日本機械学会サイト

目次に戻る

2022/11 Vol.125

バックナンバー

特集 超音速で飛ぶ世界

環境適合超音速旅客機実用に向けた超音速流研究

金崎 雅博(東京都立大学)

はじめに

超音速飛行とは

超音速飛行とは、物体周りの流体など媒介の状態で決定される音速よりも高速で進行する状態を指し、音速と物体の速度の比をMach数と呼ぶ。大気の場合、主に音速は温度の平方根に比例することから、低温大気中では音速も小さくなり、Mach数は同じ速度でも高温大気中に比べて超音速に達しやすいと言える。ただし、地球上で記録された史上最低気温は南極での-89.2℃であり、その際の音速は272 m/sであるから、地球上では超音速に達することは高速で空中航行していること、と言って差し支えない。このことを人間の制御下で行う超音速航空機(Supersonic Transport: SST)の研究開発はチャレンジングな課題であり、実現することができれば輸送など人間の活動にも恩恵をもたらす。

超音速に達する物体には、自然物として隕石がある。近年では、2013年チェリャビンスク隕石(1があり、被害をもたらした。これは隕石が超音速で、衝撃波を伴い飛来したことによるソニックブームが主な原因で、SSTでも同様に問題となり、音速以下で飛ぶ航空機では問題とならないことからSST特有の課題である。民間SSTには2003年まで運航が続けられたConcorde(2)が広く知られているが、燃費の悪さに加えて、ソニックブームによる超音速飛行可能域の制約などにより、商業的に成功したとは言い難いものとなった。

超音速旅客機実用化の壁

有人超音速飛行は、Charles Elwood Yeagerが操縦するBell X-1(3)ではじめて達成された。超音速に達するためには、造波抵抗の急増に対応するため、大推力エンジンと低抵抗機体設計が必要となる。衝撃波が機体の異常振動につながる点も、超音速飛行の課題点である。さらに、低アスペクト比翼を用いるなど高速巡航を設計点とした解は、離着陸時の低速飛行には向かず、やはり大推力エンジンや長い滑走路が必要となる。

もう一つの超音速飛行特有の問題にソニックブーム(4)がある。これは機体の各所から観測される衝撃波が、大気伝播の間に整理統合され、地上で急激な圧力変動となり、衝撃音として観測されるものである。

いずれも、超音速に達した際の空力現象に端を発しており、Concordeが広く運用されなかった原因でもある。その観点から、次章以降で超音速流研究と将来の民間SST研究開発の現状を概観する。特集内での解説記事のテーマも含むので、それらも併せてご一読いただきたい。

超音速旅客機実用のための研究要素

超音速流れの観察

超音速に限らず、風洞試験において空気の流れを可視化するためには特別な仕組みが必要である。衝撃波などの空間可視化の代表的な方法に、シャドウグラフ法とシュリーレン法がある。いずれも光学可視化法である。

シャドウグラフ法は、密度の2次勾配変化があるときに、光の屈折が一様にならないことを利用し、明暗を得る。名古屋大学佐宗教授らのグループでは、この方法を利用して衝撃波が伝播する際の大気乱流の影響(図1)を調査(5)した。

会員ログイン

続きを読むには会員ログインが必要です。機械学会会員の方はこちらからログインしてください。

入会のご案内

パスワードをお忘れの方はこちら

キーワード: