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2022/9 Vol.125

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特集 つながる機械 ~機械と通信の融合~

移動通信システムの概要と信号処理の基礎

岡本 英二(名古屋工業大学)

移動通信システムの現状と課題

無線通信は情報伝送の媒体として電磁波を用いた通信手段のことであり、通信端末を持ち歩ける「可搬性」と情報を同時に広域に送ることができる「同報性」という、有線通信にはない特長を有している。この利便性により、主に前者は移動通信、後者は放送として用いられ広く普及している。

日本における携帯電話システムの契約者数推移を図1に示す(1)。携帯電話は1979年の第1世代移動通信システム(1G)(自動車電話)のサービス開始を皮切りに40年以上一貫して契約台数が増加しており、収容数の増加と通信の高速化を実現するために約10年に一度フルモデルチェンジを行ってシステムの高度化を図っている。国内では2020年に第5世代移動通信システム(5G)の商用化が開始されたところであり(2)、5G以前のシステムも含めると現在一人当たり1.86台程度の携帯端末契約率になっている。世界的に見ても2021年度において契約台数のおよそ81億台に対し世界人口は78億7500万人であるため、平均的には一人1台保有していることになる。このように移動通信システムは社会のインフラストラクチャとして機能していることになる。ただし実はこの契約数には人だけでなく、通信装置を備えた自動車や飲料自動販売機などの人以外の端末も含まれており、IoT(Internet of things)時代の到来を踏まえると、装置の台数は今後もますます増加すると予想されている。

しかしながら、無線通信では伝搬路変動が常に起こるため、高品質かつ高速な伝送を行うにはさまざまな付加技術の適用が必要である。図2に電波伝搬の模式図を示す(3)。電波伝搬は広がりを持つため、基地局から端末への電波は直接波以外にも反射波、回折波、散乱波、山岳反射波などとなり受信される。これらの電波は受信方向と到着時刻、受けるドップラー効果が異なるため、端末で合成した電波は互いに強め合うことも弱めあうこともあり、受信電力が刻々と変化する。この現象をマルチパスフェージングといい、無線通信ではフェージングの影響により受信誤りが時々生じてしまう。

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