機械工学年鑑2026
13.環境工学
13.1 環境工学を取り巻く状況
「騒音・振動評価・改善技術」においては、ドローン、医療機器などの最先端の技術を対象として騒音や警報音などの評価をおこなっているものや、オフィスなどの屋内における吸音率などの研究が広くおこなわれている。超音波技術を用いた海底の地形推定などの研究も進んでおり、外乱に強い水中音響通信および測位などが注目されている。「資源循環・廃棄物処理技術」においては、ロボットを導入することで、廃棄物処理・リサイクルの高度化・自動化、非接触型ごみ収集の実現を目指している。ごみ焼却施設の現状と今後の課題をテーマとした研究が多く、最適運用や安定制御、自動運転などの設備系の改善や、CO₂を固体炭素に変換する技術、CO₂分離・回収を前提としたシステム開発など、脱炭素社会における廃棄物処理が進んでいる。「大気・水環境保全技術」においては、アンモニアを対象とした研究が目立ち、排ガスの影響、酸化触媒の特性評価、プラズマ分解、専用焼バーナーによる燃焼安定化、改質反応の熱力学的平衡解析など、幅広い研究がおこなわれている。海水温分布取得のための観測点最適化や海水試料の密度精密測定における環境圧力の影響など温暖化に影響を及ぼす地球規模の海水循環を対象とした研究もおこなわれている。「環境保全型エネルギー技術」においては、再生可能エネルギー分野では、吸着冷凍サイクル、潮流エネルギー、バイオコークスなどがキーワードで挙げられ、エネルギー貯蔵の分野では、潜熱蓄熱体に関する融解に関する実験的研究や圧縮空気の効率的な貯蔵・利活用方法に関する検討、全固体電池評価研究など幅広く、空調システムやヒートポンプの構成機器の基礎研究のほか、低GWP混合冷媒の物性測定など、エネルギー分野における環境関連技術も広く研究されている。
〔田中 勝之 日本大学〕
13.2 騒音・振動評価改善技術分野の動向
総務省公害等調整委員会が2025年12月12日に公表した「令和6年度公害苦情調査(1)」によると、典型7公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下および悪臭)の苦情件数は47,622件であり、前年度と比較して1,347件(2.8%)減少したことが示されている。内訳を見ると、「騒音」が18,811件(全体の39.5%)と最も多く、「振動」は2,460件(同5.2%)となっており、「騒音」「振動」が全体の約45%と大きな割合を占めている。前年度からの変動では、「騒音」は97件の減少(0.5%減)、「振動」は237件の増加(10.7%増)であった。10年前の2014年度の苦情件数では「騒音」は17,202件(33.1%)、「振動」は1,830件(3.5%)であり、年度による増減はあるものの、長期的に見るとこれら二つの公害が全体に占める割合は増加傾向にある。また、典型7公害の直接処理件数(42,899件)を苦情申立てから処理までの期間別に見ると、「1週間以内」が27,343件(全体の63.7%)と最も多い。しかし、「騒音」における1週間以内の処理件数は52.8%、「振動」では49.1%と、他の公害と比較して短期間で処理された割合が低く、処理に長い日数を要する傾向が見られる。
一方、環境省が2026年2月に公表した「令和6年度騒音規制法施行状況調査報告書(2)」においては、騒音に係る苦情の件数は19,886件であり、前年度と比較して4件(0.0%)減少したことが示されている。苦情件数を発生源別に見ると、建設作業が8,166件(全体の41.1%)と最も多く、次いで工場・事業場が4,723件(同23.8%)であり、この2種類の苦情で全体の約65%を占める結果となっている。交通騒音については、航空機に係る苦情が389件(全体の2.0%)、自動車に係る苦情が390件(同2.0%)、鉄道に係る苦情が50件(同0.3%)であった。苦情件数の内訳について、前年度以前と大きな差異は見られない。近年注目を集めている低周波音に係る苦情については、件数は291件(前年度335件)で44件減少した。低周波音の発生源別にみると、工場・事業場に係るものが75件(全体の25.8%)と最も多かった。また、同報告書内で調査されている「騒音に係る環境基準の適合状況」については、2024年度に環境騒音の測定を実施した全測定地点2,315地点(前年度2,297地点)のうち、90.3%(同90.0%)に当たる2,091地点(同2,067地点)で環境基準に適合しており、前年度と比較すると適合した地点の割合が微増している。
