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2021/8 Vol.124

機構模型

工部大学校の「機械学」教育機器(機械遺産第100号)

材料試験機

年代未詳/エリオット・ブラザーズ社製/ロンドン(英)/真鍮、鉄、木製台座/

H537, W354, D282(mm)/東京大学総合研究博物館所蔵

本体に「PORTER'S PATENT / ELLIOTT Bros. LONDON」の刻字あり。本資料の年代は未詳であるが、東京大学総合研究博物館には工部大学校を示すプレート付きの機構模型を含め、近代的な機械学教育のために明治期以降に導入された機器が現存する。

上野則宏撮影/東京大学総合研究博物館写真提供/インターメディアテク展示・収蔵

[東京大学総合研究博物館]

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ほっとカンパニー

ビアメカニクス(株) “小さな穴”で世界中の最先端技術を支える

ほっとカンパニー ー世界で活躍する元気な特別員を紹介ー

日本にはこんなすごい会社がある!

スマートフォンやダブレット、パソコンなど、私たちの生活を豊かで便利なものにする電子機器。その高度な機能を支えているのが、プリント基板だ。プリント基板は、抵抗器、コンデンサといった電子部品や、集積回路などを取り付けるための部品で、近年では電子機器の高性能化・軽量化に向けて高密度化・薄板化が進む。それに伴い、部品を取り付けられる面積の増大を図るため、異なる回路層のあいだを「ビア」という穴によって接続して多層構造とする手法がより重要視されつつある。ビアメカニクスは、社名のとおり、現代の最新技術になくてはならないこの“小さな穴”を加工するための装置開発を手掛けている。

1910年設立のガス器具メーカー・東京瓦斯工業が、同社のルーツだ。自動車・航空機・鉄道分野への事業領域転換、社名変更などを経て、1968年に日立製作所の一部門を完全子会社とする形で独立した。1968年の設立当初は、工作機械や印刷機、溶接機をメインに扱っていたが、第3世代移動通信システム(3G)の登場により、現在の主軸事業である電子部品加工機の製造開発へと方向転換。1999年に、「ビア」という企業アイデンティティを表現した現在の社名へと生まれ変わった。

そして現在では、基板全体を貫通して全層を接続するスルーホール向けの「ドリル穴あけ機」と、基板内層部にある非貫通のブラインドホール向けの「レーザ加工機」を主力商品として、研究開発から設計、製造、販売、サービスまでのトータルソリューションを提供する。神奈川県厚木市の本社のほか、御殿場工場、横浜工場、英国の子会社に生産拠点を持ち、販売網はアジアを中心に世界各国へと展開。ハイエンドパッケージ用の基板領域においては、ドリル穴あけ機、レーザ加工機とも、世界シェア50%以上を誇る。

プリント基板の断面図

ドリル穴あけ機の強みは自社開発の「スピンドル」技術

ドリル設計本部長 鈴木伸彦は、ドリル穴あけ機の技術について「いかに動作振動を小さくして、微細なドリルを折らずに穴をあけられるようにするかがポイントです」と語る。特に近年では、基板の高密度化に伴い穴の小径化が進んでおり、高密度プリント配線板のスルーホールとしては直径0.2-0.4mm、パッケージ基板用としては、直径0.080-0.15mmの穴を加工することが求められる。このような小径穴を高速かつ高精度に加工するには、ドリルを回転する基幹である「スピンドル」を高速回転させる技術が重要となる。

ビアメカニクスでは、イギリスの子会社を通じて自社開発した技術により、最大毎分35万回転という業界最速のスピンドル回転速度で、直径0.05mmという微小の穴あけを実現している。「ドリル径の大きさによって最適な回転速度は決まっており、ドリル径が小さいほど回転数が必要となります。当社のドリル穴あけ機は、この回転速度のラインアップに強みがあります」と、鈴木は自信を見せる。さらに、こうした穴あけに伴う一連の動作を高速・高精度に行うためのサーボ技術にも、同社のノウハウが詰まっている。XYZ軸方向の動きを精密に制御することで、加工誤差を±0.015mmまでに抑えているという。

