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2024/4 Vol.127

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特集 ベンチャー企業の実際

<機械系ベンチャー企業の紹介>東京ロボティクスのこれまで

坂本 義弘〔東京ロボティクス(株)〕

はじめに

東京ロボティクス(以下、当社)は、ロボットの適用分野を拡大し効率的な社会を実現することを目指す早稲田大学発のスタートアップである。研究用のロボットを自社開発し販売するところから事業を始め、現在はそれに加えて物流施設やデータセンターにおけるソリューションの開発も進めている。

会社を研究室の後輩と立ち上げてから2024年の1月で9年が経った。スローペースながら順調に成長し、現在は正社員23名、副業・インターンが25名と、それなりの所帯となっている。社員と顧客に恵まれ、9期連続増収、すべての期で黒字という良好な実績も残せた。特許も80件ほど出願し、小さいながらもまずまずの仕事をしていると思う。

本稿では、当社の立ち上げの経緯と現在の状況についてまとめながら、我々がそれなりにやれてきた理由を考えてみたい。自分の技術をベースに起業することに興味がある方がこの記事を読んだ際に、我々の経験が少しでもお役に立てれば幸いである。

起業の経緯と、起業からこれまで

筆者は大学院を卒業後、少しの社会人経験を経て、27歳で最初の会社となるIT関連会社を設立した。当時、右も左も分からないまま営業と開発に奔走し、少し羽振りがよかった時期もあったが、4年程度で会社をクローズすることになった。失敗の理由はいろいろあるが、一言で言えば経験不足だったからと思う。世間や人間を知らな過ぎた。経営に関する知識もなかったし、今から思うと肝心の技術もたいしたものではなかった。会社が失敗して失意の中、他人にのせられて飲食店経営に手を出してみたが、軽い気持ちでうまくいくはずもなく、失敗し借金だけが残った。このとき32歳、人生のどん底だった。その後、もう一度ゼロからやり直すべく大学に戻った。博士課程に進学し、助手をする傍らフリーランスエンジニアとして友人の会社を手伝い、借金を返して博士号を取った。このとき35歳。そして、転機が訪れた。

最初の転機

2014年も終わりに近づいたある日、筆者の出身研究室の後輩で現CTOの松尾から「勤め先をやめて会社を立ち上げようと思うんですけど…」と相談があった。彼が機械系を中心に高いロボット技術を持っていることは知っていたし、世の中にロボットブームが起こりつつあることも感じていた。そして猫も杓子もITに走った反動でハードウェアがお金になることも知っていたので、即座に「なら一緒にやろう!」と返答、2015年1月に当社を共同創業した。その後、研究室の歴代の優秀な卒業生に声をかけ、機械、電気、ソフトという三つの分野で強力なメンバーを揃えた。

創業後2年は筆者と松尾の給料はゼロ、友人の研究者から少しの受託仕事をもらったり、ものづくり補助金をもらったりしながら、最初の製品である研究者向けの力制御ロボットアーム「Torobo Arm」を完成させた。当時は競合がほぼ存在しない製品だったので、これが普通に売れ、会社も無難に離陸することができた。

二回目の転機

主力製品であるTorobo Armのラインナップを増やしつつ、人も増やして会社としては成長していたが、忙しい割に社員の給料は安く、それでいて財政は火の車だった。ハードウェアビジネスは在庫が必要でかつ受注後の納品・請求が半年後になるなど、キャッシュフローが極めて悪く、会社が成長すればなおさらそれが苦しくなるという構造がある。当時の我々はベンチャーキャピタル(VC)とは付き合いがなく、銀行の与信枠もかなり小さかったため、常にお金には苦労していた。支払日に筆者や松尾が会社に貸付をして支払いを乗り切ること度々だったし、今からすると冷や汗ものだが、しまいにはその額が全財産に近くなっていった。

そんな中、次の転機はヤマハ発動機との資本業務提携だった。最初に同社から問い合わせがあった時、製品より技術を欲しがっているように思え、会社に行き詰まりを感じていた我々は思い切って技術供与を打診した。その後、10カ月かけて条件を協議し、2020年1月に資本業務提携の契約を締結した。出資金2億円と、非公開ながらかなり大きな技術供与契約(ライセンスおよびコンサルティング)を結ぶことで、苦境を脱することができた。大企業からの出資により会社の信用が増し、社員にまともな給料やオフィス環境も提供できるようになった。それにより、新卒や転職者の受け入れが加速し、会社の成長速度が上がった。

この他、新製品の企画、重要顧客との出会い、キーパーソンの加入、アクセラレーションプログラムへの採択、表彰など、大小いくつもの動きがあり今に至っている。その結果、三つの主要な事業に収斂したので、次節でそれを紹介したい。