続いて研究動向を紹介する。2025年7月18日~21日の日程でInternational Workshop onEnvironmental Engineering 2025(IWEE2025)および第35回環境工学総合シンポジウム2025(3)が北海道の北見工業大学で開催された。全体の講演件数は105件であり、そのうち騒音・振動に関するセッションでは合計19件の発表があった。今回の講演では、吸音遮音の基礎材料から鉄道、ドローンなどモビリティ騒音の課題、医療空間やオフィスの音質評価など多岐にわたる発表が行われた。また、2025年9月7日~9月10日に北海道大学札幌キャンパスで開催された日本機械学会2025年度年次大会(4)においては、環境工学部門と流体工学部門、機械力学・計測制御部門が合同で「流体関連の騒音と振動」の分野横断セッションを企画し、ポスター発表17件が行われた。最後に、騒音振動関係の国際会議に関しては、2025年8月24日~8月27日の日程で、ブラジルのサンパウロにおいて第54回国際騒音制御工学会議、International Congress and Exposition on Noise Control Engineering(Inter-Noise 2025)(5)が開催された。この会議の参加者は670名程度で、前回フランスで開催時の1800名超から比べるとかなり少なくなった。6件の全体講演・基調講演をはじめ、54のセッションにおいて431件の講演発表があった。興味深いセッションとしては、”Computational Methods & AI in Vibro-Acoustics”, ”Acoustic Design using Optimization Methods”, ”Acoustics of Performing Arts Spaces and Recording Studios”および”Perception and Sound Design for Electric Vehicles”などが挙げられる。次のInter-Noise2026(6)は、2026年8月9日~12日の日程でオーストラリアのアデレードで開催される予定である。
〔長井 健一郎 JAXA〕
13.3 大気保全(CO2フリー化)・資源循環分野の動向
13.3.1 概要
第7次エネルギー基本計画(1)は、2040年を展望し、脱炭素化が困難な分野においても脱炭素化を進めるため、水素等(水素、アンモニア、合成燃料、合成メタン)およびCCUS等の技術開発が不可欠であることを示している。また、第六次環境基本計画(2)は、循環経済(サーキュラーエコノミー)、自然再興(ネイチャーポジティブ)、炭素中立(ネット・ゼロ)に関わる政策・技術を統合的かつ横断的に実装する必要性を示している。
このような政策的背景のもと、2025年度には、上記二つの基本計画に加え、水素社会推進法(3)に基づく脱炭素技術開発が推進された。なかでもアンモニアは、燃焼時に二酸化炭素を排出しない脱炭素燃料として注目されており、その利活用拡大に向けた触媒開発や燃焼技術開発が活発に進展している(4)。
さらに、既にアンモニアを原料としている食品産業、化学工業、金属製品製造業等においては、工程中の廃水・排ガスからアンモニアを回収し、脱炭素燃料として再資源化・循環利用する動きも現れ始めている。アンモニアの資源循環は、プラネタリーバウンダリーにおいて高リスク領域とされる生物地球化学的循環、すなわち窒素の環境流出の抑制にも寄与し得る。したがって、アンモニアの資源循環は、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、ネット・ゼロの同時実現に資する重要なアプローチとして位置付けられる。
ここでは、脱炭素燃料としてのアンモニアに着目し、その技術動向を概観する。
13.3.2 アンモニア利活用技術の動向
アンモニア利活用技術の動向は、要素技術開発の段階から、社会実装を前提とした供給・利用一体の技術開発へと移行しつつある。特に、水素社会推進法の支援による低炭素水素等の大規模サプライチェーン構築、価格差に着目した支援、拠点整備支援などが開始された。
国内技術開発の全体像は、2025年7月、「NEDO水素・アンモニア成果報告会2025」で概観できる (5)。アンモニア関連では、次の研究開発テーマが発表された。
- 大規模アンモニア分解向けオートサーマル式アンモニア分解触媒の技術開発
- 大規模外部加熱式アンモニア分解水素製造技術の研究開発
- ブルーアンモニア製造に係る技術開発
- 工業炉における燃料アンモニアの燃焼技術開発
