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2018/4 Vol.121

【表紙の絵】
「あいするこころロボット!!」
齋藤 佑陽 くん(当時5 歳)
人間ができないことが何でもできる
ロボットがあったらいいな。

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機械屋の数学

第4回 演算子の固有値問題とフーリエ級数展開 Part 1

4. 波動方程式の初期値・境界値問題

前号では,区間$[0,L]$において定義された波動方程式

\[\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\] (17)

を,両端固定の境界条件

\[u(0,t) = 0,\quad u(L,t) = 0\] (18)

のもと,微分演算子の固有値問題として解き,解が次式の形で与えられることを示した。

\[
\begin{split}
u(x, t) &{} = \sum_{j=1}^\infty a_j(t) v_j(x) \\
& {}= \sum_{j=1}^\infty \left( \beta_j \cos \frac{j\pi c t}{L} + \gamma_j \sin \frac{j\pi ct}{L} \right) \sqrt{\frac{2}{L}} \sin \frac{j\pi x}{L}
\end{split}
\]
(19)

ここでは,この問題を区間$[0,L]$で与えられる以下の初期条件のもとで解くことを考える。

\[\text{変位:}\quad u(x,0) = f(x)\] (20)
\[\text{速度:}\quad \frac{\partial u(x,0)}{\partial t} = g(x)\] (21)

ここで,$\dfrac{\partial u(x,0)}{\partial t}$は時刻$t = 0$における$\dfrac{\partial u(x,t)}{\partial t}$の値を表すこととする。式(19)より

\[u(x,0) = \sum_{j=1}^\infty a_j(0) v_j(x) = \sum_{j=1}^\infty \beta_j v_j(x)\]

となる。したがって,式(20)を用いると,

\[\sum_{j=1}^\infty \beta_j v_j(x) = f(x)\] (22)

$v_j(x)$は,前回説明したとおり,正規直交化した基底なので,基底どうしの内積に関して,次の関係を満たす。

\[ {<} v_j, v_k {>} = \int_0^L v_j(x) v_k(x) {\rm d}x = \delta_{jk}\] (23)

ここで,$\delta_{jk}$は,クロネッカーのデルタと呼ばれ,

\[ \delta_{jk} = \left\{ \begin{array}{@{}ll@{}}
1 & (j = k\text{のとき}) \\
0 & (\text{それ以外})
\end{array} \right.\]
(24)

の関係を満たす。すなわち,$v_j(x)$は,自分自身との内積が1,他の基底とは直交し,内積の値は0となる。

この関係を用いて,式(22)の両辺に

\[v_k(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin \frac{k\pi x}{L}\] (25)

をかけて,内積を計算すると,

\[ {<} \sum_{j=1}^\infty \beta_j v_j(x), v_k(x) {>} = {<} f(x), v_k(x) {>}\] (26)

\[\text{(左辺)} = {<} \sum_{j=1}^\infty \beta_j v_j, v_k {>} = \sum_{j=1}^\infty \beta_j {<} v_j, v_k {>} = \sum_{j=1}^\infty \beta_j \delta_{jk} = \beta_k\]

\[\therefore \quad \beta_k = {<} f(x), v_k(x) {>}\] (27)

を得る。また,$\gamma_j$についても同様にして,

\[\frac{\partial u(x,0)}{\partial t} = \sum_{j=1}^\infty \frac{j\pi c}{L} \gamma_j v_j(x) = g(x)\]

\[\therefore \quad \gamma_j = \frac{L}{j\pi c} {<} g(x), v_j(x) {>}\] (28)

を得る。式(27),(28)の関係を式(19)に代入すると,与えられた初期条件(20),(21)に対する,境界条件(18)を満たす,波動方程式(17)の解$u(x,t)$が得られることになる。

では,実際に具体的な例を用いてこの問題を解いてみる。初期条件として,図7に示すような変位が与えられたとしよう。また各点の初期速度は0とする。

図7 変位の初期条件の例1(中央で最大値をとる場合)

この場合の初期条件は,以下のように与えられる。

\[\text{変位:}\, u(x,0) \equiv f(x) = \left\{ \begin{array}{@{}ll@{}}
\dfrac{2h}{L} x & (0 \le x \le L/2) \\
\dfrac{2h}{L} (L – x) & (L/2 \le x \le L)
\end{array} \right.\]
(29)
\[\text{速度:}\, \frac{\partial u(x,0)}{\partial t} \equiv g(x) = 0 \qquad (0 \le x \le L)\] (30)

