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2019/7 Vol.122

【表紙の絵】
外来種を捕まえるロボット

髙島 史堅 くん(当時6歳)

池や湖の外来種を捕まえ、
在来種を守るロボット

バックナンバー

感性認知工学の可能性

感性のプリンキピアを目指して ~知覚の相対論とその数理

柳澤 秀吉(東京大学)

温故知新 ~ニュートン力学の起源に学ぶ

1687年、アイザック・ニュートンは、自然哲学の数学的原理(Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica)、いわゆるプリンキピアを出版した。そこには、物体一般の運動を説明する法則が数学的に書かれており、ニュートン力学の原典とされている。プリンキピアの出版が、その後の物理学を発展させ、今日の機械工学の基礎をつくったと言っても過言ではない。ニュートン以前、ヨハネス・ケプラーは惑星の運動を説明する三法則を定式化し、ガリレオ・ガリレイは地上の物体の運動法則を実験により見出した。ニュートンの偉業は、ケプラーやガリレイといった巨人達の肩の上に立って、地上と天空の運動を統一的に説明する数理を発見したことにある。すなわち、地に落ちるリンゴと、天から落ちない惑星の物理を、万有引力という目に見えない力の仮定により統一的に説明したことである。ケプラーとガリレイは、観測や実験から得られたデータに基づき、帰納的に法則性を見出した。これによって、惑星や地上物体がどのように動くのかを明らかにした。一方、ニュートンは、物体一般がなぜそのように動くのかを説明した。この、「なぜ」の解明が、その後の力学と、力学を基礎とした工学を、積み重ね可能な学問へと発展させた。

ところで、デカルトの二元論に立てば、世界は「物」と「心」に大別できる。物の理(ことわり)、すなわち物理は、ニュートン力学、相対性理論、量子力学といった数学的理論の上に着実な発展を遂げている。一方、心の動きについてはどうか。その理解は、いまだニュートン以前の様相に思える。すなわち、観察や実験で得られるデータに基づいた統計的な法則化やパターン抽出に終始しているように見える。対象に依存しない一般法則の研究は、物理学のそれと比べると未発達と言わざるをえない。

本稿で扱う感性は、心の動きの性質である。感性を物理と同じレベルで工学的に扱うためには、その機序を明らかにし、数学的に記述された原理として体系化する科学が求められる。特に、筆者の専門である感性設計においては、これが切望される。感性設計とは、機能性に加え、感性に評価を依存する要件(感性品質)を含む設計である(図1)。感性設計においては、モノづくりで扱う物理と、作ったモノを使う人の感性との間を橋渡しする数理が必要である(1)。設計は、モノを作る前の計画である。したがって、モノを実体化する前に、代替案の感性品質を予測できることが望ましい。しかし、現状では、モノを実体化して人に体験してもらわないと、その感性的な良さを評価できない。物理と感性をつなぐ法則が数理的に定式化されれば、機能性と感性の両方を同時に設計できるようになる。さらには、設計工学における最適化やGenerative designなどの技術と併用することで、機能性と感性を目的関数とした代替案の生成も可能になるかもしれない。

図1 感性設計の範囲とプリンキピアの必要性

以上の背景から、本稿では、感性のプリンキピアを目指して筆者らが取組んでいる研究の一例(1)(2)を紹介する。

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