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2019/7 Vol.122

【表紙の絵】
外来種を捕まえるロボット

髙島 史堅 くん(当時6歳)

池や湖の外来種を捕まえ、
在来種を守るロボット

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やさしい材料力学

第7回 はりの曲げ応力



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第8回:はりの曲げ応力(16:54)


1 はじめに

今回より3回にわたって,細長い構造物が横荷重を受ける場合,すなわちはりの曲げを取り扱う。本稿でははりに生じるせん断力・曲げモーメントの分布を求め,さらにははりの横断面に生じる垂直応力(曲げ応力)を求めるための手順について解説する。

2 せん断力と曲げモーメント

一般に横荷重(軸線に垂直な荷重)が作用する細長い棒状の構造物をはり(beam)と呼ぶ。はりに横荷重が作用すると,はりの横断面にはせん断応力と垂直応力が同時に生じる。ここで,はりの横断面に生じるせん断応力の合力をせん断力(shear force),また,垂直応力を生じさせる外力のモーメントないしは,横断面に生じる垂直応力の合モーメントを曲げモーメント(bending moment)と呼ぶ。

はりの横断面について,図7.1(a)のように正の面と負の面を定義する。法線ベクトルが$x$軸の正方向を向く面が正の面(+),また法線ベクトルが$x$軸の負の方向を向く面が負の面(−)である。せん断力は,正の面に関して$\boldsymbol{z}$軸の正方向に作用するせん断力が正であると定義される。また,曲げモーメントは図7.1(b)に示されるように,$\boldsymbol{z}$軸が下向きの状態で,はりの変形が下に凸となる場合の曲げモーメントが正と定義される。なお,本連載では,はりの変形を$x$-$z$平面内で考えるものとし,$x$軸は誌面の右向きを正,$z$軸は誌面下向きを正と定義する。

図7.1 せん断力と曲げモーメントの正負

3 せん断力図(SFD)と曲げモーメント図(BMD)

図7.2(a)のような,はりの左端が固定され,右端に横荷重が作用する片持はり(cantilever beam)について考える。図7.2(b)に示すように,座標$x$の位置(点B)ではりを切断して考えると,はりBAの右端(点A)では誌面の下向きに荷重$P$が作用しているので,その荷重につりあうように左側の断面(点B)では上向きにせん断力$Q=P$が作用していることになる。片持はりの場合,$0 \le x \le l$の任意の位置で同様の議論が成り立つので,せん断力は一様に$Q(x)=P$である。このせん断力の分布を図示したのが7.2(c)で,この図を一般にせん断力図(SFD:shear force diagram)と呼ぶ。

図7.2 片持はりのせん断力分布

一方,図7.3(a)のように横荷重$P$により点Bに生じる曲げモーメントは$P(l-x)$である。曲げモーメントの正負に注意すれば,曲げモーメントの分布$M(x)$は

\[M(x) = -P(l-x)\] (1)

となることがわかる。この曲げモーメントの分布を図示したものが,図7.3(b)であり,この図を一般に曲げモーメント図(BMD:bending moment diagram)と呼ぶ。片持はりの曲げモーメントは,座標$x$に関して1次関数状に分布することがわかる。

図7.3 片持はりの曲げモーメント分布

次に,図7.4に示すように,はりの両端をモーメントが発生しないように点で支持し(この支持方法を単純支持と呼ぶ)一様な分布圧力$q$が作用する場合について考える。なお,$q$は単位長さ当たりの荷重を意味する。はりに作用する分布荷重の合力は$ql$であるから,はりの両端には反力$R={ql/2}$がはりに対して上向きに作用する。

図7.4 等分布荷重を受ける単純支持はり

図7.5に示すように,はりを座標$x$の位置で切断し,切断された左側の部分について考える。分布荷重の合力は$F=qx$であり,左端の反力を考慮して$z$軸方向の力のつり合いを考えると,

\[ F + Q(x) = R \quad \therefore \ qx + Q(x) = \frac{1}{2}ql\] (2)

