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2024/3 Vol.127

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特集 核融合実験炉ITER 建設最前線

超伝導コイルの開発と調達の現状

辺見 努(量子科学技術研究開発機構)

ITER超伝導マグネットシステム(1)

核融合実験炉ITERの超伝導マグネットシステムは直径30 m、重量1万トンに及ぶ巨大な超伝導マグネットシステムである(図1)。周方向に18機をドーナツ状に配置するD型コイルがトロイダル磁場(TF)コイルであり、中央に6モジュールを積重ねた中心ソレノイド(CS)、TFコイルの外側に配置する6個の円形コイルであるポロイダル磁場(PF)コイルから構成される。そのうち、日本は25%のTF導体、全数19機のTF構造物、9機のTFコイル、全数100%のCS導体の製作を分担している。本特集では、TFコイルの製作における技術開発成果について述べる。

図1 ITER超伝導マグネットシステム

ITER TFコイルの製作(2)(3)

ITER TFコイルは高さ16.5 m、幅9.2 m、重量310トンの巨大な超伝導コイルである(図2)。TFコイルは磁場11.8 Tを作る電流68 kAを流す巻線部とインボード(直線側)で6万トンに及ぶ巨大な電磁力を支持するため構造物から構成される。巻線部はダブル・パンケーキと呼ばれる2層のパンケーキ状のダブル・パンケーキを7枚重ねたもので、それぞれのダブル・パンケーキはD型に巻いた導体とその導体を挿入する溝のあるラジアル・プレートから構成される。

図2 ITER TFコイルの構造

使用される超伝導導体は中国、欧州、日本、韓国、ロシア、アメリカで製作され、TFコイルを製作する日本と欧州に送られる(図3)。日本が製作した構造物も日本と欧州に送られる。製作されたTFコイルは南フランスのITER建設サイトに輸送され、ITERの骨格を形成する重要な機器として組み立てられる。

図3 ITER TFコイルの調達分担

超伝導導体の開発(4)~(6)

ITER TFコイルに用いられる超伝導導体は、Nb3Sn素線、撚線、導体の順で製作される(図4)。Nb3Sn素線900本と銅線522本を5回撚り合わせて撚線が製作される。導体のジャケットのステンレスパイプ(316LN)は溶接で接続され、その中に撚線を引き込んで、径を圧縮して撚線とパイプを密着させて製作される。そのため、導体長に対応する760 mを超える長さの製造工場を建設して製作を実施した。なお、同じ工場でCS用導体も製作したため、長さは950 mとなっている。TF導体に使用されるNb3Sn素線の重量は380トンで、これまでに世界中で製作したNb3Sn素線の総重量に匹敵する量であり、この量産自体が技術的チャレンジであった。

図4 ITER TFコイル用超伝導導体の製作手順

巨大構造物の高精度溶接技術の開発(7)

ITER TFコイルの構造物はその巨大さのため、図5に示すベーシックセグメントを製作した後、溶接と機械加工によって図2の4個の構造物が製作される。溶接すれば、溶接後に常温に戻る過程で熱収縮が起こり、変形するため、余肉を機械加工することで最終形状となる。余肉を大きくすれば、溶接で変形しても正規の形状とすることが可能であるが、機械加工に時間がかかり工程が長くなるという問題がある。

図5 構造物のベーシックセグメント

一般に、溶接変形を低減するためには、両側から溶接することが有効であるが、コの字形状で両側からの溶接が難しく、反転して溶接する場合、巨大であるため反転時間が問題になる。そこで、工程短縮と溶接変形の低減を目的として、溶接による変形量に応じて油圧ジャッキで荷重を与えることで、溶接変形を低減する手法を開発した(図6)図7に示すように、この方法を適用することで、角変形量を低減し、3 mmの余肉で構造物を製作することが可能となった。

図6 構造物の溶接変形制御

図7 構造物溶接における角変形

構造物溶接時の開先合わせ精度の達成(8)(9)

高い溶接品質を確保するため、溶接深さ方向で±1.4 mm以下、溶接幅方向で±0.5 mm以下の精度で溶接時の開先を合わせる必要がある。構造物の一体化溶接では、構造物の自重変形により、構造解析の結果、アウトボード側は内側に5 mm変形することがわかっていた。そのため、開先を合わせるためのコロとジャッキなどから構成される開先合せ治具を用いて図8に示すように開先合せを実施した。この結果、長さ14 mを超える構造物の開先合せに要求される精度を達成し、高い溶接品質を実現した。

