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2024/3 Vol.127

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特集 核融合実験炉ITER 建設最前線

ITER 計画の現状と調達分担概要、人的貢献

杉本 誠・井上 多加志・中平 昌隆(量子科学技術研究開発機構)

ITER計画のはじまり

「ITER(イーター)」は、平和利用目的のフュージョンエネルギー(核融合エネルギー)が科学的・技術的に成立することを実証する核融合実験炉で、メガサイエンス国際プロジェクトである。

この国際協力は、1985年ジュネーブでの米ソ首脳会談をきっかけとして開始され、1988-1990年の概念設計活動(CDA:日、欧、米、ソ)、1992-2001年の工学設計活動(EDA:日、欧、米、露)を通じて、国際チームを中心に設計を行い、日本、EU、米国、ロシアが分担して技術開発を進め、建設に必要な主要技術の準備を2001年に完了した。この後、建設開始までの間は設計を深めるため調達技術活動(CTA)、ITER移行措置(ITA)の活動として、日本の那珂研究所と、ドイツのミュンヘン郊外ガルヒンクにあるマックスプランク・プラズマ物理研究所に国際チームを置いて、作業を進めた。

同時に政府間協議、サイト交渉が進められ、2005年6月にフランスのサン・ポール・レ・デュランスにITERの建設サイトが決定し、2006年11月にはITER機構の設立に関する協定(ITER協定)が、参加7極(日、欧、米、露、中、韓、印)により署名された。その後、2007年10月にITER協定が発効となり、ITAは終了してITER機構が正式に設立され、ITER計画の建設期が開始した。

ITERのサイト選定では、日本とフランスが最後まで選考に残り、最終的にフランスにITER建設サイトが決定したが、日本は「準サイト国」として、ITERのEU調達機器の一部をEUの資金提供を受けて調達するほか、日欧で実施する「幅広いアプローチ計画」のサイトを獲得した。

核融合開発計画とITER計画の位置づけ

図1に示すのは、縦軸がプラズマの粒子密度と閉じ込め特性時間(高温・高密度のプラズマの保温特性)の積、横軸にプラズマ温度をとったローソン図と呼ばれるもので、核融合装置の性能を示すのによく使用される。

核融合研究は、第一段階では1960~80年にかけて、トーラスプラズマをいかに安定化させるかを研究所、大学、メーカーの小型の装置で追及した。

第二段階で日、米、欧などの比較的大型の装置で、1990年代に閉じ込めの高効率化を競い、日本のJT-60では目標であった臨界プラズマ(エネルギー増倍率(Q)=核融合出力/外部加熱入力が1となるプラズマ)を達成した。

第三段階の実験炉では、自己点火条件の達成(科学的なマイルストーン)、長時間燃焼の実現(実用的なマイルストーン)の実現を狙い、ITERはここを主要な目標とした装置となる。

第三段階の次は原型炉であり、日本を含め世界各国で現在設計が進められているが、ここでエネルギー源としての発電の実証も行う計画である。

また、ITER計画では、次の原型炉を見据えた技術の原理実証、核融合炉の安全性および環境影響から見た潜在的利点の実証も重要な目的として位置付けている。

図1 核融合開発計画とITERの位置づけ

ITERの設計概要

ITERは、核融合反応が起こる条件を作り出し、維持するためにトーラス型(ドーナツ型)形状をしたトカマク型と呼ばれる装置設計にしている。トカマク型装置では、ドーナツ型の真空容器の外側に配置した、ドーナツの大円周方向の磁場を作るトロイダル磁場コイルと、プラズマ中に流れる電流とから生じる磁場が組み合わさり磁場のかごのようなものを生成して、荷電粒子であるプラズマを閉じ込める。

核融合反応は、最も低い温度で起こり、反応確率も高く、また発生するエネルギーも大きいことから、重水素と三重水素(トリチウム)の反応による核融合が最も実現可能性が高いため、この組合わせでの運転を主としている。また、プラズマの体積が大きいほど核融合反応が発生しやすくなり、より高性能のプラズマを作り出すことができるようになる。このため、ITERのプラズマ体積は、これまでの大型装置(日本のJT-60や欧州のJET)の約10倍に及ぶ。図2にITER本体の概要図を示す。本体を格納するクライオスタットの直径、高さは両方とも約30mであり、きわめて巨大な装置である。

