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2025/12 Vol.128

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技術のみちのり

乗らずに刈る! 熟練者の技を持つコンバイン (株)クボタ

2024 年度学会賞(技術)
「無人自動運転コンバインの開発」
(株)クボタ

世界初の無人自動運転コンバイン

日本では農業従事者が減少し、農業の効率化や省力化が求められている。2024年1月、(株)クボタは世界で初めて、人が乗らずに自動運転で米や麦の収穫作業を行う「アグリロボコンバインDRH1200A-A」(図1)を発売した。

図1 アグリロボコンバインDRH1200A-A
(ミリ波レーダは機体の前とうしろに付いている)

農機の自動運転は大きく三つのレベルに分かれている。レベル1は人が搭乗しての自動走行、レベル2は人が目視可能な場所から監視する自動走行、レベル3は遠隔監視による自動走行だ。クボタは2017年にレベル2対応の自動運転トラクタを開発。次いで2018年にレベル1自動運転コンバイン、2020年にはレベル2自動運転田植え機を開発した。次に開発するのはレベル2自動運転コンバインだ。コンセプトは「熟練者と同じ作業を自動化するコンバイン」、熟練者が操作するコンバインの動きを自動運転で再現するのだ。実は2019年から先行研究を始めていたのだが、いくつもの課題が開発を阻んでいた。

 

人の検出

無人自動運転には、人や車両を検知して自動停止する機能が必須になる。しかし土を耕すトラクタや田植え機と違い、コンバインは圃場(耕作する農地)に作物が生えている状態で作業をするため、作物や雑草、鳥やほこりには反応せずに、人や車両を検出する機能が必要だ。これが最大の難題だった。

人を検出する方法を探している時、「AIを使おう」という声が上がった。コンバイン上部の前後左右4か所に取り付けたカメラで画像を取得し、そこに人が写っているのかをAIに画像認識させるのだ。農機にAIを導入するのはクボタでは初の試みだが、ほかに選択肢はなかった。

この技術を実現するためには、AIが人を見分けられるように学習させなければならない。それには収穫時期に圃場に入った人の画像が大量に必要だ。そこで日本各地の田畑に行き、洋服を取りかえるなど工夫して、あらゆるパターンの「圃場の中にいる人」の画像を撮影した。数年かけて、30万枚もの画像を集めたという。

そして最適なAI画像認識アルゴリズムを探し出し、構造を変えるなどして、使うことにした。しかし人以外の物体を人と誤判定してしまうケースが発生。取得した画像に写っている機体の一部や影、背景が複合的に影響したためだった。そこで取得した画像に機体や背景を隠すためのマスキング処理を施した。AIのソフトウェア開発も難航したが、湯浅のサポートにより「人の検出技術」は期日ギリギリで完成した。

車両の検出

車両(作物運搬車や農機)の検出には、当初はAIによる画像認識を用いることを考えていたが、コンピュータの性能や開発にかかる時間を考慮し、他の方法を探すことにした。その結果、自動車の自動運転で車両周辺の検知に用いられているミリ波レーダを採用することに決めた。

ミリ波レーダはミリ波帯の電磁波を対象物に照射し、反射して戻ってきた電磁波を計測して、対象物までの距離や位置を測定するセンサーだ。

反射波には車両の他、作物や雑草の成分が含まれている。しかし金属製の車両は作物や雑草より反射波の信号強度が強いため、反射波の判定閾値(境界線となる値)を高く設定すれば、車両の反射波のみを検出できる。「この閾値を見つけるは大変だった」と江戸は言う。また、可動するコンバインの刈取り部に照射した電磁波が当たらないように、ミリ波レーダの取り付け場所を決めるのにも試行錯誤した。

刈取り経路の生成技術

従来のレベル1自動運転コンバインは、手動運転で圃場の最外周の刈取り作業を3周ほど行い、圃場の角にコンバインが旋回するスペースを作ると、その後は自動運転で刈取りができる。

新コンバインでは自動運転領域を拡大するため、手動運転での刈取りは1周にした。しかし1周では旋回可能なスペースを作れない。

熟練者は圃場の角部分でコンバインを斜めに前後進させる動作を繰り返して、多角形になるように刈取りを行い、旋回スペースを作っている(図2)ので、この刈取り技術を自動運転に取り入れた。

図2 圃場の角部分の刈取り方法

また、熟練者は圃場の角を刈取る時、あぜが低い場合は機体の一部をあぜの上に飛び出させながら旋回させる。これにより、旋回スペースを作るための前後進の回数が減り、作業時間が短縮できるのだ。これを自動化するには、あぜの高さを測る技術が必要だった。

そこで手動運転で最外周を刈取りする際、機体の前方上側に搭載した2D-LiDAR(レーザ光を照射し、対象物までの距離や位置を測定するセンサー)を使って、機体前方の3次元点群データを取得。これを座標に変換して、あぜ高さマップを作成した(図3)。吉田はあぜの高さマップを用いて、あぜの上に機体前後の一部を飛び出しながら旋回させるための経路開発にかなり苦労したという。

図3 2D-LiDARを用いて作成したあぜ高さマップ

作物の高さに応じた刈取り部の制御

熟練者は作物の高さが違っていても倒れていても刈り残しをせずに刈取り作業を行うことができる。作物の高さに合わせて刈取り部のリールの位置や車速を適切に調整しているからだ。この技術をコンバインの動作に反映させた。

林は、自動運転で刈取りをしながら、2D-LiDARで機体前方の作物の3次元点群データを取得し、作物高さマップを作成することにした。これを用いて、リールの高さと前後の位置、リールの回転数、車速を自動制御するのだ。これにより倒伏角度が60°(直立した状態から60°倒れている状態。地面からは30°)までの作物の刈取りを可能にした。

刈取り詰まりの自動除去

熟練者の操作を観察し、刈取り中に刈取り部に詰まった作物を自動で除去する技術を開発した。

作物が詰まって刈取り部の回転が停止したことを回転センサーが検知すると、走行を停止して、刈取り部を上昇させながら後進する。そして刈取り部を逆回転させて詰まった作物を前方に放出する。この時、瞬間的に大きなトルクが必要になるため、エンジン始動用のスタータモータを使って高トルクを実現し、ギアトレイン機構を用いて逆回転する仕組みを開発した。詰まりを除去した後は刈取り部を下げて走行し、前方に放出した作物を回収する。この逆回転する機構の開発は難しく、藤田を手こずらせた。瞬時に高トルクを加えるため、部品の強度を検討し、さまざまな部品を1から設計し直さなければならなかった。

誰もが農業を始められる時代へ

技術的な解決の見込みが立ち、2022年から本格的に開発がスタート。技術者たちが一致団結してすべての課題を乗り越え、無人自動運転コンバインが完成した。一つでも機能が欠けてしまうと製品までたどりつかないので、コミュニケーションをしっかり取りながら進めていくことが重要だった。実は開発メンバーは自ら刈取り作業をして、機械の動きや収穫作業を理解し、条件や設定値を決めていったのだ。

現在は市場からの要望に応えるために新たな開発に取り組んでいる。1周目も無人自動運転を行なえるようにしてほしいという声もある。そして最終的に目指すのはレベル3自動運転コンバインの実現だ。

完成したコンバインを使いながら、ある農業従事者が言った言葉は「世の中が変わるね」。開発した農機で農業従事者が増え、日本の農業が活性化する日は近い。

取材・文 山田ふしぎ

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