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2023/2 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」

カーボンニュートラル社会に向けたグリーン・エネルギーの活用―セクター・カップリングの観点から―

田中 いずみ(デンマーク大使館)

はじめに

デンマークは九州ぐらいの面積に人口約580万人が住む比較的小さな国であり、昔から絵本の中の風車イメージと結びついた再生可能エネルギーの先行国である。実際に現状で既に消費電力の50%が風力由来となっており、再生可能エネルギーの導入は世界のトップクラスとなっている。そして、1990年を基準としてGDPは向上している一方、エネルギー消費は横ばいか若干低下、CO2排出量は50%まで低減している。

1970年代に始まったオイルショック時の状況は日本・デンマークでほぼ同様であり、決して日本より恵まれた条件であった訳ではない。再生可能エネルギーに対する投資の他に、周辺国との電力のやり取りを可能とする系統連系に年月をかけ、計画的に設備投資してきたことが大きい。したがって、その後の差異は国のエネルギー選択に関する意志の違いによるところが大きいといえる。

デンマークの再生可能エネルギー導入率

デンマークは2012年に世界に先駆けて「2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す」ことを宣言し、2020年には法律として温室効果ガス排出量を2030年に1990年比70%減とする目標を定めた。その結果、2020年には電力消費の約64%、エネルギー消費全体では40%を再生可能エネルギーが占めるまでになっている。

電力は48%が風力、太陽光3%、バイオマス13%、化石燃料18%となっており、残りの18%がノルウェーからの水力を主体とした輸入によっている(図1)。一方、エネルギー消費全体で見ると、再生可能エネルギーは40%、輸入電力が4%となっている以外は石油・ガス・石炭等の化石燃料が54%を占めている。この再生可能エネルギーのなかで風力の占める割合は23%であって、バイオ燃料を含むバイオマスや廃棄物からのエネルギーが再生可能エネルギー全体の70%を占めており、その多くが熱に利用されている(図2)

こうした再生可能エネルギー導入のこれまでの道のりは決して簡単なものではなく、当初電力網の専門家は10%程度の変動電力(VRE)導入も無理と主張していた。その後、導入が進むにつれて20%以上は無理と言われ、それらが繰り返されて現在の50%に至っている。そして今では送電系統運用者Energinetの努力と学習の結果、「社会が求める革新的ソルーションを提供することがエンジニア」と言うまでになっている。

図1 再生可能エネルギーの割合(電力消費)(1)

図2 再生可能エネルギーの割合(エネルギー消費)

オイルショック後のエネルギー選択

オイルショックが始まった1970年頃のデンマークのエネルギー条件は日本と大差なく、オイルショックは大きな衝撃であった。その頃デンマーク工科大学には原子力研究所があり、原子力の利用も大いに検討された。しかし、1985年に原子力発電に依存しないことを宣言し、ここから日本と違ったエネルギー選択の道を歩むことになった。そして、デンマーク工科大学の研究所はのち風力を含めた環境低負荷エネルギー研究所となった。

原子力に頼ることなく化石燃料依存を減らすには、省エネを進めると共に再生可能エネルギーを増やす以外にない。そこで電力市場を自由化、再生可能エネルギー優先買取りルールを導入などの施策を展開した。また、一時期PSO(Public Service Obligation: 電力利用に関する税金システム)といった運用法のほか、系統技術や熱とのカップリングによる柔軟性の向上によって導入量を増やした。

このように日本と比べてデンマークが再生可能エネルギーの導入に特段有利であったわけではなく、エネルギーの価格上昇を伴う様々な仕組みによって、再生可能エネルギーの導入が推進されたといえる。その結果、現在では化石燃料に比べて再生可能エネルギーがむしろ割安な状態にまでなっている。

地域熱供給システム

再生可能エネルギーが電力系統内に大量導入されると、その需給バランスを調整するための仕組みが必要となる。そこで大いに貢献したのが地域熱供給システムである。デンマークでは比較的暖房需要が多く、古くから温水供給用の熱導管網を地下に配置し、住宅や商業施設などの熱需要の高い施設に中央に設けた熱供給ボイラーから熱供給していた。この熱導管網をさらに整備する一方、熱供給施設にバイオマスや廃棄物を燃料とするボイラーやコジェネレーション、あるいはヒートポンプのほか、価格の安い余剰電力を利用した電熱温水器を設置した。一方、太陽熱による大規模な季節間蓄熱槽やデータセンター等の排熱利用の温水供給設備がこの熱導管網に接続されている。そして、電力と熱の需要・供給に合わせてこれらの運用を制御し、柔軟な大規模エネルギー供給システムを形成している。こうした地域熱供給システムによって、長いところでは50km程度の範囲内に熱が供給されている。

