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2024/4 Vol.127

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特集 ベンチャー企業の実際

<機械系ベンチャー企業の紹介>拡散接合技術のトップメーカーを目指して

鈴木 裕・齋藤 隆〔(株)WELCON〕

企業紹介

当社は新潟市秋葉区にある2006年7月に設立し現在18年目になる企業である。2023年1月に現在の住所に移転した(図1)。事業基盤が接合技術であることから良い接合技術を提供する(well connect)、多くの方と新しい開発に取り組みたいという願い(We will connect ~)から、WELCONという社名とした。現在は拡散接合技術を主に利用して微細な三次元構造を創り出し、主に熱対策部品へ適用している。目的、要求に基づき、企画・開発から量産までワンストップで対応可能な企業として課題に取り組んでいる。当社は理念として、

1.技術革新により社会の発展に貢献する

2.創造することを楽しみ、変革と差別化を追求する

3.顧客、取引先、仕入先、従業員すべてが喜ぶ

4.地域に希望を与え、活性化に寄与する

を掲げている。起業後10年間は企業として破綻しないことを意識し、11年目からはビジョナリーカンパニーとなることを目指して以下の二つの10年ビジョンを掲げた。

1.熱対策部品メーカーのブランドとなる

2.拡散接合技術でトップメーカーとなる

当社は事業の中心に「微細三次元構造の創造」を置き、①自社設計製作の接合装置とプロセスエンジニアリング、②測定・評価設備と技術、③シミュレーションを用いた熱・流体設計技術、④耐圧を含む構造設計技術、⑤工作機械を利用した加工技術、⑥接合工程後、個片化して機能を付与するFAに取り組んでいる。製品が小さい場合、Siウエハ上にパターンを多数配置するように、同じ板の上に多数の構造を配置して接合したのちに、個片に切り出して製品とすることができる。

図1 WELCON本社

 

技術、製品紹介

接合技術

拡散接合は、加熱・加圧をし、原子の拡散を利用して接合する方法である。固相状態で材料を溶かさないで接合することができる。また薄い板を積層して同時に接合が可能なため、異なった形状に加工した板を積層すれば、複雑な三次元構造を得ることができる。そして、板の厚さを薄くすれば構造の分解能を上げることもできる。接合性能は主に、材料、温度、加圧力、表面粗さ、表面の状態の影響を受けるのだが、当社では材料毎の接合条件と接合状態の比較を行うための基礎実験を行ってきた。引張強度は母材と同等でもシャルピー衝撃試験では差が出る。製品の目的に応じた接合条件を選定する必要があることを示している。

固相状態で原子が拡散するためには、原子レベルで密着している必要がある。金属材料はどれほど平坦に加工しても表面には凹凸がある。また、積層すれば接触部と空隙部が存在する。そして、加熱・加圧すると弾性変形、塑性変形、表面拡散により界面の密着が進む。さらにこのあと、粒界拡散、体積拡散が進み、一体になる。

反応を早めるためには温度を上げる、加圧力を大きくして密着を進めるといったアプローチがあるが、接合物の変形が大きくなってしまい、内部の構造も影響を受けて所望の性能を発揮できなくなる。これらの制御を目的として、接合機と接合プロセスの開発に取り組んできた。接合状態の評価は破壊検査、超音波を使用した非破壊検査、リーク検査、耐圧検査、繰り返し耐圧検査、熱衝撃検査などを実施している。

マイクロチャネルヒートシンク

熱対策を必要とする分野は幅広く、近年はさらに発熱密度が高くなり高性能化が求められている。微細構造により表面積を増加させ、発熱源の近傍に有効な構造を創り出すことや材料の選択により効率の向上に取り組んでいる。また構造により冷却液の温度上昇を抑制して温度差を確保する工夫や、圧力損失の低減などをシミュレーションと実機の測定で取り組んでいる。

