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2019/3 Vol.122

【表紙の絵】
未来のファミリーレストラン

小原 芽莉 さん(当時10歳)

私の考えた機械は、これから起きるといわれている「食料危機」を乗り越えられる機械です。バクテリアの入っている機械に昆虫をいれると、バクテリアが昆虫をハンバーグやオムライス、カレーなどの味にします。色々な味になった物が穴からでてきます。最後に羽あり型ロボットが穴から落ちてきた物をお皿にならべてくれます。

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ほっとカンパニー

(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ 最先端技術と柔らかい感性で世界のトップへ

最先端技術と柔らかい感性で世界のトップへ

 

穂高工場 現在、生産増に対応するため、同じく安曇野市内に新工場の建設を進めている。

研究棟「I・K KAN」

日本にはこんなすごい会社がある

北アルプスの麓に広がる安曇野市。その山裾に(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ(以下、HDS)の本拠地である穂高工場がある。敷地内でひと際目を引くのが、守衛所、ギャラリー棟「IIDA・KAN」、研究棟「I・K KAN」の三つの建築物。建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞も受賞した建築家・槇文彦の設計だという。「IIDA・KAN」には日本を代表する彫刻家・飯田善国の作品が無料公開で常設展示されている。

「芸術に造詣の深い現会長は、常に感性の大事さを口にしています。美術館は、社員にとっては新しい発想を生む場にもなることを意図しています」と同社執行役員(広報担当)の小沢寛が、その背景を話してくれた。

同社の技術の核となるのが、そんな柔らかい感性から生まれたユニークな製品「ハーモニックドライブ®」だ。米国の発明家C.W.マッサーによって生み出された減速機は、金属のたわみを応用した画期的なものだった。1964年、HDSの前身である長谷川歯車HD事業部が技術提携によりハーモニックドライブ®の実用化に成功。70年にハーモニック・ドライブ・システムズを設立し、2020年に50周年を迎える。

「設立からしばらくは技術を持て余し、鳴かず飛ばずだった」(小沢)という同社に転機が訪れたのは、70年代後半。当時産業用ロボットは油圧式から電動式への変革期だった。「日本のメーカーが海外から取り寄せたロボットを開けたら、見たこともないギアが入っている。調べたら、日本でも作っているところがあるとなったようです」(小沢)。こうして、HDSがロボットメーカー各社にハーモニックドライブ®を提供し始めた。以降、液晶パネルやパソコン、スマートフォンなど技術革新により、存在感を増していった。

現在は、「トータルモーションコントロール」をテーマに掲げ、ハーモニックドライブ®を進化させる一方で、その性能を最大限に引き出すために、AC:DCサーボモーターやドライバー、中空複合アクチュエーターなどの製品群も展開。より高精度な技術力をトータルに展開し、活躍の場を広げている。

相反する特長を併せ持つハーモニックドライブ®

ハーモニックドライブ®とはどんな原理の機構なのか? 一般的には波動歯車装置に分類され、三つのパートから成り立っている。楕円状カムの外周に薄肉のボール・ベアリングをはめた「ウェーブ・ジェネレータ」、その外側には薄肉カップ状の金属弾性体の「フレクスプライン」、そして一番外側に来るのが剛体リンク状の「サーキュラ・スプライン」であり、フレクスプラインより歯数が2枚多くなっている。

まず、フレクスプラインがウェーブ・ジェネレータによって楕円状にたわめられると、長軸部分がサーキュラ・スプラインと歯が噛み合う。サーキュラ・スプラインを固定し、ウェーブ・ジェネレータを時計方向に回転させると、フレクスプラインは弾性変化し、サーキュラ・スプラインとの歯が噛み合う位置が順次移動していく。フレクスプラインが一回転すると、歯数2枚分だけ反時計方向に移動。その動きを出力として取り出す。

