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2023/8 Vol.126

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会長が訊く

会長が訊く(第1回)「 IoTによる製造ビジネス変革」

2023 年度会長 伊藤 宏幸 × 水上 潔(ロボット革命イニシアティブ産業IoT アドバイザー)

本会には24の部門・推進会議・専門会議があり、会長が全ての分野に通暁しているわけではありません。この企画では、私自身が特別な関心を持っている機械工学関連のトピックスについて、真っただ中で活躍されている方にインタビューをして、一人称で語って頂きます。

第1回目は、水上 潔氏に、ロボット革命イニシアティブ協議会についてお尋ねしました。

2023年度会長
伊藤 宏幸〔ダイキン工業(株)〕


 

 

水上 潔

ロボット革命イニシアティブ 産業IoTアドバイザー/
情報処理推進機構 デジタルアーキテクチャ・デザインセンター研究員

 

 

<略歴>

1979年 慶應義塾大学工学部管理工学科卒、同年、(株)日立製作所入社

以降、製造業分野の様々な製造、設計関連の情報制御システム、1次産業や社会・公共分野の情報制御システムの企画・概念設計・市場開拓、画像処理・電子タグ・アミューズメント・スポーツなど次代新規市場創成に携わる。近年、スマートグリッド・スマートシティ・スマートマニファクチャリングの企画・概念設計・市場創成と国際標準化に従事。

2015年 RRI IoTによる製造ビジネス変革 初代主査、翌2016年産業IoT推進統括、2022年日立を退社。


伊藤:第4次産業革命の動向に対して、経済産業省の呼びかけにより、2015年5月に創立された「ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)には、日本機械学会会長も評議員として就任しました。創立の背景や趣旨、国際協力を含むこれまでの成果、また現在の活動状況についてご紹介下さい。

水上:第1回のインタビューとしてお声がけいただき大変光栄です。私はロボット革命イニシアティブ(RRI)及び関連の国際標準化で、発足以前より関わって参りました。RRIについて概略を説明します。安倍元首相のもとで2015年次代の経済成長を握る重要なテーマとしてロボット新戦略が出され、それに基づき推進機関としてRRIが発足しました。当時、いわゆるロボットと並行して独Industrie4.0、米Industrial Internet Consortiumが注目され、知能化自動化した工場もロボットと広く位置付けロボット革命と謳われました。よって、RRIの活動は大きく2つ、IoTによる製造ビジネス変革(以下、産業IoT化)とロボットです。2015年は日本における第4次産業革命元年であり、IoT化、Society5.0などが示された年です。今振り返ると、DXの走りでもありました。

産業IoTの活動は、翌2016年日独連携の一環でドイツのイニシアティブと連携協力関係を結び、以後、専門家会合を軸にデジタル化による産業社会変革について議論し、秋のRRI・経産省共催の国際シンポジウムと春の独ハノーバーメッセでその成果を公開しながら、関連活動を継続的に進めてきました。また、IEC/システム委員会/スマートマニファクチャリングの標準化活動も進めております。直近は産業データ連携基盤などの議論を活発化させております。

ロボットでの活動は、World Robot Summit、利活用の新市場形成として、ロボットシステムインテグレータ分野の確立、未来ロボットエンジニア育成などを推進してきています。

RRIのホームページをご覧頂けると、これらが多岐に渡る内容であることがお分かりいただけると思います。技術による産業構造変革(シュンペータの言うイノベーション)がその理由です。一部抽象度も高く、ともすると学術的に見えますが、これが国際のトップレベルでは一般的です。一般にはなかなか理解が難しい内容とも思っております。

伊藤:私自身、当時の通商産業省の呼びかけによる「IMS国際共同研究プログラム」に参加していたことがあり、自律分散型生産システムや自己組織化の研究に取り組んでいました。所属していたチームの大枠のテーマとしては、Virtual Enterpriseということでしたが、いわゆるGeneralised Enterprise Reference Architectureと工場のショップフロアレベルの関係性は、曖昧であったと記憶しています。RRIでは、計算処理環境や通信インフラの発展、さらにブロックチェーン技術の進展を受けて、新たな実現可能性が示された印象を持っています。こうした我が国の経済基盤に関わるプログラムの意義や継続の重要性についてどのようにお考えでしょうか。