主力事業の紹介

当社の事業は、祖業である研究用ロボットの開発・製造・販売、物流施設向けのソリューション、およびデータセンター向けのソリューションの3本柱となっている。以下にこれらを紹介する。

研究用ロボット(図1)

研究用ロボットは当初、全軸にトルクセンサを装備し、力制御やインピーダンス制御が可能な6軸ロボットアームから提供を開始した。その後、7軸化、小型化、上半身人型化などを経て、最終的に全身24軸の人型ロボット「Torobo」として技術が結実した。早稲田大学が採択されたムーショットプロジェクト(目標3:菅野PM)での人間共存ロボット研究や、NTT研究所における大規模言語モデルの応用研究などで使用されており、第10回ロボット大賞も受賞している。その他、電流値からトルク推定してインピーダンス制御を行う廉価版の人型ロボット「Toala」や、片腕式移動マニピュレータである「Tolon」も提供し、研究者から好評を得ている。

図1 研究用ロボット(左からTorobo, Toala, Tolon)

物流施設向けソリューション(図2)

現在、移動マニピュレータを用いて棚からカゴ車などへ商品を無人搬送する「Torobo GTC」というソリューションを開発している。GTCはGoods-to-Cage Trolley、Goods-to-Cart、Goods-to-Conveyorなどを意味し、既存のGTP(Goods-to-Person)と異なり、ピッキングステーションを不要とすることで、人手を介さず完全無人化できるというメリットがある。その他、3.9メートルの棚を利用し、保管効率を高められる点や、バッテリ自動交換ステーションによりロボットの停止時間を最小限に抑えられる点、速度が最大3m/sとスループットが高い点など、いくつかメリットがある。本ソリューションは2024年9月頃から顧客の現場で試験運用を開始する予定である。

図2 Torobo GTCを用いた靴箱ピッキングの様子

データセンター向けソリューション(図3)

データセンター(DC)において、ロボットを用いてサーバーラックの内部を遠隔から監視できるソリューションを開発している。厳しいサービスレベルを求めるサーバー利用者は、サーバー障害時に迅速に現地に駆けつける必要があるが、ロボットを用いて遠隔から状態を確認することで障害原因の一次切り分けを行うことができる。また、DC内の定常点検業務などにも活用でき、人手不足が深刻な地方のデータセンターでのニーズが強い。ロボットはインターネットを介して手先の6軸姿勢のジョグ動作と手先カメラの映像取得が可能で、特定のラックの前までは自律的に移動する。本サービスの試験運用はパートナー企業と共同で2024年4月に開始する予定である。

図3 DCソリューション

我々の技術

創業して9年、最大の成果は、高い品質のロボットを迅速に構築できる基礎技術を蓄積できたことだと考えている。最適なロボットを作るために、例えばフレームレスのブラシレスDCモータを自ら設計し、パートナー企業に製造を委託している。それを組み込んだドライブユニット、それを駆動するモータドライブ回路、それを制御するモータコントローラ、トルクセンサなど、すべて内製している。また、36関節を1ms以内に同期するEtherCATとそれらを管理するリアルタイムOSの導入、その上で動作する運動学、動力学、軌道制御、インピーダンス制御などのロボット制御の実装も自社で行っている。(図4)

図4 当社が保有するハードウェア技術の一例

自律ロボットを構築するには、ハードウェアだけでなく、自律知能に関するソフトウェアも必要である。3次元LiDARと3次元地図を用いた自律移動、画像認識(アルゴリズムベース、深層学習ベース)、ロボットの全身制御(モーションプランニング、干渉回避、転倒防止)、行動切り替えのためのステートマシン、複数ロボットの移動経路を計画・実行するMulti-Agent Pathfinding(MAPF)やフリートマネジメント、シミュレータを用いた動作シミュレーションやロボットの運用状態の可視化、クラウドインフラ、バックエンド・フロントエンドなど、適宜オープンソースなどを活用しながらすべて自社で開発・実装している。(図5)

図5 当社が保有するソフトウェア技術の一例

ここまでの技術ポートフォリオを得るには膨大な金銭コストと時間を費やしてきた。しかしながら、研究用ロボット事業からスタートしたことが功を奏し、先端的なロボットを開発して顧客に買ってもらうことで、技術と収入を同時に得ることができた。こうして黒字を保ちながらここまでの技術を蓄積できたのである。

我々がそれなりにやれた理由

我々がそれなりにやれた理由は明白である。「売れるもの」を作ったからだ。売れるということは、顧客がお金を出すだけの「価値」があったということ。技術者の多くは勘違いしてしまうが、技術=価値ではない。課題を解決することが価値なのだ。