機構としては非常にシンプルだが、金属のたわみを応用した原理により、他にない強みを持っている。一つ目は小型・軽量であること。一般的に1/30〜1/320の高減速比を実現し、極限までの軽量化・コンパクト化が求められる航空・宇宙分野や小型の産業用ロボットなどに多く使われ、最小サイズは1円玉より小さい13mmだという。二つ目の特長は、ノンバックラッシ。通常、歯車同士を転がす場合、噛合部分に隙間(バックラッシ)を作ることで歯車をスムーズに回転させ、それが誤差を生み出してしまうが、ハーモニックドライブ®の機構ではそれが必要ない。そのため、正確な位置づけが可能となり、高精度位置決めが必要な産業用ロボットや半導体装置、フラットパネルディスプレイ製造装置などに重宝されている。また、高効率、高トルク容量なども大きなアドバンテージになっている。

ハーモニックドライブ®の構造

1台から受注する徹底したカスタマイズ方式

開発・技術本部副本部長の木野学とRD開発部長の半田純は、ハーモニックドライブ®について教科書で知っていたものの、入社当初は「こんなにぐにゃぐにゃなのに本当に高精度なのか?!」と半信半疑だった。ただその後は「知れば知るほど魅力が高まった」という(半田)。

「売上の9割以上はカスタマイズされた製品。1台からお受けしていることも、お客様に選ばれる理由だと思う」(小沢)という言葉からわかるように、技術職が客先とやりとりする機会も多い。要求のヒアリングを行い、宿題を持ち帰って検証を重ね、仕様を取り交わしながら進める。最先端の技術を要求される場合は、客先に足を運ぶことも少なくない。

主に求められるのは、軽量・高剛性の部分での挑戦だ。木野は、「シンプルな構造の中で、“あと少し”をいかに詰めるか。ベースアップを続けていくことが課題」とその難しさを語った。半田は「産業用ロボット、医療関連、宇宙関連など、あらゆる分野の方からお声をかけていただけるが、それぞれ専用に仕様を設計・評価していく必要がある」と話す。高精度を求める客もいれば、トルクを優先する客もいる。客によって異なる要求に、期待以上の性能を提示することがHDSの強みであり価値というのが二人の共通の考えである。

火星探査車オポチュニティとスピリットには19個のハーモニックドライブ®が採用されている。

Rover image created by Dan Maas, copyrighted to Cornell and provided courtesy NASA / JPL-Caltech.

 

油田・ガス田向掘削操舵装置にハーモニックドライブ®が採用されている。

Courtesy of Halliburton / Sperry Drilling Services

人間の感性と感覚で新しい分野へ飛躍したい

顧客とのやり取りの中で学び、蓄積したノウハウは多い。製品の開発だけでなく、「実稼働してからの問題を通して、お客様と一緒により高みを目指して進んでいく過程もわくわくする」(木野)。課題が切実な顧客ほど、さまざまな工夫とアイデアでハーモニックドライブ®の使い方を考えてくれているとも。「私達は約半世紀の間、お客様に育てられ、そのおかげでここにいられる。そう強く感じます」(小沢)。今後はロボットに頼らず、医療分野や新分野で新しいアプリケーションを探していくのも課題だという。

社内の環境も柔軟だ。「やりたい研究や開発ができる土壌があり、一人でいろいろな経験を積める」(木野)、「営業・マーケティングから設計、製造までが同じフロアにいるので、別部門同士がすぐ連携する風通しの良さがある」(半田)。一方で、受け身でいると厳しい面もあるようだが、自ら積極的に動きたい向きには、チャンスを活かすためのフレキシブルな態勢があるようだ。

今回、取材にご協力いただいた皆さま(左から、小沢さん、木野さん、半田さん)

 

「いつまでも触っていられる」と何十年も携わっている社員が言うほど不思議な触覚のハーモニックドライブ®。宇宙航空分野に使用されるほどの高精度を実現し、自動化に大きく貢献している同社だが、最後は人の触覚による官能検査も行うのも興味深い。「人間が持つ秘めた力を製品に活かし、感覚を刺激することで新しい発想を生み出す。これがこの会社で働く楽しみになるのではないかと思う」(小沢)。HDSはこれからも柔らかい感性を持って、新しい未来の技術を支えていく。

(取材・文 横田 直子)


株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ

本社所在地 東京都品川区 https://www.hds.co.jp/

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