- 碧南火力発電所におけるアンモニア20%/高比率燃焼技術確立のための実機実証研究
- アンモニア専焼ガスタービンの研究開発
- 製造分野の熱プロセスの脱炭素化
- アンモニア・水素を燃料とする鉄鋼加熱炉・プロセス炉の研究開発
アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出しない一方、化石燃料に比較して燃焼速度が遅いため、産業用途の中小設備では着火性や火炎安定性に課題がある。さらにNOxや未燃アンモニアの抑制も重要である。このため、近年の研究開発は、触媒開発、専焼・混焼バーナー設計、燃焼制御、排ガス処理を組み合わせた実機指向の開発へ進んでいる。特に触媒開発では、分解触媒の高性能化に加え、外部加熱式やオートサーマル式など反応方式の設計が進展している。
内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP第3期)においては、産業・運輸・民生分野の脱炭素を進めるために、アンモニアを利用する「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築」が進められている(6)。図13-3-1に概要を示す。水素社会推進法で整備されたアンモニア貯蔵・供給拠点から、工場等に設置される分散型発電システムへ液化アンモニアを輸送し、アンモニアを部分改質してガスエンジンコジェネレーションシステムで熱電併給を行う。再生可能エネルギー(主に太陽光発電)やボイラ、工業炉も構成可能なケースでは、エネルギーマネジメントシステム(EMS)によりCO2排出量が最小となる制御を行う。また、アンモニアを水素キャリアとし、アンモニアから純水素を製造し、水素カートリッジを介して燃料電池発電を行い、民生分野で利用することも計画している。

図13-3-1 SIP第3期 アンモニア利用分散型EMS発電システムの研究開発
13.3.2 資源循環技術の動向
資源循環・廃棄物処理技術の観点から注目すべきは、化学・食品・半導体工場などのアンモニア含有排水からのアンモニア回収およびリサイクルである。従来は、廃水中アンモニアは化石燃料を投入して燃焼し、脱硝装置を経て窒素ガスとして無害化することが主流であった。近年はこれをアンモニアガスとして回収し、資源として利用する方向へと転換しつつある。
図13-3-2は、省エネ型ヒートポンプ式アンモニア回収装置のプロセスフローである(7)。第一・第二蒸留塔、各種コンデンサ、リボイラ、ヒートポンプなどで構成されるが、アンモニアの蒸留をヒートポンプで実現し、従来必要であった熱源(スチーム)を省略し、スチーム製造にかかる燃料約81%とCO2排出量を約83%削減できた。このプラントでは、最終的にアンモニアは濃縮され、95%以上のアンモニアガスまたは25 wt%のアンモニア水として回収できる。アンモニアガスは、図13-3-2の分散型発電システムの燃料として利用できる。また、25%アンモニア水は、工業用アンモニア水としてリサイクルできる。

図13-3-2 省エネ型ヒートポンプ式アンモニア回収装置アンモニア回収装置(7)
13.3.3 今後の動向
このように、2025年度のアンモニア利活用技術は、①発電・熱利用における直接燃焼技術、②水素キャリアとしての分解・供給技術、③廃水・排ガスを含む資源循環技術、の三つの方向で展開している。今後の技術課題としては、燃焼時のNOx・未燃アンモニア対策、触媒および触媒反応器の高効率化と低コスト化による実用化(TRLレベル7)の確立が挙げられる。加えて、制度面では水素社会推進法に基づく支援策を活用しながら、供給側と利用側を接続するサプライチェーン形成を進めることが不可欠である。したがって、アンモニア利活用技術の本質は、各単位操作の技術開発に加え、エネルギー利用と資源循環を接続する統合技術として捉えるべき段階に進むと思われる。
〔神原 信志 岐阜大学〕
13.4 環境保全型エネルギー技術分野の動向
13.4.1 概況
世界気象機関(WMO)は2026年3月、「世界気候の現状2025」確定版を公表し、2025年の世界の平均地表面温度が産業革命前(1850-1900年平均)の基準値から1.43±0.12℃上昇していたと発表した(1)。2024年には観測史上初めて単年で1.5℃を超え(1.55℃)たのに続き、2025年は3番目に暖かい年となった。過去10年間(2016~2025年)はいずれも観測史上最も暖かい10年であり、海洋への熱蓄積も着実に進んでいる。WMOのセレステ・サウロ事務局長は、「気候の歴史的な出来事が私たちの目の前で繰り広げられている。記録的な年は1年や2年だけでなく、10年間続いている」として警鐘を鳴らしている。