図2に標準的なヒートシンク外観と内部構造を示す。内部には細くて短い流路(マイクロチャネル)が格子状に配置されている。左上のパイプから導入された冷却水は、内部構造により各流路に分配される。各流路は短く流量は少ないため、圧力損失を低く抑えられる。また流路を短く区切ることで、表面積の増加と受熱による温度上昇を各流路内で抑制して全体として均一な温度分布を得ている。図3には加熱面の冷却過渡応答を示しているが、一般的なヒートシンクでは下流側で温度が上昇してしまうのに対し、当社製は均一な冷却が得られている。また内部構造の設計により位置による冷却能力の調整も可能である。

図2 ヒートシンク外観(左)と内部構造(右)

図3 一般的な単一流路型(左)WELCON製のヒートシンク(右)の温度分布

マイクロチャネル熱交換器

マイクロチャネル熱交換器は流路の微細化により伝熱面積を向上させ、流体間の距離を近くすることで小型化を実現している。前述した拡散接合により接合部の強度を材料強度とみなせるため、耐圧性能は内部構造を考慮すればよく、耐圧100MPaが求められる水素ステーション向け熱交換器(図4)に採用されている。また流体間の温度差が大きく、熱交換器に高い熱応力が生じる場合や、高温流体使用時においても壊れにくい特徴がある。

図4 水素ステーション向け熱交換器 改良型(左)初期型(右)

環境保護の観点から、ヒートポンプシステムなどに使用する冷媒使用量削減の動きがあるが、本熱交換器は省容積であるためこの実現に寄与する。微細構造の実現方法には複数あり、金属のエッチング、レーザー、機械、プレス加工やそれらを組み合わせて構造を実現している(図5)。プレス部品によるマイクロチャネル構造は量産時に低コストを実現する。また水素ステーション向けの熱交換器の開発に伴い、高圧ガス保安法の申請を経験し、その後ASME認証、PED認証(欧州の圧力機器指令)を取得することができた。

図5 熱交換器構造 エッチング(左)プレス(中)組合せ(右)

ベーパーチャンバー

ベーパーチャンバーは、平板の形となるように設計された、ヒートパイプの一種である。ヒートパイプ同様、中空構造で毛細管力が得られる微細構造を持っており、内部を減圧にして作動流体(一般的には水)を封入している。外部からの入熱によって内部の作動冷媒が蒸気となり高速で移動(熱輸送)し、入熱部より低い温度の場所で凝縮、毛細管力で入熱部に戻る。この過程で入熱部の熱はベーパーチャンバー全体に輸送され、見かけ上極めて高い熱伝導率を実現する。

図6にベーパーチャンバーの外観と銅板との性能比較を示す。左が銅板、右がベーパーチャンバーで、下部に設置されたヒーターは70℃となるよう制御し、自然放熱で冷却している。銅板は400W/mK程度の優れた熱伝導率を持っているが約5℃の温度差がある。一方、ベーパーチャンバーの温度差は約0.5℃であり、銅のおよそ1/10の優れた熱伝導を示す。図7では実利用を想定し熱源にヒートシンクを取り付け、熱源とヒートシンク間のベーパーチャンバー設置有無で比較している。上部からファンで冷却したときの熱源の温度差を比較すると、ファンの回転数によらずベーパーチャンバーは20℃近い熱源温度の低減が見られる。フィン全体に熱を効率よく伝えることで冷却性能の向上を図ることができる。

図6 外観(左) 銅板との温度分布の比較(右)

図7 ベーパーチャンバー性能測定(左)と効果(右)

インラインヒーター

インラインヒーターは、マイクロチャネルと内部構造により小型で高効率な温度コントロールを実現するデバイスである。伝熱面積を大きくし、流路を小さくし、流体と壁面との位置関係を変更することにより効率を向上させている。また接合技術による耐圧性能の向上により粘度が高く使用圧力が高い環境でも採用されている。流体が一様に加熱されるため、温度のコントロールが品質に影響を与えるような流体に適している。図8にマイクロチャネルを適用した小型のインラインヒーターを示す。

図8 インラインヒーター外観(左)と仕様例(右)

