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2019/2 Vol.122

【表紙の絵】
さがせ!タカラモノグラ
後藤 快 くん(当時7 歳)
タカラモノグラは化石や宝石をみつけるきかいです。
そうじゅうしているぼくは、きょうりゅうの化石やキラキラしている宝石をみつけようとわくわくしています。

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ほっとカンパニー

東洋電機製造(株) 挑戦は続く─日本の鉄道を支えた“100年企業”

鉄道車両用電機品

日本にはこんなすごい会社がある

「鉄道車両用電機品の国産化」を掲げて設立された東洋電機製造は、2018年に創立100周年を迎えた。創業者は“日本土木史の父”と呼ばれる渡邊嘉一。世界遺産にも登録されているスコットランドのフォース橋などの設計に携わった逸材で、スコットランド紙幣(スコットランド銀行発行)にその姿が刷られているほどだ。帰国後、鉄道の建設・経営に携わった渡邊は、国産電機品の必要性を感じ、東洋電機製造を立ち上げ、以来、同社は日本の社会インフラの進展に大きく貢献し続けて今に至っている。

現在展開している事業は大きく三つ。一つ目が、売上の約7割を占める創業以来脈々と受け継がれてきた交通事業関連の電機品。二つ目が一般産業用の電機品。印刷機やフィルム加工用の産業システムや発電機、近年では自動車試験システムにも注力している。三つ目が、情報機器。定期券を発行する複合発行機や新幹線の車内で車掌が手にする料金精算用の携帯端末なども手がける。国内製造拠点は2カ所。交通関係を手がける横浜製作所のほか、2018年の100周年を機に、新たに滋賀竜王製作所を新設した。

日本の鉄道を動かす「TD平行カルダン駆動方式」

100年の歴史の中で、多くの“世界初” “日本初”を送り出してきた同社だが、特に大きな出来事は、1952年の日本初の「中空軸平行カルダン駆動方式」の完成だったと、同社交通事業部交通工場の小野寛は話す。中空軸平行カルダン駆動方式とは、電車のモータ駆動方式の一種で、モータ軸と車軸を平行に配置するのが特徴。モータ軸の中にねじり軸を貫通させ、芯違いを吸収させるためにモータの両端にたわみ板継手を装備した構造となっている。モータの重量が台車の軸ばねを介して輪軸に掛かる中空軸平行カルダン駆動方式は、モータの重量の半分が直接輪軸に掛かる従来の吊り掛け駆動方式に比べ、線路のうねりやねじれなどの変化への車輪の追従性が高く、安定した走行が得られるようになった。また、国内に多い狭軌の鉄道車両にとって、スペース効率に優れた点も大きく支持された。

モータの小型化によって1969年には、2組のたわみ板継手を組み合わせた「TD平行カルダン駆動方式」を開発。モータ軸と歯車装置の小歯車軸との間に、TD継手だけを介して接続し、TD継手の中に2組のたわみ板継手が入っている構造だ。このたわみ板が長さと角度の偏位を吸収する。中空軸平行カルダン駆動方式よりも内部構造が単純化・軽量化されたこの方式は、メンテナンス性にも優れていることから在来線での採用が進み、新幹線での採用例もある。たわみ板の材質には、当初は特殊鋼を用いていたが、20年ほど前からは高強度・高柔軟性の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に変わっている。

TD平行カルダン駆動方式の機構

低騒音とメンテナンス性向上を追求する歯車機構

カルダン駆動方式の“縁の下の力持ち”とも呼べるのが歯車装置だ。「モータの動力を車軸に伝達するシンプルな機能だが、実に奥が深い」と小野は語る。吊り掛け駆動方式の時代には、線路の衝撃が直接モータに伝わるため、モータは丈夫にする必要があった。また、歯車には平歯車を使用するために音もうるさかった。しかし、カルダン駆動方式からは、歯車装置がモータから独立し、はすば歯車の採用が可能になった。これにより、モータは小型軽量化し、歯車装置の振動や騒音が大幅に下がったという。歯車箱の材質は、新幹線では軽量化のためにアルミニウム、在来線では鋳鋼やFCDが主流である。

