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2021/1 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第 100号)
機構模型 ねじ

年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/ H270, Dia.130(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
ねじは基本的な機構の一つ。機構模型は近代化の進められた機械学教育に用いられた。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

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やさしい機械力学

第1回 運動の法則と運動方程式

<本連載にあたって>

機械工学に携わる技術者にとって「材料力学,機械力学,熱力学,流体力学」の4力学は,必須の重要な学問分野である。一方,大学や高等専門学校等の機械工学教育プログラムで扱う学問領域の多様化もあって,これらの基礎力学に割り振られる時間は減少傾向にあることから,初学者が学びやすい教科書への要望が高まっている。また,機械工学を学んでいない電気系や材料系の技術者が手に取りやすい教科書を望む声もある。これらの要望を受け,本会では上記の4力学に制御工学を加えた5分野について「やさしいシリーズ」と題する教科書の出版を計画している。これに関連する企画として2019年から「やさしい材料力学」「やさしい熱力学」が連載され,2021年は「やさしい機械力学」の連載となる。時間の経過に伴う状態およびその変化率を扱う点がこれまでの分野と異なるが,できるだけ丁寧に進めていきたいと思う。

1. はじめに

機械工学教育プログラムにおいては,力学の基礎に対応する工業力学などに引き続き開講される機械力学では主に機械振動を対象とし,それ以外の応用は機構学などに含まれる場合が多かったが,上述の状況もあり,機械力学における運動学・動力学に関する部分の比率が高くなり,様々な動力学的現象に対応することが多くなっている。

本連載では,機械を構成する複数の部材に作用する力とそれにより起こる運動の関係を明らかにする学問の基本を学ぶという観点で,まず運動学・動力学に関するやさしい内容についてふれ,引き続き機械振動に展開する。第1回はニュートンの運動の法則を始めとする動力学の基本について整理し,力と運動の関係を表す運動方程式について説明する。

2. ニュートンの運動の法則

ニュートンが提示した運動に関する3つの法則は,現代では以下のように表現される。

第一法則:力が作用していない物体は静止し続けるか,等速直線運動を続ける。(慣性の法則)

第二法則:力$f$が質量$m$の物体に作用するとき,$f$に比例し$m$に反比例する加速度$a$が生じる。(運動の法則)

第三法則:物体Aから物体Bに力$f$が作用するとき,物体Bから物体Aに大きさが等しく逆向きの力$-f$が作用し,二つの力は同一直線上に作用する。(作用・反作用の法則)

「静止」「等速直線運動」「加速度」は,それらを考える座標系に依存する概念であり,第一法則が成り立つ座標系を慣性系と呼び,慣性系においては第二法則が成り立つということになる。さらに第一,第二法則が成り立つ系において複数の物体の運動を考える場合は第三法則の成立が不可欠であるというように,それぞれに関連性がある。例えば,ある慣性系に対して大きさが一定で向きが変わらない加速度で運動する座標系では第一法則は成り立たないので,これは慣性系では無く,第二法則も成立しない。

機械力学の範ちゅうでは地球表面に固定した座標系を慣性系と考えて差し支え無いことがほとんどであり,このような座標系を静止座標系と表現することもある。もっとも,地球表面から打ち上げられるロケットの軌道を計算する場合にはこの座標系では不十分であり,地球が自転しながら公転することを表現できる座標系を考える必要があるように,取り扱う問題と所望の結果に対応して無視できるものとできないものを考慮した上で座標系を定める必要がある。

第二法則において比例定数が1となるように力$~f$の単位が決められており,この式が全ての基本となる。

$f=ma$  (1)

質量$m$が1($\text{kg}$),加速度$a$が1($\text{m}/{{\text{s}}^{2}}$)のときに,作用している力$f$が1($\text{N}$:ニュートン)になるといった具合である。速度$v$は位置$x$の時間$t$に関する微分$\dot{x}$,加速度$a$は速度$v$の時間$t$に関する微分\[\dot{v}=\ddot{x}\]で表せることから,力$f$が時間$t$や,位置$x$およびその微分の関数で表される微分方程式として式(1)が表現される場合は,それを解くことにより物体に作用する力と位置の関係を求めることができる。

例えば,図1.1に示すように質量$m$の物体の基準点からの位置のずれである変位が$x$(つまり加速度が$\ddot{x}$)であり,変位に比例する力$kx$がばねから物体に逆向きに作用する場合は,式(1)の関係より以下に示す運動方程式が得られる。

$m\ddot{x}+kx=0$ (2)

力や加速度は大きさと方向を持つベクトルであることから,一般には運動方程式はベクトルに関する式となり,空間における運動を記述することが可能となる。

図1.1 復元力$kx$が作用する質量$m$の物体

図1.2 軸回りに回転運動する剛体

3. 剛体の回転運動

物体そのものの回転運動を考慮する必要が無い,言い換えれば大きさを無視しても差し支えない場合については,質量を有する大きさの無い仮想的な点である質点の運動を考えれば十分である。また複数の質点の集合体とも位置付けられる,大きさがあり変形を無視できる物体である剛体であっても,並進運動については,剛体上の全ての点の運動は,剛体の全質量が集中する質点である質量中心に,剛体に作用する全ての外力が作用したときの運動と同等となる。なお,機械力学で取り扱うほとんどの場合は重力が場所によらず一定と考えてので,質量中心は重心と一致するとして良い。