これまでの歩み

拡散接合に出会ったのは、筆者が学生時代に就職活動で訪問した重工業メーカーだった。それからおよそ10年後にこの技術に取り組むことになった。当時働いていた企業がブラウン管関連のFA事業に取り組んでいたが、フラットパネルの出現とともに縮小しており、ともに携わっていた人たちのために新しい事業を創り出す必要を考えたことがはじまりである。また新しい企業をスタートさせたのは、自動車分野への取組みを完成させるまで責任をもって遂行してほしいという客先の要請が契機となっている。シーズオリエンテッドであったため、事業化にはいくつかの壁があった。一定の成果を得ることができたのは、よい出会いと支援を得られたからだと思う。

技術的には新潟大学大学院の大橋修教授に拡散接合について多くを教えていただいた。貴重な文献の紹介や、実験結果に関する見解や放射光施設における測定もご支援いただいた。伝熱に関しては筑波大学の阿部豊教授に多くを教えていただいた。快く共同研究にも応じていただき、マイクロチャネル内の流体の現象や、評価手法のレクチャー、国の補助事業の取組みにも協力いただいた。

一緒に製品開発に取り組ませていただいた顧客の方たちにも恵まれた。自動車、印刷、半導体、化学、通信などさまざまな分野でいろいろな企業の方々と構造や熱にかかわる開発に携わらせていただいた。採用されなかったものもあるが、それぞれの案件を通して知見を深めることができた。評価手法、管理手法など知らないこともたくさんあったが、快く教えてくださり助けられた。工法そのものは1950年代から存在していたが、原子力や航空・宇宙の分野で使用されていたため、汎用技術ではなく、展示会においても「拡散接合とはなにか」という質問が多く、啓発の期間が長く続いた。その中で採用実績がなくても求める機能や性能の可能性を理解して、社内を説得しながら進めてくれた担当の方たちとの出会いには大変勇気づけられた。そして都度求められるレポートの作成は自分たちの実力を向上させるためにも役立ったと思う。

新潟県、新潟市や国の助成事業にも助けられた。測定装置を自分たちで保有し、多くの対象を実際に測定し観察することにより気付くことが多かったように思う。費用を請求することのできない実験用の評価サンプルもたくさんつくった。破壊試験と非破壊試験の比較も行った。水素ステーション向けの熱交換器の流路開発もシミュレーションだけなく、実際に製作して使用環境下で測定することにより得られた知見があった。実機の測定は測定の難しさを知ると同時にシミュレーションの精度の向上にも役立っている。

ともに開発や事業の拡大に取り組んでくれた設立時からのメンバーや加わってくれたメンバーも理念やビジョンの実現に貢献している。自動化、認証の取得、シミュレーション、事業計画など魅力的な人が集まってくれたと思う。毎年2回正社員全員参加でキックオフを行い、各部門、プロジェクトが目標に対する取組みと結果、改善点と次年度の行動計画を報告して全社の意識の方向性を合わせ、完成度を高める取組みを4年目から始めた。初めのころは意識の方向を合わせるというよりもそれぞれが思いを主張している状況だったが、継続的に取り組むことにより徐々に機能的になってきている。年間4日を使うことは大きな投資だが、それを超える効果が生まれるように引き続き質を向上させていきたい。通常の事業運営においても外部の顧問の方からのアドバイスも示唆に富むものとなっている。内容をよく検討することにより、よりよい決定や方針を持つことができているように考えている。

まとめ

製造系のベンチャー企業は、製造設備の投資や機器の法的要求、品質、環境、変更管理、情報管理などハード・ソフト両面の要求事項がある。事業開始時に知らなかったことがたくさんあったが、抜け道を探さずに取り組んだことは実力の向上につながったと思う。利用してくださる方がいて事業が成り立つので、自身が実現したいことを忘れずに、必要とされていることを正確に理解し、行うべきことを、求められている期間内にどのように行うか、そしてそれを正確に発信することが求められていると思う。健全な思考には健康が重要である。ベンチャー企業に取り組むには体力も必要だと感じている。今回このような振り返る機会をいただいた。関わっていただいた皆様に心から感謝をお伝えしたい。


鈴木 裕
◎(株)WELCON 代表取締役社長

 

齋藤 隆
◎(株)WELCON 常務取締役

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