よって,座標$x$の位置におけるせん断力$Q(x)$は,

\[ Q(x) = \frac{1}{2}q(l – 2x)\] (3)

となる。次に,切断部における曲げモーメントを$M(x)$としてモーメントのつり合いを考える。分布荷重の合力が切断部の中央に作用するものとみなして座標$x$の位置におけるモーメントのつり合いについて考えると,

\[ R x – F \times \frac{x}{2} = M(x) \quad \therefore \ \frac{1}{2} qlx – \frac{1}{2} qx^2 = M(x)\] (4)

よって,座標$x$の位置における曲げモーメント$M(x)$は,

\[ M(x) = \frac{1}{2}qx(l – x)\] (5)

となり,最終的にせん断力図(SFD)および曲げモーメント図(BMD)は図7.6のようになる。

図7.5 はりに作用する垂直荷重とモーメントのつり合い

図7.6 等分布荷重をうける両端単純支持はりのSFDとBMD

4 断面2次モーメントと曲げの断面係数

はりに作用するモーメント$M$とはりに生じる曲率$\kappa = 1/R$($R$:曲率半径)のあいだには,

\[ M = EI \kappa\] (6)

なる比例関係が成立する。ここで,$E$はヤング率,$I$は断面2次モーメントである。直径$D$の円形断面および幅$b$,高さ$h$の長方形断面における断面2次モーメントは,

\[ \text{円形:} I = \frac{\pi D^4}{64}, \quad \text{長方形:} I = \frac{bh^3}{12}\] (7)

となる。均質等方性材料においては,横断面上の垂直応力$\sigma_x(z)$および垂直ひずみ$\varepsilon_x(z)$は,はりが十分に薄い(細い)場合,はりの中立面に対して対称かつ線形となる。曲げモーメント$M$と垂直応力=曲げ応力$\sigma_x(z)$,垂直ひずみ=曲げひずみ$\varepsilon_x(z)$の関係は,

\[ \sigma_x(z) = \frac{M}{I} z, \quad \varepsilon_x(z) = \frac{M}{EI} z\] (8)

となる。図7.7からわかるとおり,曲げ応力の最大値は,はりの上下面で生じるから,円形断面において$z=\pm D/2$,長方形断面において$z=\pm h/2$において応力は最大となる。すなわち,

\[ \text{円形:} \sigma_{\rm max} = \frac{M}{I} \times \frac{D}{2} = \frac{32 M}{\pi D^3} = \frac{M}{Z}\] (9)
\[ \text{長方形:} \sigma_{\rm max} = \frac{M}{I} \times \frac{h}{2} = \frac{6 M}{bh^2} = \frac{M}{Z}\] (10)

ここで,上式の$Z$を断面係数と呼び,

\[ \text{円形:} Z = \frac{\pi D^3}{32}, \quad \text{長方形:} Z = \frac{b h^2}{6}\] (11)

である。BMDによって曲げモーメントの最大値を求め,その値を断面係数$Z$で除すことにより,そのはりに生じる曲げ応力の最大値を求めることができる。

図7.7 はりに生じる曲げひずみと曲げ応力

演習問題7.1: はりの3点曲げ

 

長さ$l$,ヤング率$E$,幅$b$,高さ$h$のはりの両端が単純支持され,はりのスパン中央に集中荷重$P$が図のように作用している。このはりにおけるせん断力図(SFD),曲げモーメント図(BMD)を求め,はりに生じる最大曲げ応力を求めよ。

(答:$\displaystyle \boldsymbol{\sigma_{\rm max} = \frac{M_{\rm max}}{Z} = \frac{Pl}{4} \times \frac{6}{b h^2} = \frac{3Pl}{2b h^2}}$)

SFD,BMDは以下のとおり

 


<フェロー>

荒井 政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


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