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2022/11 Vol.125

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特集 超音速で飛ぶ世界

ソニックブームと低ブーム超音速旅客機

牧野 好和(宇宙航空研究開発機構)

はじめに

超音速機とソニックブーム

音速よりも速い超音速で飛行する航空機からは機体の各部から衝撃波や膨張波が発生し、それら圧力波が地表に到達する際にソニックブームと呼ばれる音として観測される。1976年から2003年まで運航されていた超音速旅客機コンコルドにおいては、そのソニックブームの音は近くの落雷に相当すると言われており、その騒音のため陸地上空での超音速飛行が禁止され、超音速で飛行できる航路が海上に限定されたことがコンコルドの経済的な失敗の一因とされている。

ソニックブームの発生原因は、超音速で飛行する物体が流体を押しのける際に物体の体積に依存する強い衝撃波が発生することと、超音速機の重量を支えるために機体下方に流体を押し下げる際に機体の重量に依存する強い衝撃波が発生することであり、原理的にソニックブームの強度を低減するには機体の体積を減らす、あるいは機体を細長くして流れ方向の体積変化率を小さくすることで発生する衝撃波を弱めることや、機体重量を軽減して機体下方に発生する衝撃波を弱めることが必要であるが、必要な旅客を輸送する航空機の設計では機体の体積や重量を低減することには限界がある。一方、ソニックブームがうるさいと感じられる要因として、衝撃波と膨張波で形成されるソニックブームの圧力波の時系列波形の影響が挙げられる。衝撃波の非線形性により、飛行高度から地表まで伝播する間に衝撃波同士が統合し、ソニックブームが地表に到達する際にはN型の時系列圧力波形として観測されるため、N型の先端と後端の不連続的な圧力変化によりうるさく感じられることとなる。ソニックブーム波形の観点からソニックブームを低減する方法としては、機体形状を工夫することにより、機体から発生する衝撃波同士の統合を抑制し、地表においてN型波以外の圧力波形として観測させる低ソニックブーム(低ブーム)機体形状設計の研究が進められている。代表的な低ブーム機体形状設計法としては、Seebass-George-Darden法(1)(2)が挙げられる。この設計法は地表で観測されるソニックブーム波形を、通常のN型波ではなく、前半部がフラットな台形型や有限の圧力上昇部を有するランプ型といった低ソニックブーム圧力波形として観測させるように機体形状を定めるものであり、特徴として機首先端部はやや鈍頭となるため衝撃波に起因する造波抵抗の増加とのトレードオフが必要とされている。

本稿では、最近の民間超音速機の開発動向や、将来超音速機のためのソニックブーム基準策定動向を述べた上で、宇宙航空研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace Exploration Agency)が進めている低ブーム超音速機研究開発と将来技術実証構想について紹介する。

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