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2023/10 Vol.126

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会長が訊く

会長が訊く(第2回)「福島復興からの研究開発・社会実装、日本再生へ」

2023年度会長 伊藤 宏幸×山崎 光悦・森下 信(福島国際研究教育機構)

2023年度会長 伊藤 宏幸〔ダイキン工業(株)〕(写真左)
福島国際研究教育機構 理事長 山崎 光悦 氏(写真中)
監事 森下 信 氏(写真右)

 

福島国際研究教育機構〔F-REI(エフレイ)〕は、福島復興再生特別措置法に基づき、2023年4月に国が新たに設立した特別な法人です。東日本大震災から10年以上が経過しましたが、原子力災害に見舞われた福島浜通り地域等には、長期にわたる避難等の影響により、人口減少や産業の担い手不足、残された広大な未利用地・未活用地など、中長期的な課題が残されています。本会活動に多々貢献いただいた山崎先生が理事長に、前会長の森下先生が監事に就任されていることもあり、本機構のミッションを進める上での課題、機械工学関係者の役割について、現地でお尋ねしました。

 

伊藤山崎先生とは、私が1989年にU.C Santa Barbaraに最適化の第一人者であるVanderplaats先生を訪ねた際、当時、先生が在外研究員として赴任されていた時からのお付き合いです。

山崎当時は構造最適化をベースに、機械・建築・土木などさまざまな分野の横の繋がりが広がりとても面白かった記憶があります。

伊藤山崎先生には、本会の設計工学・システム部門長や北陸信越支部長を歴任いただきましたが、その後、金沢大学で研究担当理事から学長を務められていた間はお会いする機会が少なくなってしまいました。

山崎研究担当理事になってから学会に参加する時間がなくなりました。大学の全分野の研究を見ることになり、それまでとは全く異なる景色になりました。その時に国やJSTの研究費の配分についても注視するようになりました。

ふれあいセンターなみえ

伊藤研究担当理事や学長のご経験が、今回の福島国際研究教育機構の理事長就任に繋がっていると思います。福島復興を掲げた研究開発の組織を引っ張っていくにあたってのお考えをお聞かせ下さい。

山崎「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の再生なし。」の言葉通り、福島から先端技術を社会実装して、新しい産業を作り出し、日本に広げていく。もともと数少ない産業しかなかった福島から踏み出して行くことが最大のミッションだと考えています。世界トップレベルの実学を進めて、産業に結びつけることをかなり意識しています。また、この地域は震災後12年間、補助金に大きく依存する経済になってしまっています。この状態から、採算ベースに合う農林水産業を作っていくことが福島の復興に繋がっていくと信じています。

伊藤先端研究や社会実装については、さまざまな国プロがすでに実行されていますが、それらとの違いはどのようなところにあるのでしょうか?

山崎一つは、やはり復興を掲げていますから、過酷環境という条件が不可欠になるところです。福島第一原子力発電所の廃炉においては、水が溜まって燃料デブリを含む不規則な凹凸が続く厳しい足場電波が届かない真っ暗な環境で、これまでにいくつものロボットが帰って来れていません。自分で判断してミッションを遂行して戻ってくる自律・知能ロボットを、この国なら作れると私は本気で思っています。最近は宇宙産業の盛り上がりが話題になっていますが、宇宙まで行かなくても福島に過酷な環境があります。そうした過酷環境でも機動性を発揮できる技術課題に挑戦していきます。米国では軍民両用技術により社会実装が進んでいますが、福島の過酷環境で培われた技術が社会に広がっていくという我が国独自のモデルを構築したいとも考えています。そのためには、工学だけでなく、技術を市民の生活にどうフィードバックできるかという意味で社会科学の知見も取り入れていきます。

もう一つは、国や経産省、JSTのこれまでの資金配分の仕方には粗すぎると感じるところがあるので、しがらみを排しながら目的を達成することに注力したいと考えています。ドローンやロボティクスについては、世界の先端技術がどのような状況にあるかを調査し、またそれに対して我が国はどのような水準にあるかを調査するところから始めます。また、我が国には多くの規制がありますので、研究開発から社会実装の過程での規制緩和も意識しています。

伊藤福島の復興から我が国の製造業の再生をかなり意識されているということですね。

山崎我が国では、イノベーションをだんだんと忘れてしまったということがとても気がかりです。今はまだものづくりでは負けていませんから、国全体として技術課題を克服していく体質を復活させたいと思います。

伊藤そういった方針で進める上で、どのような研究開発の体制をとられるのでしょうか?

山崎これから組織体制を構築していくところですが、400~500人ぐらいの研究チームを作ります。近隣の大学の大学院と協定を結んで、連携講座を設け、東北大学、筑波大学や東京大学などから、研究者を雇用し始めています。現在の建物のもう少し奥に研究棟を建てる計画です。

現事務所(ふれあいセンターなみえ)の南西の広い土地に研究棟を建設予定

人・車の往来がほとんどない浪江駅前

伊藤本日、訪問に先立って、双葉町の伝承館を見学し、産業交流センター屋上から遠く福島第一原子力発電所を望み、また、この建物の最寄りの浪江駅周辺の様子を伺いましたが、閑散としていますね。

森下浪江や双葉に近づくにしたがい人家もまばらになり、新築の家でも廃屋になっています。この地域はコミュニティがほとんど崩壊してしまいましたので、再建には多くの時間が必要であると思っています。道路や建物は改修されましたが、本当の意味での復興とはほど遠い状況です。

伊藤最後に、機械学会に対してのメッセージをお願いします。

山崎やはり機械工学として俯瞰した情報が行き交うようになるべきで、そのためにはこれまでの部門体制から脱却すべきです。これは以前からさまざまなところで話しをさせていただきました。

伊藤新部門制による部門間連携の強化に加えて、機械系の専門学会と連携も進める必要がありますね。

福島国際研究教育機構(F-REI)
https://www.f-rei.go.jp/
F-REI紹介パンフレット

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