ドリル穴あけ機 ND-6QA2126

ドリルの構成

高速かつ高精度に止り穴加工ができるレーザ加工機

ビアメカニクスのレーザ加工機では、レーザ光源としてCO2レーザとYagレーザを使用している。プリント基板は、銅、エポキシ樹脂の絶縁層、ガラスの三つが主な構成要素となるが、これらを効率的に除去して止り穴を加工することがレーザ加工機の役割となる。エポキシ樹脂とガラスに強く吸収されるが銅には吸収されない波長9400nm程度のCO2レーザは、銅の存在によりそこが止り穴となる。一方、355nm程度のYagレーザによる紫外光は、エポキシ樹脂と銅で吸収率が高くなり、ガラスの吸収率は低い。こうした基板の材質に合わせてレーザ光源を使い分けることで、狙い通りの加工を行っていく。

ビアメカニクスのレーザ加工機の強みは、加工の位置決めを高速かつ高精度で制御する「ガルバノシステム」を自社開発している点だ。高精度に制御されたミラーでレーザ光を反射させてターゲットに照射する。最高5000Hz以上の位置決め速度を保ちながら、μオーダーでの穴の位置制御を可能としている。また、「自社開発の高出力・高品質のCO2レーザと、自社製高周波電源との組み合わせにより、精密かつ安定したレーザ加工を実現しています」と、執行役員 レーザ技術センタ長 久世修が説明するように、ガルバノシステム以外にも技術の強みは多くある。

レーザ加工機 LC-2QS252

ガルバノシステム略図

多様化・高精度化へ対応できるポテンシャルの強さとキャッチアップ体制

近年では、第5世代移動通信システム(5G)基地局用サーバのCPU/GPU半導体用基板の加工にもビアメカニクスの装置が採用されるなど、対象領域は多様かつ幅広い。さらにこの先、ウェアラブルデバイスなどのIoT機器の普及により、プリント基板の多様化はより進んでいくものと見られる。

ここまでご紹介してきたとおり、日立製作所の子会社としてスタートしたビアメカニクスは、スピンドル技術やガルバノシステム、RF電源など、自社開発の技術を多く有している。また、定期的に開催している技術交流会で顧客とともに数年先の技術トレンドを議論したり、大学との共同研究を行ったりなど、世の中の技術を先取りする取り組みにも積極的だ。こうしたポテンシャルの強さと新しい技術を掛け合わせることで、時代やニーズに合わせた対応を迅速かつ柔軟に行える体制を整えている。

研究開発から販サービスまで一気通貫で携われる

研究開発から設計、サービス、品質保証までのフローを細かく分業せず一気通貫で行っていることが、ビアメカニクスの組織としての特徴だ。執行役員レーザ設計本部長 成瀬二男は、自分で研究開発した製品を顧客のもとに直接届けられることが仕事の醍醐味だとする。

「机の上で理屈をこねて考えていたことを現場に導入し、自分の目で実際の動きや利用方法を確認して、課題を洗い出していく。1人の設計者として、このようにお客様の手元に届くまで責任を持って設計に携われるということは、大きなやりがいにつながります」(成瀬)

そして、顧客からのフィードバックを再び設計に活かしていくというサイクルを回し続けてきたことで、ニーズに寄り添って常に進化しつづけてきたビアメカニクスの今がある。

深い歴史を有しながらも時代に合わせて進化を続ける柔軟性

成瀬によると、御殿場工場では近年女性の姿が増えてきたという。こうした風景を目の当たりにしたOBの「良い意味で昔と変わったな」という一言が、ビアメカニクスの歴史の深さを裏付けている。そして、深い歴史から生まれた高度な技術を、時代に合わせて柔軟にブラッシュアップしつづけてきたことで、同社の独自性が生み出されている。

人工知能(AI)の活用などデジタル・トランスフォーメーションが各業界や企業で進むなか、同社においても物理系や機械系だけでなく、電気系やソフトウェア工学出身者など、幅広い人材を積極的に採用している。成瀬は「興味があれば、分野は問いません。活躍できる可能性はいろいろなところにあります」と呼びかける。

ビアメカニクスはこれからも“小さな穴”から、世界中の最先端技術を支えていく。

(取材・文 周藤 瞳美)


ビアメカニクス(株)
本社所在地:神奈川県厚木市 http://www.viamechanics.com/

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