特集 逆問題解析研究を振り返る
逆問題システムの社会実装
はじめに
逆問題(Inverse Problem)は、与えられた条件から結果を求める順問題とは対照的に、観測された結果から原因や入力条件を推定する課題である(1)。数学的には、限られた観測データから方程式やモデルの未知パラメータ、境界条件、初期条件を推定する問題として定式化される。多くの逆問題は、解の存在・一意性・安定性という良定義性の3条件のうち少なくとも1つを満たさない不適切(ill-posed)問題であり、わずかな観測誤差が結果に大きな影響を与えるため、解を安定化する手法が不可欠である(2)。
以上は理論的な側面から見たよく目にする逆問題の説明である。一方、逆問題として抽象化された理論を現実世界に具現化する取り組みも、逆問題の重要な側面である。
逆問題の実装は単なる理論解析にとどまらず、観測機器や計算資源と組み合わせて新たなシステムを創出するプロセスである。例えば、X線CTではレントゲン装置やターンテーブルに逆問題アルゴリズムを組み合わせることで、人体内部の断面像が得られる。天気予報では観測所や気象衛星のデータをカルマンフィルタなどで統合し、数値予報モデルに入力して未来の大気状態を推定する。このように、逆問題は理論を現実世界に具現化し、物理系と情報系を結合するサイバーフィジカルシステムやデジタルツインの形成に直結し、既存の観測・計算インフラに付加価値を与える手段として理解できる(3)(4)。
次章で示す逆問題の発展史をみても、理論研究と応用研究は相補的にキャッチボールしながら進展してきたことが分かる。すなわち、抽象化による理論構築と現実への具現化は、逆問題研究の両輪である。本稿では、この「社会実装」という観点から逆問題をながめ、その実践手順および実装時における基本的な考え方についてまとめる。
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キーワード:特集 逆問題解析研究を振り返る
表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)