例えば我々の最初の製品である研究用の力制御ロボットアームは誰の何の課題をどのように解決したのか。長くなるが次のように表現されるだろう。

研究者(誰)の、「研究を加速して論文をたくさん書きたいが、自分でロボットを作る手間はかけられないし、作っても研究にならないし、そもそも作れないし、でも研究で使いやすいロボットが欲しい;それはつまり、産業レベルの品質で、力制御ができたり、移動台車に積んでモバイルマニピュレータにできたり、コントローラのソースコードを書き換えたりできるものだが、既存の産業用ロボットを含め、そういった製品が世の中にない」という課題を、「産業用ロボットに準じる品質ながら力制御可能、DC24V駆動(=バッテリ駆動)、小型軽量のコントローラ(移動台車に搭載が用意)、コントローラのソースコード改変可能、およびROS対応のロボットアームを提供すること」で解決した。

スタートアップは一般に、売れるものを作るまでに資金がもつかどうかの戦いと言われる。VCから資金調達していなかった我々としては、早々にProduct-Market-Fit(PMF;市場を満足させることができる製品を適切な市場に投入できていること)を達成できたことは幸運だった。ただ、我々の場合、創業当初から研究者コミュニティの中にいて各種課題を聞いていたので、PMFまでの距離が短かったことはある意味必然とも言える。

それともう一点、我々がそれなりにやれた理由として、「まだ市場にないもの」にこだわって来たということもある。顧客の課題解決ができても、すでに売られているものを真似しているだけだったら、結局のところ価格競争にしかならず、体力のある大手には勝てない。まだ市場にないものを売ることによって、競合が現れるまで十分な利幅を確保し、未来に投資することができる。オンリーワンになると営業も不要で、これまでプレスリリース、展示会出展、Webサイト、口コミだけで十分な注文を得ることができた。加えて、大企業との協業やアクセラレーションプログラムへの採択にも有利に働き、資金確保と技術力向上の助けになってきた。大企業から業者扱いされるのではなく、対等にお付き合いできるのも精神衛生上よかった。これから技術で起業される皆さんにも、ぜひオンリーワンを(もちろんナンバーワンも)追求してもらいたい。

ロボティクススタートアップは技術優位

会社の立ち上げ前後から10年くらいロボット系のスタートアップを観察してきて、技術力とその会社の発展の相関がかなり大きいように感じる。メディアで夢を語り、VCから大きなお金を集め、鳴り物入りで参入したスタートアップも、ピボット(事業の路線変更)を繰り返す中で技術力がボトルネックとなり、結局ありきたりな製品・サービスしか提供できない状況になっていることが多い。これはロボットが総合技術であり、事業アイデアとそれを支える技術のバランスにおいて、他の分野と比較してより技術の比重が大きいからだと考えられる。そういう意味で、当社がここに来て顧客ニーズを汲み取りながら、さまざまなソリューションを迅速に立ち上げることができているのは、研究用ロボット事業を通して技術力を高めてきたからと言える。

ところで、MITの教授であるPierre Azoulayらによると、米国の急成長のスタートアップ(最初の5年間の成長率に基づく上位 0.1%の企業)において、創業時の創業者の平均年齢は45歳であるとのこと(1)。世代別でも、急成長スタートアップは40代の創業がいちばん多く、次いで30代、50代、そしてその次が20代とのことだ。そして数ではなく成功率で見ると、ピークが50代後半となるらしく、若い天才が成功しているイメージとは正反対の結果が出ているようだ。このことは40~50代が、業界の知識と経験、人的ネットワーク、十分な貯蓄、そして体力などの総合点においていちばん優れていることを意味している。さらに、上述したようにロボティクススタートアップは技術力が重要という点を考慮すると、長年ロボット開発に携わったエンジニアが起業することに一定のアドバンテージがあるのではないか。もちろん、機械、電気、ソフトウェアなどの複数分野のエンジニアを一度に集める苦労はあるが、こうした見方も起業の判断基準になると思う。

まとめと今後の展望

創業から9年経って、ようやくスケーラブルなビジネスを構築するためのベース、つまり技術力を得るに至った。正直なところ、スタートアップとしての本当の勝負はこれからで、これまではある種の準備期間だったとも言える。これからは物流やDCなどのソリューションでしっかりとPMFさせ、ユニットエコノミクス(顧客ごとのプラスの採算)を実現する必要がある。そして急成長に向け、いよいよVCからも資金調達し、上場も視野に入れていく。最終的には、日本発の世界的なロボティクスカンパニーになりたい。


参考文献

(1) The Average Age of a Successful Startup Founder Is 45, Harvard Business Review,
https://hbr.org/2018/07/research-the-average-age-of-a-successful-startup-founder-is-45 (参照日2024年2月4日).


坂本 義弘

◎東京ロボティクス(株) 代表取締役

◎専門:ロボット工学、測位技術

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