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2019/12 Vol.122

【表紙の絵】
でんきをあつめるきかい 武田 碧さん(当時 4 歳)
たくさんのかみなりのでんきをあつめてにんげんの生活にすこしずつつかうきかいがあったらいいなとおもって絵をかきました。

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やさしい材料力学

第12回(最終回) ひずみエネルギー



本連載を書籍化した、「基礎からの材料力学 (JSMEやさしいテキストシリーズ) 」が発行されました。機械工学への新たな一歩を踏み出す学生の方々、学びなおしの一冊として教科書をお探しの社会人の方々にふさわしい新定番の教科書です。 Kindle版 / 単行本(ソフトカバー)版 


ひずみエネルギー

1 はじめに

今回は変形に際して弾性体に蓄えられるエネルギー=ひずみエネルギーを考えることによって構造物の変形を考える。ひずみエネルギーは,仮想仕事の原理ポテンシャルエネルギー最小の原理,さらには変分原理に基づく有限要素法などの数値解法の指導原理となる重要な概念であるが,本稿では最も基礎的なカスティリアノの定理を用いた解析法について棒の引張圧縮,ねじり,はりの曲げに関する解析法について述べることにする。

2 ひずみエネルギー

2.1 棒の引張圧縮

断面積$A$,長さ$l$の棒に荷重$P$を加える場合について考える。応力$\sigma$とひずみ$\varepsilon$はそれぞれ,$\sigma = P/A$,$\varepsilon = P/(AE)$である。応力とひずみの関係を積分することにより,この棒の単位体積あたりに蓄えられるひずみエネルギーは次式のように与えられる。

\[ \bar{U} = \frac{1}{2} E\varepsilon^2 = \frac{1}{2} \sigma \varepsilon = \frac{\sigma^2}{2E}\] (1)

よって,棒全体に蓄えられるひずみエネルギーは,$\bar{U}$に棒の体積$V=Al$を乗じればよく,次式となる。

\[ U = Al \times \bar{U} = \frac{P^2 l}{2AE}\] (2)

上式は最終的に,ばね定数$k=AE/l$のばねに荷重$P$が作用した場合の弾性エネルギー$U = P^2/(2k)$と等価な式となっていることが確認できる。

2.2 はりの曲げ

断面2次モーメント$I$,ヤング率$E$のはりに曲げモーメント$M$が作用する場合,曲げモーメント$M$とはりに生じる曲率$\kappa$との間に,

\[ M = E I \kappa\] (3)

の関係がある。上式は曲げモーメント$M$と曲率$\kappa$が比例し,その比例定数が$EI$であることを意味している。ばねの弾性エネルギーの式$U = P^2/(2k)$を参照すれば,はりの曲げ問題における単位長さあたりのひずみエネルギーは次式で与えられることがわかる。

\[ \hat{U} = \frac{M^2}{2 E I}\] (4)

はり全体に蓄えられるひずみエネルギーは,上式の$\hat{U}$をはり全体に対して積分することにより求められる。

\[ U = \int \hat{U} dx = \int_0^l \frac{M(x)^2}{2 E I} dx\] (5)

2.3 棒のねじり

棒のねじり問題におけるひずみエネルギーも,はりの曲げと同様に考えることができる。式(4)で与えられるひずみエネルギーにおける断面2次モーメント$I$を断面2次極モーメント$I_p$に,ヤング率$E$をせん断弾性係数$G$に,曲げモーメント$M$をねじりモーメント$T$に置き換えることにより,棒のねじり問題における単位長さあたりのひずみエネルギーを以下のように得る。

\[ \hat{U} = \frac{1}{2} G I_p \theta^2 = \frac{T^2}{2G I_p}\] (6)

この棒の断面が長手方向に一様である場合,長さ$l$の棒に蓄えられるひずみエネルギーは次式となる。

\[ U = \hat{U} l = \frac{T^2 l}{2G I_p}\] (7)

棒の断面が一様でない場合,もしくは棒のせん断弾性定数が一様でない場合は,単位長さあたりのひずみエネルギーを積分することにより,棒全体に蓄えられるひずみエネルギーを求めればよい。

3 カスティリアノの定理

荷重$P$が作用する状態でのばねの変形は,弾性エネルギー$U$を荷重$P$で微分することにより求められる。

\[ x = \frac{d U}{d P} = \frac{d}{d P} \left( \frac{P^2}{2k} \right) = \frac{P}{k}\] (8)

同様に,一軸引張・圧縮問題における棒の伸びは,式(2)で与えられるひずみエネルギーを荷重$P$で微分することにより求められる。

\[ \lambda = \frac{d U}{d P} = \frac{Pl}{AE}\] (9)

断面形状が一様な棒のねじり問題においては,式(7)で与えられるひずみエネルギーを棒に作用するねじりモーメント$T$で微分することにより,棒両端の相対ねじれ角が求められる。また,はりの曲げ問題においては,はり全体に蓄えられるひずみエネルギーを荷重によって表した後,それを荷重で微分することによって,荷重点におけるたわみが求められる。

以上のように,荷重(モーメント)の関数として表されたひずみエネルギーを荷重(モーメント)で微分(偏微分)することによって弾性体の変形を求めることができる。これをカスティリアノの定理と呼ぶ。なお,本定理は次章で述べるように,複数の荷重やモーメントが作用する場合についても拡張することが可能である。

4 基本的な例題

4.1 トラスの変形

図12.1に示すような2本の部材からなるトラスに生じる変形をひずみエネルギーを用いて求めよう。2本の部材はともに断面積$A$,長さ$l$,ヤング率$E$であり,図の点Cに鉛直下向きに荷重$P_{v}$を,水平方向右向きに荷重$P_{h}$を加えるものとする。

