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2019/7 Vol.122

【表紙の絵】
外来種を捕まえるロボット

髙島 史堅 くん(当時6歳)

池や湖の外来種を捕まえ、
在来種を守るロボット

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ほっとカンパニー

津田駒工業(株) 織機と工作機械のトップメーカーが仕掛ける次のイノベーション

日本にはこんなすごい会社がある!

今年110年目を迎える津田駒工業は、創業以来、日本の繊維機械をリードし続けてきたトップランナーだ。始まりは、創業の9年前に遡ること1900年。創業者・津田駒次郎の叔父に当たる津田米次郎が、絹織物用の力織機を開発した。当時の金沢では、日本の近代化に追随して製糸会社や銅器会社の設立や、鋳造業者の事業立ち上げが相次いでいた。さらに独自の地場産業として、絹織物産業の育成が方向付けられていた頃の話である。

米次郎と共に絹織物用力織機の開発に携わった津田駒次郎は、米次郎が開発した絹織物用力織機の大量発注を契機に、1909年に「津田駒次郎工場」を創業。量産化にあたって、計量法を尺貫法からメートル法に変えるなど、世界照準を見据えたものづくりにいち早く取り組んでいった。中でも同社を世間に印象づけたのが、1931年に誕生したシャットル織機「K型織機」のシリーズである。驚くべきことに、1983年に生産終了となった同シリーズは、今も国内や海外で活躍しているという。「京都の西陣地区でも動いていますが、新品のサプライはない。手元に残る部品を替えつつメンテナンスを続けて使っていただきましたが、さすがに部品もなくなった。それでも西陣織を続けるためにはK型織機が必要と言ってくださる西陣の織物組合様のお声をいただき、地元の鉄工所さんに復元機を作っていただきました」(同社社長室長・加藤三明)。

緯糸を巻いたボビンをシャットルに入れて経糸に通していくシャットル織機は、糸交換の自動化も進められ、世界に誇る日本の繊維産業を支えた。しかし為替の変動相場制移行に伴い1960年代から日本の織物生産は世界の中で急速に競争力を失っていった。そうした中、津田駒は生き残りをかけて織機の分野で「専門内の多角化」を進めるという方針を打ち出し、「ジェットルーム」の開発に邁進した。

最新型エアジェットルーム

世界最速を誇るジェットルームの技術力

ジェットルームとは、流体の噴射を利用して緯糸を飛ばす織機で、圧縮空気を使用するエアジェットルームと、高圧力水を使用するウォータージェットルームの二つの方式がある。エアジェットルームは、噴射された空気が拡散するため、それをいかに収束させて緯糸を確実に入れるかが課題だ。津田駒方式では、補助空気を噴射して緯糸を通す仕組みを独自で開発し、業界標準を得た。エアジェットルームで津田駒は世界レベルの「伝説」を持っている。2015年、史上最高回転のジェットルームをミラノの展示会に出品。その速さはなんと、1分間に2105本の緯糸を折り込むというもの。その機械を一目見ようと、多くの人が津田駒のブースに集まったという。

一方、ウォータージェットルームは、シンプルな構造でナイロン・ポリエステル等の化学繊維織物を超高速で製織する織機である。実は、超軽量のスポーツウェアや防寒着などの生地として、その製品は私たちも数多く利用している。

「一日24時間、1年300日以上、同じ品質の織物を織り続ける」ことが求められるジェットルームが常に追求し続けているのは、高速化とそれに耐えうる強度だ。工作機械分野も同じだが、鋳物素材から開発・設計、機械加工、組立まで一貫生産できる点に、その強みの原点がある。主な市場が先進国からインドや中国などの新興諸国に移った今日、顧客に密着したサービスの提供も重要になる。さらに、1980年代から、すでに自動化や電子化が進んでいたジェットルームであるが、現在はIoTやAIの採用、省エネや省水など環境性能の向上などにも取り組みが進んでいる。

オンリーワン機構のボールドライブNC円テーブル

ジェットルームと並んで、津田駒の事業の柱となっているのが1937年から続いている工作機械分野だ。特に機械加工の業界では、「NC円テーブルの津田駒」と呼ばれるほどに市場の信頼は厚い。NC円テーブルとは、加工機械の中に装着され、加工する素材を回転させて位置決めを行う装置である。数あるNC円テーブルの製品群の中でも、津田駒が誇るのが、2013年に発表し、販売を拡大している次世代機構「ボールドライブ」だ。

ボールドライブ駆動は、回転の伝達に鋼球の転がりを使用する世界唯一の津田駒オリジナル。「高い剛性で、バックラッシもないので400万回以上割り出してもガタが出ない。また、従来のウォームドライブ製品に比べて2倍以上(同社比)のスピードの高速割出となり、生産性アップに貢献しています」(同社取締役/工作機械関連事業統括・大森充)。加工時間の短縮と高精度加工のボールドライブNC円テーブルは、主に自動車のエンジン部品の加工に使われている。特に、傾斜2軸タイプで、5軸加工において高いパフォーマンスを発揮する「TBS」は、日本のものづくりの最先端の現場で活躍しているという。耐久性によるメンテナンスフリー性の高さも支持される理由だ。大森は「まだまだボールドライブをどんどん広めていく余地がある」と語りながらも、次の展開として、IoTやAIによる製品の状況監視や自己診断技術を盛り込むという課題を挙げた。

ボールドライブNC円テーブル

ロボット関連事業で見出された新たな強み

TRI(ツダコマ・ロボティック・インテグレーション)と称されるロボット・システム・インテグレーション事業は、新たに津田駒が着手した分野だ。実際に社内にシステムを構築し、モデルプラントとして社外からの見学を受付けている。30kgの素材を軽々と搬送し、加工機械に自動に着脱し──実際に目にすると、一連の工程を無人で行い続けるさまは迫力があり、来るべき無人化時代に強い現実味を感じた。すでに2社に納入済みで、機械業界に限らず、他業界からの問い合わせも少なくないという。「ニーズや期待が高い中、当社ではキャパシティアップ、技術力、経験値を積み上げてさらにスキルを向上させる必要があります」(加藤)。

システム構築で他社と連携する中で発見した課題として、大森は「人材」を挙げた。「協調性と、周りを巻き込む能力が大いに必要な事業だと感じました。スキル的には、マシン同士をつないで動かせる電気系の人材が今後必要になります」

TRIに関わっているのは、これまで繊維機械の技術者と工作機械の技術者が集まったハイブリッド集団だ。「TRIやコンポジット機械事業は、これまでなかなかつながりのなかった二分野の技術を掛け合わせて新たなイノベーションにつながる事業だと期待しています」と加藤。「当社の社員は新しい技術に対する貪欲さは強いし、その能力もある。もっと自分たちの手にある技術をよく知り、さらに外の世界を見てほしいなと思います」。イノベーションの萌芽は社内の至るところにある津田駒。その未来は明るい。

最新ジェットルームが展示された本社ショールームでは、そのスピードと剛性を体感できる

TRIを導入した鋳物部品加工ライン

(取材・文 横田 直子)


津田駒工業株式会社

本社所在地 石川県金沢市 https://www.tsudakoma.co.jp/

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