こうしたなか、わが国は2025年2月18日、エネルギー・環境政策の大きな節目となる3つの計画——「第7次エネルギー基本計画」(2)、「GX2040ビジョン」(3)および「地球温暖化対策計画」——を一体的に閣議決定した。新たに策定された2040年度の温室効果ガス削減目標は2013年度比で73%削減であり、2050年カーボンニュートラル実現に向けた中間指標として位置づけられている。S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)原則のもと、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の最大限の活用、火力発電の脱炭素化、水素・アンモニアの社会実装、CCS/CCUSの実装、エネルギー需給構造の柔軟化等を一体的に推進することが盛り込まれている。
国際的な枠組みでは、2025年11月10日から22日まで、ブラジル・ベレンにおいて国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が開催され、「ベレン・ポリティカル・パッケージ」が採択された(4)。議長国ブラジルはポルトガル語のムチラオ(共同作業、協働)をテーマに、パリ協定実施の加速と国際協力の進展について議論を主導した。化石燃料からの段階的廃止に関する明確なロードマップ策定は最終文書から削除されたものの、適応資金の3倍化、公正な移行メカニズム、ベレン適応指標などが採択された。わが国はブラジル・イタリアと共同で「ベレン持続可能燃料4倍宣言」を提案し、23か国・地域の支持を得た。
本稿では、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターの『研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野(2026年)』(5)の領域分類を参考に、2025年中の研究開発および社会実装の主な動向を分野別に概観する。
13.4.2 電力のゼロエミ化・安定化
第7次エネルギー基本計画では、初めて2040年度のエネルギー需給見通しと電源構成が明示された(2)。GX(グリーン・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展により、電力需要は2023年度比で2040年度に約1~2割増加すると見込まれている。再エネを主力電源と位置づけつつ、原子力を活用し、火力は脱炭素化を進めるとされている(表13-4-1)。
表13-4-1 第7次エネルギー基本計画における2040年度電源構成見通し(2)
| 電源 | 2023年度(実績) | 2040年度(見通し) |
| 再生可能エネルギー | 22.9% | 40〜50% |
| うち太陽光 | 9.8% | 23〜29% |
| うち風力 | 1.1% | 4〜8% |
| 原子力 | 8.5% | 20%程度 |
| 火力(水素・アンモニア混焼を含む) | 68.6% | 30〜40% |
太陽光発電については、軽量・柔軟・国産材料調達可能という特性を備えるペロブスカイト太陽電池の早期社会実装が進展している。2024年11月策定の「次世代型太陽電池戦略」(6)では、2025年までに発電コスト20円/kWh、2030年までに14円/kWh、2040年までに10~14円/kWh以下を目指し、2040年に約20 GW(標準家庭550万世帯分相当)の導入が目標とされた。技術面では、2025年4月にLONGi社(中国)が単接合ペロブスカイト/シリコンタンデムセルで世界最高変換効率34.85%を報告し、Oxford PV社(英国)はタンデムパネルの商業出荷を開始するなど、グローバルな量産化競争が本格化している(7)。国内でも、積水化学工業はシャープ堺工場の一部を取得し2027年量産化、2030年までにGW級製造ライン構築を目標としている。アイシン、パナソニック、東芝、エネコートテクノロジーズなどが大阪・関西万博、神戸空港、自治体施設等で実証を進め、2025年7月にはYKK APが東芝エネルギーシステムズ等と共同で、建材一体型太陽光発電内窓の実装検証を開始した。

図13-4-1 ペロブスカイト太陽電池の最高変換効率の推移(7)