式(29)を式(27)に代入すると,

\[
\begin{split}
\beta_j &{} = {<} f(x), v_j(x) {>} \\
&{} = \int_0^{L/2} \frac{2h}{L} x v_j(x) {\rm d}x + \int_{L/2}^L \frac{2h}{L} (L – x) v_j(x) {\rm d}x \\
&{} = \frac{2h}{L} \sqrt{\frac{2}{L}} \left\{ \int_0^{L/2} x \sin \frac{j\pi x}{L} {\rm d}x + \int_{L/2}^L (L – x) \sin \frac{j\pi x}{L} {\rm d}x \right\}
\end{split}
\]
(31)

ここで,

\[
\begin{split}
\int_0^{L/2} x \sin \frac{j\pi x}{L} {\rm d}x &{} = \left[ -\frac{L}{j\pi} x \cos \frac{j\pi x}{L} \right]_0^{\frac{L}{2}} + \int_0^{L/2} \frac{L}{j\pi} \cos \frac{j\pi x}{L} {\rm d}x \\
&{} = -\frac{L}{j\pi} \frac{L}{2} \cos \frac{j\pi}{2} + \left( \frac{L}{j\pi} \right)^2 \sin \frac{j\pi}{2}
\end{split}
\]
(32)

同様にして,

\[\int_{L/2}^L (L – x) \sin \frac{j\pi x}{L} {\rm d}x = \frac{L}{j\pi} \frac{L}{2} \cos \frac{j\pi}{2} + \left( \frac{L}{j\pi} \right)^2 \left( \sin \frac{j\pi}{2} \right)\] (33)

したがって,式(32),(33)を用いると,式(31)より,

\[\beta_j = \frac{4h}{L} \sqrt{\frac{2}{L}} \left( \frac{L}{j\pi} \right)^2 \sin \frac{j\pi}{2}\] (34)

また,式(30)より,$g(x) = 0$なので,

\[\gamma_j = \frac{L}{j\pi c} {<} g(x), v_j(x) {>} = 0\] (35)

したがって,式(34),(35)を式(19)に代入すると,次式を得る。

\[
\begin{split}
u(x,t) &{} = \sum_{j=1}^\infty \beta_j \cos \frac{j\pi ct}{L} \sqrt{\frac{2}{L}} \sin \frac{j\pi x}{L} \\
&{} = \sum_{j=1}^\infty \frac{8h}{j^2 \pi^2} \sin \frac{j\pi}{2} \cos \frac{j\pi ct}{L} \sin \frac{j\pi x}{L}
\end{split}
\]
(36)
\[
\begin{split}
={} & \frac{8h}{\pi^2} \cos \frac{\pi ct}{L} \sin \frac{\pi x}{L} – \frac{8h}{9\pi^2} \cos \frac{3\pi ct}{L} \sin \frac{3\pi x}{L} \\
& {}+ \frac{8h}{25\pi^2} \cos \frac{5\pi ct}{L} \sin \frac{5\pi x}{L} + \cdots
\end{split}
\]
(37)

さて,ここで注目すべき点は,式(22)の関係式,

\[f(x) = \sum_{j=1}^\infty \beta_j v_j(x)\]

および,係数$\beta_j$を決めるための計算式(27)

\[\beta_j = {<} f(x), v_j(x) {>}\]

である。これは,まさしく関数$f(x)$をフーリエ級数展開したときの関係である。すなわち,図7で示した例で述べるならば,両端で0の値をとる式(29)で与えられる関数$f(x)$を,

\[
\begin{split}
f(x) &{} = \sum_{n=1}^\infty \beta_n v_n(x) = \sum_{n=1}^\infty \frac{8h}{n^2 \pi^2} \sin \frac{n\pi}{2} \sin \frac{n\pi x}{L} \\
&{} = \frac{8h}{\pi^2} \sin \frac{\pi x}{L} – \frac{8h}{9\pi^2} \sin \frac{3\pi x}{L} + \frac{8h}{25\pi^2} \sin \frac{5\pi x}{L} \cdots
\end{split}
\]
(38)

としたものは,両端で0となるsin関数,$\sin \dfrac{n\pi x}{L}$によるフーリエ級数展開となっている。通常のフーリエ級数では,級数展開の基底として用いる三角関数は,特に正規化せず,

\[f(x) = \frac{1}{2} a_0 + \sum_{n=1}^\infty \left\{ a_n \cos \frac{n\pi x}{L} + b_n \sin \frac{n\pi x}{L} \right\}\] (39)

と表すが,上に示した例では,区間$[0, L]$で単位基底に正規化された関数$v_n(x) = \sqrt{\dfrac{2}{L}} \sin \dfrac{n\pi x}{L}$を用いて級数展開している。そのため,単位基底$v_n(x)$への射影${<} f(x), v_n(x) {>}$がそのまま,成分になり,単位直交基底を用いて$f(x)$は次式で与えられる。

\[f(x) = \sum_{n=1}^\infty {<} f(x), v_n(x) {>} v_n(x)\] (40)

ところで,初期条件の変位を図8のようにした場合には,図7の場合と何が違ってくるか?