図12.1 静定トラスの変形

部材AC,部材BCに作用する荷重(引張方向を正とする)を$P_1$,$P_2$とおく。点Cにおける水平方向と鉛直方向の力のつりあいはそれぞれ次式となる。

\[ \frac{P_1 + P_2}{\sqrt{2}} = P_h, \quad \frac{P_1 – P_2}{\sqrt{2}} = P_v\]

これらの2式より荷重$P_1$,$P_2$を求めれば,

\[ P_1 = \frac{P_h + P_v}{\sqrt{2} }, \quad P_2 = \frac{P_h – P_v}{\sqrt{2}}\]

よって,式(2)より,トラスに蓄えられるひずみエネルギーが次式のように求められる。

\[ U = \frac{P_1^2 l}{2 AE} + \frac{P_2^2 l}{2 AE} = \frac{(P_h^2 + P_v^2)l}{2AE}\]

ここでカスティリアノの定理を用いれば,点Cの水平方向変位$\delta_{h}$,鉛直方向変位$\delta_{v}$がそれぞれ求まる。

\[ \delta_v = \frac{\partial U}{\partial P_{v}} = \frac{P_{v} l}{AE }, \quad \delta_h = \frac{\partial U}{\partial P_{h}} = \frac{P_{h} l}{AE} \quad (答)\]

4.2 試験荷重を用いたはりのたわみ解析

長さ$l$,ヤング率$E$,断面2次モーメント$I$の片持はりの先端に,垂直荷重$P$が作用している。このはりに生じるたわみをカスティリアノの定理を用いて求めよう(図12.2)。ここでは,座標$x$の点Cに試験荷重$P_0$が作用しているものとして,はりに蓄えられるひずみエネルギーを求める。得られたひずみエネルギーを試験荷重$P_0$で偏微分したのち,試験荷重$P_0$を0とすることによって,最終的に座標$x$の位置におけるたわみを求めることができる。

図12.2 片持はりのたわみ

はり上に点C(座標$x$)をとり,点Cにおいて仮想的な荷重(試験荷重)$P_0$を作用させる。はりをA–C間とC–B間に分けて曲げモーメント$M(x)$を考えると,

\[ M(x) = \left\{ \begin{array}{ll} -P\xi & (0 \le \xi \le x) \\ -P\xi – P_0(\xi – x) & (x \le \xi \le l) \end{array}\right. \]

A–C間およびC–B間におけるひずみエネルギーを求め,その和を求めれば,

\[
\begin{split}
U ={} &\frac{1}{2 EI} \int_0^x P^2 \xi^2 d\xi + \frac{1}{2 EI} \int_x^l \{ P\xi + P_0(\xi -x) \}^2 d\xi \\
={}& \frac{P^2}{6EI}x^3 + \frac{1}{2EI} \Biggl[ \frac{P^2}{3}(l^3 – x^3) \\
&{} + 2P P_0 \left\{ \frac{l^3 – x^3}{3} – \frac{x(l^2 – x^2)}{2} \right\} + \frac{P_0^2}{3} (l-x)^3 \Biggr] \end{split}
\]

ここで,上式で与えられるひずみエネルギー$U$を荷重$P_0$で偏微分することにより,点Cにおけるたわみ$w(x)$が荷重$P_0$の関数として求められる。

\[
\begin{split}
w(x) &{} = \frac{\partial U}{\partial P_0} \\
&{} = \frac{1}{2EI} \left[ 2P \left\{ \frac{l^3 – x^3}{3} – \frac{x(l^2 – x^2)}{2} \right\} + \frac{2}{3}P_0(l-x)^3 \right] \end{split}
\]

実際には$P_0$は仮想的な試験荷重であるから,上式の$P_0$を0とおくことによって,最終的に点C(座標$x$)の位置におけるたわみ$w(x)$が求められる。

\[ w(x) = \frac{P}{6EI}(2l^3 – 3l^2x + x^3) \quad (答)\]

演習問題12.1: 円錐棒のねじり

図12.3に示す寸法の円錐棒の両端にねじりモーメント$T$が作用する場合について,棒全体に蓄えられるひずみエネルギーと棒両端の相対ねじれ角を求めよ。

(答:$\boldsymbol{\displaystyle U = \int_0^l \frac{T^2}{2 G I_p(x)} dx = \frac{16T^2l(a^2 + ab + b^2)}{3G\pi a^3 b^3}}$

$\boldsymbol{\displaystyle \varphi = \frac{d U}{dT} = \frac{32Tl(a^2 + ab + b^2)}{3G\pi a^3 b^3}}$)

図12.3 円錐棒のねじり

<連載終了に際して>

一年間にわたり連載させて頂いた「やさしい材料力学」も本稿が最後となる。本来盛り込むべきすべての内容を収めきれず,非常に心苦しい最終回となったが,本連載をきっかけとして,今後さらに深く材料力学を,そして機械工学を学んで頂けるならば,材料力学教育の末席を汚す著者として望外の喜びである。

最後に,私のような浅学の研究者に連載をお声掛け下さった本会 久保田裕二常勤理事,辛抱強く連載をサポート頂いた学会事務局編集部の皆さん,原稿の校正を担当頂いた名古屋大学の後藤圭太先生,本連載について多くのコメントと励ましを頂いた本会会員の皆様に,ここに記して深甚の謝意を表したい。


<フェロー>

荒井政大

◎名古屋大学 工学研究科航空宇宙工学専攻 教授

◎専門:材料力学,固体力学,複合材料。有限要素法や境界要素法による数値シミュレーションなど。


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