水上:我が国の経済基盤に関わるプログラムの意義や継続の重要性という点に絞ってお答えします。産業IoTの一連の動きはIMSの結果とも思えます。残念ながらIMSを打ち出した日本は10年で止めていますが、海外は継続して議論が進み、デジタル化の進展で正にIMS構想の具現化が可能になってきました。技術は人が支えます。これを継続させるにはしかるべき時代にあったテーマでの継続性が求められます。大変残念なのは言い出した日本には技術の継承が希薄で、筆頭のドイツは層が厚いことです。こうした背景には、製造科学のような工学分野への産学官での投資が少ないことがあります。過去、製造立国とか、科学技術立国とか言ってきましたが、理科離れや技能重視指向なども背景にあるのでしょうが、日本に根付いていません。日本が誇るトヨタ生産方式も80年代米国の工学の視点があたってTPSと形式知化されました。日本の工学を司る関係者の奮起を期待します。

伊藤:RRIでは、ドイツをはじめとした欧州、米国、中国の革新的製造業を目指した施策とのベンチマーク、加えて国際間の協業が重要かと思われます。具体的に推進されている例について教えてください。また、我が国の企業競争力向上につなげる上で、個社が留意すべき点はどのようなことでしょうか。

水上:先にも述べましたが、独・米・欧の関係機関と専門家レベルでの意見交換を続けています。海外からは先進国としての日本の役割を期待され、それに応じた発信もしております。

対象領域は、分かりやすく言えば、IT・OT連携です。ボトムアップでOTに優れた日本が、ITというトップダウンの抽象化、概念化、体系化されたデジタル世界を理解して、その両者を繋ぎ、Society5.0で言われる社会課題解決に貢献することが望まれます。とかく目に見える物ばかりに注目する今の日本なので具体例が説明しにくいのですが、モデル化とは何かについてのメタ概念の議論などをしています。

企業においては、個社でどうすべきかはいろいろあります。デジタル化とは形式知化であり、標準化です。用語・業務・データを事業推進という概念の元にしっかりと体系化する根源的なことが求められます。ITを現状業務のIT化と間違えて、そのソフトを作る技術者を増やしてきました。今、データに関しても根源的な問題には触れず、ハウツーの人材を増やしています。このために社内に多くのシステムができたもののつながらない状況に陥っています。いや、人手を介してつなげるしかなくなっており、大きなロスコストを産み、結果IT化の生産性が悪いと言われています。私には情報科学の根底にある情報とは何かとか、システムとは何かを言わば哲学的に理解することが求められていると思っております。

海外ではオントロジーという概念は一般的なようですが、日本では何か難しい概念でわからないというのが一般的です。このレベルからギャップがあると感じています。

伊藤:日本機械学会は、アナリシス・シンセシス双方向の立場から学術を追究する22の部門ならびに推進会議・専門会議を有する多様性に富んだ組織です。RRI推進の立場から、期待されることがありましたらご教示ください。

水上:機械工学の学会との理解でおります。歴史的には、哲学→自然科学→社会科学・工学と発展し、工学の中でも最初に機械が始まります。一方で技術はエジプト時代から存在しています。火を技術とするならば人類の歴史にまで遡ります。工学の1つの対象は現実の技術です。機械が発達する初期、第1次産業革命時代、機械は正に全てでしたからシステムそのものです。以降、電気・電動、制御、電子・情報と20世紀へ分化しますが、機械の神髄はこれらを加味したシステムだと思っております。情報科学で言われる概念の体系化、つまり工学とは何かとか、システムとは何かという概念の体系化は機械工学だからこそできることと考えます。貴会のCPPSという活動にも関わらせていただきましたが、こうした将来を描くような活動も含め更なる発展を期待申し上げます。

ドイツの例で言えば、サービス化に向けての自動化という観点から、DTとそれによるサービスの自動生成とか、PSS(Product Service System)というビジネスモデルをも含む自動生成などが、機械他のシステムの自律的連携で議論されているように思われます。人間・社会・人工物が一体化して、Society5.0を実現すること、それにはますますのイノベーション(新たな技術の組合わせ)の社会実装の加速化の国際競争で先導側になることです。その工学の雄として日本をリーディングいただけることを期待申し上げます。

(2023年7月7日)

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