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2022/4 Vol.125

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特集 IT技術・自動運転技術が担う交通安全

自動車分野における自動運転の安全論証

馬場 厚志〔(株)デンソー〕

はじめに

自動車業界では、安全で自由なモビリティ社会の実現を目指して、自動運転の実用化に取り組んでいる。自動車分野の自動運転の実用化にあたっては、技術的な観点はもちろんのこと、法制度(交通ルール)や社会受容性などの観点からも大きな課題がある(1)(2)

交通ルールの観点では、例えば、既存の人間ドライバ向けの道路交通ルールは、その時々の道路交通状況によって解釈が異なる、または解釈が矛盾する可能性があることが課題である。自動運転車両が遭遇すると考えられる道路交通状況は多種多様であり、どんな場合でもルールを順守した安全な自動運転を実現するのは容易なことではない。

一方、社会受容性の観点では、自動車を含む道路交通インフラのユーザが非常に多岐にわたることが課題に挙げられる。例えば、自動車を運転するドライバは、運転免許を取得しているものの、航空機や鉄道の操縦士のように専門的な訓練を受けているわけではなく、技量に大きな差がある。また、道路のユーザには、運転免許を取得していない歩行者や自転車などの交通弱者(Vulnerable Road User, VRU)も含まれる。さらに、それらの多様な道路のユーザについて、責任を持って交通整理する“管制官”は存在せず、安全のための行動は法律やルール、モラルに基づいた各ユーザによる自主的な判断に委ねられている。

このように、ルールの解釈に幅があり、さらにそのルールが守られることは必ずしも期待できない中で、VRUを保護しながら、他車両との事故を起こさないようにしなければならない。そのような複雑な環境で安全な自動化技術を構築しなければならないのが、自動車における自動運転なのである。

以上のような課題を解決するために、自動運転の安全性を示すための安全論証の重要性が増しており、国際的なルールの整備が進められている。例えば、安全とは何なのか、そして、その安全をどのレベルまで担保すれば良いのか、そのためにどのような評価を行えばよいのか、といったことが議論されている。そのようなルールの整備は、義務化のともなう国連の基準と、技術的な詳細を含むISOなどの国際標準化の二つの軸で同時進行している状況である。

本稿では、自動車分野における自動運転システムの定義や概要について解説したうえで、技術的なポイントを中心に安全論証の国際標準化の動きについて紹介する。

自動運転システムの自動化レベル

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