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2024/3 Vol.127

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特集 核融合実験炉ITER 建設最前線

遠隔保守ロボットの開発と調達の現状

武田 信和(量子科学技術研究開発機構)

核融合における遠隔保守

フュージョンエネルギー(核融合エネルギー)の実用化においては、各種の核融合反応の内、反応が最も容易な重水素-三重水素反応(D-T反応)の利用を前提に研究が進められているが、反応の結果として生じる中性子は、核融合装置の構造物を放射化し、ガンマ線源を生じさせる。このため、核融合装置の内部は、核融合反応が生じていない状況でも強いガンマ線環境下にあり、人による装置内での作業を妨げる。したがって、一定レベル以上の中性子が生じる核融合装置の保守作業には、装置外からの遠隔操作によって動作するロボットの使用が不可避である。

核融合装置において遠隔保守ロボットが初めて用いられたのは、欧州各国による国際協力で英国に建設されたJoint European Torus (JET)においてである(1)(2)。JETで用いられたのは、図1に示す通り、搬出入口から多関節のアーム(図中黄色)を挿入するブーム式と呼ばれる方式である。この方式ではアームは搬出入口付近から片持ち支持されることになるため、取り扱える重量は比較的軽く、JETでは300kgである(2)。一方、国際協力で核融合実験装置の建設を進めているITERでは、次節で詳述する通り、異なる方式を用いて保守を行うことを予定している。その他、2023年に初プラズマを達成した、日欧協力による核融合装置であるJT-60SAでも、遠隔保守を将来導入することが検討されている(3)。さらに、フュージョンエネルギーによる発電実証を行う原型炉でも、遠隔保守は重要な技術であり、文部科学省の核融合科学技術委員会で策定されたロードマップ(4)でも原型炉設計活動における開発課題の一つとして挙げられている。特に、原型炉では炉の稼働率を高めることが求められるため、遠隔保守を効率的に実施して休止期間を短くすることが大きな課題となる。

図1 JETにおける遠隔保守(1)

ITERにおける遠隔保守

遠隔保守の概要

ITERにおいては、すべての機器は遠隔保守の必要性のレベルに応じて表1に示す通り分類されており、定期的な遠隔保守が必要な機器については最も高いクラスである遠隔保守クラス1(RH Class 1)と定義されている。また、ITER機器のうち、真空容器内機器については遠隔による保守が可能な構造であることが設計条件の一つになっている(5)。真空容器内機器のうち、図2に示す二種類の機器、すなわちブランケットとダイバータが主な保守対象となっている。

前者は中性子遮蔽などの機能を持ち、真空容器内表面のほぼ全域を覆っている。後者は不純物の制御を行うための機器であり、真空容器の下部に位置している。これらは保守を容易にするために小部分に分割されており、それぞれブランケットモジュール、ダイバータカセットと呼ばれる。どちらも定期交換が必要な遠隔保守クラス1とされており、一定の頻度で定期交換を予定している他、不定期の交換にも対応することとなっている。どちらも遠隔保守用に専用のシステムが準備されており、ブランケットに関しては日本が、ダイバータについては欧州が遠隔保守システムを調達する。前者については次節で詳述する。

ITERの遠隔保守システムには、これらの機器の他、真空容器と修理設備との間を搬送する搬送キャスク(欧州が担当)などの機器も存在し、真空容器内での設置作業から修理設備での作業まで、すべての保守作業に対応した機器の設計・製作を系統的に進めている。

表1 遠隔保守クラス分類

図2 保守対象となるブランケットとダイバータ

ブランケット遠隔保守システム

ブランケット(保守対象)概要

前述の通り、ブランケットは中性子遮蔽の機能を持つ真空容器内機器であり、真空容器の内側に取り付けられている。保守を容易に行うため、ブランケットは440個の部分に分割されており、一つ一つはブランケットモジュールと呼ばれる。ブランケットモジュールは、遮蔽壁および第一壁から構成される(図3)。遮蔽ブロックは真空容器に固定され、第一壁は遮蔽ブロック上に固定される。第一壁は1本のセントラルボルトと、2本の第一壁エレクトリカルストラップボルトにより遮蔽ブロックに固定され、第一壁および遮蔽ブロックの内部には冷却配管が通っている。冷却配管は設置後に溶接ツールによって接続され、また、交換前にはディスクカッターを装備した切断ツールによって切断される。これらのツール類は第一壁前面のアクセス孔から挿入され、トーチやカッターを用いて所定の位置で溶接/切断を実施する。

前述した遠隔保守クラスがクラス1とされているのは第一壁のみであり、遮蔽ブロックについては故障のリスクが低いため、クラス2とされている。

図3 ブランケットモジュールと配管の構造(First Wall (FW):第一壁、Shield Block (SB): 遮蔽ブロック)

