日本機械学会サイト

目次に戻る

2022/6 Vol.125

バックナンバー

特集 新技術の安全・安心はいかにして確保されるべきか

公益通報者保護制度の発展系譜と新たな課題

髙野 一彦(関西大学)

はじめに

2021年6月30日、電機M社は長崎製作所で製造する鉄道車両用の空調設備の一部で不適切な検査などが行われていたことが社内調査で判明したと公表した(1)。その後、本件は他の工場、製品でも行われていたことが判明し、社長・会長の退任に至っている。

近年、企業による品質・検査不正、データ改ざんなどの事件が散見されるようになった。これらの事件には二つの特徴がある。第一は、多くの事件が大企業およびそのグループ会社で起こっていることである。このような大企業の製品は、国内外の多くの企業に採用され、また多くの消費者が購入しており、その影響は極めて大きい。まさに我が国の安全・安心な社会の基盤を脅かす、社会安全学上の重要な問題と考えて良いのではないだろうか。

第二は、これらの事件の多くは内部通報・内部告発*1で発覚しており、発覚後は各企業において社内調査が行われ、再発防止の対策が施されていることである。このように考えると、問題解決の端緒としての内部通報・内部告発は、安全・安心な社会の構築のための重要な要素と考えられる。

本稿では、公益通報者保護法の成立と発展の系譜をたどり、我が国における同制度の更なる発展の可能性を探求する(2)

洋の東西を問わず告発者が「裏切者」だった時代

1999年に公開された映画「インサイダー」をご存知だろうか。米国のタバコメーカーの研究開発担当副社長が、タバコに常習性を増す薬剤を使用している同社の行為を告発しようとしたことで、数々の脅迫や嫌がらせを受け、またネガティブ・キャンペーンを展開されるというストーリーの映画である。この映画は実話をもとに制作されており、告発者が裏切者として扱われる様子が描かれている。

我が国では、2002年1月に発覚した食品Y社の偽装牛肉事件が象徴的であろう。BSE(牛海綿状脳症)対策のために、農林水産省が行っていた国産牛肉の買取り事業に対し、同社は外国産牛肉を国産用の箱に詰め替えて買い取らせていた。倉庫業務を受託していた倉庫N社の社長が告発し発覚した事件である。この告発を契機として、その後多くの食肉会社がBSE対策事業で偽装を行っていたことが発覚した。

倉庫N社の社長の告発は社会的に有益であったが、同社に倉庫業務を委託していた多くの企業が取引をやめ、同社の経営は苦境に陥ったのである。

このように、「告発者」は洋の東西を問わず、裏切者として厳しい境遇におかれた時代があったのである。

社会の認識を変えた米国の二つの事件

会員ログイン

続きを読むには会員ログインが必要です。機械学会会員の方はこちらからログインしてください。

入会のご案内

パスワードをお忘れの方はこちら

キーワード: