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2021/1 Vol.124

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第 100号)
機構模型 ねじ

年代未詳/真鍮、鉄、木製台座/ H270, Dia.130(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵
ねじは基本的な機構の一つ。機構模型は近代化の進められた機械学教育に用いられた。本模型の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きのものを含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機構模型が現存する。
上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

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ほっとカンパニー

日機装(株) 過酷な環境下で働く特殊ポンプで社会のインフラを支える

日本にはこんなすごい会社がある!

特殊ポンプや航空機用部品、血液透析装置など、日本になかった技術で新たな市場を開拓してきた日機装。その絶え間ない進化の軸になっているのが、“特殊ポンプ”だ。同社は「特殊ポンプ工業株式会社」として1953年に創業。以後、海外の特殊ポンプの輸入・販売を手掛けるとともに、最新技術を導入。56年には日本初の特殊ポンプの開発に成功し、以来、日本の特殊ポンプのリーディングカンパニーとして今に至っている。60年には日本で最初の人工心臓試作機を開発。69年に国産第1号の人工腎臓装置を完成させるなど、医療分野との繋がりも深めていった。現在の主な事業は、「インダストリアル事業」「航空宇宙事業」「メディカル事業」の3部門と、2014年にノーベル物理学賞を受賞された名古屋大学の天野教授とともに開発を手がけてきた深紫外線LEDが2015年に世界で初めて製品化に成功、「深紫外線LED事業」という新たな柱が立ち上がっている。今回は、原油や天然ガスの採掘、液化天然ガス(LNG)の輸送など、厳しい環境下で使われるポンプを扱う「インダストリアル事業」の中のキャンドモータポンプ、往復動ポンプ、クライオジェニックポンプと呼ばれる3種の特殊ポンプに焦点を当てた。これらは、高温・高圧・極低温という過酷な環境と、「絶対に漏らしてはいけない」という前提条件のもと、極めて高い技術力と品質が求められている。

電気式ベアリングモニタ「Eモニタ」が好評のノンシールポンプ

キャンドモータポンプは、ポンプ部とモータ部を一体構造にすることで、液の漏えいをさせないシールレスポンプだ。キャンド(canned)の由来は、密閉した缶詰のような構造を指し、主に石油化学や石油精製の各プロセスなど液体輸送などで活躍。さらには最も高度な信頼性を求められる原子力発電所などでも採用されている。日機装は1963年、完全無漏洩のキャンドモータポンプを開発、「ノンシールポンプ」という名称で市場に投入し、市場の厳しい要求に応えながら進化を続けている。同社技術部セントリ設計グループの綾部聡は、その難しさを「厳しい液体の中に主要部品が浸った状態であること」と話す。「ポンプの重要な部品であるカーボン製のベアリングは、使っていくうちに摩耗していきます。それに気づかず運転することで、大きなトラブルの原因になる。それを解決するために、当社ではベアリングの摩耗を監視・検知する装置『Eモニタ』を付けています。ここは一番の強みです」。Eモニタとは、モータ内部に内蔵したサーチコイルを通して、ベアリングの摩耗を電気的にリアルタイムに検出・表示するシステムだ。「段階的に摩耗状況を表示できるので、お客様にとってメンテナンスの予定が立てやすいことも歓迎されています」(綾部)。インダストリアル工場長の服部雅威も「この技術は当社だけのもの。お客様から好評で、最初から『Eモニタ付=日機装指定』とポンプの発注をいただくことも多いんです」とその強みを語る。安全や信頼に加えて、要求されるのがポンプの効率(小型化・省エネ化)だ。一般的なポンプメーカーでは自社のポンプと他社のモータを組み合わせて開発することが多いが、日機装ではモータも自社で設計、製造しており、高効率化にも取り組んでいる。

ノンシールポンプ断面図とEモニタ

高い圧力、高い吐出精度を実現する往復動ポンプ

羽根車を回転させ遠心力を利用して流体を送液するキャンドモータポンプとは違い、往復動ポンプはピストン構造。主に石油化学や石油精製の生産現場で、可燃性や毒性を持つ危険な液体を送る用途で活躍している。同社技術部レシプロ設計グループの上野雅範は、「往復動ポンプは、メインのプロセスラインに対して薬液や添加剤を注入する際に使われることが多い。例えば、民生品のガスを生産する際ガスに匂いをつけるため付臭剤の注入に使われています。その際に注入すべき一定量をキープできるのが往復動ポンプの特徴です」と説明する。日機装の製品の特徴は、高い圧力・高い吐出精度でプロセスに注入できることにある。ダイアフラムタイプで最高120MPaまで対応可能だ。同社の往復動ポンプのラインナップには、世界最大級のダイアフラムポンプ「トリプレックスポンプ」も含まれる。これは現在、国内で稼働しているダイアフラムポンプとしては最大で、プラント内で発生した廃液を浄化して破棄するために使われているという。

