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2021/8 Vol.124

機構模型

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

材料試験機

年代未詳/エリオット・ブラザーズ社製/ロンドン(英)/真鍮、鉄、木製台座/

H537, W354, D282(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

本体に「PORTER'S PATENT / ELLIOTT Bros. LONDON」の刻字あり。本資料の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きの機構模型を含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機器が現存する。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

[東京大学総合研究博物館]

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学会横断テーマ 2021年度年次大会企画

学会横断テーマ 年次大会企画:2持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装

近久 武美(北海道職業能力開発大学校)

学会横断テーマ2 2021年度年次大会企画

テーマリーダー 近久 武美(北海道職業能力開発大学校)

企画チームメンバーと所属部門(第1位/第2位):
黒坂 俊雄(神鋼リサーチ 元社長):流体工学/熱工学
鹿園 直毅(東京大学生産技術研究所 教授):熱工学/動力エネルギーシステム
鈴木 健介(東芝エネルギーシステム社 部長):動力エネルギーシステム/エンジンシステム
染矢 聡(産業技術総合研究所 総括研究主幹):熱工学/流体工学
津島 将 司(大阪大学 教授):熱工学/動力エネルギーシステム
中垣 隆雄(早稲田大学教授):動力エネルギーシステム/熱工学
中田 俊彦(東北大学 教授):技術と社会/動力エネルギーシステム

テーマの具体化

横断的総合技術としての機械工学の強みを活かし、社会の課題解決に向けた貢献を行うことを目的として、4つの学会横断テーマが設定されました。その一つである本テーマは実に幅広い領域に関連するものとなっていますが、エネルギーを専門とする私にとっては炭酸ガス削減のためのエネルギー技術に関して種々の企画を行うものと解釈いたしました。炭酸ガス削減は緊急かつ非常に重要なテーマであり、その対応のためには機械学会の分野を横断するのみならず、経済を含めた広い分野の連携が必要で、まさに学会横断テーマにふさわしいと考えたわけです。そこで、本企画チームでは炭酸ガス排出の少ない持続可能社会実現のための情報交換を目的とし、他学会とも協力しながらシンポジウム等の企画を行うものとしました。

委員構成および企画会議

私が活動している熱工学分野を中心とし、エネルギー問題に関して幅広く活躍されている方々に委員をお願いしました。2020年10月までに2回の会議を行い、本委員会の目的の理解と方針の具体化、ならびに最初の講演会の企画に関して意見交換しました。その結果、今年の年次大会において最初の特別講演会を行うことと致しました。その後、さらに2回のWebによる企画会議を行い、年次大会プログラムを作成致しました。

炭酸ガス削減の技術テーマと活動目標

菅内閣は昨年10月の所信表明演説とそれに引き続いたG20サミットにおいて2050年までに炭酸ガス排出量を実質ゼロにする目標を発表しました。これは実に素晴らしいことです。しかし、その技術選択議論には様々な誤りが既に見受けられるように思います(1)。例えば、CO2を20%以上の効率で燃料に変える技術の開発が取り上げられていますが、このためには得られる以上のエネルギーを別途投入しなければならず、明らかに成立しません。投入するエネルギーを直接利用する方が良いからです。また、宇宙発電や原子力発電所の再稼働なども列挙されています。しかし、宇宙よりも明らかに発電に有利な砂漠や海洋が地球上には広大にありますし、再稼働する原子力発電設備は2050年には寿命を迎え、目標達成には寄与しません。さらに、これから新設する原子力発電システムは現状でも既にヨーロッパでは再生可能エネルギーよりも割高になっています。

宣言の中で当然ながら再生可能エネルギーを重視していますが、多くの検討者の中には再生可能エネルギーはコストが高く、経済活動に対して足かせになるという考えがいまだに根強くあるように感じます。しかし、究極の社会で長期間にわたって利用できるCO2フリーのエネルギー源は再生可能エネルギーしかありません。さらにこれまで輸入に頼っていたエネルギーと比べて国内で循環するお金が増加するわけですから、これまで以上に新しいビジネスの創出と経済活性化のポテンシャルがあるように思います(2)(宣伝のために拙著を参考資料に記載させていただきました)。

このように、炭酸ガス削減のための技術選択のコンセンサスを確立するにはまだまだ議論が必要であり、本企画チームでは技術だけでなく経済影響までも含めた講演やディスカッションの場を企画したいと考えております。


2021年度年次大会特別企画

本テーマは範囲が広いために、一般講演会形式で発表を募集するのは当面の間、適当でないと考えました。そこで、最初の企画となる今年9月の年次大会では3件の依頼講演と短いパネルディスカッションによるフォーラムを行うことと致しました。以下にプログラムをご紹介させていただきます。

