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2022/6 Vol.125

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特集 新技術の安全・安心はいかにして確保されるべきか

機械技術者のリスク管理

向殿 政男(明治大学)

まえがき

機械技術者にかかわるリスクには、実は二つの面があることを忘れてはならない。一つは、他者に与えるリスクであり、もう一つは、自分自身に降りかかるリスクである。ここで、他者とは、機械技術者が関係した機械設備を直接使用する利用者、導入して事業を行っている企業であり、さらに機械設備をインフラとして利用している一般の人や社会のことである。一方、自分自身に振りかかるリスクとは、他者に与えるリスクが顕在化して危害が発生した場合の責任である。

本稿では、安全に関する常識を確認した後に、国際安全規格や労働安全衛生法に見る機械技術者の責任について解説し、機械技術者のものづくりにおけるリスク管理について概観する。最後に、新しい技術が出てきた場合の安全に関する機械技術者の役割と責任について述べる。

安全の常識

機械技術者にとって必要最低限としての安全の常識を、ものづくりを念頭に、整理しておこう。安全は、リスクを経由して定義され、リスクは危害の頻度とひどさによって定義される。危害とは、守るべき対象とそれを脅かす危険源に関係していて、守るべき対象に危険源によって生ずる可能性のある傷害や損害などのことである。

製品、機械、システム、サービスなどの安全性に関する規格類を作成するためのガイドラインであるISO/IECガイド51(1)には、これら安全、リスク、危害、そして本稿で最も基本になる重要な概念の「許容可能なリスク」の定義がある。それを表1に示しておく。

 

表1 ISO/IEガイド51における安全に関連する諸定義

注目すべきことは、安全は許容不可能なリスクがないことすなわち、安全とは「許容可能なリスクしか残っていない」状態を意味していることである。逆に言えば、安全といっても許容可能なレベルのリスクは残っていることになる。したがって、絶対安全(リスクゼロ)は放棄していて、使用者には残っているリスクに注意して機械などを使う役割があることも意味している。

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