図3は地域熱供給のエネルギー構成であり、バイオマスと廃棄物による熱供給がかなりの割合を占めている。一方、ヒートポンプや電気ボイラーが入っており、余剰電力を利用した熱利用がなされていることがわかる。電力の需給に比べて熱の需給調整は許容性が高いため、太陽光蓄熱槽からの熱のほかバイオマスや天然ガスボイラーの制御によって全体的なバランス調整がなされている。

地域熱供給の温水温度は現在70℃程度であるが、熱損失の削減と廃熱の利用を拡大するために50℃程度まで低温化する新たなチャレンジが検討されている。ただし、温水の低温化は熱の消費者側の暖房設備となるラジエータの大型化なども必要となり、本格的な導入拡大はまだこれからとなっている。

デンマークでは国全体の熱需要の約半分がこうした地域熱供給によって賄われている。なお、図4は太陽光による大規模な季節間蓄熱槽の写真であり、日本に比べて日照条件が恵まれていないにも関わらずこうした設備が設置されたりしている。

図3 地域熱供給の熱源(1)

図4 太陽熱収集プラント Silkeborg地域熱供給(1)(出展 State of Green)

エネルギーに関する制約条件の日・デ比較

デンマークは周辺国と電力系統がつながっているから変動の大きな再生可能エネルギーの導入が可能なのだと考えるかもしれない。しかし、ドイツと接続している西側と北欧と接続している東側の周波数は同期していないため、2つの周波数が存在する日本と類似する点もあり、変動の吸収は国際連携線のみならず、上述したような国内の熱供給システムとのカップリングも役割を果たしている。

再生可能エネルギーを増加させようとする場合、系統が不安定になることと価格が高くなることの2点に対する懸念が常に質問される。しかしこの点は全く問題なく、実際には日本よりも低い停電率と低い産業用電力価格になっている。

ただし、再生可能エネルギーの導入を可能とするエネルギー・インフラの構築にはそれなりの費用が必要であり、その負担を電力価格に転嫁する場合も多い。図5は1995年から2013年の間の家庭用電力価格の国際比較である(2)。この中でデンマークの電力価格は最も高くなっており、これを国民が受け入れたためにこれだけ多くの再生可能エネルギーを導入できたといえる。電力価格の大きな部分は付加価値税(消費税)などの税金で構成されている。ただし、産業用の電力価格は比較的安く据え置かれ、産業維持の配慮がなされている。

デンマークでは様々なエネルギー技術開発とそれらの活用を促す施策が展開されている。例えば大規模蓄熱技術が発達しており、超大型の魔法瓶タンクもある。また、麦わらのメタン発酵によってバイオガスを製造し、これを天然ガスラインに混入させたり、運輸部門で利用したりしている。さらに、再生可能エネルギーを生産し貯蔵する人工島を作る予定にしている。このようにデンマークでは様々な再生可能エネルギー導入の努力がなされている。

日本には洋上を含めて再生可能エネルギーのポテンシャルは高い。日本でも電気、ガス、熱などのエネルギー媒体から成り立つエネルギー・システムを包括的に捉え、セクター・カップリングを通じて、更なる再生可能エネルギーの導入が可能ではないだろうか。

図5 家庭用電気料金の国際比較(2)(消費税等を除く税込み価格、2019年為替レートで計算)

まとめ

デンマークでは1985年に脱原子力を、そして2012年には世界に先駆けて「2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す」ことを宣言して、再生可能エネルギーの導入を精力的に推進してきた。その結果、2020年には電力消費の約64%、エネルギー消費全体では40%を再生可能エネルギーが占めるまでになっている。この間、家庭用電力価格は世界で最も高いレベルとなったが、産業用の電力価格は概略据え置いた。その結果GDPは向上し続けて、SDGs達成度ランキングはスウェーデンに次いで2位となっている。

再生可能エネルギーを増加させようとする場合、系統が不安定になることが懸念される。この問題の1つの解決策として再生可能エネルギーを主体とする地域熱供給を電力の需給状態とカップリングすることによって調整され、日本よりも低い停電率となっている。周辺国との電力のやり取りを可能とする系統連系に、年月をかけ計画的に設備投資してきたことを考えると、決して日本より恵まれた条件であった訳ではない。再生可能エネルギーの変動吸収の一つの対応策として、国内の熱供給システムとのカップリングなどによって、これらの調整がなされている。今後、再生可能エネルギーの増大を求められている日本の参考になれば幸いである。


参考文献

(1) 田中いずみ, 技術士, No.10(2022), pp.16-19.

(2) 筒井美樹, 電気料金の国際比較-2019年までのアップデート-,電力中央研究所 社会経済研究所 ディスカッションペーパー, https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/download/20010 dp.pdf(参照日2022年12月20日)


田中 いずみ

◎デンマーク大使館 上席商務官(エネルギー・環境分野担当)

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