2021年9月7日(火)13:00~15:00

学会横断テーマ「持続可能社会の実現に向けた技術開発と社会実装」 -将来エネルギー技術選択と機械技術者に対する期待-

https://confit.atlas.jp/guide/event/jsme2021/static/public_forum#Gconne2

[開催趣旨]

パリ協定を踏まえ、我が国は「温室効果ガス排出を2050年までに実質ゼロを目指す」と謳いました。難しい課題ですが、視点を変えるならばエネルギー自給のほか、資金の自国内循環による経済活性化にもつながる可能性があります。この緊急かつ重要で難解な課題について考えていくためには、広範な技術分野だけでなく経済の側面も含めた総合的な連携が必要です。

今回はその最初のフォーラムであり、2050年を見据えた幅広い視点で、今後選択すべき技術の方向性について講演をいただくものです。条件により様々に選択肢が変化する曖昧なテーマですが、ゴールを見据えた将来社会像から逆算して論じるならば、選択肢は概ね見えてくるものと期待されます。

[プログラム]

(1)2050年カーボンニュートラルに向けて
末広 茂 先生(日本エネルギー経済研究所)

新たに策定される「エネルギー基本計画」の概要を中心に、2050年カーボンニュートラルに向けた施策や課題などを解説します。加えて、基本計画改定に向けた審議会での議論内容や定量分析の結果などについても紹介いたします。

(2)エネルギーシステムインテグレーション-電力・エネルギーシステムの変容-
荻本 和彦 先生(東京大学生産技術研究所)

地球温暖化ガスの排出削減の野心的な目標の達成には、現在確立しつつある技術に加え新たなイノベーションの大規模な社会実装を必要とします。電力・エネルギーシステムの変容の中で、確立した技術そして新たな技術の適用による目標達成の可能性について議論します。

(3)脱炭素社会実現に向けた運輸部門の将来ビジョン
松橋 啓介 先生 (国立環境研究所)

2050年に脱炭素社会を実現するため、自動車の新車は2035~2040年頃にはすべて電動車両にする必要があるとされています。カーボンニュートラルの条件を満たす技術選択と交通行動選択のバランスについて議論いたします。

(4)全体討論 (30分)

講演をベースとしてエネルギーの将来像について意見交換するほか、機械技術者に対する期待についてもお話しいただく予定です。


類似イベントと比較した位置付け

炭酸ガス削減は現在の大きなテーマであり、類似のイベントが既に多数行われています。その場合、選択できるエネルギー源が限られているので、議論は概して類似したものとなります。しかし、現在から将来を見る視点と、ゴールから逆算して分析する視点とではかなり異なったものになります。すなわち、現在から積み上げた議論では当面の選択が現実的である一方、2050年の目標達成についてはかなり曖昧となりがちです。一方、ゴールから逆算するやり方ではかなり厳しい努力をただちに開始しなければならないことが明示され、概して無理だという印象を聴衆に与えることになります。したがって類似したイベントが多数行われているとしても、このギャップを埋め、必要な技術開発や投資すべき方向性を明示しようとするイベントは少ないものと推察いたします。

この点、機械学会はカバーする技術範囲が広く、しかも定量的な分析が得意な技術者が多いので、他とは異なった議論ができる可能性があります。例えば、再生可能エネルギーが主体となった社会では需要と供給のアンバランスを調整する技術が不可欠であり、そうした技術に関する意見交換ができます。また、世界に先駆けて燃料電池自動車を商用化した日本でありながら、その普及が停滞している背景の一つに過度に厳しい法律があったりいたします。これらを含めて、問題解決のための具体的な道筋を議論する機会を提供したいと思います。

一方、これまでの一般的な議論では常に目先のコストにウェートが置かれ、国内の経済や雇用と結びつけた視点はほとんどありません。コストは必ず誰かの賃金になっているのであって、物質がお金を飲み込んでいるわけではありません。その意味では国内で循環するお金と海外に流出するお金に分けて、技術選択の分析を行う視点も必要なはずです。本テーマ企画チームでは、こうした点にも焦点を当てたイベントを将来的に企画したいと考えています。

機械学会会員に対する期待

上述したように今後取り組まなければならないテーマは実に幅広です。これまでのところ、機械学会会員は具体的な技術開発は得意であるものの、コストや雇用と結びつけた解析はあまり行ってこなかったものと思います。しかし、一部では既に技術と社会コストおよびエミッション等を結びつけた解析が行われ始めています。こうした研究はまだ緒についた段階であり、まさに機械工学者に適した研究と思います。本学会横断テーマ活動がそうした取り組みの活性化につながることを期待しております。


参考文献

(1) 日経電子版2020年10月27日、「脱炭素へ大競走時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討」、この中の表「主な技術候補と実用化の見通し」

(2) 近久武美、“新しいエネルギー社会への挑戦:原発との別れ”、北海道大学出版会、2019、pp.1-174.


<テーマリーダー>

近久 武美(北海道職業能力開発大学校)

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