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2018/3 Vol.121

【表紙の絵】
特しゅなラップでオゾンそうを守るきかい「地球守るくん」
澤田 明伸 くん(当時9歳)
今、地球の「オゾンそう」がはかいされてきています。うちゅうでもたえられるかこうがしてある特しゅなラップで地球をおおいます。その特しゅなラップは、太陽風やいん石やうちゅうゴミが地球に落ちてくるのをふせいでくれています。それに、「地球守るくん」の本体は木でできていて、本体を作るときにあまり二さん化炭そを出しません。あと、顔の表じょうを変えられるので面白いです。地球のオゾンそうがはかいされなければいいと思います。

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ほっとカンパニー

長野計器(株) 日本の計測機器業界を牽引して“2018年に会社設立70周年”

分銅式標準圧力計

日本にはこんなすごい会社がある

日本における圧力計器の製作の歴史は、この会社とともにあると言っても過言ではない。1896年に和田嘉衡が「和田計器製作所」を設立し、初の国産圧力計を製作。以来120年以上にわたり、長野計器は、圧力計・圧力センサのリーディングカンパニーとして、トップを走り続けている。2006年には、アメリカの大手圧力機器メーカーであるアシュクロフト社を完全子会社化し、グローバル戦略にも大きな弾みをつけた。

現在、同社の主な事業は、全体の4割以上を占める「圧力計関連製品」と、近年伸びている「圧力センサ/圧力制御機器」の二つ。佐藤は上田計測機器工場で、前者の製作に携わっている。40Paの微圧から700MPaの超高圧まで、とにかく製品ラインナップは幅広く、人は長野計器を“圧力計のデパート”と呼ぶそうだ。

国立科学博物館が選定する「未来技術遺産」には、同社の「ブルドン管圧力計の成形機」と「分銅式標準圧力計」の2件が登録されている。「現在の重錘型圧力計は当時の分銅式標準圧力計とその構造はほとんど変わっていないんですよ。3本ローラー式ブルドン管成形機にしても、当時は取っ手を手で回し、今はモーターで回しているだけの違いです」(佐藤)。

ブルドン管圧力計の構造

 

伝統の技術 × 経験 × ノウハウが会社の財産

ほぼ1世紀、“ほとんど変わらない”という機械式圧力計の基本構造は極めてシンプルだ。例えばブルドン管圧力計。楕円形などの断面を持つ弾力のある金属製の管であるブルドン管の一端を固定して、接続部から圧力が増すと、断面が真円に戻ろうとする。その変位によって管内の圧力が測定される。しかし、圧力レンジ等によって、断面形状や厚みが変わり、測定するものや顧客のニーズによって材質も変わってくる。構造そのものは単純でありながら、まさに長年のノウハウの蓄積が生きる世界だ。圧力計は、設備の安全性や健全性を確認するために設置されるもの。しかしその一方で、ブルドン管は配管の中では最も薄い部材でもある。「一般の機械構造物は強度優先なのに対し、ブルドン管は設計思想としては変位優先。所定の圧力を加えたら、所定の変位を得なければいけません。でも、同時に強度も必要になる。その兼ね合いが設計の上で最も難しい点の一つです」(佐藤)。ただ、先達が築き上げてきた財産があるから、ユーザーのニーズに対し、不可能なものはないと佐藤は胸を張る。

「高圧水素用圧力計は 100%我々が担うつもり」

近年は、次世代を見据えて高圧水素用の計測器にも力を入れてきた。2003年からNEDO委託研究に参画し、研究を進める中で製品化していった。一般的な圧力計との違いは、まずケースの安全設計、そして水素脆化に対応した材質でなくてはいけないことだった。ケースの安全設計には、子会社化したアシュクロフト社の圧力計「デュラゲージ」を参考にしたという。デュラゲージは、ソリッドフロント構造。万が一、ブルドン管が破損した場合は、ケース裏の安全蓋が外れる。さらに前面ガラスにはセーフティガラスを採用し、目盛りの裏側には強固な壁を設けた。一方、水素脆化に対応した材質にも難儀した。水素に耐性がある材料といえば低強度だが、この場合、強度は絶対に譲れない点だからだ。「他の機器の場合、低強度の材料に厚みをもたせて実現できるかもしれませんが、圧力計の場合、ブルドン菅を分厚くすると圧力を測定できないのです」。同社の試行錯誤と並行して、材料選定も進み、オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを採用したという。

最終的に試験段階に達しても難題が現れた。「2007年当時、法規制のため、国内で高圧水素の実圧評価試験をするのは難しく、わざわざカナダの試験機関に出向いたんです。それくらい難しい環境だったんです」。高圧水素用の計測器が製品化されたのはその翌年。ステーションを中心に電子製品・機械式製品の納入が始まった。

水素・燃料電池ロードマップが進捗しているが、「そうは言っても、2020年までに水素ステーションが160箇所程度という話です。ただ、そこに使われる圧力計は、他に比べると非常に高度な技術が必要になってくるため、当社の技術をアピールできる場だと考えています。国内の水素ステーションに設置される機械式圧力計に関しては、100%我々が担うつもりで取り組んでいます」(佐藤)。

高圧水素用ソリッドフロント圧力計

 

「お客様からの評価が最大のインセンティブ」

機械式圧力計は、ユーザーニーズによる開発が多いだけに多品種少量生産が基本となる。「例えば、これは一般販売していない製品で、たった12台だけ作ったものです」と佐藤が見せてくれたのは、宇宙ステーションで使われる圧力スイッチだった。「非常に特殊なものですが、このように重要な用途でのお話をいただけるのはありがたく、とても名誉なことだと感じています」。多品種に対応する体制として、若いうちから一人ひとりが任される場面が多いのも、上田計測機器工場の特徴だという。「受注前の仕様打ち合わせ段階からお客様のところに伺い、納品までを技術者が関われる。ある意味、最後まで自分でやってやるという意気込みや情熱が必要だとも言えます。私も若いうちはお客様に怒られたりしながら……でも最後に『さすが長野計器だな!』と言われるとうれしくて(笑)。今もお客様から製品を評価していただくのが自分にとって一番大きなインセンティブです」。個人的に手がけてみたいものを尋ねると、具体的には固まっていないと言いながら、loT関連技術の中で機械式圧力計ができることを探っていると話してくれた。「loTに貢献でき、かつ企業の付加価値も実現できるような製品をお客様に提案できないか考えています。機械式圧力計と電子式圧力計を複合した製品のようなイメージです」。技術者としての夢と情熱は尽きることがないようだ。

長野計器は2018年に、会社設立から70周年を迎える。節目の年にどんな新しい展開を起こすのか、楽しみだ。

 

宇宙ステーションで使われる圧力スイッチ

 

圧力計だけでも月産 40 万個の生産能力を誇る上田計測機器工場

 

今回取材にご協力いただいた佐藤さん

(取材・文 横田 直子)


長野計器株式会社

所在地 東京都大田区

http://www.naganokeiki.co.jp/

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