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2019/11 Vol.122

【表紙の絵】
どこでも線路をつなげる機械
杉平 宗将 くん(当時4歳)
この機械は、どこでも線路をつなげます。深海や山や宇宙にも行けます。つないだ線路は回収して、また使えます。通ったあとは、元通りです。海や魚にも優しい線路です。ぼくは、この機械を使って虹の上をわたりたいです。(途中にカプセルに入って休む所もあります。絵には線路を渡ってニコニコの人の顔が、描いてあります。信号もついているので、ぶつかりません。)

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やさしい材料力学

第11回 座屈



本連載を書籍化した、「基礎からの材料力学 (JSMEやさしいテキストシリーズ) 」が発行されました。機械工学への新たな一歩を踏み出す学生の方々、学びなおしの一冊として教科書をお探しの社会人の方々にふさわしい新定番の教科書です。 Kindle版 / 単行本(ソフトカバー)版 


座 屈

1 はじめに

圧縮荷重を受ける細長い構造物(以下,と呼ぶ)は,ある限界荷重を超えると側方にたわみ変形が生じて座屈する。本稿では,座屈荷重の求め方の基本を学ぶとともに座屈応力と降伏応力の関係から,座屈を防ぐための構造設計法について解説する。

2 座屈方程式

図11.1(a)のように一端が固定され,他端に圧縮荷重$P$をうける柱について考える。柱先端におけるたわみを$w_0$,固定端から距離$x$だけ離れた点のたわみを$w(x)$とすれば,座標$x$の位置での曲げモーメント$M(x)$は

\[ M(x) = -P \{ w_0 – w(x)\}\] (1)

よって,ヤング率$E$,断面2次モーメント$I$のはりのたわみの微分方程式は,

\[ EI \frac{d^2 w(x)}{dx^2} = P \{ w_0 – w(x)\}\] (2)

上式において$P/EI = \omega^2$とおくと,

\[ \frac{d^2 w(x)}{dx^2} + \omega^2 w(x) = \omega^2 w_0\] (3)

この微分方程式の一般解は同次解と特解の和であるから,

\[w(x) = A \sin \omega x + B\cos \omega x + w_0\] (4)

となることが容易に確かめられる。2つの境界条件:$w(0)=0$および$d w(x) / dx|_{x=0} = 0$より,

\[A = 0, \quad B = – w_0\] (5)

結果的に,この柱に生じるたわみ$w(x)$は,

\[w(x) = w_0 (1 – \cos\omega x)\] (6)

となる。$x=l$において,たわみは$w_0$となるので,

\[w_0 \cos \omega l = 0\] (7)

が成立しなければならない。式(7)が意味のある解を与えるためには,$\cos\omega l=0$でなければならないので,$\omega$は以下の式を満たす必要がある。

\[\omega = (2m – 1) \frac{\pi}{2l}, \quad (m =1,2,3\ldots)\] (8)

$P/EI = \omega^2$の関係より,

\[ P_m = (2m – 1)^2 \frac{\pi^2 EI}{4 l^2}, \quad (m=1,2,3\ldots)\] (9)

すなわち,荷重$P$が式(9)を満たす場合,式(7)における$w_0$は不定となるから,この場合の$P$が座屈荷重となる。つまり,式(9)で与えられる荷重$P$において,柱には不安定な変形,すなわち座屈が生じる。

図11.1 一端固定,両端回転自由,両端固定の柱

3 さまざまな柱の座屈荷重

一般には柱に作用させる荷重を増加させた場合に初めて座屈が生じる荷重,すなわち式(9)における$m=1$の場合の座屈荷重が求められれば設計上は十分である。よって,一端固定の柱における座屈荷重は以下のようになる。

一端固定の柱:$\displaystyle P_c = \frac{\pi^2 EI}{4 l^2}$ (10)

次に,図11.1(b)に示すような両端回転自由に支持された柱の座屈荷重について考える。柱を2分割して上下どちらかのみを考えると,柱の1/2の部分が先に議論した一端固定の場合と同じ変形となることが確かめられる。よって,式(10)の座屈荷重における$l$を$l/2$に置き換えることにより,

両端回転自由の柱:$\displaystyle P_c = \frac{\pi^2 EI}{l^2}$ (11)

さらには,図11.1(c)に示すような両端が固定された状態で圧縮荷重を受ける柱について座屈変形を考えると,柱を4分割した場合の1区間の変形が一端固定の場合と同じ変形となることが確かめられる。よって,式(10)の座屈荷重における$l$を$l/4$に置き換えることにより,

両端固定の柱:$\displaystyle P_c = \frac{4\pi^2 EI}{l^2}$ (12)

となる。ここで述べた2つの例以外についても,以下の例題に示されるように,一端固定の柱における座屈荷重の式を用いてさまざまな境界条件を有する柱の座屈荷重を求めることができる。

4 座屈応力

座屈が発生する際の柱の断面における応力が座屈応力である。

\[ 座屈応力: \sigma_c = \frac{P_c}{A}\] (13)

幅$b$,高さ$h$($b > h$)の長方形断面を有する一端固定の柱における座屈応力は以下のようになる。

\[ \sigma_c = \frac{P_c}{A} = \frac{\pi^2 Eh^2}{48 l^2}\] (14)

