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2021/8 Vol.124

機構模型

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

材料試験機

年代未詳/エリオット・ブラザーズ社製/ロンドン(英)/真鍮、鉄、木製台座/

H537, W354, D282(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

本体に「PORTER'S PATENT / ELLIOTT Bros. LONDON」の刻字あり。本資料の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きの機構模型を含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機器が現存する。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

[東京大学総合研究博物館]

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学会横断テーマ 2021年度年次大会企画

学会横断テーマ 年次大会企画:4未来を担う技術人材の育成

山本 誠(東京理科大学)

学会横断テーマ4 2021年度年次大会企画

テーマリーダー 山本 誠(東京理科大学)

企画チームメンバー:
川島 豪(神奈川工科大学)、岸本 喜久雄(東京工業大学)、小林 正生(IHI)、
小西 義昭(KoPEL 小西技術ラボ)、齊藤 修(IHI)、笹谷 英顕(ささけん技術事務所)、
城野 政弘(大阪大学)、鈴木 宏昌(東京都立産業技術高等専門学校)、
中山 良一(工学院大学)、長谷川 浩志(芝浦工業大学)、本阿弥 眞治(東京理科大学)、
横野 泰之(東京大学)、オブザーバー: 村上 俊明

人材育成の変貌

米百俵の故事を持ち出すまでもなく、人材育成はどんな時代においても最重要な社会的課題である。SDGsやSociety 5.0によって新たな持続可能社会を志向している現在、人材育成に対する要求は一層その重要性を増している。明治時代以降、技術・工学に関する人材育成は高等専門学校、大学、大学院などが主に担ってきたが、科学技術の急速な進歩やシステム志向の高まりとともに、従来型の教育体系・修業年限では技術者に求められる能力やスキルの全体をカバーできなくなっている。したがって、技術者は生涯にわたって自己啓発し、新たな技術分野の学修を続け、自らの能力を継続的に向上して行かなければならなくなったと言えよう。また、製品がブラックボックス化し、子供がもの作りに触れる機会が減ったため、子供たち(小学生から高校生)は技術・工学への興味を抱きにくくなっている。より多くの優れた技術人材を育成していくためには、子供たちに対するケアも忘れてはならないであろう。

以上のような人材育成の変貌を踏まえると、大学だけ、企業だけの閉じた形で人材育成を行うことは最早不可能と考えられる。これからの時代は、大学(小中高も)、企業、学会が連携し、総合的かつ広い視野に立って人材育成に取り組んでいく必要がある。

学会横断テーマに関する活動概要

本活動は2019年4月に発足した人材育成・活躍支援委員会により実施され、下記の実現に向けて精力的な検討を進めており、結果の一部は今年度中に実現を予定している。

(1)人材育成、技術者の地位向上のための提言:小中学生の理科(特にもの作り)離れ、高校生・大学生に対する工学系キャリア情報の不足、高大・大社接続教育、若手・女性技術者・研究者のキャリア支援、機械技術者の学び直し教育、シニアの初中等教育への貢献など計22の課題を抽出した。今後、社会に向けた提言を順次行い、技術者や一般社会への啓発を行っていく。

(2) 年次大会での啓発活動:特別企画を毎年実施しており、学会員に対する啓発活動を継続的に実施していく。今年度の年次大会2021における特別企画については後述する。

(3)小中高校生向け企画:小中学生の理科・もの作り離れを防ぐため、またジュニア会友へのサービス向上の一環として、関東支部シニア会のご協力のもと、「エンジニア塾」を2021年6月からスタートした。2022年2月まで、「もの作り」や工場見学など年5回程度の様々な体験機会が受講者に提供される予定となっている。

(4)インターンシップの学会枠設置:多くのインターンシップが単なる会社説明会になってしまっている現状を改善し、長期インターンシップの活性化とともに、学会がインターンシップ希望の学生員を特別員企業に推薦する制度を設ける。今年度後半に本制度をスタートさせるべく検討を進めている。

(5) 技術相談窓口の整備:経済産業省からの支援を受けて、企業などからの技術相談をこれまで実施してきたが、周知が十分でなく、有効に利用してもらえなかった。より利用しやすい技術相談制度に衣替えしていく。

(6)子供たちの関心を引くキャリアパスの作成:小中高校生に向けて、機械工学のキャリア像を知ってもらうためのキャリアマップを作成し、学会ホームページなどに掲載、周知を図っていく。特に、高校生が進路を選択する際に指標となり、イメージをつかみやすいマップについて検討中である。

(7) 講習会のパッケージ化・出前講習会:本会では年間400件を越える講習会が開催されている。複数の講習会・セミナーをまとめてパッケージ化し、また欠落している分野に関しては新たな講習会を立ち上げるなどして、機械技術者あるいは特別員が利用しやすい教育システムを構築すべく検討を進めている。現時点では、基礎講座(4力学コース、設計技術コース、生産技術コース)、応用講座(計算力学コース)などの来年度からの立ち上げを検討しており、順次、コースを拡充していく予定である。