風力発電では、洋上風力の本格展開に向けて、2040年までに30~45 GWの案件形成が目標として掲げられた(2)。2026年には浮体式洋上風力発電の国内初の商用稼働が予定されている。原子力発電については、安全性確保を大前提に、運転期間の柔軟化、次世代革新炉(小型モジュール炉SMR等)の研究開発・実証が進められている。
火力発電の脱炭素化に関しては、燃焼時にCO2を排出しないアンモニア・水素の混焼および専焼への転換が鍵となる。2024年5月成立の水素社会推進法に基づく「価格差に着目した支援」が2025年度から本格化し、低炭素水素サプライチェーン構築を強力に支援している。2025年9月には水素閣僚会議が東京で開催され、需要創出に関する国際協調が確認された(2)。
電力システム側では、AI最適化サーバー等の需要増による電力需要急増が新たな課題として浮上している。国際エネルギー機関(IEA)は『Electricity 2025』および『Energy and AI』報告書において、世界のデータセンター電力消費が2024年の約415 TWhから2030年には約945 TWhへと2倍以上に増加すると予測している(8)。供給力の確保、需要側の柔軟性向上、系統増強、廃熱の有効利用等を含む包括的な対応が求められる(表13-4-2)。
表13-4-2 世界のデータセンター電力消費の見通し(8)
| 項目 | 2024年 | 2030年(予測) |
| 世界のデータセンター電力消費 | 約 415 TWh | 約 945 TWh |
| AI最適化サーバーの電力消費 | 93 TWh | 432 TWh |
| AI最適化サーバーの占有率 | 21%(2025年) | 44% |
13.4.3 産業・運輸部門のゼロエミ化・炭素循環利用
CO2排出削減が困難な産業熱、鉄鋼、化学、運輸分野においては、低炭素燃料への転換と電化の組合せが不可欠である。第7次エネルギー基本計画では、水素・アンモニア・合成メタン・合成燃料を「水素等」として総称し、社会実装に向けた支援強化が明記された(2)。
運輸分野では、わが国はCOP30において、ブラジルおよびイタリアと共同で「ベレン持続可能燃料4倍宣言(Belém 4x Pledge on Sustainable Fuels)」を提案し、2035年までに道路交通を含む各分野で持続可能燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel、バイオ燃料、合成燃料、低炭素水素等)の需要を4倍以上に拡大することを確認した(4)。23か国・地域の支持を得て、閣僚級イベントも実施された。
CO2有効利用(カーボンリサイクル)では、安定なCO2を活性化させ水素と反応させるための高度な触媒開発、水素を経由しないCO2の直接電解還元、メタネーションおよびFT合成等の研究開発が進められている。CO2回収・貯留(CCS)については、苫小牧における大規模実証を経て、複数の先進的CCS事業の事業化検討が進行している。
電動車向けの蓄電池分野では、高エネルギー密度・長寿命・安全性・低コスト化を兼ね備える次世代電池の研究開発が継続している。とくに全固体リチウムイオン電池については、2027年頃の量産化に向けて自動車メーカーと素材メーカーの協業が活発化しており、定置用大型蓄電池ではナトリウムイオン電池やレドックスフロー電池の実用化も進展している(5)。
13.4.4 業務・家庭部門のゼロエミ化・低温熱利用
民生部門のエネルギー消費削減に向け、非住宅建物のZEB(Net Zero Energy Building)と住宅のZEH(Net Zero Energy House)の普及が進展している。建物負荷をパッシブ手法で低減した上で、高効率機器と再生可能エネルギーを組み合わせて一次エネルギー消費を可能な限り減らすアプローチが定着しつつある。空調制御においては、IoTおよび機械学習による最適運転が実装段階に入り、需要予測と組み合わせたデマンドレスポンスとの統合も進展している。
熱利用分野で2025年に注目すべき動向は、産業熱の電化を担う高温ヒートポンプの製品化進展である。日本の最終エネルギー消費の約42%を占める製造業のGXに向けて、産業用ヒートポンプは大きなポテンシャルを有することが指摘されている(9)。供給温度100℃以上の高温ヒートポンプは、IEA HPT TCP Annex 58の調査によれば国内外で約30件の技術が開発・実証中であり、150~200℃供給のものが多い。日本国内でも、蒸気ボイラ代替向けの150℃級蒸気供給型、乾燥工程向けの200℃級顕熱加熱型など複数の技術が、2020年代半ばから後半にかけて製品化される計画である。NEDO「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」の成果として、2025年度に温室効果ガス削減に取り組む企業への導入・事業化を目指す技術が、相次いで実用化局面に入った。
