稿の執筆の機会をいただきました。流体力学に携わってきたこれまでを振り返りつつ、機械工学の将来と今後の展望について、自分の思いを語ってみたいと思います。

私はターボチャージャ・ジェットエンジンなど、ターボ機械を中心とした流体機械の研究開発に従事していますが、これらの製品の形状や性能を決定づける重要な要素が空力検討になります。強度・構造・振動・熱・制御などの機械設計は、空力検討なしには始まらないことも多いです。そのような製品開発の最上流である流体力学の世界は私にとって魅力的であり、これまでさまざまな製品開発に取り組んできました。

ここで、流体力学の歴史を振り返ると、20世紀初頭までは理論・実験という二つのアプローチが主流でした。そこに、1970年代ごろからコンピュータを活用して流体の挙動を数値的に解析する手法である数値流体力学(CFD: Computational Fluid Dynamics)が台頭してきました。かつては”Colorful Fluid Dynamics”などと揶揄されることもあったこの技術ですが、解析理論と計算機の進歩により、研究開発や製品設計に欠かせないツールとなりました。今や、工学製品の設計・開発においてCFDを使っていない会社はないといっても過言ではありません。

そして今、私たちはさらなる技術革新の波を目の当たりにしています。それが、AI・データサイエンスという新たな時代です。この技術は流体力学の世界にも急速に浸透し、形状設計や性能予測に適用されるなど、理論・実験・CFDに次ぐ第四のアプローチ方法として注目を集めています。製品開発に当たり前のように使われる日も近いに違いありません。機械工学への応用が本格的に進めば、最適化・自動化・自律化など、著しい生産性の向上につながり、現代社会は一変するだろうと思います。ほかにも、技術細分化が進み、専門分野間のコミュニケーションが難しくなった結果、全体像が把握しづらくなってきているという現代の工学分野が抱える課題の解決にも一翼を担ってくれるかもしれません。例えば、別の分野を専攻するエンジニアとうまく意思疎通ができない経験をしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。分野や製品が違えばもちろんのことですが、同じ流体力学を専攻しているエンジニアでさえも、CFDをメインに仕事をする者と実験をメインに仕事をする者ではものの見方が大きく異なることがあります。きっと生成系AIがこのような分散した分野を横断し、技術者たちの架け橋となってくれる日が来るだろうと思います。

私はこのAI・データサイエンス技術をインターネット以来の革新的技術であると捉えています。2024年現在、利用への懸念や反対の声も多く聞かれる状態ですが、歴史を振り返ると、インターネットやソーシャルメディア、スマートフォンなどの技術が登場した当初も、セキュリティ・情報拡散・プライバシーの面で多くの批判がありました。それでも、これらの技術が浸透するにつれて社会は変化し、我々の生活に欠かせないものになりました。新しい技術が登場する際には常にこのような賛否両論が生じますが、それが社会にもたらす未来の可能性を見据えることが大切だと思います。日本は1990年から2010年代にかけて進んだ第3次産業革命に出遅れ、失われた30年と呼ばれる苦しい時代を過ごしてきました。その経験を活かし、今度こそ新しい技術の波に乗り遅れてはなりません。

私は機械工学を『挑戦と創造の場』だと思っています。いつの時代も、情熱と好奇心が世界を変えてきました。私は、新しい技術を臆することなく積極的に取り入れ、あらゆる可能性を追求し続ける姿勢を持ち続けていたいです。それが、豊かな未来を切り拓き、持続可能な社会の実現への第一歩になるのだと信じています。


<正員>

藤田 豊

◎三菱重工業(株) 総合研究所 流体研究部 主任研究員

◎専門:流体工学

 

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