(8) テスト問題バンクの普及:機械系大学卒業人材の質保証のため、国立教育政策研究所の主導により進められている「テスト問題バンク」の機械工学分野における活用法について検討している。今年度後半にセミナーの開催を検討中である。

 


2021年度年次大会特別企画

2020年春から始まった新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、この原稿を執筆している2021年6月においても終息の兆しが見えていない。1年以上の長期間、企業、官公庁、学会、大学等ではオンラインによって会議、一般業務、講演会、講義・実習などが行われ、オンライン・アプリケーションによるバーチャルな活動が常態化している。文部科学省の調査(1)によれば、2020年7月の時点でオンライン授業だけの大学が24%、対面授業だけの大学が16%、対面とオンラインの併用授業の大学が60%であり、2021年度もオンライン授業を併用した授業がほとんどの大学で行われている。

オンライン・アプリケーションは非常に便利なツールであり、場所の物理的移動と移動時間を排除し、自由な時間を利用者に提供してくれる。オンライン会議が増えて、時間的余裕の増えた方は多いのではないだろうか。しかし、人材育成や教育の観点では、オンライン・アプリケーションには功罪が相半ばしているように感じられる。大学の講義でも学生や教員が講義室に出向く必要はなくなるのだが、教育効果の点で懸念の声が聞こえてきている。対面で講義を行うときには、学生の反応や理解度を見ながら、講義のスピードや演習の難易度を調節し、関連事項や雑談を適宜挟むのが一般的である。しかし、オンライン講義では、反応ボタンや投票ボタンを利用して講義中の学生の反応や理解度を確かめられるが、対面講義に比べると全員の顔の表情変化を読むことができないため、ほとんど反応が分からないというのが実情ではないだろうか。また、企業等におけるOJT(On the Job Training)においても、同様の理由により、バーチャル環境では十分な効果を得ることが難しいのではないかと思われる。すなわち、オンラインでの活動の常態化により、ノンバーバル・コミュニケーションの重要性、対面の必要性を改めて認識させられたように思われる。

周知のように、Society5.0ではITの活用によって人材育成にもデジタルトランスフォーメーション(DX)を促している。極端な例として、ミネルバ大学を挙げることができるであろう。ミネルバ大学はキャンパスを持たず、反転学習でディスカッション中心の完全オンラインで行われ、基本的に試験を行わず、ルーブリックで達成度を評価するようになっている。教員は教えるのではなく、ディスカッションをファシリテートするだけの存在となる。この大学が、現在、全米で最も人気があり、入学するのが全米で一番難しい大学になっており、将来の大学はミネルバ大学のような教育体制になるのかもしれないと言われている。新型コロナウイルスが終息した後、いわゆるアフターコロナの時代には、オンラインを活用した人材育成や教育にシフトせざるを得ないと思われるが、大学あるいは卒業生の質保証の観点では、多くの課題を内包しているように考えられる。

以上のような状況に鑑み、今年度の年次大会2021では「アフターコロナにおける大学教育の質保証」をテーマとしたワークショップを開催することとした。外部からの質保証、内部からの質保証の現状と将来について4件の講演をいただき、その後の総合討論により、将来のオンラインが常態化した大学教育の質保証について議論する予定である。以下に、ワークショップの詳細を示しておく。

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2021年9月7日(火)9:00~12:00

学会横断テーマ『未来を担う技術人材の育成』

アフターコロナにおける大学教育の質保証

https://confit.atlas.jp/guide/event/jsme2021/static/public_forum#Gconne4

司会:山本誠(東京理科大学)

[プログラム]

(1)アフターコロナにおける大学教育の質保証  教育システムの質保証(1):JABBE  三田 清文(日本技術者教育認定機構(JABEE))

(2)教育システムの質保証(2):大学基準協会  松坂 顕範(大学基準協会評価研究部)

(3)卒業生の質保証(1):ルーブリック&ポートフォリオによるアセスメント  山田 貴博(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

(4)卒業生の質保証(2):テスト問題バンクによるアセスメント  深堀 聰子(九州大学教育改革推進本部)

(5)総合討論

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会員の皆様が本ワークショップに積極的に参加していただき、将来の大学教育の質保証について一緒に議論していただけると幸いです。多くの方々の参加をお待ちしています。


参考文献

(1) 文部科学省:大学等における新型コロナウイルス感染症への対応状況について,

http://www.mext.go.jp/content/20200917-mxt_koutou01-000009971_14.pdf

(参照日2020年9月)

(2) ミネルバ大学公式HP, https://www.minerva.kgi.edu/(参照日2021年6月)


<テーマリーダー>

山本 誠(東京理科大学)

 

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