ブランケット遠隔保守システムの構成

ブランケット遠隔保守システムは、ブランケットを構成する第一壁と遮蔽ブロック双方を保守するためのシステムであり、日本が調達を担当している。ブランケット遠隔保守システムは、以下のサブシステムに大別できる。すなわち、①保守期間中に真空容器内に常設される主要機器、②主要部分を真空容器内に設置するための軌道展開装置、③第一壁・遮蔽ブロックの配管溶接・切断・検査や固定用ボルトの締緩などを行うためのツール類、④これらを統合制御し、運転操作を容易にするための制御システム、である。

ブランケット遠隔保守システムの主要機器を図4に示す。ブランケット遠隔保守システムは真空容器のトーラスのほぼ中央に円弧上の軌道を敷設し、その軌道上を可搬重量4トンの大型マニピュレータが移動する(6)。大型マニピュレータは軌道走行部であるビークルを備えており、全体でビークルマニピュレータ(Vehicle Manipulator)と呼称されている。軌道は、真空容器の4方向に設けられた搬出入口である遠隔保守ポートに設置された軌道支持装置で支持される。

この大型マニピュレータは第一壁と遮蔽ブロックの把持・運搬を行うほか、ツール類の運搬にも用いられる。大型マニピュレータへの給電・信号伝送は、複合ケーブルと呼ばれる大口径の多芯ケーブルによって行われる。

核融合運転中は真空容器内には保守システムは存在できないため、通常は別建屋で保管されている。核融合運転が停止し、保守作業が開始される際に、軌道および大型マニピュレータは遠隔保守ポートから真空容器内に搬入され、組み立てられていく。この作業はすべて遠隔で行われる。搬出入口が狭隘であるため、通過するためには軌道を折りたたむ必要がある。この目的で、軌道は部分軌道を蝶番で接続した構造になっている。さらに、搬送キャスクに収納する必要があるため、分割可能な構造にもなっている。分割部を接続するのは真空容器内で行われるが、これも遠隔による作業となる。

図4 ブランケット遠隔保守システムの主要機器

開発の現状

ブランケット遠隔保守システムは現在最終設計の段階であり、2025年末に予定している最終設計レビューに向けて、設計の詳細化と設計検証のための実規模試験を進めている。以下で具体的な活動の例について述べる。

重量物把持・搬送技術の開発

ブランケットの把持・搬送においては荷重の検知が重要であり、把持・搬送動作の中でも、把持指の把持穴への挿入時や第一壁を取り外す際の荷重移動時には必須の技術である。特に、荷重移動時には最大2Gの衝撃が生じうるため、円滑な動作のためには荷重を検知してこれを低減することが課題となる。量子科学技術研究開発機構では、図5に示す大型マニピュレータの実規模試験体に歪ゲージなどを用いた力センサを組み込んで、荷重の検知とそれを元にした円滑な把持・搬送動作を実現するための制御技術を構築中である。

図5 大型マニピュレータ実規模試験体

耐放射線性機器の開発

冒頭で述べた通り、核融合炉において遠隔保守システムは放射線環境下におかれ、使用するセンサやモータなどは耐放射線性の高い機器を使用する必要がある。核融合炉で必要とされる耐放射線性は積算線量で1MGy以上であるが、同様に放射線環境である宇宙での利用を想定した機器類はkGyレベルの耐放射線性を保証したものであることが多い。量子科学技術研究開発機構では、ITERでの使用を想定して、3MGy以上を目標とした耐放射線機器の開発や既存製品の試験を実施している(7)。モータについては、既存製品の改造により、8MGyの積算線量に耐えうる機器の開発に成功している。

その他の開発状況

これら以外にも、軌道の接続と多芯ケーブルの取扱については、実規模試験体を製作して検証試験を実施している。また、制御システムに用いる構造シミュレータや異常検知の高度化のため、機械学習を用いた手法も開発している。


参考文献

(1) JET Team, Development of key fusion technologies at JET, Nuclear Fusion, 40 (2000) 611-618

(2) A.C. Rolfe, A perspective on fusion relevant remote handling techniques, Fusion Engineering and Design, 82 (2007) 1917-1923.

(3) S. Ishida, P. Barabaschi, Y. Kamada and the JT-60SA Team, Overview of the JT-60SA project, Nuclear Fusion, 51 (2011) 1-12.

(4) 原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ), 文部科学省, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/074/houkoku/1408259.htm (参照日:令和6年1月22日).

(5) M.Merola, F.Escourbiac, A.Raffray, P.Chappuis, T.Hirai, S.Gicquel., Engineering challenges and development of the ITER Blanket System and Divertor, Fusion Engineering and Design, 96-97 (2015) pp. 34-41.

(6) Y.Noguchi, K.Nakata, I.Tomoyuki, T.Nobukazu., Design updates of ITER Blanket Remote Handling System to accommodate in-vessel environment, Fusion Engineering and Design, 194 (2023) 113918.

(7) M.Saito, H.Kozaka, T.Maruyama, Y.Noguchi, K.Nakata, N.Takeda, S.Kakudate., Irradiation tests of radiation hard materials for ITER blanket remote handling system, Fusion Engineering and Design, 124 (2017) 542-547.


武田 信和

◎量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門那珂研究所 ITERプロジェクト部 遠隔保守機器開発グループ グループリーダー

◎専門:核融合工学、遠隔保守

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