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2023/8 Vol.126

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Myメカライフ

開発現場から研究へ ―積層すること山の如し―

津島 夏輝(宇宙航空研究開発機構)

この度は日本機械学会奨励賞(研究)をいただき、大変光栄に存じます。受賞に際して、寄稿の機会を頂戴しましたので、現在のキャリアに至る経緯、受賞した研究テーマを含む現在の研究についてご紹介させていただきます。

現在では、航空宇宙分野において、空力弾性や構造・材料に関する研究に従事しておりますが、常にこれらの分野を学び、取り組んできたかというとそうではありません。大学では機械力学の研究室でマルチボディダイナミクスの研究に触れた後、大型商用エンジンの開発を行う企業に就職しました。そこでは、エンジンの燃焼制御や商用車両・建設機械などの車両制御技術の開発に携わり、当時の筆者にとって新しい分野となる制御工学や試験技術に関する知識や経験を身に付けながら、社会的意義のある開発業務の楽しさを学びました。そうして獲得した新たな知識と経験を積むとともに、それを社会に還元していく“モノづくり”の面白さを実感する日々だったのですが、さらに高度な知識を身に付け、現代社会を支える、より高品質な機械システムを生み出したいという強い思いが湧いてきました。そして同僚からの勧めもあり、大学院への進学を決意しました。進学を決意するにあたって、背中を押して下さった大学時代の恩師や友人、会社の先輩方には深く感謝しております。

その後、知人の紹介でDr.Suに出会い、彼をアドバイザーとした米国での博士課程への進学が決まりました。そこでDr.Suの専門である空力弾性を学びつつ、筆者は空力サーボ弾性という分野の研究に取り組むこととなりました。空力サーボ弾性とは、空気力学と構造力学、さらにそれらの複合システムの制御を含んだ学際的分野ですが、それまで積み上げてきた経験を活かしつつ、新たな知識を学び、それらを総合的に航空宇宙構造へ適用していくという研究に毎日楽しく研究に没頭していました。

博士課程の卒業後は、日本に帰国し、東京大学での短期のポスドクを経て、現在の職場であるJAXA航空技術部門および東京大学にて研究開発業務などに従事しています。現在では、これまで積み上げてきた専門性に加えて、新たな製造技術として急速に発展している積層造形(AM)技術やそれを応用した革新構造の研究にも取り組んでいます。AM技術を用いて、これまで概念検討に留まっていた多様な高性能・高機能構造・材料の工学的応用や実用化を目指し、日々の研究開発に尽力しています。ラティス構造などの微視構造設計が複雑なために従来工法では製作が難しい設計もその一つです。そうした複雑かつ特殊な構造・材料の性能・機能を効果的に予測するために、ミクロな微視構造形態を踏まえて構造設計に必要なマクロな構造特性を予測するマルチスケールな解析法や複合物理現象が絡むマルチフィジックス解析法などの構築も試みています。さらに、メタマテリアルなどの機能構造材料や運用中に形態変形を実現するモーフィング構造などの革新構造・材料の提案・実証を進めています。こうした研究成果が、将来的に社会貢献に資する機械・構造を実現する一助となれば嬉しいです。

最後に、本賞に推薦してくださった大阪公立大学の小木曽先生をはじめ、日本機械学会 交通・物流部門の皆様方に厚く御礼申し上げます。

図 積層造形による風洞試験翼模型の例


<正員>

津島 夏輝

◎宇宙航空研究開発機構 航空技術部門 研究開発員

◎専門:空力弾性、構造力学、積層造形、多機能構造、空気力学

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