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2017/7 Vol.120

「天気をこうかんするキカイ」
鬼塚 充暉 くん(当時8 歳)
雨のところと晴れのところをこうかん
するキカイ。雨がふらなくてこまって
いるさばくと、雨ばかりで外であそぶ
ことができない子どもたちのいるとこ
ろの天気をこうかんする。どっちもう
れしくなるゆめのキカイ。

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ほっとカンパニー

(株)大気社 社会や世界をより良くするための自社技術を磨く

日本にはこんなすごい会社がある

1971年のタイを皮切りに、海外19 カ国に36 の連結子会社を展開する大気社。現在、海外売上比率は5割以上。建設業としては極めて高い数字を誇っている。

同社の事業の柱は、その社名の通り空気や環境に関わっており、大きく分けて「環境システム事業」と「塗装システム事業」の二つ。「環境システム事業」とは、オフィスビルや学校、病院など、人の環境に配慮した「ビル空調」と、工場やものづくりの環境での空調の「産業空調」を指す。

もう一つの「塗装システム事業」の主な業務が自動車塗装プラント事業と呼ばれるもの。一見、空調と塗装は何の関わりもなさそうだが、塗装環境の湿度や温度、清浄度は塗装の仕上がりに影響が出る大切な部分だという。とくに高級車の場合、仕上がりに高いクオリティを求められるのだ。同社が空調で培ってきた温調・気流技術も他社にない強みになった。日系の各自動車メーカーの海外進出に伴い同社も活躍の場を広げ、最近では非日系メーカーからの引き合いも増えつつあるという。その結果、現在、この分野の売上で世界第2位を誇るまでに成長した。

自動車塗装ラインを一括で受注している

風洞設備への困難を切り拓いた「対応力」

実は空調で培った技術は、ほかにも応用されている。その例の一つが、今回紹介する「風洞設備」だ。

風洞設備とは、人工的に風の流れを発生する装置や施設のこと。きっかけは2000年にまで遡る。レーシングカーの風洞実験のために、50%スケールの自動車の風洞設備の話が舞い込んできたのだった。当時、大気社で風洞は未経験の分野。しかし、当時の技術責任者が「自社で扱ってこなかった案件だが、この仕事は必ず取る」とリスクを負って、挑戦を選んだ。担当したのが、現在、技術開発センター長を務める山本芳嗣だ。

当時、クリーンルームの設計などで空気を整流することはあったが、風洞で求められる要求は極めて高くなる。「かなりの重機を使う規模だったので、整流を作るための金網を張るのも一苦労でした。6m の間隔になるとふにゃふにゃで布みたいになってしまいます。現地へ持っていってどうピンと張るか。風洞の概念を伝えてくれる本はあっても、作り方の本はないので、そのあたりをひとつひとつやっていくという作業でした」(山本)。想定外の問題が起きたら、すぐさま現地へ飛んで行き、設計変更、製作、測定評価、対策検討の流れを繰り返した。時には人海戦術で乗り越えたという。「これは建設屋の特徴ですが、問題が起こった時に、心を合わせて同じベクトルに向かって解決策を練る対応力。その強さを感じました」と、開発1課長の舟里忠益。完成まで3年を費やした大プロジェクトだった。以降も同社は風洞設備を手がけ、この分野でも大きな進歩を重ねている。

新しい試みとはいえ、その中で自社が培ってきた技術力を大いに活かし、自信を抱く機会にもなった。現在、大気社の風洞技術の大きな特徴は、「空調」と「塗装」の固有技術をフルに活かした点にある。代表的なものの一つ目は空調省エネの観点から内部ブリーザーを採用し、外気量を大きく減らすことによって、処理用エネルギーの大幅な削減と塵埃の侵入防止を両方実現した点、二つ目は塗装ブースで培った屋内設置の全鋼板製工法技術により、精度を上げながら低コスト・短納期を実現した点、三つ目は音楽ホール建設などで経験を積んできた消音技術だ。「求められるレベルは違えども、どの技術も自社でベースがあった。風洞設備の建設は、自社の技術のクオリティを上げるためにも大いに有意義な挑戦となりました」(山本)。今後の課題には、変動風の技術と、高効率な計測システムの構築を挙げる。

内部ブリーザー方式
吸込口直後でも誘引空気との速度均一化で起こる静圧上昇に着目した

実車風洞の鋼板製風洞管

自社のコア技術を応用した吹雪施設

風洞設備と同様、環境試験用に手がけ始めたのが、吹雪施設だ。従来は冬季に屋外の自然降雪を利用していたが、吹雪施設があれば、気象条件に左右されることなく試験を実施できる。また、一口に雪といっても、実際にはいろいろな雪がある。例えば自動車の環境試験では、車体に結晶状の新雪が積もることもあれば、車体やワイパーに吹雪いて固着する現象もある。走行時にラジエーターの閉塞を再現する必要もある。

大気社が採用した吹雪施設の仕組みは極めてシンプルだ。製氷機で微小な氷を生成し、できた氷をエジェクターですぐに搬送し、吹雪として噴出する。「当初は破砕機で製氷した氷を細かくする従来型の方法で進んでいました。しかし、破砕機も詰まりがちで、詰まりがおきると復旧にも時間がかかってしまいました」と、吹雪施設の開発を担当した副主任研究員の伊藤暢規は語る。破砕機を使わずしてできるだけ細かい氷を作るため、冷媒を使って冷却した製氷面で凍らせたものを薄くかき取っている。スクレーパと凍結面とのクリアランスには、かなり苦労したという。エジェクターで搬送する際には粒同士がぶつかり、氷はさらに細かくできる。「すぐに固着・付着する氷の性質を、いかに防ぐかが課題です。貯蔵や再利用が可能になれば、大きなコスト減と省エネルギーにつながります。氷の形状を実際の吹雪にさらに近づけるのも今後の課題です」(山本)。

吹雪機のデモ運転 ノズルから微小な氷を噴出させている

「空調は、人間の健康や幸福を支援する分野」

同社技術開発センターは、これまで主に機械系の熱・流体技術と、吸脱着をはじめとする化学工学系の応用技術に取り組んできた。コア技術を深化させて新しいことに挑戦してきた同社だが、最近ではAI を目指した制御技術にも取り組み始めた。「制御技術によって、我々の持つ技術力の強みをさらに広げることができます。安全かつ用途に応じて動きを変えるモノを作れば、新たな付加価値を持つことができますし、新たな商品も生まれる。期待している分野です」(山本)。

大気社の掲げる企業理念の一つには、エネルギーや空気、水の探求を通じて、ユニークな会社づくりを目指すことがある。「空調って、人間の健康や幸福を支援する分野だと思うんです。若手にもそういう気概を持って、新しい技術に取り組んでほしいですね」。

(取材・文 横田 直子)

今回取材に協力いただいた皆様(写真左から、日野原さん、山本さん、伊藤さん、
岩井さん、舟里さん、今若さん)


株式会社 大気社 

所在地 東京都新宿区
http://www.taikisha.co.jp/


 

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