他方,直径$D$の円形断面の場合は以下のとおりである。

\[ \sigma_c = \frac{P_c}{A} = \frac{\pi^2 E D^2}{64 l^2}\] (15)

本稿の定式化において求められた座屈荷重や座屈応力は,柱が弾性体であるとして求められている。すなわち,柱に塑性変形が生じてしまえば座屈はもはや生じない。式(14),式(15)より明らかなように,柱の断面積を増やせば座屈応力は増加するから,降伏応力より座屈応力が大きくなるように柱を設計すれば,座屈の心配からは解放されることになる。

ここでは,直径$D$の円形断面を有する一端固定の柱において座屈しないための条件を考えてみる。式(15)より,座屈しないための条件は,

\[\frac{\pi^2 E D^2}{64 l^2} \ge \sigma_y\] (16)

ここで,$\sigma_y$は材料の降伏応力である。上式を変形して,

\[ \frac{D}{l} \ge \frac{8}{\pi} \sqrt{\frac{\sigma_y}{E}}\] (17)

すなわち,柱の直径と長さの比が上式を満たすようにすれば,座屈しない柱が得られることがわかる。

5 座屈に関する種々の例題

5.1 両端の回転を拘束された柱

図11.2(a)に示すような,上端・下端の回転がともに拘束され,上端は鉛直方向に,下端は水平方向にだけ自由に動くことができる柱について考える。柱の長さは$l$,断面は直径$D$の円であり,ヤング率は$E$である。この柱の変形図を描くと,柱の1/2の部分が一端固定の座屈モードに相当することがわかる。すなわち,一端固定の柱の座屈荷重の式(10)における$l$を$l/2$に置き換えればよく,

\[P_c = \frac{\pi^2 EI}{4(l/2)^2} = \frac{\pi^3 E D^4}{64 l^2}\]

座屈荷重を断面積$A=\pi D^2/4$で割れば座屈応力が求められる。

\[\sigma_c = \frac{P_c}{A} = \frac{\pi^3 E D^4}{64 l^2} \cdot \frac{4}{\pi D^2} = \frac{\pi^2 E D^2}{16 l^2}\]

座屈が生じないようにするには,降伏応力が座屈応力を越えないようにすればよい。すなわち,

\[\sigma_y \le \sigma_c, \quad \therefore\ \sigma_y \le \frac{\pi^2 E D^2}{16 l^2}\]

よって,柱が座屈しないための条件は以下のようになる。

\[\frac{D}{l} \ge \frac{4}{\pi} \sqrt{\frac{\sigma_y}{E}}\]

図11.2 さまざまな境界条件を持つ柱の座屈

5.2 下端を固定,上端の回転を拘束された柱

図11.2(b)に示すように,上端の回転が拘束され(鉛直方向の移動は自由),下端を固定された柱があり,上部から圧縮荷重が作用している。柱の直径は8mm,長さは1000mm,ヤング率は210GPaである。この柱における座屈応力を求めるとともに,この柱の降伏応力を300MPaとして,柱が座屈しないようにするためには直径をいくらに増やせば良いかについて考える。

柱の変形を考えると,同じ長さに4分割されたそれぞれの部分が一端固定の柱と同一の変形となる(図11.1(c)の場合と同様)。すなわち,一端固定の柱の座屈荷重の式(10)における$l$を$l/4$に置き換えればよく,

\[P_c = \frac{\pi^2 EI}{4(l/4)^2} = \frac{\pi^3 E D^4}{16 l^2} = 1.6666 \times 10^3 \simeq 1.67{\rm kN}\]

座屈応力は,

\[
\begin{split}
\sigma_c &{} = \frac{P_c}{A} = \frac{\pi^3 E D^4}{16 l^2} \cdot \frac{4}{\pi D^2} = \frac{\pi^2 E D^2}{4 l^2} \\
&{} = 33.162 \times 10^6 \simeq 33.2{\rm MPa}
\end{split}
\]

先の5.1節の例題と同様に,座屈が生じないための条件について考えると,

\[\sigma_y \le \frac{\pi^2 E D^2}{4 l^2}\]

上式を変形して,柱が座屈しないための条件を直径$D$について整理すれば,

\[D \ge \frac{2l}{\pi} \sqrt{\frac{\sigma_y}{E}} = 24.062 \times 10^{-3} = 24.1{\rm mm}\]

よって,直径を24.1mm以上にすれば柱は座屈しないことになる。

演習問題11.1: 長方形断面の柱における座屈応力

図11.2(b)の柱において,断面が幅10mm,高さ5mmの長方形の場合について座屈荷重と座屈応力を求めよ。

(答:$\boldsymbol{\displaystyle P_c = \frac{4 \pi^2 E I}{l^2} = \frac{\pi^2 E b h^3}{3 l^2} \simeq 864{\rm N}}$

$\boldsymbol{\displaystyle \sigma_c = \frac{P_c}{A} = \frac{\pi^2 E h^2}{3 l^2} \simeq 17.3{\rm MPa}}$)


<フェロー>

荒井 政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


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