図8 変位の初期条件の例2(左端から1/4のところで最大値をとる場合)

このときには,

\[\text{変位:}\, u_2(x,0) \equiv f_2(x) = \left\{ \begin{array}{@{}ll@{}}
\dfrac{4h}{L} x & (0 \le x \le L/4) \\
\dfrac{4h}{3L} (L – x) & (L/4 \le x \le L)
\end{array} \right.\]
(41)

となり,

\[
\begin{split}
\beta_j &{} = {<} f_2(x), v_j(x) {>} \\
&{} = \int_0^{L/4} \frac{4h}{L} x v_j(x) {\rm d}x + \int_{L/4}^L \frac{4h}{3L} (L – x) v_j(x) {\rm d}x
\end{split}
\]
(42)

を用いて,さらに計算を進めると,

\[
\begin{split}
u_2(x, t) = {}& \sum_{j=1}^\infty \frac{32}{3} \frac{h}{j^2 \pi^2} \sin \frac{j\pi}{4} \cos \frac{j\pi ct}{L} \sin \frac{j\pi x}{L} \\
= {}& \frac{16}{3} \sqrt{2} \frac{h}{\pi^2} \cos \frac{\pi ct}{L} \sin \frac{\pi x}{L} + \frac{8}{3}\frac{h}{\pi^2} \cos \frac{2\pi ct}{L} \sin \frac{2\pi x}{L} \\
&{} + \frac{16}{27} \sqrt{2} \frac{h}{\pi^2} \cos \frac{3\pi ct}{L} \sin \frac{3\pi x}{L} + \cdots
\end{split}
\]
(43)

を得る。また,図7の場合と同じように,この式より

\[
\begin{split}
u_2(x,0) \equiv f_2(x) &{} = \sum_{j=1}^\infty \frac{32}{3} \frac{h}{j^2 \pi^2} \sin \frac{j\pi}{4} \sin \frac{j\pi x}{L} \\
&{} = \frac{16}{3} \sqrt{2} \frac{h}{\pi^2} \sin \frac{\pi x}{L} + \frac{8}{3} \frac{h}{\pi^2} \sin \frac{2\pi x}{L} + \cdots
\end{split}
\]

と,関数$f_2(x)$を区間$[0,L]$にて,三角関数によりフーリエ級数展開した形になっているのがわかる。

さて,式(43)を式(37)と比較すると,式(37)には含まれなかった$j = 2$のモードが含まれているのがわかる。すなわち,最低次$j = 1$の基本モードは同じでも,引っ張る場所により他の高次のモードが現れ,また,$j = 1$のモードに対する振幅比も異なってくる。

前号では,直線上に連なったばね・質点系を考え,粒子数を無限大としたときの離散系の極限として波動方程式の導出を行った。物理モデルで考えると,これは縦波の伝播にあたる。音波が伝わるイメージである。この波動方程式は,横波の伝播のモデルとして考えることもできる。横波の伝播として,たとえば,ギターやバイオリンなどの弦の振動を考えてみる。両端を固定された弦で,最初に弦のある位置を引っ張り,その後,手を離した後の弦の振動は,まさしく上の問題と同じように定式化される。さて,弦を引っ張る位置を変えたとき,音が違って聞こえるのを経験している人も多いだろう。これは,式(37),(43)で表されるように,初期変位に依存して,$u(x,t) = {\displaystyle \sum_{j=1}^\infty a_j(t) v_j(x)}$の$a_j(t)$のところが変わってくるからである。すなわち,振動の基本モード${v_j}(x)$でフーリエ級数展開したときに,各振動モードの成分の比率が変わるために音が違って聞こえてくるのである。では,弦と膜ではどうであろうか? このことを調べるためには,膜に関しては2次元の波動方程式の解を調べる必要がある。これについては,次回以降説明していく。


<フェロー>

高木 周

◎東京大学・大学院工学系研究科・機械工学専攻 教授


 

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