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2022/11 Vol.125

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特集 超音速で飛ぶ世界

ソニックブームと気象のかかわり

山下 博(ドイツ航空宇宙センター)

ソニックブーム現象における大気状態の影響

超音速旅客機(supersonic transport)から発生する衝撃波や膨張波は、地上へ向けて大気中を伝搬する間に圧力波形が整理統合され、地上で強い爆発音を引き起こすことがある。この現象をソニックブーム(sonic boom)という(1)。これらの衝撃波や膨張波は、非一様な実在大気中を伝搬するため、ソニックブームの伝播の仕方やソニックブームの強さは、ローカルな大気の状態(気圧、気温など)から影響を受ける。一般に、超音速旅客機の巡航高度は、通常のジェット旅客機(亜音速)の飛行高度の約2倍にあたる成層圏下部の高度15kmから20kmの領域と考えられている。エールフランスとブリテッシュ・エアウェイズの2社が2003年まで運航していた超音速旅客機コンコルド(Concorde)も、この領域をマッハ数2.0で飛行した。これまでの研究から、気圧、気温、湿度、風向風速の高度による変化(高度分布あるいはプロファイル)のソニックブームに対する影響は大きく、また地表面から約1kmから2kmまでの大気境界層(atmospheric boundary layer)内の乱流(turbulence)も影響を及ぼすことがわかっている。これらの気象要素は時間的にも空間的にも異なるスケールで絶えず変動しているため、同じ超音速旅客機が同じ飛行条件(同一マッハ数、同一高度)で飛行した場合でも、日によって、あるいはフライトによって(より正確に言えば、同じフライトにおいても地上観測点の位置によって)、地上でのソニックブームの強さは異なる。

ところで、実際にソニックブームの地上圧力波形はどのくらい変化するものなのだろうか。ここでNASAが行った屋外実験の結果を紹介したい。図1にマッハ数1.7で高度8500mを定常飛行する超音速戦闘機に対して、地上で観測されたソニックブームの圧力波形を示す(2)。図に見られるように、わずか60m(≈ 200ft)ほどしか離れていない地点で観測されているにもかかわらず、大きな波形の変動を示している。フライト中に行われた気象観測から、この原因は、地上付近の温度減率(温度が高度とともに減少する割合)が乾燥断熱減率(乾燥空気を断熱的に上昇させた場合に温度が下がる割合のことで、地球大気では約10Kkm−1より大きく大気の状態が不安定となり、大気下層で生じた大気の乱れによる影響であると報告されている。ほかにも、気象の影響について示した研究は数多く報告されている。興味のある読者はぜひ検索していただければ嬉しい。

図1 地上経路にそって観測されたソニックブーム波形の変化(2)

標準大気と実在大気

超音速旅客機に限らず、航空機の設計では一般に標準大気が用いられる。この理由は、航空機の性能が大気の状態に大きく影響を受けるため、標準となる大気を定めると航空機の性能計算などを行う際に便利だからである。標準大気とは海面を高度0として、観測値の平均値などから得た各高度の気温をもとに、各高度における気圧および密度を理論計算で求めたものである。この標準大気にはいくつか種類があるが、民間航空関係では、1952年以降国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)が定める国際標準大気(International Standard Atmosphere: ISA)がよく使われる。

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