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2023/12 Vol.126

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転ばぬ先の失敗学

第12回(最終回)失敗学では「共通シナリオと違和感の設定」が人間の仕事

中尾 政之(東京大学大学院)

ChatGPTはテーマとモチーフを助言できるが、決めるのは人間の仕事

筆者は2023年9月中旬に「高野豆腐店の春」(1)と「バカ塗りの娘」(2)の自主映画を見た。両方ともテーマ(主題)は「父娘の絆」であり、モチーフ(着想)は「職人への敬意」である。家族愛をテーマにすれば結果的に「心温まる」映画になり、コロナ後の観客に受けることは請け合いである。職人ならば大田区や東大阪市の機械工を選んで欲しかったが、尾道や津軽のほうが綺麗な景色が撮れるし、豆腐や漆塗りの職人のほうが天然物相手だから技能が感覚的で文系も楽しめる。パンフレットを読むと、最初からプロデューサがバランス良く企画していた。

しかし前回の連載でも述べたようにChatGPTを使えば、優秀なプロデューサがいなくても、映画の創作を企画できそうである。そこで「心温まる映画を作りたいので、テーマとモチーフを教えて欲しい」と筆者はChatGPTに聞いた。すると「家族の絆、善意と人間性、自己発現と成長(など7件)」というテーマを列記し、それぞれにいくつかのモチーフを挙げた。試しに「機械屋の娘」を創作すべく、「機械工の頑固な職人の父親に、健気な娘が弟子入りして、父娘の絆が深まる物語」と注文したら、何と「アーチ―とエリンの物語」なるものを創作してくれた。さらに登場人物やイベントを加えて注文していくと、アラマ不思議で筆者原作の構想ができてしまった。現実味にかなり欠けるが立派な創作。

では機械設計の分野ではどうだろうか。例えば、「水素を利用したエネルギ設計に関する研究テーマ」を注文したら、「水素製造と貯蔵の効率化、水素の運搬と分配、水素の利用技術、水素社会への移行戦略(など7件)」を列記してくれた。これを叩き台にして、どれを選ぶか、または列記外のものを創案するか、が人間の仕事である。今後は、ChatGPT自身が既存のデジタルツインを利用して、新たに提案した物理現象をシミュレーションして、さらに学習結果を自己増幅させるだろう。シンギュラリティ(AIが人間の脳を超える特異点)が10年後に本当に来るかも。しかし、現時点のChatGPTの設計は、皆が言うとおり、細部を見るとお粗末である。たとえば、計算は間違いだらけ。

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