主な本体の構成機器は、水素、重水素、トリチウムなどによるプラズマを格納する真空容器、プラズマを維持・電流駆動・位置制御・形状制御に用いる強力な電磁石【超電導コイル〔トロイダル磁場(TF)、ポロイダル磁場(PF)、中心ソレノイド(CS)の各コイル〕】、プラズマ中の不純物を除去するダイバータ、真空容器の表面保護・中性子遮蔽の機能を持つブランケットなどである。このほかにも、プラズマを加熱するための加熱装置、プラズマの密度・温度・位置などを計測する種々の計測装置、トリチウムを分離・回収するトリチウム除去システム、超電導コイルの熱絶縁を確保するための大型真空容器であるクライオスタット、中性子により放射化した真空容器内で損傷した機器の交換などを行うための遠隔保守システム、トリチウム増殖の試験を行うためのテストブランケットモジュール、冷却・電源などの各種補器設備がある。

図2 ITER本体概要図(出典:ITER機構)

ITERの技術目標

ITERでは核融合反応によって放出されるエネルギーと、通常運転状態で供給される一定の加熱エネルギーの比であるエネルギー増倍率(Q)が10以上の状態を400秒程度維持すること、Qが5程度の状態を長時間(1000秒程度)維持すること、を主な目標としている。核融合出力は500MW、プラズマ電流は15MAを設計目標としている。

ITER計画の現状

2020年にトカマクの主要機器であるTFコイルおよび真空容器の最初のセクター(TFコイル2機と真空容器のセクター1機分)分がそれぞれ日本と韓国から納入されたため、トカマクの組立てを開始した。その後、TFコイルは順次日本と欧州から納入され、スペア1機を含む19機すべてのTFコイルが2023年12月にITERサイトに到着完了した。2024年1月現在では、到着済み機器の組立準備を進めながら、他の機器の調達を進めている。

日本の調達分担

図3に、日本の調達分担機器を示す。日本では、TFコイル〔19機のうちスペアを含む9機分のTFコイル(導体、巻線、コイル容器との組立)と、全19機分のコイル容器〕、CSコイル導体、ブランケット遠隔保守装置、各種計測装置、電子サイクロトロン加熱装置、中性粒子入射加熱装置、ダイバータ外側ターゲット、テストブランケットモジュール、トリチウム除去システムの調達を分担している。このうち、CSコイル導体とTFコイルについては、製作をすべて完了し、納入済みである。電子サイクロトロン加熱装置のうち、電磁波発生部であるジャイロトロンについては、8機の分担分すべての製作を完了し、最後の1機の試験中である。ダイバータ外側ターゲットについては、実機製作を開始した。そのほかの調達分担機器は、最終設計段階であり、粛々と調達活動を進めている。

図3 ITERにおける日本の調達分担機器

日本の人的貢献

ITERは参加極7、参加国としては35カ国に及ぶが、2023年10月末時点でITER機構職員1,102人のうち、日本人は44人、ITERプロジェクトアソシエート(IPA、参加極の研究所、大学、企業、および他の関係機関などに在籍しながら、ITER機構に人材を派遣するしくみ)211人のうち、日本人は5人、量子科学技術研究開発機構(QST)の身分のままITER機構で勤務している人員11人と、日本人の比率は全体の約4%程度になっている。

QSTでは、さらに人的貢献を増やすべく、ITER職員、IPA応募への支援活動(説明会の開催、事前相談、書類作成支援など)を実施している。また、ITERでは学生向けに最大半年程度のインターン制度を設けており、日本からは過去8年間に20名ほどが参加をしている。

引き続きQSTで募集・支援活動を実施していく所存であり、興味のある方はご相談いただきたい。


<正員>

杉本 誠

◎量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 那珂研究所 副所長、ITER 日本極内機関(JADA)長
◎専門:核融合工学、超伝導磁石

 

井上 多加志

◎量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 那珂研究所 ITERプロジェクト部 部長
◎専門:核融合学、中性粒子入射(NBI)加熱

 

<正員>

中平 昌隆

◎量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 那珂研究所 ITERプロジェクト部 次長
◎専門:核融合工学、超伝導磁石、遠隔保守

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