機械においてはある軸を中心とした回転運動が生じる場合も多々あり,そのような剛体の回転運動に関しては,ニュートンの運動の法則に基づきオイラーが定式化した,剛体の回転運動に関する運動方程式を用いることになる。ただ,多関節ロボットの腕など空間運動する剛体の運動解析は「やさしい」の範ちゅうを超える内容なので触れず,剛体上の任意の点が基準となる面に平行な面内を運動する平面運動の場合について,基準となる面に直交する軸回りに剛体上の全ての点が回転運動する場合について説明する(以下この回転運動の中心軸を回転軸と呼ぶ)。

図1.2に示す質量と変形が無視できる長さ$R$の棒の片端に質量$m$の質点が固定された仮想的な剛体を考える。棒の他端に設けた棒に直交する回転軸が,慣性系の$z$軸回りにのみ回転するように滑らかに拘束されており,剛体上の任意の点は$xy$平面あるいはこれに平行な面上を運動する。この剛体の姿勢は$x$軸に対する棒のなす角$\theta $で表すことができ,この基準に対する変化量である角変位$\theta $を時間$t$で微分することにより角速度$\dot{\theta }$が得られ,さらには角加速度$\ddot{\theta }$が得られる。

棒の先端に取り付けられた質点に,棒に直交する方向(円周方向)に力$f$を作用させたときの,円周方向の加速度を$a$とすると,式(1)の関係が成り立つ。質点の円周方向の加速度は\[a=R\ddot{\theta }\]という関係を式(1)に代入し,両辺に$R$をかけることにより,以下の関係が得られる。

$fR=m{{R}^{2}}\ddot{\theta }$ (3)

ここで$fR$は回転軸回りの力のモーメントであるトルク$T$($N\centerdot m$)であり,$m{{R}^{2}}$は剛体の慣性モーメント$I(\text{kg}\centerdot {{\text{m}}^{2}})$であるので,以下のように書き換えることができる。

$T=I\ddot{\theta }$ (4)

この関係は一軸回りの剛体の回転運動全般について成り立つ式であり,回転軸からの距離が0では無い点のどこであっても,半径に沿わない方向に力を作用させれば剛体の角加速度を変化させることができる。これは力ベクトルを$f$,力の作用点の位置ベクトルを$r$としたとき,トルクベクトル$T$は両者の外積$r\times f$となり,その値は$r$と$f$のなす角を$\beta $とすると$\left| r \right|\left| f \right|\sin \beta $となることに対応している。

実際の剛体について慣性モーメントを考える場合は,各部分の慣性モーメントを剛体全体について足し合わせる(積分する)ことにより求められる。例えば半径$R$($\text{m}$),厚さ$t$($\text{m}$),密度$\rho $($\text{kg}/{{\text{m}}^{3}}$)の円板の,円形断面に直交し中心を通る軸回りの慣性モーメント$I$($\text{kg}\centerdot {{\text{m}}^{2}}$)は,中心軸からの距離が$r$の微小部分(微小角.$d\theta $.および微小長さ$dr$に対応する微小質量が$dm=\rho \centerdot t\centerdot rd\theta \centerdot dr$)の慣性モーメント($dm\centerdot {{r}^{2}}$)を考えることにより以下のように求まる。

$I=\mathop{\int }_{0}^{R}\mathop{\int }_{0}^{2\pi }\rho t~{{r}^{3}}~d\theta dr=\frac{1}{2}\rho \pi {{R}^{4}}t$  (5)

なお,慣性モーメントもトルクも回転軸の位置に依存することに注意しなければならない。

最後に慣性モーメントの計算において有用な,平行な二つの軸回りの慣性モーメントに関する関係式を示す。

$I’=I+M{{l}^{2}}$ (6)

ここで$M$は剛体の質量,$I$は質量中心(重心)を通る軸A回りの慣性モーメント,$I’$は軸Aと平行な軸B回りの慣性モーメントで,$l$は軸Aと軸Bの距離である。軸A回りの慣性モーメントの計算は容易である場合に,軸B回りの慣性モーメントを容易に求める際は有用である。

 

演習問題1.1:慣性モーメント

内径${{d}_{i}}$($\text{m}$),外径${{d}_{o}}$($\text{m}$),厚さ$t$($\text{m}$),密度$\rho $($\text{kg}/{{\text{m}}^{3}}$)の円環の,中心を通る軸回りの慣性モーメントを求めよ。

(答:$\frac{1}{32}\rho \pi \left( {{d}_{o}}^{4}-{{d}_{i}}^{4} \right)t$  ($\text{kg}\centerdot {{\text{m}}^{2}}$))


山本 浩

◎埼玉大学大学院 理工学研究科 人間支援・生産科学部門 教授

◎専門:機械力学,潤滑工学

 

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