ダイアフラムとは、ゴムや合成樹脂、金属などの弾性薄膜を指し、このダイアフラムを介してその後部にあるピストンが前後運動することで、送液される構造を持つ。技術的に難しいのはそのテフロン製のダイアフラムの選択だと言う。「ダイアフラムに求める機能は大きく二つ。一つは外部に液体を漏らさないシール機能、もう一つが繰り返し前後にたわむなかで高寿命を保つこと。強靭さとしなやかさの両立が求められます。ただ、その選定は物性値からだけではなかなか判別できず、実際にポンプに組み込んで試験しなくてはならない。そこからの見極めが一番困難を伴います」(上野)。

国内最大級のトリプレックスポンプ

往復動ポンプ(エコフローポンプ)断面図

“極低温”を扱うクライオジェニックポンプ

クライオジェニックポンプは、キャンドモータポンプと同じくモータとポンプの一体型構造のポンプだ。キャンドモータポンプと異なる点はポンプ(ケーシング)とモータが全て極低温の液中に浸っている点だ。使用されているのは、主にLNGをはじめとする液化ガス用。近年、クリーンエネルギーとして注目を浴び、今後も需要の増大が見込まれている分野だ。天然ガスという気体の化石燃料は-162℃に冷却して液化すると体積が約600分の1に縮小することから、輸送の際には液化して効率よく運ぶ。このように運ばれる液体の種類は限られているが、極低温の液化ガスの取り扱いは極めて難しいもの。特に小流量(3m3/h)から大流量(2800m3/h)などの幅広い流量域と低圧から高圧用のポンプ全てに対応できる特殊ポンプを製造できるのは世界でも数社、日本でも日機装を含めて3社のみというニッチな世界だ。

設計の最大のポイントは、-162℃という環境下での安定稼働。部品として異なる金属を複数使っているが、温度変化によって金属は伸縮し、その熱収縮係数は金属によっても異なる。「それぞれの金属の熱収縮を熟知した製品をつくれる技術力が当社の強みだと考えています」(同社クライオ部クライオ開発グループ・合原真路)。-162℃の世界にポンプが置かれているため外部からポンプの状態を直接目視できない、それが難しさに繋がっている。何か異常が起きたときの解決策は、「圧力脈動や振動などのポンプ性能の情報をすべて集め、原因を推定して対応する必要があります」(合原)。場合によっては、過去の経験資料に立ち返って様々なケースを想定することも少なくない。ただ、ポンプの構造を新しくした場合、過去にNGだったことが最適解となるようなこともある。緻密さ、地道さと同時に、開発に携わる者には発想の柔軟性も求められる現場なのだ。

クライオジェニックポンプ断面図

世界最大級の移送ポンプ

果敢に挑戦を重ね、唯一無二の技術で社会を支える

特殊ポンプはニッチな領域。服部は「だからこそトライ&エラーが必要な領域です。日機装は失敗しても簡単に諦めない会社です。他社ができないこと、うちでしかできないことに今後も果敢に挑戦していきたいと考えています」と、力強く話す。クライオジェニックポンプを担当する合原も「たとえ一つ失敗しても、グループ全体の力を利用して、その失敗を失敗で終わらせずに次に活かせるのも日機装の素晴らしさ。だから、挑戦し、開発し続けられると感じています」と話す。

たしかに製品としてはニッチだ。しかし、人間の生活に必要不可欠なエネルギー関連の施設で使われ、インフラを支えるという社会的意義の大きい製品でもあり、活躍の場はダイナミックだ。また、この先も決してなくなることはないだろう。

誰にでもできることでないからこそ、強い使命感・責任感を持って常にチャレンジしていく。そう言い切る開発者たちの笑顔が輝いていた。

(取材・文 横田 直子)


日機装株式会社

本社所在地:東京都渋谷区 https://www.nikkiso.co.jp/

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