図8 構造物一体化溶接時の開先合せ

電流中心の高精度位置管理の達成(8)(9)

高性能なプラズマを閉じ込めるためには誤差磁場を低減することが求められる。ITER TFコイルの場合、巨大であるにもかかわらず、電流中心の位置として図9に示す非常に厳しい数mmの精度が要求される。この要求を満たすには、すべての製作プロセスにおいて電流中心の位置を測定・管理してTFコイルを製作する必要がある。そのため、図10に示すように、マーカが構造物の内部にあっても樹脂注入用の穴などを用いて電流中心位置をレーザトラッカで精密測定する。巻線部は構造部内部において自重で数mm変形しているため(図11)、アウトボード側2か所をジャッキボルトで押し上げることで巻線部の形状を調整した。図12に示すように、すべてのTFコイルの電流中心の位置決めの結果、インボードで直径2.6 mmの円筒の中に収まることを確認した。

図9 電流中心(CCL)の位置精度

図10 レーザトラッカによる電流中心の位置測定

a. 巻線部の自重変形   b. 巻線部形状の矯正

図11 巻線部の自重変形とその矯正

図12 電流中心の位置決め結果

ITER TFコイル製作の完遂(9)

2023年11月に日本が分担するTFコイル最終号機がITER建設サイトに到着した(図13)。これにより、TFコイルの調達取決めが署名された2008年から15年間に及ぶすべての作業が完了することとなり、TFコイルの製作を完遂した。これは、日本の技術力を結集し、徹底した品質管理に加えて、多くの研究機関と企業の研究者、技術者のフュージョン・エネルギーに対する情熱と継続的な努力によって、無理とも言われた厳しい要求を達成して成し遂げたものである。

a. ITER建設サイト

b. ITER機構への引渡し

図13 ITER建設サイトに到着したTFコイル最終号機


参考文献

(1) 島本進, 高橋良和, 奥野清, 国際熱核融合実験炉’ITER’の工学設計活動から建設へ, 低温工学, Vol.41, No.12(2006), pp.542-552.

(2) 小泉徳潔, 中平昌隆, 日本におけるITER トロイダル磁場コイルの製作―TF コイルの概要及び巻線部の製作―, 低温工学, Vol.55, No.5(2020), pp.315-318.

(3) 中平昌隆, 小泉徳潔, 日本におけるITER トロイダル磁場コイルの製作―TF 構造物と一体化―, 低温工学, Vol.55, No.6(2020), pp.381-384.

(4) 名原啓博, 布谷嘉彦, 礒野高明他, ITER トロイダル磁場コイル用 Nb3Sn 超伝導素線の量産と品質管理, 低温工学, Vol.47, No.3(2012), pp.140-146.

(5) 礒野高明, 堤史明, 布谷嘉彦他, ITER トロイダル磁場コイル用 Nb3Sn 撚線の製作, 低温工学, Vol.47, No.3(2012), pp.147-152.

(6) 濱田一弥, 高橋良和, 名原啓博他, ITER トロイダル磁場コイル用導体の製作技術開発, 低温工学, Vol.47, No.3(2012), pp.153-159.

(7) 井口将秀, 櫻井武尊, 高野克敏他, ITER TF コイル構造物の溶接変形制御技術の開発, 低温工学, Vol.55, No.6(2020), pp.385-392.

(8) M. Nakamoto, Y. Kasai, T. Baba, et al., Development of ITER TF Coil Assembly Technique, Integration of Winding Pack into Coil Case, 低温工学Vol.55, No.6(2020), pp.400-408.

(9) M. Nakamoto, H. Kajitani, T. Hemmi, et al., Completion of all nine ITER toroidal field coils in Japan, IEEE Trans. Appl. Supercond.,(2024). doi: 10.1109/TASC.2024.3351951


辺見 努

◎量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 ITERプロジェクト部超伝導磁石開発グループ グループリーダー

◎専門:超伝導工学、電気工学、電気絶縁

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