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2022/10 Vol.125

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特集 超精密加工の最前線

マイクロ・ナノ3Dプリンティング

丸尾 昭二(横浜国立大学)

はじめに

2Dから3D、ハードからソフト、そして個別生産へ

今、超精密・微細加工の分野において、ものづくり技術が大きく変わろうとしている。以前は、金型やレンズの超精密加工に用いられる機械加工や、センサやマイクロマシンの開発に用いられるフォトリソグラフィが主役であった。今でも、これらの優れた加工技術が、ものづくりの基盤技術であることは間違いない。しかし、近年、これら既存の精密・微細加工技術では対応が困難な新しい用途が多数生まれている。

例えば、半導体のさらなる高集積化に向けて、3D配線や積層技術などが必要となり、従来の2D加工から3D微細加工へのニーズが急速に高まっている。また、医療・ヘルスケア分野では、体に直接貼り付けるウェアラブルデバイスなどの開発が進んでおり、従来の半導体を用いたセンサなどの固い素子だけでなく、フレキシブルなセンサや電子回路、バッテリーなどの開発が期待されている。さらには、インダストリー4.0に代表される新たな産業革命の提唱によって、従来の大量生産から、個々のニーズに応じた個別生産の時代となり、多様なニーズに迅速に個別対応できるものづくり技術が求められている。

そこで、これらの新たなニーズを満たす有望技術として、マイクロ3Dプリントが注目されている。特に、光硬化性樹脂を硬化させて3D構造体を高精度に作製できる「マイクロ光造形法」は、その高い加工分解能と適用材料の多様性から、マイクロマシン、フォトニクス、医療など幅広い分野で活用されている。以下では、マイクロ光造形法の基礎と高速化、高分解能化、マルチマテリアル化などの最新の研究動向について述べ、さらに有望な応用分野についても紹介する。

マイクロ3Dプリント技術の使い方

3Dモデルのサイズと加工精度によって造形法を選択

マイクロ光造形法では、一般の3Dプリンタと同様に、3Dモデルの断層データを作成し、その断層データに沿ってレーザー光やLED光を照射して、光硬化性材料を硬化・積層することで3D部品を作製する。作製したい3Dモデルのサイズ、材料と必要な加工精度に応じて、紫外・青色・フェムト秒(fs)レーザー光などの光源と造形方式を使い分ける。図1は、主な光造形法の造形原理を示している(1)図1(a)は、自由液面法と呼ばれる方式であり、数10cmを超える大型3Dモデルの造形に適している。光源には高出力の紫外レーザー光(波長:355nm)が用いられており、ガルバノスキャナを用いて数10m/sec以上の高速スキャンが可能である。

図1(b)は、規制液面法と呼ばれる方式であり、数cmサイズの小型3Dモデルの造形に適している。光源には、小型の半導体レーザー(波長:405nmあるいは375nm)が用いられている。光を照射する方式として、ガルバノスキャナ方式あるいはDLP(Digital Light Processing)を使ったプロジェクタ方式がある。DLP方式は面露光であるため高速な積層が可能である。また、より微量な樹脂でも造形が可能な方法として、基板に配置した液滴を用いた規制液面法も開発されている(図1c)。この方法は、高開口数のレンズを用いることでµmオーダーの高精細な微細造形も可能である。これら規制液面法では、硬化させた樹脂が底面のガラス基板に接着するため、従来は断面を硬化させる度に引き剥がし工程が必要であった。しかし、近年、底面のガラス基板をガス透過性フィルムに変更し、酸素によって光重合反応を阻害して接着を防止することで、連続的に造形テーブルを引き上げるCLIP(Continuous Liquid Interface Production)法が開発・実用化された。これにより、積層段差のない滑らかな3Dモデルの高速造形が実現され、シューズのインソールなどの最終製品の製造技術としても利用されるようになった。

さらに微細な3D造形法として、内部硬化方式(Direct laser writing)に基づく造形法がある(図1d、e)。内部硬化方式では、自由液面方式や規制液面方式などの積層造形法と異なり、レーザー光を樹脂内部に集光して焦点近傍のみ光硬化させ、焦点を3次元走査させて3Dモデルを形成する。この方式には、主に3種類の配置方法がある。図1(d)がもっとも一般的な配置であり、カバーガラスの上面に樹脂液滴を滴下し、下方からレーザー光を集光する。この方式は、数10µmサイズの3Dモデルの造形には適しているが、対物レンズの作動距離によって造形物の高さが制限される。そこで、100µm以上の高さを持つハイアスペクトな3D微小構造体を作製する場合には、Dip-in方式(図1e)が用いられる。この方式では、対物レンズの作動距離を超えた造形が可能であり、樹脂液滴を安定に保持できる数mm程度の高さの造形が可能である。

上記の内部硬化方式では、いずれの配置においても、光硬化性樹脂の内部に光強度の高い集光スポットを形成し、焦点近傍のみを選択的に硬化させる必要がある。そのためには、1光子吸収と2光子吸収を利用する二つの方法があり、いずれも筆者らが世界に先駆けて提案・実証した(1)。1光子吸収を用いる方法では、青色光による光重合反応の非線形性を利用する。一方、2光子吸収を利用する方法では、近赤外域のfsレーザーによる2光子光重合反応によって焦点近傍の樹脂を選択的に硬化させる。硬化形状は、光軸方向に長軸を持つ橢円体(ボクセルと呼ぶ)となり、その大きさは集光スポットよりも小さくでき、100nmに迫る加工線幅が得られる。この優れた特徴から、2光子造形法は、欧州で複数の実用化装置も販売され、世界中で活用されるマイクロ3Dプリント技術となっている。さらに最近では、硬化に用いるfsレーザーと同時に、ドーナツ状の光強度分布を持つ特殊なレーザー光を集光し、焦点の周辺の硬化を阻害することで、100nm以下の微小なボクセルを形成するナノ光造形技術も研究・開発されている(2)

一方、近年は微細化・高精細化だけでなく、光造形を最終製品の製造に適用するために、生産性の向上が強く求められている。そこで、積層造形を行うことなく、タンクに貯蔵した樹脂の内部で3Dモデルを直接形成する高速造形法が研究されている(3)。例えば、ボリューメトリック3Dプリント法(Volumetric 3D printing)あるいはライトシート3Dプリント法(light-sheet 3D printing)では、2つのレーザー光を直交させて照射し、2つのビームが交差した部分のみ硬化させ、断面形状を順に造形して3Dモデルを形成する(図1f)。また、円筒状の樹脂タンクを回転させながら露光することで、多方向からの断層画像に応じた露光を行うことで直接3D物体を形成するトモグラフィック・ボリューメトリック3Dプリント法(Tomographic Volumetric 3D printing)も実証されている。これらは、わずか数秒で3Dモデルを造形できることから、細胞などを混合した光硬化ゲルを用いたバイオプリンティングなどへの応用が期待されている。

(a)自由液面法(b)規制液面法(c)液滴を用いた規制液面法

(d)内部硬化方式(e)Dip-in方式(f)ボリューメトリック3Dプリント法

図1 光造形法の造形原理

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