小野によると「近年の客先からの一番のニーズは低騒音」だという。モータが小型化して低騒音を実現しているのに合わせて、歯車装置側にもそれが求められている。歯車では噛み合い率をさらに上げて振動・騒音を下げる複雑な形状を、TD継手では高速回転中になるべく風を切らない形状をなど、改良は機構の各箇所で重ねられている。加えて、近年はコスト面や作業効率の点から、メンテナンス性の高さもニーズの高い項目だ。それらに対応した提案を常に行うことが小野たちの使命だ。

また、同社の独自技術として、形状記憶合金を使用した自動油量調整装置も提供している。潤滑油の温度によって弁が作動し撹拌する油量を最適に調整するもので、潤滑油温度低減や軸受部への潤滑性能の向上に大きく役立っている。

高速化する新幹線へのパンタグラフの挑戦

パンタグラフも、1921年同社が日本で初めて国産を完成させた。長きにわたりパンタグラフの形状といえば“菱形”だったが、近年、シングルアーム形に一新されている。

菱形パンタグラフでは、二つの主軸に取り付けられた主バネの力で持ち上がり、空気の圧力で下降する。二つの主軸は必ず同じ角度で回転し、一定の力で架線を押し上げ、上部の舟体が架線と接して電気を取り込む。その静的な力は約50〜60Nほどだという。

シングルアーム形でも集電方式は変わらないが、新幹線用シングルアーム形では上枠パイプ内にバランスロッド、下枠パイプ内に釣合棒が入っていて、外観上1本のパイプにしか見えない点が大きな違いだ。これは、走行時に各パイプから風切り音が出るため、風に当たる部分を少なくする目的であり、シングルアーム形に変わったことで、騒音は約10dB低減された。

2019年、JR東日本は時速360kmの新幹線試験車の落成を予定しており、今後新幹線の高速化が課題となる。「高速になればなるほど、風の力によって揚力が発生します。時速360kmでも架線に優しく接する状態を目指さなくてはなりません。我々パンタグラフ側もそうですが、架線の素材メーカおよび施工会社も『世界一の架線を作っている』と自信を持っているはずです。互いの技術で新幹線の高速化を支えていかなければなりません」と設計部副部長の山田浩二は語った。

新幹線用シングルアーム形パンタグラフ

在来線用シングルアーム形パンタグラフ

幅の広さと奥深さ

同社交通事業部交通技術部係長の牧島信吾が携わる電力貯蔵装置「E3ソリューションシステム」も、鉄道事業者の節電・省エネのニーズに対応した次世代製品だ。電池メーカと共同開発した線路脇に置く蓄電システムで、構成要素はリチウムイオン電池と可逆式DC/DCコンバータ制御盤から構成され、DC/DCコンバータ制御盤を東洋電機製造が担当。電車走行のピーク時における架線電圧の降下抑制や、回生電力の吸収・放出によるエネルギー利用の効率化を実現する。鉄道事業者への納入実績も年々増え、近年ではモノレール会社への納入も行った。「高所を走るモノレールの非常用電力として使えます」(牧島)。

同社では、産学連携の研究にも力を入れてきた。鉄道用VVVFインバータに搭載した空転・再粘着制御は、そうした研究から実用化された技術。他にも、ワイヤレスインホイールモータシステムなどさまざまな研究を大学と共同で進めている。

東洋電機製造が扱うのは鉄道だけではないものの、外から見ているだけではわからない鉄道の奥深さを垣間見れることは、同社の仕事の魅力に違いない。

(取材・文 横田 直子)

回生電力の有効活用で省エネ、鉄道の安定輸送に貢献する

E3 Solution System

 

今回取材に協力いただいた山田さん、小野さん、牧島さん(写真左から)


東洋電機製造株式会社

本社所在地 東京都中央区

https://www.toyodenki.co.jp/

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