未利用エネルギーの活用に関しては、下水熱、地中熱、海水熱がヒートポンプの熱源として用いられ、ヒートポンプの高効率化(COPの向上)と併せて社会実装が進められている。NEDOは2025年3月、ヒートポンプ技術の研究開発および普及促進に関わる国際動向の分析と情報発信に係る事業を新たに開始し、わが国が国際的主導権を確保するための情報基盤整備を進めている(10)。

図12-4-2 産業用ヒートポンプの供給温度域と適用プロセス(9)
13.4.5 大気中CO2除去
排ガスからのCO2回収・貯留(CCS)が国内外で実証段階を経つつあり、2030年代の社会実装に向けた事業化検討が進展している。第7次エネルギー基本計画でも残存排出への対応として、CCS、CCUS、ネガティブエミッション技術の社会実装に向けた研究開発の重要性が強調されている(2)。
ネガティブエミッション技術としては、DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage:大気中からの直接回収・貯留)等の工学的手法に加え、土壌炭素貯留、植林、沿岸ブルーカーボン等の自然を活用した手法(NbS:Nature-based Solutions)の検討が並行して進められている(5)。COP30では、森林の炭素吸収源としての役割と、気候変動対策と生物多様性との相乗効果が強調され、議長国ブラジルが主導する「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(TFFF)」も立ち上がった。わが国も同イニシアティブに賛同している(4)。
13.4.6 エネルギーシステム統合化
変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)の拡大に伴い、システムを安定化するための調整力(柔軟性:Flexibility)が必要となっており、分散型エネルギーリソース(DER:Distributed Energy Resources)の制御を活用する局所柔軟性(Local Flexibility)の実証が始まっている(5)。電気の需要家である消費者自らが発電を行うプロシューマーへの転換が広がり、需給調整市場の本格運用、容量市場との整合、アグリゲーターの役割拡大が進展している。
近年の集中豪雨や台風に伴う局所的な停電長期化を踏まえ、災害時にも再生可能エネルギーを供給力として稼働可能とする地域マイクログリッドの構築事業も拡大している。サイバーフィジカルシステムの観点では、デジタルツイン技術によるエネルギーシステムのリアルタイム最適化、AI/機械学習による予測制御、ブロックチェーン技術による電力P2P取引等の研究開発が進展している。
カーボンプライシングの面では、GX推進法改正案が2025年通常国会に提出され、2026年度からは排出量取引制度が本格稼働、2028年度からは化石燃料賦課金が導入される予定である(2)(3)。これにより予見可能な炭素価格が形成され、企業の排出削減投資の加速が期待されている。
13.4.7 学会活動
2025年7月18日から21日にかけて、北見工業大学(北海道北見市)において、日本機械学会環境工学部門主催の第35回環境工学総合シンポジウム2025および国際環境工学ワークショップ(IWEE2025)が同時開催された(11)。多数の協賛学会との連携のもと、騒音・振動評価改善、資源循環・廃棄物処理、大気・水環境保全、環境保全型エネルギー技術の4分野について、活発な議論が行われた。とくに環境保全型エネルギー技術分野では、再エネ・省エネ、ヒートポンプ、エネルギーシステム統合、CO2回収・利用等のテーマで多数のオーガナイズドセッションが企画された。次回の第36回環境工学総合シンポジウム2026も、引き続き本部門が主催する予定である。
〔榎木 光治 電気通信大学〕
キーワード:機械工学年鑑2026
装置製作:高山芳の
(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 統合デザイン領域 在籍)
金属・磁石・モーターなどの単純なメカニズムを用いた装置は、重力や摩擦を受け入れながら、ある行為を繰り返します。その姿は、私たちが呼吸し、脈を打ちながら生きていることを思い出させます。本誌では、学部の卒業制作である 10 体の装置〈脈拍〉を中心に、全 12 体の作品を紹介します。