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名誉員から一言

長期的視点を含む評価プロセスの検証

歳を経れば、物事がよく見えてくると言われるのは、いろいろな経験を通して判断力が高まるからであろうか。歳を取り過ぎると、眼が霞んで判断が鈍ることもあり、歳を取ることの意味をいろいろ考えさせられる。

大学で長年に亘り研究と教育に取り組んできた。学生の身分から大学に籍を移した当初は、昇任や研究科委員の資格審査に際し、研究を中心とした業績が評価され、また、各財団の研究助成金や学術振興会の科学研究費を申請すると、数ヶ月か半年後には審査結果が届き、数々の評価を受けることになる。評価される場合、評価基準がある程度明文化されているので、評価結果を納得することが多い。

一方、評価を受けるばかりでなく、教員の立場から学生の成績評価もある。この他、大学の外部でもいろいろと評価する仕事がある。組織の評価であれば、 JABEEや大学基準協会等で実施する各大学の学科や学部の教育プログラムや教員組織の評価、研究であれば、学術振興会や科学技術振興機構における研究課題の評価、そして、学会での表彰業務における研究評価ならびに組織や個人の業績評価など、数多くの評価の仕事がある。

大学で過ごした40年間を振り返ると、歳を経て経験を積むと、評価する側に回ることが多くなり、歳と共に評価の回数や種類が増える。このような経験の中で、評価する場合、経験の多寡に拘らず、いつも感じたことは、自身で評価した結果でさえ、評価の妥当性はすぐにわからず、かなりの時間を経て、漠然とわかることであった。したがって、自身の評価を検証することが非常に少なかった。その理由としては、評価作業が終了すると、個人情報の管理の観点から、申請書類を裁断処理するか、評価機関に返却するので、関係書類は手元に一切残されていない。そして、忘れた頃に研究成果報告書が届いても、評価した際の資料もないので、記憶により自身の評価の妥当性を検証することになる。このように自身の評価結果を検証するにも時間経過に伴う不確かさが残ることを幾度となく感じたものである。併せて、このような評価作業が繰り返されることを余儀なくされてきた。

昨今、ほとんどの大学で授業評価が実施されている。教員の授業内容が学生から評価されるのである。1990年代に各大学で開始され、質問の設定や質問項目に工夫が施され、試行錯誤を経て、かなり完成度が高いシステムになっている。これは半年、あるいは1年間の授業を受けた際の学生による短期的評価(Short Term Evaluation)であるが、これに対して、長期的評価(Long Term Evaluation)もある。つまり、大学を卒業して10年、20年後に学生時代に受けた授業を評価できれば、これはまさしく長期間にわたる評価と言える。社会人としての経験が加味され、社会人の視点も含めた評価が加わると、より多角的な評価となり、システム改善に効果的な指針を与えると思われる。併せて、短期と長期の評価にどのような相関があるのか非常に興味深い。このようなデータを集めることは極めて負担が大きく、定性的な評価にとどまり、定量的な評価を実施して、システムとして完成している例は極めて少ないと思う。

大学の内外では、評価する、あるいは評価されることが数多く行われているが、評価プロセスの妥当性が果たして、十分に検証されてきたであろうか。研究成果の評価に関して、過去に大型の重点研究プロジェクトが公募され、数々のプロジェクトが実施に移され、多くの成果が得られている。そこで、世界的な研究を主導する成果が得られているかを検証なり、総括することが少ないように思う。自分自身の経験を振り返っても、時間遅れに伴う不確かさの点を含め、反省の余地が残る。研究業績を評価する場合、将来輝き出す原石を探し出すことができたか。輝くであろうと判断したが、結局、輝かない石に高い評価を与えたことはなかったか。しかし、検証を試みる暇もなく、評価が繰り返されたことは否めない。

1980年代初頭に流体力学分野の複雑乱流の数値解析法を評価するためのプロジェクトが米国スタンフォード大学で実施された。評価の詳細は省くが、評価プロセスをオープンにすることが、後の研究にどのように反映したかは、その後の数値計算法の発展を見れば、うかがい知ることができる。計算機のコストパーフォーマンスの向上というハード面での発展もあるが、数値流体力学が流体機械の設計段階に反映していることは間違いない。このようにプロジェクトの評価結果が見える形で学会や社会に還元される場合もあれば、陽に現れない場合もある。

今後、グローバルに展開するには、評価プロセスの公開に注意を払い、評価プロセスを検証するシステムの構築が必要と考える。併せて、短期的ばかりでなく、過去に遡って検証することを疎んじる風潮があるかもしれないが、長期的評価の視点を加えることも必要と考える次第である。


<名誉員>

本阿彌 眞治

◎東京理科大学 名誉教授

◎専門:熱流体工学

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